猛焔滅斬の碧刃龍

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1章【王都編】

第53話・狂突と銀槍②

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「美味しいねーコレ」

「ホントねー⋯って、口にクリームついてるわよ」


王都東側、とあるスイーツ店にて。
特別訓練場から約1km離れたその場所で、サンクイラとニナはシュークリームを堪能していた。無論、『英気を養う』という名目の下だが、1皿3個のソレを既に10皿は片付けており、2人に注がれる視線は中々の数になっていた。


「そういえば⋯⋯」

「どうかした?」


ふと、サンクイラは空を見上げる。
シュークリームを待ったまま、ピタリと止まった彼女に対し、ニナも動きを止めて質問をした。


「昨日の夜の事なんだけどね?ファリドさんが、『銀槍竜の部屋って何処ーッ!?』って聞いてきたの。かなり急いでいる様子だったから、つい教えちゃったけど⋯。何かあったのかな?」

「さぁね。色々話してみたかったんじゃない?喋る魔物自体、レアな存在だし」

「うーん、そうだったのかなぁ」


サンクイラは、昨夜のファリドの表情を思い浮かべる。
そして、今のニナの予想と重ねた結果──






である、“違う”という答えにたどり着くより早く、『それ』は発生した。


──ズッッドオォ──────ンッ!!!


「「!?」」


爆音、直後に、衝撃波。
一斉に混乱状態になる人々の中、冒険者であるニナ達は素早く住民の避難指示にあたった。この時、何が起こったのかを彼女達が知る由は無かったが、一つだけ察した事がある。

それは、衝撃波の発生源。
2人は特別訓練場の方面から、巨大な魔力の衝突を感じたのだ。

彼女達だけではない。
王都中のあらゆる実力者達は、全てが同じ場所へ向きを変え、それぞれの思惑を浮かべていた。


「──ファリド君か。全く、無粋な事をしてくれる」


王都クローネ、ギルドマスター・ギルバート。
アーチ窓から見える特別訓練場を眺めながら、彼は額を覆う。
だが、発した言葉とは裏腹に、ギルバートは愉快げな表情で部屋を出るのであった。

そして、また別の場所では、


「あのやろ、この短期間でどんだけ強くなってんだよ⋯」


煙草をふかしながら、壁にもたれ掛かる男がいた。
彼に、ギルバートの様にその場を動く気は無いが、感情だけは似通ったものがあった。それは、好奇心。

強者同士の戦いとは、どうにも心惹かれるもの。
それは、ギルドマスターという立場にいるギルバートですら例外では無い。ましてや、衝突する強者の片方を『獲物』と見定めているこの男からすれば、より強く感じるものだろう。


「もう少しの辛抱、だな」


吸殻を地面に捨て、足で火を消す。
バルドールは、路地裏の暗闇へと消えていった。





「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」


──そして、この男。
ヴィルジール・バディストは、ただ真っ直ぐと訓練場の方へと視線を送っていた。彼の位置から訓練場は見えないが、魔力感知によって『戦況』は見える。

彼にとって、今はそれだけで十分だった。
自身の内側で滾る“焔”を抑えているには、これ以上踏み入っては行けないと理解した上での選択であった。


そして──⋯







⋯──王都・特別訓練場。


「やるじゃねぇか!すげぇッ!」

「ちぇ、バレちまったか⋯」


衝撃波の原因達は、拳を合わせたまま、互いの反応を見せた。
予想外の攻撃に思わず相手を称えるファリドと、『不意打ち』が失敗して舌打ちをする銀槍竜。

この光景のみで、何が起きたか理解できる者は少ないだろう。
いや寧ろ、一部始終を見ていたですら、その表情は驚愕に満ちているものだった。


(やっぱり、もそうだったけど、コイツは──)


一連の目撃者であるシルビアの頬に、一筋の汗が流れる。
彼女は、改めて銀槍竜の知能の高さに驚いていた。

それは、試合開始直後の出来事。
合図と同時に銀槍竜が複数の槍を発射し、飛んできたソレをファリドが高速で捌く⋯。

『其方の間合いに入る気は無い』

そう、言わんばかりに槍を発射し続ける銀槍竜。
だが、その攻撃方法は、彼の試合前の様子を見ていれば、シルビアもファリドにも想定通りだった。
 
⋯⋯だが、ファリドが何十本目かの銀槍を弾いた時。
銀槍竜が、予想外の行動に出た。


「おォッ!?」


肉薄。
ファリドの意識が、ごく僅かに銀槍に集中したその瞬間。銀槍竜は急加速を行ったのだ。時間にして、1秒にも満たない隙を突かれたファリドは、思わず目を見開いた。

だが、彼もまた、ゼクス最強に相応しい実力の持ち主。
槍の間合いを潰されファリドは、一時的に武器を放棄を選択。空中に槍を投げ捨て、即座に銀槍竜へ拳を突き出した。

その結果、


──ズッッドオォ──────ンッ!!!


拳同士の衝突と、それに伴う衝撃波。
王都の街全体に響いたソレに気が付くことも無く、2名はファーストタッチを終えたのだった。


(すげぇなッ!こんな魔物は初めてだぜッ⋯!)


シルビア、そしてファリド。
対魔物を専門とした冒険者である2人だからこそ、その驚愕は凄まじいものだった。これ見よがしの槍に意識を奪わせ、敢えて打撃で行く選択肢を取る⋯。

『駆け引き』を理解し、そして使用できる魔物が、一体どれ程いるだろうか。これでは、まるで──


「あー、もう。次は当ててやるからな!」

「おうッ!とことんやろうぜッ!」


触れ合う互いの拳を、ゆっくりと離す両者。
この時、ギラつく笑顔で返したファリドは、内心では冷静に考えていた。

『普段の相手』とは勝手が違うというのもある。
⋯しかし、それ以上に。冒険者として、目の前の相手に思う事があったのだ。そして、それは審判として試合を見ていたシルビアも同様、


──まるで人間のようだ──


と。


「⋯よォ~し。今度は、俺がカッコイイとこ見せてやるぜ!」


落下してくる、一本の槍。
その名を【狂突アクセル】。

火がついたファリド・ギブソンは、獰猛に嗤った──

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