76 / 114
1章【真実編】
第75話・隠された力。
しおりを挟む時は遡る。
それは、銀槍竜がギフェルタを立って数日経った頃まで──⋯
NOW LOADING⋯
「ゴホッ、⋯おぉ、また火が出た」
道端の雑草に引火したソレに、俺は土をかぶせて鎮火する。
テュラングルに角を食わされて以降、俺はこんな調子がずっと続いていた。どうにか自由自在に扱えないか模索中だが、コレが分からない。⋯なんなら、悪化している気がする。
「虎徹が焼き鳥になっちまうのも時間の問題だな、こりゃ」
「⋯ピッ?」
頭に乗る虎徹を撫でつつ、俺は歩を止める。
見上げると、太陽が真上から照りつけていた。
「そろそろ昼飯にするか⋯」
台車の後ろに回り、荷物を漁る。
朝食は通りがかった川で採った魚だったので、昼はガッツリと肉で行こう。⋯さてさて、歩いてる途中で採れた素材と調味料を取り出してと──⋯
「⋯──ふう。食ったな」
昼飯を済ませた後、俺は地面に寝そべった。
やはり、食後はダラダラと過ごすに限る。いつベルトンに到着出来るか分からないが、まぁこのくらいの休憩はいいだろう。
焦りは禁物、急がば回れってヤツよ。
「⋯⋯⋯ごほっ」
ボッ!と、視界が火の粉に包まれる。
こいつめ、ヒトが優雅に寛いでいるというのに⋯⋯。
やれやれ、真面目にどうしたモンか。
練習も何も、口から火を出す方法が分からないしなぁ。ただ咳をしてみても出せないし⋯⋯う~む。
「ん⋯?」
頭を捻りながら、ゴロゴロとしていたその時。
俺の目に、空高く輝く太陽が入り込んだ。目が痛むのも忘れてソレを見つめた俺は、直後に飛び起きた。
「太陽だッ!」
気が付いてしまった。
『口から』火を吹く、以外の方法もあるのではないかって!
それこそ、魔法の様に『体外で』発生させてみる手もあるかもしれない!上手く出来る様になれば、生活も便利になるし!
「やってみるだけの価値は、ある⋯!!」
そうして、意外なきっかけから俺の修練は始まった。
2本の角に火が灯った事から始まったそれは、ベルトンに着くまでの約1ヶ月で、劇的な進化を見せた。
要領としては、金属生成と同じだったのが幸いだったか。
まぁ本来、俺の肉体であるグレイドラゴンは、火を扱う魔物ではないので、初めこそ苦労したが⋯。尻尾の先端から付け根、指先から肘⋯そして肩と、全身の炎上箇所はドンドンと増えていった。
──だが。
いい調子だと思ったのも束の間、俺はある事に気付いた。
「⋯コレ、結局不便じゃね?」
と。
そうなのである。
練習を重ねる度に炎上箇所が増えるので、日常生活が豊かになるもなにも無いのだ。寧ろ、下手に森の中とかで使った日にはとんでもない大火事を引き起こしてしまうだろう。
まぁそんな答えに至っている頃には、火の『放出』と『収束』の制御がほぼ出来てしまっていたが⋯⋯。
問題があるとすれば、結局口から出る火の扱いが完璧ではいってトコだ。1番使いやすそうな火の出し方だと思うんだが、中々どうして難しい。⋯と言っても、すでに咳は収まったが。
後の課題は⋯⋯
「⋯うーん、やべぇな」
周囲を見渡し、俺は頭を抱える。
久々に魔物に襲われたので、この『炎を纏う状態』を使ってみたはいいが⋯、なにやら様子がおかしい。『その状態』では、何故か肉体の膂力が格段に上がっていたらしく、周囲の地形を派手に変えてしまった。
踏み込み時に生まれた、巨大なクレーター。
単なる咆哮によって吹き飛んだ、周囲の地面と植物。
たった一発のパンチで、血の霧だけを残して消えた魔物。
そして、その一撃の余波で消滅した、後方の山の頂点⋯⋯。
呆気に取られる光景ではあるが、不思議と疑問は無かった。
そりゃあ、あの馬鹿強いテュラングルから貰った『魔力が集中してる角』を喰らったんだ。このくらい出来る様でなくては。
「⋯⋯しかしまぁ、『これ』を使っての戦闘は、いざと言う時まで封印だな」
うむ、これが最善策だろう。
下手に周囲に被害を与えては、冒険者の標的まっしぐらだし。
まぁ『この状態』の修練自体は今後も継続しようと思うがな。
何があるか分からん自然界だし、強くある事に越したことはないよな──⋯
NOW LOADING⋯
⋯──銀槍竜は、その後も『炎を纏う形態』について、調整と分析を続けた。そして、それに際して『炎を纏う形態』の呼び名に関しても、日々頭を捻った。
彼が注目したのは、全身が炎上している時の『感覚』。
『炎を纏う形態』は、皮膚から直接炎が出ている訳ではない。
『その形態』の発動は、まず『身体から魔力が溢れ出る』事から始まる。発動には魔力を大きく使用する為、勝手に溢れ出てるのだ。
──そして。
その『身体から溢れる魔力』に覆われた肉体は、形態の発動中は凄まじい強度を得る事に、銀槍竜は気が付いていた。仮に、それを鎧に例えた時、鎧の更に外側が炎上している事にも。
初め、その形態を炎の鎧と書いて『炎鎧』と名付けようとした銀槍竜は、形態の全貌を知ると同時に、その名を振り払った。
改めて彼が着眼したのは、『鎧の上から身につける炎』という点だった、即ち、“防御”が安定した事による、“攻撃”についての一面についてだ。
鎧を『身に付ける』と表現するならば、武器は『装備する』のだと、銀槍竜は思い至る。まさに、炎を装備した【その形態】は火力特化であり、武器として使用する能力だからだ。
これらの事から、銀槍竜は『炎を纏う形態』に名を付けた。
文字通り、『炎』という武器を、全身に『装備』した形態と書いて──⋯
「⋯──【炎装】、ね。お前のセンスは個性があるな」
「褒めんなよ。照れさせて油断させる気か?」
銀槍竜が突き出した拳を、バルドールは受け止めていた。
互いの呼吸音が聞こえる程の距離の中、両者は嗤う。
ただ、その一方で。
バルドールの頬には、僅かだが擦り傷が生まれていた。
「落胆せずに済んだか?」
「⋯⋯イイね。遊ぼうぜ」
バルドールは、頬をつたる血を舐め取った──
1
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
異世界宿屋の住み込み従業員
熊ごろう
ファンタジー
なろう様でも投稿しています。
真夏の昼下がり歩道を歩いていた「加賀」と「八木」、気が付くと二人、見知らぬ空間にいた。
そこに居たのは神を名乗る一組の男女。
そこで告げられたのは現実世界での死であった。普通であればそのまま消える運命の二人だが、もう一度人生をやり直す事を報酬に、異世界へと行きそこで自らの持つ技術広めることに。
「転生先に危険な生き物はいないからー」そう聞かせれていたが……転生し森の中を歩いていると巨大な猪と即エンカウント!? 助けてくれたのは通りすがりの宿の主人。
二人はそのまま流れで宿の主人のお世話になる事に……これは宿屋「兎の宿」を中心に人々の日常を描いた物語。になる予定です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう
味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる