猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

文字の大きさ
上 下
54 / 127
1章【王都編】

第53話・狂突と銀槍②

しおりを挟む


「美味しいねーコレ」

「ホントねー⋯って、口にクリームついてるわよ」


王都東側、とあるスイーツ店にて。
特別訓練場から約1km離れたその場所で、サンクイラとニナはシュークリームを堪能していた。無論、『英気を養う』という名目の下だが、1皿3個のソレを既に10皿は片付けており、2人に注がれる視線は中々の数になっていた。


「そういえば⋯⋯」

「どうかした?」


ふと、サンクイラは空を見上げる。
シュークリームを待ったまま、ピタリと止まった彼女に対し、ニナも動きを止めて質問をした。


「昨日の夜の事なんだけどね?ファリドさんが、『銀槍竜の部屋って何処ーッ!?』って聞いてきたの。かなり急いでいる様子だったから、つい教えちゃったけど⋯。何かあったのかな?」

「さぁね。色々話してみたかったんじゃない?喋る魔物自体、レアな存在だし」

「うーん、そうだったのかなぁ」


サンクイラは、昨夜のファリドの表情を思い浮かべる。
そして、今のニナの予想と重ねた結果──






である、“違う”という答えにたどり着くより早く、『それ』は発生した。


──ズッッドオォ──────ンッ!!!


「「!?」」


爆音、直後に、衝撃波。
一斉に混乱状態になる人々の中、冒険者であるニナ達は素早く住民の避難指示にあたった。この時、何が起こったのかを彼女達が知る由は無かったが、一つだけ察した事がある。

それは、衝撃波の発生源。
2人は特別訓練場の方面から、巨大な魔力の衝突を感じたのだ。

彼女達だけではない。
王都中のあらゆる実力者達は、全てが同じ場所へ向きを変え、それぞれの思惑を浮かべていた。


「──ファリド君か。全く、無粋な事をしてくれる」


王都クローネ、ギルドマスター・ギルバート。
アーチ窓から見える特別訓練場を眺めながら、彼は額を覆う。
だが、発した言葉とは裏腹に、ギルバートは愉快げな表情で部屋を出るのであった。

そして、また別の場所では、


「あのやろ、この短期間でどんだけ強くなってんだよ⋯」


煙草をふかしながら、壁にもたれ掛かる男がいた。
彼に、ギルバートの様にその場を動く気は無いが、感情だけは似通ったものがあった。それは、好奇心。

強者同士の戦いとは、どうにも心惹かれるもの。
それは、ギルドマスターという立場にいるギルバートですら例外では無い。ましてや、衝突する強者の片方を『獲物』と見定めているこの男からすれば、より強く感じるものだろう。


「もう少しの辛抱、だな」


吸殻を地面に捨て、足で火を消す。
バルドールは、路地裏の暗闇へと消えていった。





「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」


──そして、この男。
ヴィルジール・バディストは、ただ真っ直ぐと訓練場の方へと視線を送っていた。彼の位置から訓練場は見えないが、魔力感知によって『戦況』は見える。

彼にとって、今はそれだけで十分だった。
自身の内側で滾る“焔”を抑えているには、これ以上踏み入っては行けないと理解した上での選択であった。


そして──⋯







⋯──王都・特別訓練場。


「やるじゃねぇか!すげぇッ!」

「ちぇ、バレちまったか⋯」


衝撃波の原因達は、拳を合わせたまま、互いの反応を見せた。
予想外の攻撃に思わず相手を称えるファリドと、『不意打ち』が失敗して舌打ちをする銀槍竜。

この光景のみで、何が起きたか理解できる者は少ないだろう。
いや寧ろ、一部始終を見ていたですら、その表情は驚愕に満ちているものだった。


(やっぱり、もそうだったけど、コイツは──)


一連の目撃者であるシルビアの頬に、一筋の汗が流れる。
彼女は、改めて銀槍竜の知能の高さに驚いていた。

それは、試合開始直後の出来事。
合図と同時に銀槍竜が複数の槍を発射し、飛んできたソレをファリドが高速で捌く⋯。

『其方の間合いに入る気は無い』

そう、言わんばかりに槍を発射し続ける銀槍竜。
だが、その攻撃方法は、彼の試合前の様子を見ていれば、シルビアもファリドにも想定通りだった。
 
⋯⋯だが、ファリドが何十本目かの銀槍を弾いた時。
銀槍竜が、予想外の行動に出た。


「おォッ!?」


肉薄。
ファリドの意識が、ごく僅かに銀槍に集中したその瞬間。銀槍竜は急加速を行ったのだ。時間にして、1秒にも満たない隙を突かれたファリドは、思わず目を見開いた。

だが、彼もまた、ゼクス最強に相応しい実力の持ち主。
槍の間合いを潰されファリドは、一時的に武器を放棄を選択。空中に槍を投げ捨て、即座に銀槍竜へ拳を突き出した。

その結果、


──ズッッドオォ──────ンッ!!!


拳同士の衝突と、それに伴う衝撃波。
王都の街全体に響いたソレに気が付くことも無く、2名はファーストタッチを終えたのだった。


(すげぇなッ!こんな魔物は初めてだぜッ⋯!)


シルビア、そしてファリド。
対魔物を専門とした冒険者である2人だからこそ、その驚愕は凄まじいものだった。これ見よがしの槍に意識を奪わせ、敢えて打撃で行く選択肢を取る⋯。

『駆け引き』を理解し、そして使用できる魔物が、一体どれ程いるだろうか。これでは、まるで──


「あー、もう。次は当ててやるからな!」

「おうッ!とことんやろうぜッ!」


触れ合う互いの拳を、ゆっくりと離す両者。
この時、ギラつく笑顔で返したファリドは、内心では冷静に考えていた。

『普段の相手』とは勝手が違うというのもある。
⋯しかし、それ以上に。冒険者として、目の前の相手に思う事があったのだ。そして、それは審判として試合を見ていたシルビアも同様、


──まるで人間のようだ──


と。


「⋯よォ~し。今度は、俺がカッコイイとこ見せてやるぜ!」


落下してくる、一本の槍。
その名を【狂突アクセル】。

火がついたファリド・ギブソンは、獰猛に嗤った──

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...