猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

文字の大きさ
上 下
60 / 127
1章【王都編】

第59話・クロスカウンター

しおりを挟む


『グレイドラゴン』。
彼らは、接近戦に主とした進化は辿っていない種族だ。

確かに、獲物を狩る際には、牙や鉤爪で相手を仕留める。
だが、それはごく一瞬、刹那のやり取りの話。

強敵との邂逅時にも、一定の距離を取って戦闘を行う。
持続的な接近戦闘については、今まで一度も確認された事はないのだ。

かの種族が接近戦闘を学習した場合、どんな事が起きるのか。
そんな『もしも』の想像を、冒険者達はした事がなかった。

──しかし、本日この場を持って。
彼らは思い知った。『その気になった』グレイドラゴンが、如何なる力を発揮するのかを。




「ガルルッッ──!!」

「くッ⋯!?」


銀槍竜の猛攻を防御しきれず、ファリドは徐々に後退する。
“先の一撃”のダメージも抜けておらず、彼の焦燥は広がった。
だが、肋骨の殆どを砕き、激しい吐血さえ引き起こした“その一撃”は、食らったファリド自身でさえ唸る程、見事なもでもあった。

どれ程の威力だったかと疑問ならば、ある場所を見るといいだろう。
最深部20cm強、直径約2mのクレーターが、先程ファリドが体勢を崩された地面に形成されているからだ。


(オイオイ、まじでヤベェじゃねえかコイツ⋯⋯)


ファリドが溜息すら零しそうな程、銀槍竜の攻撃は加速する。
この時のファリドが難儀していたのは、自分、もとい人間と銀槍竜との『身長差』だった。

銀槍竜の身長が約160cmに対して、ファリドの身長が179cm。
加えて銀槍竜は、二足姿勢が人間の『猫背』や『前屈み』に近い。

この、一見無関係な2つの特徴。
これらが組み合わさり、偶然“発生した”した構えが、たった今、銀槍竜が取っている構え。即ち、零距離攻撃型インファイトであった。


「ぐッ⋯⋯。や、やるなァ、銀槍竜ちゃん」

「息切れしてんぞ、降参するか?」

「ハッ、ありえねぇ、なッ!」

 
銀槍竜の質問に、ファリドは笑みを浮かべて返す。
逆に、銀槍竜はファリドの返答に、首を横へ傾けつつ1回瞬きをした。


(隙ありッ!!)


瞬きのタイミングを逃さず、ファリドは素早く後ろへ下がる。
銀槍竜にとってジョークを交えた表情のつもりだったが、どうやら伝わらなかったらしいと、少々肩を落した。


(⋯距離の確保は出来た。問題は──)


と、ファリドは続きを考えるより早く、防御の構えを取る。
そして、


──ガンッッッ!!


槍の柄で、銀槍竜の拳を防いだ。

 
「マジか。防がれるとは思ってなかったぜ」
 
「ちぇ、またかよ⋯!」
 

ファリドは、苦い顔をする。
銀槍竜は再び後脚にバネを作り出し、20m以上開いていた空間を一息で縮めたのだ。

彼は、満足したのである。
自身の技術がどこまで通用するのか確認を終え、もう『試合を続ける必要』が無くなったのだ。


「──舐めんなッ!!」


ファリドは、空中へ高く跳ね上がる。
無論、強引なエスケープではなく、バネの性質を理解した上での行動だった。一気にエネルギーを解放する事は、直線上での速度が爆発的になる利点があるが、欠点も同時に存在する。

それは、『速度が早過ぎて小回りが効かない』というものだ。
地上であれば、相手に回避されても着地時の反動を利用し、即座に再攻撃が可能。⋯しかし、空中に相手がいる場合は?


──と、ここまでの展開を読み切った事で、はここから先を勝利に繋げる事に成功したのであった。


「オッ!?」


ガクンと、ファリドの身体が揺れる。
そして、彼は目の当たりにした。

自身の愛槍に、何かが絡まっている事に。


「フッ⋯」


銀槍竜は、嗤った。
金属生成によって作り出した『鎖』が、ファリドの左腕ごと槍に巻き付いたからである。

即座に、ファリドは鎖を引き千切ろうと力を掛ける。
彼は、試合開始時の攻防を思い返していた。あの時の銀槍は、難なく破壊が可能であった。ならば、コレも同じ様に──


(クッソ⋯!!形状だけじゃねぇ⋯⋯のかよ⋯ッ!?)


奮闘虚しく、銀槍竜の鎖に変化が起こる事は無かった。
寧ろ、軋む音の1つも発さない程に鎖は強固だったのである。


「ぬ"あ"ッ!」 


銀槍竜は、鎖を目一杯に引いた。
ファリドが状況に追い付くのを、許さない為である。


「クッ⋯⋯オオぉッ!!」

「ガルオァァ──ッッ!!」


両雄咆哮。

片や、右腕の貫通にて1点。
同、部位の切断にて1点。

片や、腹部への打撃にて1点。
水月(※みぞおち)への打撃にて1点。

最早、互いに後は無い。
結果は至ってシンプルで、『勝つ』か『負ける』かのみ。

──最後の攻防、決着へのカウントダウンが始まった。


「ン"ン"ッ!」


先手、ファリド・ギブソン。
鎖を自ら引き、加速を行う。


「⋯──。」


後手、銀槍竜。
ファリドの動作を確認し、攻撃パターンの予測に入る。


──ドゴォンッッ!!


決 着。
鈍い打撃音と共に、勝敗が決した。

互いに繰り出したのは、右のストレート。 
僅かに銀槍竜が出遅れた様にも見えたその刹那の後、2人に歩み寄る1人の人物がいた。


「⋯⋯⋯試合終了」


彼女の名はシルビア。
銀槍竜とファリドの試合を、審判として見届けた人物である。
 

「まず、言わせて。2人共、素晴らしい試合だったわ」


交差する腕の先で、シルビアは静かに笑った。








「──銀槍竜1点ッ!勝者、銀槍竜ッ!」


力強い声が、特別訓練場に響き渡った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元剣聖のスケルトンが追放された最弱美少女テイマーのテイムモンスターになって成り上がる

ゆる弥
ファンタジー
転生した体はなんと骨だった。 モンスターに転生してしまった俺は、たまたま助けたテイマーにテイムされる。 実は前世が剣聖の俺。 剣を持てば最強だ。 最弱テイマーにテイムされた最強のスケルトンとの成り上がり物語。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

転生リンゴは破滅のフラグを退ける

古森真朝
ファンタジー
 ある日突然事故死してしまった高校生・千夏。しかし、たまたまその場面を見ていた超お人好しの女神・イズーナに『命の林檎』をもらい、半精霊ティナとして異世界で人生を再スタートさせることになった。  今度こそは平和に長生きして、自分の好きなこといっぱいするんだ! ――と、心に誓ってスローライフを満喫していたのだが。ツノの生えたウサギを見つけたのを皮切りに、それを追ってきたエルフ族、そのエルフと張り合うレンジャー、さらに北の王国で囁かれる妙なウワサと、身の回りではトラブルがひっきりなし。  何とか事態を軟着陸させ、平穏な暮らしを取り戻すべく――ティナの『フラグ粉砕作戦』がスタートする! ※ちょっとだけタイトルを変更しました(元:転生リンゴは破滅フラグを遠ざける) ※更新頑張り中ですが展開はゆっくり目です。のんびり見守っていただければ幸いです^^ ※ただいまファンタジー小説大賞エントリー中&だいたい毎日更新中です。ぜひとも応援してやってくださいませ!!

孤高の英雄は温もりを求め転生する

モモンガ
ファンタジー
 『温もりが欲しい』  それが死ぬ間際に自然とこぼれ落ちた願いだった…。  そんな願いが通じたのか、彼は転生する。  意識が覚醒すると体中がポカポカと毛布のような物に包まれ…時々顔をザラザラとした物に撫でられる。  周りを確認しようと酷く重い目蓋を上げると、目の前には大きな猫がいた。  俺はどうやら猫に転生したみたいだ…。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

処理中です...