猛焔滅斬の碧刃龍

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1章【真実編】

第76話・【炎装】

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「──ふッ!!」


僅かな呼吸を挟み、俺は拳を突き出す。
今まで、俺の攻撃は全て受け止めていたバルドールだが、【炎装えんそう】発動後の攻撃は、横へ受け流す対応を取っていた。

流石のバルドールも、直撃は警戒しているらしい。 
⋯といっても、攻撃を受け流す際、炎を纏った腕に直接触れている筈なのに、火傷すらしていないが。

まぁ頑丈って事が分かればいいか。
1~2発殴った所で死なないなら、加減せずに済む⋯!!


「ほう。こりゃあ、暖を取るにゃ丁度いいな」

「言ってろ!!」


突き出している俺の腕と、それを捌くバルドールの腕。
二人の腕が交差している状態から、俺はバルトールの腕を絡め取る。彼の手首に、俺の手を回し込む形で引っ掴み、そして、


「おらァッ!!」

「おっほっほー!!飛んでるぜー!!」


背負い投げ(モドキ)をお見舞いする。
バルドールは余裕そうに歓声を上げるが、それでも今までに無いリアクションだ。俺からすれば、彼の反応が変化したのは、大きい一歩だな。


「ほっ!」


バルドールが、空中で身体を捻る。
それにより、頭から地面に向かっていた彼は、両足にて華麗な着地を決めて見せた。


(──成程。今くらいの攻撃なら“受けたくないダメージ”の判定らしいな⋯。少しづつだが、アイツの感覚が掴めてきたぞ)


攻防の間、俺はバルドールの分析を行う。
まず、異様な打たれ強さ⋯⋯というか、肌の硬さが課題点だ。
【炎装】の発動前だったとはいえ、真正面から攻撃を受け止めたにも関わらず、アイツの手は無傷だった。

衝撃によって、骨にヒビくらい入ってもいい威力だとは思うんが、それも無かったコトを考えると⋯⋯。


(あぁ、成程。魔力によって身体を防御しているのか。原理は、俺の【炎装形態】と同じか?)


⋯いや、寧ろ逆だろうな。
俺の【炎装形態】は、発動時に溢れる魔力によって、肉体の強度が上がる性質がある。バルドール程の実力者なら、似た様に溢れ出る魔力によって身体が強化されいるのはありそうだ。

察するに、『魔力による身体強化』は、ある程度の実力者なら無意識に行っているのだろう。以前の試合で、ファリドも魔力を全開にしたというだけで、速度が上がっていたし。


(──さて。バルドールの耐久力の理由が分かったはいいが、だからと言って⋯⋯ってトコだな)


手四つの状態になり、俺はバルドールと目を合わせる。
常にクールな表情を浮かべる彼を見ていると、せっかくパワーアップしているのに、勝てる気が失せてくるぜ。

まぁ戦闘中は心理戦も展開されがちだし、慣れっこだが。


「──さっきから攻撃の手が緩んでるぞ。考え事でもしているのか?」

「まぁな。⋯格上に勝った日には、どんなモンが美味いと思う?」

「なに。戦いが終われば、お前はしばらくだ。ベットに寝そべりながら、温かい茶がすすれるだろうぜ」

「⋯⋯ハッ⋯!!」


グン!と、俺はバルドールの両手に力を加える。
拮抗状態だったのが、一気に俺へ優勢が傾いた。⋯が、それでもバルドールは余裕な表情でコチラを見る。

両膝を地に付けさせてやろうと、俺は更に押し込んだ。
だが、その時、


「お~らよッ!」


突如、俺の下顎に衝撃が響く。
手四つで押し込まれている状態のバルドールが、上半身を脱力させ宙返り蹴りサマーソルトを打ったのだ。俺が強く押し込んでいたのを、逆手に取られた一撃であった。

──が、しかし。


「おッ⋯!?」


真っ先に声を上げたのは、攻撃した側のバルドールだった。


「言わなかったか?この【炎装形態】の使用中は、俺の身体の強度が上がるって」


俺は顎に着いたを拭う。
握っていた手を離し、着地をしたバルドールのつま先は、酷く血塗れだった。足指の骨まで露出してまっているその有様は、凄惨という他無い。


「⋯おう、こりゃひでぇ」

「なんだよ。もっと痛がれよ。というか、普通は痛がるだろ」

「はっ!俺の身体はなんだよ」


傷を負った足でステップし、無事をアピールするバルドール。
まぁ俺からすれば、ようやく“傷を負う威力”というのが把握出来たし、無事かどうかなんて興味無いが。

それに、もう1つの課題点も解決出来そうだ。
アイツの身体が『硬い』以前に、そもそも優れた魔力感知で『死角ナシ』っていうんだから困っていたんだが⋯。

よく考えれば、『死角がない』ってだけで『未来を見ている』という訳では無いし。それに、仮に見えていても『対応出来ない速度』や『予想出来ない攻撃』であれば効く事が分かった。

例えば、カウンターとかな。
さっきのはバルドールの自爆だったが、速攻でカウンターを仕掛ければ、勝ち筋も見えてきそうだ。


「仕切り直しといくか?バルドール」

「へぇ。言うじゃねえの?いいぜ、俺も、もうちっと本気を出して相手をしてやる」

「来いよ。温かい茶が待ってるぜ?」

「⋯ハッ!」
 

クイクイっと、俺は揃えた指を手前に倒してみせる。
バルドールの魔力が大きく膨れるのが分かるが、不思議な事に恐怖は感じない。⋯まぁ当然っちゃ当然だがな。

色々、強敵と戦ってきて、俺も理解してんだ。
『どんだけ強かろうと、生き物である以上は倒せる』ってな。
『化け物』やら『怪物』やら、『恐ろしく強いヤツ』を表現する言葉は数多あるが、そいつらも結局は生命体。

であるならば、傷付きはするし、死ぬ時は死ぬってワケだ。


「さぁ、続けようぜ。バルドール」

「フッ⋯。☾眷属召ヘルヴァン──」


斬ッ。
バルドールの真横を『何か』が通過する。俺の背後から飛んできたその『何か』は、バルドールの脇腹を深く切り裂いた。


「はあッ!?」

「⋯痛えな」


状況が理解出来ず、俺は混乱する。
当のバルドールは、大量に出血しているものの、致命傷には至っていない様だった。


「──ようやく、見つけたぞ」


その時、聞き覚えのある声が、俺の耳に届く。
背後から近付いて来ているであろう、声の主。彼の気配は、俺を包み込む様に、そしてその場に押し留めるかの様に、濃密に迫っていた。


「ヴィル⋯ジール⋯⋯?」

「無事か?無事だよな?無事じゃない訳ないよな?無事じゃないなんて無いよな?無事だよな?無事だよな?無事じゃないなんて有り得ないよな?」


瞳を大きく開き、ヴィルジールは俺の覗き込む。
まるで自分に言い聞かせる様に、俺の安否を聞いてくる彼は、とても正常な様子とは思えなかった。


「な、何やってんだよアンタ。まったく、危うく人を殺すとこだったぞ?俺を黒異種とかと見間違えたのかも知れないけど、狙うならせめてちゃんと俺を──」

「いや」

「⋯は?」

「アイツを殺す気で投げた」


ヴィルジールは、バルドールを指差す。
その時の表情は⋯⋯

表情、は⋯⋯


「うっ!!おぇ⋯ッ!!」


あぁ、これ、ダメだ。
寒気のあまり、吐き気がする。

人を殺そうとして、なんでそんな平気な顔をしているんだ?
ひ、人が、人、を⋯⋯


「おい?大丈──」

「触るなよッ!!」

「は??⋯⋯ん?」


本気で、本気で分からないんだ。
ヴィルジールは、どうして俺が拒絶しているのかを。

、考え過ぎでは無かった。
前にサンクイラから話を聞いた時から、薄々気付いていた。


「──ベルトンで初めて会った日以来、ずっっとお前が”殺気を放っていた事“、ようやく合点がいった」


初めは、誰に向けた殺気かは分からなかった。
元から、常に殺気立ってる様な奴なのかと考える事もあった。
⋯⋯だが、違った。

以前は、“もしかして”と、仮定の範疇を過ぎなかったが⋯⋯
今なら、確証を持って言える。


「──お前、

「⋯なんの事だ?」


数歩引き下がる俺に、ヴィルジールは首を傾げる。
そのあまりの異様さに、俺はバルドールとの戦いも忘れ、敵意をヴィルジールへ向けていた。

⋯⋯魔物の本能だろうか。
聞こえてるくるんだ。大きな音で、『この人間は敵だ』って。


「──確か、ヴィルジールとか言ったな?」

「そういうお前は」

「バルドール。言っとくが、この傷は高く付くぜ?」

「⋯知るか。早く死ねよ」


睨み合う2人を見ながら、俺は立ち尽くしていた。
この状況で、俺が何をすればいいというのだろうか。
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