80 / 108
1章【真実編】
第79話・真実。①
しおりを挟む──そもそも、だ。
俺は『世界の均衡を保つ事』を使命として、この世界に誕生させられている。この幼女も、あの老人と“何らかの関わり”があるからこそ、俺を色々サポートしてくれたんだろう。
⋯だが、流石に早すぎ無いか?
俺も、『いずれ大きな事件に巻き込まれるのでは?』と、考えていたが⋯⋯。まさか、もうなのか?
「──おい、待て」
事態を飲み込めずにいる中、ヴィルジールが1歩前に出る。
殺気を向ける対象を幼女に変えた彼は、睨みを強く効かせながら言葉を続けた。
「手短に頼むよ?ヴィルジール君」
「⋯お前、“魔族”だな?ヤツらは、人の姿に近い見た目だと聞く。俺の銀槍竜に手を出す気か?」
「きゃっ♪『俺の』だって、銀槍竜!ホレられてるねぇ~?」
「話す気は⋯無い様だな⋯⋯!!」
ドッと、ヴィルジールの殺気が爆発する。
勢いよく踏み込んだ彼は、直後に幼女の目の前まで跳躍した。
だが、彼の両剣が振られる事は無い。
跳躍を終えた頃には、既に意識を失っていたからだ。
「ふぃ~。血の気が多いコだねぇ?」
勢い余るヴィルジールを、幼女はポスンと腹で受け止める。
彼女は、落下するヴィルジールを魔法で浮かせた後、ゆっくりと地面に下ろした。そして、地面から此方を見上げていたバルドールへと、幼女は視線を移した。
「⋯何者だ」
「ヒ・ミ・ツ~♪まぁ、“魔族”ではないから安心してよ。この子を悪い様にはしないからさ~♪」
「⋯⋯⋯⋯。」
「あっれ、疑ってる?コッチも時間無いからさ、『何かする』のなら──」
その瞬間、俺と幼女は蒼白い光に包まれる。
先程、バルドールがヴィルジールに向けて放ったソレより、遥かに眩い光が視界を覆った。⋯が、何故か爆発が発生しない。
俺は、何事かと周囲を確認する。
そして目にしたのは、あまりに不可思議な光景だった。まるで『時間が止まっている』かの様に、バルドールの魔法は動きを止めていたのである。
「──やれやれ。近頃の若いコはイカンねぇ~?」
小さな右手を蒼白い光にかざし、幼女は戯ける。
完全に勢いを失った魔法を、彼女はお手玉の様に操ってみせた。
「⋯で、まだやる気?」
パチンと指を鳴らし、幼女はバルドールを見下ろす。
止めた魔法を果実の様に口に放り込みながら、彼女はバルドールの返答を待った。
「──仕方ねえな、降参だ」
「ん、おっけい。その潔さに免じて、“引き分け”って事にしてあげる♪」
そう言って、幼女は上昇を始める。
釣られる様に体が浮き上がる俺に、バルドールは片手を振る。
焦土と化した荒野にて俺が最後に見たのは、ヴィルジールを担ぐバルドールの姿だった──⋯
NOW LOADING⋯
「⋯──さて、何から聞きたい?」
「全部を、ゆっくり、分かり易く頼む⋯⋯」
「う~ん。いいけど、長い話になるよ?」
「構わない。頼む」
「⋯分かった。じゃあまず、昔話から初めよっか──⋯」
⋯──きっかけは、私が犯したミスが原因だった。
『彼』の心の奥にあった怒りに気が付けなくてね。その結果、対立して戦う様な関係にまで拗れちゃったんだ。
まぁ、私の方が『彼』より強かったから、戦いには勝ったんだけどね。あはは。
⋯⋯でも、私も甘さを捨て切れなかった。
どうしても彼にとどめが刺せなくて、この胸に倒れてきた『彼』に、完全に油断してしまったんだ。
⋯⋯後悔しているよ、物凄く。
結果的に、私は力のほぼ全てを奪われてこのザマだからね。
幸いだったのは、私から力を奪った『彼』が、真っ先に『この世界』を破壊しようとしなかった事だ。⋯⋯ぶっちゃけ、全盛期の私の力なら『この世界』くらい簡単に壊せちゃうからね。
⋯本当に運が良かったよ。
まぁ多分、『魔王』の影響が大きんだろう。
私に匹敵しうるヤツだし、『彼』も私の力を奪ったとはいえ警戒してたんだと思う。だからこそ、“外堀から埋める”ってやり方を取ったんだろうし。
でも、それが『彼』の過ちだった。
『他の世界』と『自分』に、力を使い過ぎたんだよ。
結果として『彼』は、『この世界』に戻ってきた時には殆ど力を使い切っている状態だったんだ。
⋯⋯ただその分、厄介な力も身に付けていたけど。
分かりやすく言うなら、『自分への攻撃を別世界へ転送する』って能力かな?⋯ね?厄介でしょ?
