猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

文字の大きさ
上 下
68 / 108
1章【王都防衛迎撃作戦編】

第67話・王都防衛迎撃作戦【黒異種】

しおりを挟む


一方、その頃。
各ゼクスが戦闘を開始した前線より、1km手前の地点にて。


「──☾炎槍の雨フランツェ・レーゲン☽」


ゼクス・魔法使い筆頭、アイリス・セレンスティナ。
上空に掲げられた彼女の両手の先に、赤く巨大な魔法陣が形成される。3mは下らないソレから、どんな魔法が放たれるのか。
後方で見守るツエン達から注目が集まった。


──ヒュウ──⋯ッ


しかし。
間が抜けた音と共に打ち出されたのは、弱々しく光る一筋の赤い閃光だった。速度こそあるものの、極めて小さなその光は、空を覆う魔物達の隙間を通り抜けてしまう。


「全員!一旦、魔法を止めて!」


呆気に取られるツエン達に、更なる衝撃が走る。
後方側の最高戦力と認識している人物が、貧弱そうな魔法を放った挙句、攻撃の中断命令を出したのだ。ツエン達からすれば、驚愕の表情を浮かべるのは当然の反応であった。

──だが、その時、


「全員、アイリスの言う通りにした方がいいぜ」


既に攻撃を中止していた銀槍竜が、アイリスの隣に立つ。
咄嗟の判断、という形で、ツエン達は攻撃を中止する。その直後、『魔物が喋った』という事実に、彼らは目を見開いた。

そして、そんな彼らに。
アイリスの魔法、攻撃の中断命令、喋る魔物の登場で情報過多になっている彼らに、更に追撃が加わった。

一瞬にして、空が赤く染まったのである。


──ゴオォオオォオオォ──⋯⋯ンッッ!!!


“それ”は、まるで鐘の音だった。
重く響き渡るその爆音は、戦場全体に到達する。それぞれの戦地にて赤い空を見上げる冒険者達は、思わず苦笑いした。


「──どう?願い事でもしとく?」

 
ゴスロリ風のドレスを揺らし、アイリスは振り返る。
艶やかな黒紫の髪を靡かせながら、彼女は静かに微笑んだ。

まるで流星群の様な、巨大な火柱の雨を背景に。


「「「「えぇえええーーっっ!!?」」」」


目玉が飛び出る勢いで、ツエン達は驚愕する。
彼らは、『精鋭』としてこの場に集められたメンバー。自身の魔法の技術にも、それなりの自信があった者達だ。

だが、この日、この瞬間⋯⋯彼らは思い知ってしまった。
自分達が目標としている人物が、どれ程のレベルに立っているのかを。


「すげぇな、お前。殲滅力ならファリドより高いだろ、コレ」

「ふんっ。当たり前じゃない。私こそゼクス最強よ~♪」


鼻を鳴らし、アイリスは機嫌良さげに腕を組む。
何十本もの巨大な火柱が、一瞬にして上空の魔物を消し炭にする光景。それを、彼女はただ眺めていた。


「──で、どうすんだ?」


アイリスの隣で、銀槍竜は問い掛ける。
胡座をかきながら空を見上げる彼には、とある疑問が浮かんでいた。


「このままじゃ、お前の魔法が地上まで来るぞ。ファリド達に巻き添え食らわせる気か?」

「あらあら。この私が、その点を考えられない様に見える?」


落下する巨大な火柱、数十本。
既に上空の魔物の群れの中心部まで到達しているソレを見て、銀槍竜は腕を組む。彼に対し、魔法の発動者であるアイリスは、大きく髪をいた。

数歩前へ歩いた彼女は、僅かに口角を上げる。
遥か上空で眩く光る自身の魔法。それに向け、アイリスは手の平を大きく広げる。銀槍竜含め、後ろのツエン達が首を傾げる中、彼女は邪悪な笑みを浮かべた。


「──フッ⋯」


固く、手が握られる。
それを合図としたかの様に、上空の全ての火柱が爆裂した。
球状に膨れ上がる爆発波は、それぞれが全長50mまで肥大化。
飲み込んだ全ての魔物達を消し飛ばし、収束した。


「はっ!余裕過ぎるわ、ホント」


腰に片手を当て、髪を大袈裟に梳くアイリス。
開いた口が塞がらない様子のツエン達を他所に、彼女は銀槍竜へと向きを変える。どこからともなく取り出した派手な扇子を扇ぎながら、アイリスは銀槍竜の肩を叩いた。


