65 / 111
1章【王都防衛迎撃作戦編】
第64話・迫る、本番
しおりを挟む「──ほら、早く早く!」
「待ってちょうだい。荷物、多いんだから!」
母娘と思わしき2人が、魔道列車へと乗り込む。
彼女らだけでは無い。王都内ほぼ全て人々が、列車への乗車を開始していた。迎撃作戦が始まる王都から『万が一』を考え、避難する事を選択したのである。
「⋯フン、いらぬ心配だ。我々が対応に当たるというのに」
腕組みをしつつ、ハクアは眉を顰める。
続々と列車に乗り込む人々を見て、不快感を覚えている様だ。
「まぁ、しょうがないじゃない。戦えないもの、彼らは」
小刻みに足を揺するハクアの隣に、ニナが並ぶ。
腰に片手を当てる彼女は、避難する人々を眺めると、静かに笑みを零した。
「──ニナちゃん、何笑ってるの?」
ニナの傍らから、サンクイラがひょっこりと顔を出す。
笑みを浮かべるニナに疑問を持った彼女は、後ろで手を組んで尋ねた。
「⋯いえ。ちょっと、楽しみになってきてね」
「ええ!ニナちゃん、バーサーカー!」
「──ハッ。戦いが嫌いな冒険者なんているワケねェだろ」
ズシンと大槌を担ぎ、ソールがニナ達の後ろに立つ。
静かに冒険者を語る彼もまた、ギラついた笑みを浮かべるのであった。
──そして、
「あら、珍しい事もあるのね。ソールの意見に頷けるなんて」
「いやいや、シルビアさん。ソレ、失礼ですから⋯」
シルビア、シュレンも続いて合流。
彼らは、来たる迎撃戦に向け、己を滾らせていた。
「⋯⋯ヴィルジールは、来るのか?」
「さぁね。⋯まぁ、アタシは彼を信じるわよ」
集まったメンバーを見て、ハクアがシルビアに尋ねる。
彼の質問に表情を曇らせたシルビアは、少しだけ間を置いてから返答した。
実は、ここ最近。
特に、銀槍竜とファリドの試合が終わってから、ヴィルジールが他人との接触を避けている傾向があるのだ。
理由こそ不明なままだが、迎撃戦の決行は既に直前。
他ゼクスメンバー達は、戦力の離脱を警戒していた。
「──あ~ら、あらあら!いよいよ捨てられちゃったわねぇ!シルビア!」
軽く俯くシルビアに、甲高い笑い声が降り掛かる。
彼女が舌打ちをしつつ振り返ると、その先には、手ぐしで大袈裟に髪を梳くアイリスの姿があった。
「⋯何よ、アイリス。喧嘩売りに来たの?彼は仲間を大切にする人だというのは知っているでしょう?当日は、ちゃんと来るに決まってるじゃない」
「はぁ~?『仲間』ぁ?『アタシ』じゃなくて~?」
「あ。アンタ、ブチ殺すわね」
取っ組み合いを始めた彼女達を見て、ハクア達は顔を覆う。
やれやれと溜息を零し、彼らは仲裁に入ろうとした。
だが、その直後。
彼女達の背後から、大勢が此方に向かってくるのを確認する。
ハクア達はシルビアらをスルーし、足早にそちらへ合流した。
「おうおう。スゲェな、あの女共。俺も混ぜて──」
「貴様はコッチだ、ファリド」
先頭にいたファリドは、シルビア達を見るなり目を輝かせる。
『お前にまで暴れられては、たまったもんではない』と、ハクアはファリドの後ろ襟を掴んで牽引。混乱を回避した。
「えぇー。いいじゃねぇかよ、インテリ眼鏡君よぉ」
「黙れ。いい訳ないだろう」
「⋯へぇ?じゃあ、止めてみるか?」
「俺が出来ないとでも⋯?」
ハクアは、自身の肩に腕を回したファリドを睨む。
あっちもこっちも不穏な雰囲気が漂い、サンクイラとシュレンは目を回す。
そんな2人を背景に、ニナはシルビア達の仲裁に入る。
しかし、両者の間に割り込んだ瞬間、顔面にアイリスの肘、腹にシルビアの正拳をモロに受ける結果となった。
あっという間に三つ巴の完成である。
「──ゴホン。話してもいいかね?」
ゼクス達の状況を見かね、ギルバートが咳払いをする。
ゼクス達は、呆れた声色で言葉を掛けられた事で、一瞬にして態度を改め、姿勢を正した。
「⋯いつからここに?」
「ファリド君達に続いてな。⋯⋯大丈夫かね?」
焦りを隠しつつ質問するシルビアに、ギルバートは片眉を吊り上げる。髪はぐしゃぐしゃ、顔面アザだらけな状態で、よく他の事が気にかけれるな、と。
しかも、よく見れば、そんな状態の者が3人もいる。
更には、冒険者と言えど、全員が喧嘩や暴力とは無縁そうな女性ではないか。
(──全く。冒険者に血の気が多いのは、今も昔も同じだな⋯)
少しばかり思い出に浸り、ギルバートは鼻で溜息をつく。
その様子にゼクス達はハテナを浮かべたが、当のギルバートはそんな彼らを意に返す事無く、話を進めた。
「では。各員の初期配置の再確認と、作戦展開時における役割分担の把握を旨とした、最後会議を執り行う」
会議の開始と共に、魔導列車が発車した。
【王都防衛迎撃作戦における、各ゼクスの配置】
『挟撃部隊・西側』
ファリド・ギブソン:【狂突】の異名を持つゼクス最強の男。
凄まじい突破力と、巧みな槍術で、強力な牽制が期待される。
ヴィルジール・バディスト:経験が豊富で、統率力に優れる。
戦闘能力も高く、火力としても優秀。
サンクイラ・ロレタード:弓の扱いに秀でた支援役。
機動力が高い為、前衛無しでも十分な活躍が見込める。
(※魔軍の停止を確認次第、後方部隊に向け合図を送ること)
ハクア・クレン:知識量に優れた、ゼクスの管制塔。
行動に迷った時は、彼に指示を乞うのも手だろう。
その他、6名:ゼクスの精鋭メンバー。
『挟撃部隊・東側』
ソール・ギャイアル:ファリドと同じく、牽制力がある。
体力が極めて多く、安定した火力で活躍を期待される。
ニナ・ソルディ:“瞬間の想定力”に特化した人物。
状況の把握処理が早い。武器の特性上、近~中距離で戦える。
シュレン・バナフ:機動力こそ無いが、対複数では優秀。
使用する薙刀の刀身は、魔力の吸収の能力が備わっている。
(シルビア):戦闘センスが抜群で、判断能力も高い。
合流戦力として、戦況を把握してから参戦するのが望ましい。
その他、7(+1)名:ゼクスの精鋭メンバー。
【同作戦時における、各ゼクスの役割】
( )内の人物は、王都魔術兵器研究所職員の保護に向かう為、迎撃戦当日は防壁北門から出撃。
それ以外は、東門から出撃。
当日午前6:00までに現地にて集合。装備の確認を怠らぬよう、待機しておく事。
【同作戦時における、ツエンの配置・役割】
『後方部隊』
アイリスと共に、王都東側3kmの地点で待機。
アイリスによる指示に従い、遠距離魔法一斉発射。
合図があり次第、攻撃対象を上空の魔物へと限定する様に。
【同作戦時における、銀槍竜の配置・役割】
『後方、及び即応戦力』
アイリスと同様、広範囲且つ遠距離攻撃が可能な為、後方での火力支援が望ましい。
しかし、『上空の魔物が片付いた』、若しくは『前線の状況が悪化した』状況の場合は、配置場所を離れても構わない。
「⋯──以上。当日に向け、各々気を引きしめる様に⋯!」
「「「「「はいッッッ!!!」」」」」
会議の締めくくりに、檄を飛ばすギルバート。
ゼクス達による力強い返事を一身に浴びた彼は、ただ静かに頷く。
王都・クローネ。
その全てを護る為の戦いが、始まろうとしていた──
1
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!
こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。
ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。
最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。
だが、俺は知っていた。
魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。
外れスキル【超重量】の真の力を。
俺は思う。
【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか?
俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
「元」面倒くさがりの異世界無双
空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。
「カイ=マールス」と。
よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる