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1章【王都編】
第54話・狂突と銀槍③
しおりを挟む「フッ──!」
一呼吸。
その刹那に、ファリドは20を超える刺突を繰り出した。
「────。」
捌、捌、捌。
豪雨が如く迫る鋒を、側面から叩く事で軌道を逸す銀槍竜。試合を間近で観るシルビアが、流麗だと感じる程のその動作は、本人にとっては無意識で行っているものだった。
彼の優れた反応速度と、それに伴う思考スピードによって、自動的に無駄が削れていったのだ。
(大したヤツだぜ、マジで)
心の内で銀槍竜に称賛を送り、ファリドは素早く槍を引く。
一瞬の遣り取りを終えた彼は、バックステップで距離を確保すると、次なる一手の為に槍を大振りに回転させた。
だが、しかし。
彼の先手を許すまいと、無数の銀槍が飛来する。
「⋯ケッ!また同じ手かァ!?」
弾き、往なし、撃墜し。
先程のお返しと言わんばかりに、ファリドは銀槍竜の攻撃を無効化していく。その──彼の性格からは想像出来ない──巧みな槍術には、攻撃を加えている銀槍竜ですら目を奪われるものがあった。
(──また接近してくるか?⋯いや、初手で破られた手段を繰り返す程、アイツもバカじゃねぇな)
己が緑眼で相手を見据え、ファリドは思案する。
彼の最も優れた点は、その強行的な戦闘スタイルと冷静な分析との融合。それによって生まれる、巨大なギャップであった。
単純な相手だと思えば、足元を掬われる。
難解な相手だと掛かれば、力技でねじ伏せられる。
そうして、これまで数多の強力な魔物を、愛槍【狂突】の錆にしてきたのだ。
「⋯⋯⋯」
──だ が。
そのファリドという冒険者を持ってして尚、『無言の静観』という選択を取らせる魔物が、目の前の銀槍竜だった。
(──同じ手は通じない、ソレはわかってる。⋯が、この遠距離からの攻撃も、アイツの槍の技術の前では無意味⋯か)
その碧瞳で、銀槍竜はファリドを観察する。
攻撃を加えている本人だからこそ、彼は気が付いていていた。
“この攻撃を続けても、勝ち目は無い”と。
しかし。
目の前の男に、同じ手は通用しない。
初手で、それも不意打ちであった攻撃に対応されたのであれば、それは簡単に導き出される答えであった。
(火力として、コレは期待出来ないな⋯⋯)
そう考え、使用していない背後の槍を消す銀槍竜。
それを見逃さず、ファリドは自身の周囲にあった銀槍を全て破壊する。そして、刺突の構えでド直球に。尚且つ、スタートダッシュの砂煙が巻き起こるよりも早く、銀槍竜へと迫った。
これぞ【狂突】、これぞファリド・ギブソンだと知らしめる様に、男は突き進む。
槍が、銀槍竜に最も接近した瞬間。
その鋒は、亜音速にまで到達していた。
──亜音速──
文字通り、音の速さの事。
音速が『時速:1225km』=『マッハ1』に対し、
亜音速は『マッハ0.75(以下)』の“音速に近い”速度である。
あくまで、“音速より遅い”というのが亜音速だが、
それでも尚『時速:926km』=『秒速:257m』という、驚異の速度を誇る──
(そんじゃ、こんなのはどうだ?)
──ガギンッッ!!
甲高い爆音が、特別訓練場に響き渡る。
亜音速に到達していた槍が急停止した事により、その直線上に立っていた銀槍竜を鈍い衝撃波と砂煙が覆った。
「ンな⋯ッ!?」
ゼクス最強の男、ファリド・ギブソンの表情が変わる。
彼は、自分の身に一体何が起こったか、事態の確認を急いだ。
直後、彼が自身の槍の異常を認識した、その瞬間。
「──ハァア"ッ!」
砂煙を吹き飛ばし、銀槍竜がファリドの眼前にまで迫った。
咄嗟の判断で、ファリドは身を引く。⋯⋯が、銀槍竜の拳が、彼の腹に到達する方が早かった。
──ズ──ドンッ!!
鈍い音を上げ、ファリドの身体が吹っ飛ぶ。
吐血こそしないものの、彼は口を大きく開け、片目を固く閉じてしまう程のダメージを負っていた。
「銀槍竜、1点ッ!」
素早く、シルビアは声を上げる。
【狂突】VS【銀槍】。先制点を勝ち取ったのは、銀槍竜であった。
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