「銀槍竜。貴方、前線に行きたがってたわよね?」

「⋯いいのか?」

「ええ。私の力を見たでしょ?後ろの子ツエン達もいるし、大丈夫よ」

「そうか?じゃあ、」


言い終えるより早く、その場から掻き消える銀槍竜。
少々遅れて、『遠慮なく』という台詞がアイリスに届いた。


「余っ程、嬉しかったみたいね⋯」


呆れ気味に、彼女は溜息をつく。
持ち場に戻ったアイリスは、改めて上空を見上げた。

立ち込める黒煙と、未だ半数以上残る魔物達。
そして、その中には【奴ら】の姿があるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あめふりバス停の優しい傘

朱宮あめ
青春
雨のバス停。 蛙の鳴き声と、 雨音の中、 私たちは出会った。 ――ねぇ、『同盟』組まない? 〝傘〟を持たない私たちは、 いつも〝ずぶ濡れ〟。 私はあなたの〝傘〟になりたい――。 【あらすじ】 自身の生い立ちが原因で周囲と距離を置く高校一年生のしずくは、六月のバス停で同じ制服の女生徒に出会う。 しずくにまったく興味を示さない女生徒は、 いつも空き教室から遠くを眺めている不思議なひと。 彼女は、 『雪女センパイ』と噂される三年生だった。 ひとりぼっち同士のふたりは 『同盟』を組み、 友達でも、家族でも恋人でもない、 奇妙で特別な、 唯一無二の存在となってゆく。

くず異世界勇者~こんなくそ世界でも勇者してやるよ~

和紗かをる
ファンタジー
 思うままに異世界転生を楽しむ勇者は、その力と行き過ぎた行動で彼を勇者と公認していた王国に囚われ、勇者スキルも封印されてしまう。今までの旅の仲間である妹姫や王国戦士らに裏切られ、どん底に居た勇者を救ったのは魔王城の地下に幽閉されていたのを勇者が救った青肌獣耳の一族だった。彼等と王城を脱出した勇者は緩衝地帯で青の村を独立させ、教皇庁や王国と対立しながらも、自分についてきてくれた本当の仲間と共に新たな異世界ライフに挑む。

ハルシャギク 禁じられた遊び

あおみなみ
恋愛
1970年代半ば、F県片山市。 少し遠くの街からやってきた6歳の千尋は、 タイミングが悪く家の近所の幼稚園に入れなかったこともあり、 うまく友達ができなかった。 いつものようにひとりで砂場で遊んでいると、 2歳年上の「ユウ」と名乗る、みすぼらしい男の子に声をかけられる。 ユウは5歳年上の兄と父親の3人で暮らしていたが、 兄は手癖が悪く、父親は暴力団員ではないかといううわさがあり、 ユウ自身もあまり評判のいい子供ではなかった。 ユウは千尋のことを「チビ」と呼び、妹のようにかわいがっていたが、 2人のとある「遊び」が千尋の家族に知られ…。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

私の婚約者を寝取った妹は、粗大ゴミになって嫁ぎます。

coco
恋愛
「このゴミ、自由にお持ち下さい」 喜んでそれを持って行く男。 良かったわ、妹の嫁ぎ先が見つかって。 あんなことをしでかした子だもの。 姉の婚約者を寝取るなんて、とんでもないことをね─。

赤い流星 ―――ガチャを回したら最強の服が出た。でも永久にコスプレ生活って、地獄か!!

ほむらさん
ファンタジー
ヘルメット、マスク、そして赤い軍服。 幸か不幸か、偶然この服を手に入れたことにより、波乱な人生が幕を開けた。 これは、異世界で赤い流星の衣装を一生涯着続けることになった男の物語。 ※服は話の流れで比較的序盤に手に入れますが、しばらくは作業着生活です。 ※主人公は凄腕付与魔法使いです。 ※多種多様なヒロインが数多く登場します。 ※戦って内政してガチャしてラッキースケベしてと、バラエティー豊かな作品です。 ☆祝・100万文字達成!皆様に心よりの感謝を! 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。  

初恋ガチ勢

あおみなみ
キャラ文芸
「ながいながい初恋の物語」を、毎日1~3話ずつ公開予定です。  

ダメダメ妻が優しい夫に離婚を申し出た結果、めちゃくちゃに犯される話

小野
恋愛
タイトル通りです。

処理中です...