60 / 108
1章【王都編】
第59話・クロスカウンター
しおりを挟む『グレイドラゴン』。
彼らは、接近戦に主とした進化は辿っていない種族だ。
確かに、獲物を狩る際には、牙や鉤爪で相手を仕留める。
だが、それはごく一瞬、刹那のやり取りの話。
強敵との邂逅時にも、一定の距離を取って戦闘を行う。
持続的な接近戦闘については、今まで一度も確認された事はないのだ。
かの種族が接近戦闘を学習した場合、どんな事が起きるのか。
そんな『もしも』の想像を、冒険者達はした事がなかった。
──しかし、本日この場を持って。
彼らは思い知った。『その気になった』グレイドラゴンが、如何なる力を発揮するのかを。
「ガルルッッ──!!」
「くッ⋯!?」
銀槍竜の猛攻を防御しきれず、ファリドは徐々に後退する。
“先の一撃”のダメージも抜けておらず、彼の焦燥は広がった。
だが、肋骨の殆どを砕き、激しい吐血さえ引き起こした“その一撃”は、食らったファリド自身でさえ唸る程、見事なもでもあった。
どれ程の威力だったかと疑問ならば、ある場所を見るといいだろう。
最深部20cm強、直径約2mのクレーターが、先程ファリドが体勢を崩された地面に形成されているからだ。
(オイオイ、まじでヤベェじゃねえかコイツ⋯⋯)
ファリドが溜息すら零しそうな程、銀槍竜の攻撃は加速する。
この時のファリドが難儀していたのは、自分、もとい人間と銀槍竜との『身長差』だった。
銀槍竜の身長が約160cmに対して、ファリドの身長が179cm。
加えて銀槍竜は、二足姿勢が人間の『猫背』や『前屈み』に近い。
この、一見無関係な2つの特徴。
これらが組み合わさり、偶然“発生した”した構えが、たった今、銀槍竜が取っている構え。即ち、零距離攻撃型であった。
「ぐッ⋯⋯。や、やるなァ、銀槍竜ちゃん」
「息切れしてんぞ、降参するか?」
「ハッ、ありえねぇ、なッ!」
銀槍竜の質問に、ファリドは笑みを浮かべて返す。
逆に、銀槍竜はファリドの返答に、首を横へ傾けつつ1回瞬きをした。
(隙ありッ!!)
瞬きのタイミングを逃さず、ファリドは素早く後ろへ下がる。
銀槍竜にとってジョークを交えた表情のつもりだったが、どうやら伝わらなかったらしいと、少々肩を落した。
(⋯距離の確保は出来た。問題は──)
と、ファリドは続きを考えるより早く、防御の構えを取る。
そして、
──ガンッッッ!!
槍の柄で、銀槍竜の拳を防いだ。
「マジか。防がれるとは思ってなかったぜ」
「ちぇ、またそれかよ⋯!」
ファリドは、苦い顔をする。
銀槍竜は再び後脚にバネを作り出し、20m以上開いていた空間を一息で縮めたのだ。
彼は、満足したのである。
自身の技術がどこまで通用するのか確認を終え、もう『試合を続ける必要』が無くなったのだ。
「──舐めんなッ!!」
ファリドは、空中へ高く跳ね上がる。
無論、強引なエスケープではなく、バネの性質を理解した上での行動だった。一気にエネルギーを解放する事は、直線上での速度が爆発的になる利点があるが、欠点も同時に存在する。
それは、『速度が早過ぎて小回りが効かない』というものだ。
地上であれば、相手に回避されても着地時の反動を利用し、即座に再攻撃が可能。⋯しかし、空中に相手がいる場合は?
──と、ここまでの展開を読み切った事で、彼はここから先を勝利に繋げる事に成功したのであった。
「オッ!?」
ガクンと、ファリドの身体が揺れる。
そして、彼は目の当たりにした。
自身の愛槍に、何かが絡まっている事に。
「フッ⋯」
銀槍竜は、嗤った。
金属生成によって作り出した『鎖』が、ファリドの左腕ごと槍に巻き付いたからである。
即座に、ファリドは鎖を引き千切ろうと力を掛ける。
彼は、試合開始時の攻防を思い返していた。あの時の銀槍は、難なく破壊が可能であった。ならば、コレも同じ様に──
(クッソ⋯!!形状だけじゃねぇ⋯⋯強度も操作できるのかよ⋯ッ!?)