『その能力』が『彼』の周囲に張られているせいで、私はおろか『魔王』ですら手出しが出来なくなってしまったんだよ。
『その能力』は、周囲に『自動転送空間』みたいなのを作り出している訳で、破壊や無効化うんぬんの話でもないし。
もっというなら、『彼』と『私達』の“力の性質”の違いかな。
君も使っている『魔力』というのは分かるよね?ソレっていうのは、簡単に言えばDNAみたいに『人それぞれ、絶対に違う』ってモノなんだけど、中でも『彼』は特別でね。
⋯⋯え?
さっきから言っている『彼』って誰かって?
⋯君も知っている筈だよ。
ただ、『君にした自己紹介』とは少し違うけど。
『彼』も、私の力を奪って以降、『本来の力』なんて捨てちゃったからね。だから、言っちゃえば『偽物』だよ。
まぁ、『ギシン』ってところかな?
⋯ん?どう書くのかって?文字通りだよ。
偽物の神、さ。
1
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
あめふりバス停の優しい傘
朱宮あめ
青春
雨のバス停。
蛙の鳴き声と、
雨音の中、
私たちは出会った。
――ねぇ、『同盟』組まない?
〝傘〟を持たない私たちは、
いつも〝ずぶ濡れ〟。
私はあなたの〝傘〟になりたい――。
【あらすじ】
自身の生い立ちが原因で周囲と距離を置く高校一年生のしずくは、六月のバス停で同じ制服の女生徒に出会う。
しずくにまったく興味を示さない女生徒は、
いつも空き教室から遠くを眺めている不思議なひと。
彼女は、
『雪女センパイ』と噂される三年生だった。
ひとりぼっち同士のふたりは
『同盟』を組み、
友達でも、家族でも恋人でもない、
奇妙で特別な、
唯一無二の存在となってゆく。
くず異世界勇者~こんなくそ世界でも勇者してやるよ~
和紗かをる
ファンタジー
思うままに異世界転生を楽しむ勇者は、その力と行き過ぎた行動で彼を勇者と公認していた王国に囚われ、勇者スキルも封印されてしまう。今までの旅の仲間である妹姫や王国戦士らに裏切られ、どん底に居た勇者を救ったのは魔王城の地下に幽閉されていたのを勇者が救った青肌獣耳の一族だった。彼等と王城を脱出した勇者は緩衝地帯で青の村を独立させ、教皇庁や王国と対立しながらも、自分についてきてくれた本当の仲間と共に新たな異世界ライフに挑む。
ハルシャギク 禁じられた遊び
あおみなみ
恋愛
1970年代半ば、F県片山市。
少し遠くの街からやってきた6歳の千尋は、
タイミングが悪く家の近所の幼稚園に入れなかったこともあり、
うまく友達ができなかった。
いつものようにひとりで砂場で遊んでいると、
2歳年上の「ユウ」と名乗る、みすぼらしい男の子に声をかけられる。
ユウは5歳年上の兄と父親の3人で暮らしていたが、
兄は手癖が悪く、父親は暴力団員ではないかといううわさがあり、
ユウ自身もあまり評判のいい子供ではなかった。
ユウは千尋のことを「チビ」と呼び、妹のようにかわいがっていたが、
2人のとある「遊び」が千尋の家族に知られ…。
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
私の婚約者を寝取った妹は、粗大ゴミになって嫁ぎます。
coco
恋愛
「このゴミ、自由にお持ち下さい」
喜んでそれを持って行く男。
良かったわ、妹の嫁ぎ先が見つかって。
あんなことをしでかした子だもの。
姉の婚約者を寝取るなんて、とんでもないことをね─。
赤い流星 ―――ガチャを回したら最強の服が出た。でも永久にコスプレ生活って、地獄か!!
ほむらさん
ファンタジー
ヘルメット、マスク、そして赤い軍服。
幸か不幸か、偶然この服を手に入れたことにより、波乱な人生が幕を開けた。
これは、異世界で赤い流星の衣装を一生涯着続けることになった男の物語。
※服は話の流れで比較的序盤に手に入れますが、しばらくは作業着生活です。
※主人公は凄腕付与魔法使いです。
※多種多様なヒロインが数多く登場します。
※戦って内政してガチャしてラッキースケベしてと、バラエティー豊かな作品です。
☆祝・100万文字達成!皆様に心よりの感謝を!
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる