猛焔滅斬の碧刃龍

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1章【王都防衛迎撃作戦編】

第72話・王都防衛迎撃作戦【終戦】

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「☾邪悪な矢ベゼ・ファル☽」

手で銃を模した形を作り、男は呪文を唱える。
その直後、彼の指先に小さな魔法陣が出現。三本の蒼白い閃光が、音速を超えて放たれた。

二つは、真上の空へ向けて。
一つは、防衛ライン突破を許してしまった翼竜型黒異種達へ。

瞬く間に着弾したその魔法の光は、急激な膨張を見せる。
全開時のアイリスによる☾炎槍の雨フランツェ・レーゲン☽が、まるで比べ物にならない程の大爆発が巻き起こった。


「──待ち遠しかったか?」

「いいや。最高のタイミングだぜ、バルドール」


蒼白く輝く空の下、俺は拳を前へ出す。
そして、バルドールも俺と同様に拳を出した。

拳を合わせた俺達は、軽く笑う。
共に空を見上げると、そこには半数は殲滅したと思われる黒ドラ達の群れがあった。


「⋯どうしてアンタがここに?」

「んん?ベルトンのギルドマスターから聞いてないか?」

「ガバンから?」


⋯あぁ、そういえば。
いつかだったか、ガバンが『俺がベルトンに入る手助けをした男』を、この迎撃戦へ参加させている、とか言ってたっけな。

⋯まぁバルドール以外に『そんな男』は居なかったし、当時は“心強いなー”的な事を考えてた様な気がする。


「──しっかし、リーゼノール以来か」

「だな。⋯あの時は、テュラングルを前に置き去りにされてどうなるかと思ったが⋯⋯。今じゃ、感謝してるぜ」

「あぁ。前とは“魔力の質”がまるで違うぜ。銀灰──。いや、今は『銀槍竜』か?」

「出来れば、紅志(あかし)で頼む」

「ハッ。そうだったな、悪い」


会話を弾ませつつ、俺とバルドールは手を掲げる。
一瞬だけ目を見開いた俺達は、その後すぐに笑みを浮かべた。


「じゃ、魔物ファーストだ」

「年長者ファーストでもいいんだぜ?」


手を下ろすバルドールに冗談を言いつつ、俺は魔力を練る。  
“ちょっと試してみたい事”があるし、折角の見せ場を中年野郎に全部持ってかれるのはヤだしな。
 
⋯⋯さて、やってみようか。


「──☾炎槍の雨フランツェ・レーゲン☽」


空に掲げた俺の手に、巨大な魔法陣が出現する。
アイリスの見様見真似だったが、どうやら上手くいった様だ。
流石に、熟達している彼女よりは魔法陣のサイズは劣っているが、残りの黒ドラ共の殲滅なら容易そうだな。


「ハハッ。まじで成長速度が異常だぜ、紅志」


拍手するバルドールを後ろに、俺は魔法を放つ。
か細い音と共に打ち上がる赤い閃光。

戦場の空が、朱色に染まった──⋯



NOW  LOADING⋯



「──なんだったんですかね?」

「さぁ⋯なんだったのかしら?」


サンクイラの問いに、シルビアを首を傾げる。
戦場後方にて、迎撃魔法の射出が止まったかと思えば、三本の蒼白い光が空へと放たれて大爆発。それから少し経った後に、今度は赤い光に覆われる空⋯⋯。

当事者ではない彼女ら含め、前線のゼクス達は困惑していた。
しかし、翼竜型の黒異種が完全に殲滅された光景を目にした数名は、即座に戦闘態勢へと戻った。


「よく分かんねェが、後はコッチだけって事だろ!!」

「⋯ソールの言う通りだ。何が起きたかは、後で聞けばいい。今は目の前の敵に集中しろ!」


黒異人コクト達に斬り掛かりながら、ハクアは全体へ指示を出す。
それを合図に、各ゼクス達は素早く攻撃の再開をした。


「⋯今、のは⋯⋯⋯⋯」


ただ、その中で1人だけ。
ヴィルジールは、未だに後方へと視線を向けていた。


(まさか、今の魔法は⋯?)


──『冒険者が接触した』──

                ──蒼白い三本の光⋯──

──生き残ったこの1人が⋯──

            ──に確認された光と同じだ──


過去の記憶と、現在の思考。
それらは、彼の中で高速で回り、組み合わさっていった。

そして──


だ⋯!」


全てが、1本の線で繋がった。
あくまでそれは予想でしかなかったが、今のヴィルジールにとって、その“答え”は確信に近かった。

リーゼノールにて銀槍竜と接触して魔法を教えた、とあるフリーの冒険者。自身がそのグレイドラゴンに出会うよりも早く、接触していた人物⋯⋯。

ヴィルジールにとって、激しい嫉妬の対象となる者だった。
そして、正体が判明した暁には、どうするかも決めていた。

──この“邪魔者”を殺してやろう──

と。


「油断すんな!ヴィル──」

「うるせえな」


自身の肩を叩いたファリドを、ヴィルジールは睨んだ。
その迫力に、実力では上である筈のファリドは、思わず後退りする。その瞬間ヴィルジールの雰囲気は、あまりに異様だったのだ。

“『何か』が切れていた”。

後に、当時の状況を聞かれたファリドが、そう供述する程に。


「⋯ここ最近、お前にがあった事には気付いていた。だが、それをブチ撒けるのは『今』じゃねえハズだ」

「⋯⋯⋯⋯。」


ファリドは、冷静にヴィルジールを諭す。
しかし、ヴィルジール本人は無言のまま、心ここに在らずで戦場後方を見つめていた。


「──変な気ぃ起こすんじゃねえぞ?何かあったら、両脚もいででも連れて帰るからな」

「⋯⋯黙ってろ」


肩に添えられたファリドの手を叩き落し、ヴィルジールは武器を構える。次にファリドが言葉を発する間もなく、ヴィルジールは黒異人コクトの群れへと飛び込んで行った。


「⋯⋯あんまり、シルちゃんを悲しませんなよ」


その台詞は、ヴィルジールに届かない。
彼の後ろ姿を、ファリドはただ静かに眺めていた。

迎撃戦の決着まで、残り僅か。
それぞれの冒険者達は、次々と黒異種を倒していく。
人々の希望と、自らの使命感を胸に。

だが、彼らは知らない。
この迎撃戦の終わりは、世界にとって、始まりに過ぎないという事を──⋯
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