奮闘虚しく、銀槍竜の鎖に変化が起こる事は無かった。
寧ろ、軋む音の1つも発さない程に鎖は強固だったのである。
「ぬ"あ"ッ!」
銀槍竜は、鎖を目一杯に引いた。
ファリドが状況に追い付くのを、許さない為である。
「クッ⋯⋯オオぉッ!!」
「ガルオァァ──ッッ!!」
両雄咆哮。
片や、右腕の貫通にて1点。
同、部位の切断にて1点。
片や、腹部への打撃にて1点。
水月(※みぞおち)への打撃にて1点。
最早、互いに後は無い。
結果は至ってシンプルで、『勝つ』か『負ける』かのみ。
──最後の攻防、決着へのカウントダウンが始まった。
「ン"ン"ッ!」
先手、ファリド・ギブソン。
鎖を自ら引き、加速を行う。
「⋯──。」
後手、銀槍竜。
ファリドの動作を確認し、攻撃パターンの予測に入る。
──ドゴォンッッ!!
決 着。
鈍い打撃音と共に、勝敗が決した。
互いに繰り出したのは、右のストレート。
僅かに銀槍竜が出遅れた様にも見えたその刹那の後、2人に歩み寄る1人の人物がいた。
「⋯⋯⋯試合終了」
彼女の名はシルビア。
銀槍竜とファリドの試合を、審判として見届けた人物である。
「まず、言わせて。2人共、素晴らしい試合だったわ」
交差する腕の先で、シルビアは静かに笑った。
「──銀槍竜1点ッ!勝者、銀槍竜ッ!」
力強い声が、特別訓練場に響き渡った。
1
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
あめふりバス停の優しい傘
朱宮あめ
青春
雨のバス停。
蛙の鳴き声と、
雨音の中、
私たちは出会った。
――ねぇ、『同盟』組まない?
〝傘〟を持たない私たちは、
いつも〝ずぶ濡れ〟。
私はあなたの〝傘〟になりたい――。
【あらすじ】
自身の生い立ちが原因で周囲と距離を置く高校一年生のしずくは、六月のバス停で同じ制服の女生徒に出会う。
しずくにまったく興味を示さない女生徒は、
いつも空き教室から遠くを眺めている不思議なひと。
彼女は、
『雪女センパイ』と噂される三年生だった。
ひとりぼっち同士のふたりは
『同盟』を組み、
友達でも、家族でも恋人でもない、
奇妙で特別な、
唯一無二の存在となってゆく。
くず異世界勇者~こんなくそ世界でも勇者してやるよ~
和紗かをる
ファンタジー
思うままに異世界転生を楽しむ勇者は、その力と行き過ぎた行動で彼を勇者と公認していた王国に囚われ、勇者スキルも封印されてしまう。今までの旅の仲間である妹姫や王国戦士らに裏切られ、どん底に居た勇者を救ったのは魔王城の地下に幽閉されていたのを勇者が救った青肌獣耳の一族だった。彼等と王城を脱出した勇者は緩衝地帯で青の村を独立させ、教皇庁や王国と対立しながらも、自分についてきてくれた本当の仲間と共に新たな異世界ライフに挑む。
ハルシャギク 禁じられた遊び
あおみなみ
恋愛
1970年代半ば、F県片山市。
少し遠くの街からやってきた6歳の千尋は、
タイミングが悪く家の近所の幼稚園に入れなかったこともあり、
うまく友達ができなかった。
いつものようにひとりで砂場で遊んでいると、
2歳年上の「ユウ」と名乗る、みすぼらしい男の子に声をかけられる。
ユウは5歳年上の兄と父親の3人で暮らしていたが、
兄は手癖が悪く、父親は暴力団員ではないかといううわさがあり、
ユウ自身もあまり評判のいい子供ではなかった。
ユウは千尋のことを「チビ」と呼び、妹のようにかわいがっていたが、
2人のとある「遊び」が千尋の家族に知られ…。
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
私の婚約者を寝取った妹は、粗大ゴミになって嫁ぎます。
coco
恋愛
「このゴミ、自由にお持ち下さい」
喜んでそれを持って行く男。
良かったわ、妹の嫁ぎ先が見つかって。
あんなことをしでかした子だもの。
姉の婚約者を寝取るなんて、とんでもないことをね─。
赤い流星 ―――ガチャを回したら最強の服が出た。でも永久にコスプレ生活って、地獄か!!
ほむらさん
ファンタジー
ヘルメット、マスク、そして赤い軍服。
幸か不幸か、偶然この服を手に入れたことにより、波乱な人生が幕を開けた。
これは、異世界で赤い流星の衣装を一生涯着続けることになった男の物語。
※服は話の流れで比較的序盤に手に入れますが、しばらくは作業着生活です。
※主人公は凄腕付与魔法使いです。
※多種多様なヒロインが数多く登場します。
※戦って内政してガチャしてラッキースケベしてと、バラエティー豊かな作品です。
☆祝・100万文字達成!皆様に心よりの感謝を!
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる