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1章【王都編】
第42話・到着
しおりを挟む『ゼクスの皆さん、まもなく王都へ到着です。お忘れ物の無いよう、ご確認をお願い致します』
ややノイズ気味の音声が、魔導列車全体にアナウンスされる。
音声が止むと同時に、各車両のゼクスメンバーは荷物をまとめて降車の準備を始めた。
「ッし、俺もボチボチ降りる用意をしとくか⋯」
同じく俺も遅れる事が無いよう、準備をする為に席を立った。
他のメンバーと違って、俺の車両の後片付けは楽だ。持ってきているのは調味料が複数と長財布だけだし。
⋯あ、因みにこの財布はベルトンで購入した物なのだが、結構気に入っている。余分な機能も無く、ブラウン基調の表面には銀細工が繊細に施されており、オトナな1品となっている。
まぁ前世で俺はただのサラリーマンだったし、特別稼ぎがあるって人間でも無かったから、日々の携行品に金をかける事はして無かったんだが⋯⋯コレは良い。
ただその分の値は張ったし、革製なので手入れが必要なのが難点だが。つい勢いに任せて買ってしまったからなぁ、ロクに手入れの仕方なんて知らないのに。
⋯なんか自分で言うのもアレだとは思うが、俺ってばこういうトコが頻発にある奴だ。逆立ちしてしまうというか、な。
『5分後、王都結界通過の為、一時的に速度を上げさせていただきます』
⋯っと、そろそろ準備しないとな。
まぁ金属で作ったリュックに全部詰め込んでしまえばいいってだけだが。以前にも同じ物を作ってみたが、その時は四角い箱にチェーンをつけた様な異物な代物になってしまっていた。
だが最近は金属操作の技術も上がっているし、俺の背中の形にフィットする形状の物入れを生成するのは造作もない。ショルダーストラップも、鎖帷子程では無いが、皮膚へのダメージが少ない形を作れる。
いやはや、自分の成長が怖いねぇ。
「銀槍竜、ちょっといいかしら」
「⋯!どうしたニナ?」
俺がリュックへ荷物を入れていると、後ろの扉からニナが顔を覗かせた。なにやら話がありそうなニナへ近付くと、彼女は頭だけ出していた扉の隙間を全開にし、俺を車両内へ案内した。
入った時の印象としては、よく整理されているって感じだ。
この前の襲撃があった日の夕食の席で、自室が散らかった事についてニナはずっとボヤいていたが⋯今はすっかり綺麗になっているな。
ただ整理され過ぎているのは、個人的に堅苦しい気もするが。
物凄く丁寧に並べたりしたのだと考えると、それを崩さない様に動かなければならないからなぁ。⋯おっとと、危ない。
「⋯それで、何か用か?」
「えぇ、頼みが1つあるんだケド⋯⋯」
ストンと席に座ったニナは、困り顔である物を親指で差す。
何だ何だと視線を移してみると、そこには大きく凹んだトランクケース⋯らしき物が転がっていた。
聞けば、例の襲撃の際に破損してしまったんだとか。
今回の数日間の移動に必要な衣服を入れて置いたらしいが、この破損では荷物を纏められないと困っているようだ。
「銀槍竜、コレくらいの入れ物作ってよ。⋯⋯あ、出来れば、前にアンタが使ってた引きずれるヤツが良いわ」
「⋯俺って、便利な道具屋だと思われてんのか?」
「違うの⋯?」
なぁんだ、その目は。
ガチで疑問に思っている目だし、俺ってそんな奴だと捉えられるのかよ。まぁ?物の作成に関しては、そこそこの自信はありますけども?そんな都合の良い相手だと思われてるのは⋯⋯
⋯っと、おお?
「⋯⋯なぁニナ?」
「なに?」
「俺が入れ物を作ったら、それに荷物を入れるよな?」
「当たり前でしょ?」
「その⋯⋯ソレも入れるのか?」
「えぇ。⋯なによ、さっきから?」
俺が『ソレ』と指差したのは、とある衣類。
この列車での長時間移動に際し、主に女性冒険者達は着替えを用意していた。というのも、魔法で水を生成できるシルビアの頼みで、俺がお風呂を作っていたからだ。
金属生成で作った湯船へとシルビアが水を出し、俺の炎でアツアツに熱した金属の板を入れてお湯を作る。車内で焚き火は難しいので、この方法を取った訳だが⋯⋯まぁ今その話はいい。問題は、俺が指差したモノだ。
薄いピンク色をしたソレは、シルクの様になめらかな素材で出来ており、色味に似合う細やかな花柄の刺繍が入っている。
「早くしてよ、もうすぐ到着よ?」
「あ、あぁ⋯⋯」
ハッとした俺は動揺が悟られない様、直ぐに要望通りのケースを作った。完成品を渡すと、ニナはさっさと荷物をまとめ始める。忙しく手を動かす彼女の後ろで、俺は片手で額を覆った。
「助かったわ。⋯アンタも早く支度しなさいよ」
「⋯⋯⋯」
「⋯どうかした?」
⋯俺の見た目は魔物だし、中身もそっち寄りだとは思う。
だが種族が違うからって、流石に気にしなさすぎなんじゃないかって思うワケよ。だって声とかで雄だって分かるだろ?
「その⋯⋯お前、恥ずかしかったりしないのか?」
「何が?」
「ホラ、さっきの⋯」
「下着の事?」
あー、あー⋯⋯言っちゃった。
必死に思い浮かべないようにしてたのに。もーホント、勘弁して欲しいもんだわ。俺にも人並みにそーゆー欲求はあるし、この姿でも1人の男として扱って欲しいわ。
「⋯アンタ、魔物なのに興味あるの?」
「え、いやぁ⋯⋯まぁ?」
「きも」
ぐ、ぐうの音も出ないぜ。
⋯でもまぁ自分が気にするからって、周りに変化を求めるのは違うか。変わるべきは俺⋯ってな。
あーあ、せめて人型にでもなれたらなぁ。
擬人化とかできねーのかなー。
『まもなく王都結界を通過いたします。かなりの加速を行いますので、お気をつけ下さい』
「⋯ん、そろそろ着くっぽいわね」
「らしいな。ようやく柔らかいベッドで寝れそうだな」
車掌のアナウンスを聞き、俺は腰に両手を当てながら言った。
共感を得られたのか、ニナは軽く笑ってからトランクケースを閉じる。ひと仕事を終え、席にもたれたニナは窓枠に肘を置いて景色を眺め始めた。
どこから切り取っても様になる彼女に見とれていると、そんな俺を疑問に思ったのか、自身の正面の座席を顎と目線で差した。どうやら『座れば?』というニュアンスらしい。
俺は若干の照れを隠す様に席へ座り、気まずくならないように適当な話題を振った。
「⋯ところでさ、」
「ん?」
「王都結界⋯ってなんだ?」
「王都を護っている結界の事よ、文字通りね。魔物からの認識を阻害する効果と、超高強度があるらしいわ」
「ほぉ、そりゃ凄いな⋯」
⋯ん?適当に振った話題だったが、少し気になる所があるな。
今回の迎撃作戦の原因は、その王都結界が壊れた事だとガバンは言っていた。そこまで能力が高い結界が壊れたのなら、余程強力な衝撃が加わったとかか?
「今回の一件は内側で問題があったから起こったの。あの結界を発生させている魔法陣の構造は、とても複雑で繊細なのよ」
「それが崩れたと?」
「⋯アンタ、色々聞かされてないの?」
「まぁ⋯⋯詳しくは」
内側⋯ってなんだ?
ガバンから聞いているのは『結界が壊れた』『その影響で魔物が王都へ進行をしている』という2つだし。さっきのニナの話と繋げると、魔物からの認識を阻害する効果が消えたから魔物が王都の存在に気が付いたって事だろうか。
不憫そうな目で俺を見るニナは小さく溜息を零すと、俯きつつ今回の一件の顛末を話し始めた。
「発端は『王都魔術兵器研究所』という組織が、実験に失敗した事から始まった─⋯」
⋯─かなり大掛かりな実験だったらしくてね。
そんなの王都内でやる訳にはいかないから、組織は王都外での実験を行っていたの。
ある時、その実験が失敗して大爆発。
⋯本当、あの連中はどうしようも無い間抜けばかり⋯って、話が逸れたわね。
兎に角、その爆発のせいで王都結界の魔法陣が乱され、一時的に機能しなくなったって訳よ。
今は結界も治ったらしいけど、一瞬だけでも魔物に感知されてしまったのが問題だった─⋯
「⋯─で、結果としてこの現状って事。王都には魔物の軍勢が押し寄せ、その対応に裂ける人員はゼクスとツエンだけ⋯」
「大変、なんだな⋯⋯」
「そうなのよ⋯⋯」
話しているだけで窶れた様に見えるニナの様子から、かなりの面倒事なのだろう。俺は思いっ切り身体を動かせる事にウキウキしていたが、冒険者達はそうでも無いらしいな⋯。
⋯頑張って労力減らしてやるかぁ。
「ニナちゃーん、クシ貸してー」
「もー、何度目よサンクイラーっ?」
「私とニナちゃんの仲でしょー」
俺が冒険者達に同情していると、後ろの扉の奥からサンクイラの声が聞こえた。文句を言いつつも、ニナは1度閉じたトランクケースを開いてクシを取り出す。
微笑ましいやり取りに思わずニヤけていると、そんな俺を見たニナは『ふんっ』と、いつもの様にそっぽを向いた。少しだけ顔を赤くしているのを見るに、サンクイラとのやり取りを聞かれて照れている様子だ。
「⋯何笑ってんのよ、全く」
表情を隠しながら、ニナは呆れ気味に呟いた。
まぁ彼女の性格上、親しくない相手に『素』を見られたのは、恥ずかしかったのだろう。
興味が無い風を装いつつ、視線だけは此方に向けているニナ。
何を思って俺がニヤけたのか気になっている感じだなコリャ。
⋯初めて会話した時は『近寄りにくいなー』的な印象だったが、自分が他人からどう見えているのかを気にしている辺り、案外普通の人間っぽいな。
「ニナちゃん入るわよ~⋯って、あっ」
「⋯⋯おっす」
ニナに対して母性的な視線を送っていると、勢いよく開いた扉からサンクイラが現れた。⋯が、俺とニナがサンクイラへ顔を向けたと同時に、この車両内の時が停止する事となった。
「⋯⋯ホラ、とかしてあげるからこっち来なよ」
「う、うん⋯⋯」
⋯いや、まぁ⋯⋯ね?
多分、サンクイラはさっきまで寝ていたんだろう⋯な。彼女も、まさか俺が居ると想定していなかっただろうし、仕方無いと思う。⋯⋯その、凄い寝癖のまま登場した事は。
「あ、あははー⋯私、ひどいんだよねー寝癖⋯」
笑いなさいよ、というニナの視線に応じ、変な笑顔を作る俺。
流石に作り笑いだとバレた様で、証拠としてサンクイラの耳がどんどん赤くなっていくのが見えた。
(あー気まずー、超気まずー)
恐らく、俺を含めたこの場の全員が思っている事だろう。
物凄く居ずらいので自分の車両へ戻りたいが、ここでそんな事したら、あからさま過ぎて傷付けてしまうかもしれない。
打開策⋯打開策はないか。
適当に話題を振るか?⋯いやいや、サンクイラは優しい子だ。『気を使わせた』と考えてしまうだろう。⋯何か、この場の人間以外のアクションがあれば助かるんだが⋯
『ただいまより加速を開始いたします』
「ッ!あ、あー⋯加速するってよー?」
「そ、そうね~⋯アタシ、王都初めてだから楽しみかも~⋯」
「へぇ~私も初めて~⋯⋯⋯」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯。
「はーっ、荷物持ってき過ぎたわ。もう整理が大変で⋯⋯」
静寂を打ち破ったのは、ガラリと開いた貫通扉の音。
腰を手の甲で叩きながら現れた人物は、俺達にとって神々しささえ感じさせていた。
(((救世主⋯⋯っ!!)))
「⋯ん何よアンタ達、そんな目で⋯って、銀槍竜?ここで何してるのよ?」
「あ、あぁ実はニナから頼まれ事があってだな─⋯」
この後、シルビアの質問には取り敢えず食い気味で答え、何とか場の空気を回復させる事に成功。
サンクイラの髪が元通りに整う頃には、気まずさからは完全に開放され、『俺達同じ考えだったね』と、3人で笑い合っているのであった。
まぁ結局、シルビアのお陰で助かったな。
「全く、アンタら子どもじゃないんだから⋯」
「なにを!シルビアさんは短髪だからそんな事言えるんです!恥ずかしいんですよ?!他人に寝癖を見られるのって!」
「アタシだって寝癖ぐらい付くわいっ!」
やいのやいのと頬を膨らませるサンクイラと、負けじと言い返すシルビア。他人扱いな事に俺がショックを受けていると、ニナが笑いを堪えているのが目に止まった。
まぁ寝癖のまま登場したって事は、ニナには見られてもよかったって事だし、2人の仲の良さは十分に分かった。⋯うん、分かったからソコ、笑い堪えるのやめろ。ニナこらお前。
「ッふ、アンタは他人よ~」
「ぐぬぬ⋯」
「あっ、他人って悪い意味じゃなくて!⋯えっと、コレから友達に!ね?」
はぁー聖女、聖女だよこの娘。
もうね、好きだね。
「雄なのにメソメソしてんじゃないわよ、銀槍竜」
「そうよそうよ、魔物でしょアンタ?魔物の友達作りなよ」
くぅ~!2人とも好き勝手言いやがって!
ニナに関しては、魔物に対してひどい差別だ!友情に種族もなにもあるかってんだ、もう!
それもこれも俺の見た目がグレイドラゴンだからか??
やっぱ擬人化能力、真面目に考えとくべきか⋯⋯
「お、もう準備できたんだ?」
降車の為に出入口のある車両へ向かっていた俺達は、シュレンがいる車両の扉を開いた。まだ本や衣類等が置いてあり、どうやら片付けは終わっていない様子。
やれやれと俺が手を貸すと、後ろを歩いていたシルビア達も呆れ気味に手伝いを始めた。
「みんなごめーん⋯」
「いいから、手を動かしてシュレン」
サンクイラの軽い説教を受け、ペコリと頭を下げるシュレン。
まるで兄妹の様なやり取りに、後ろの俺とシルビア達は微笑んだ。
あっという間に片付き、俺は最後の本をシュレンにパスする。
受け取った本をトランクケースにしまったのを確認し、俺は出入口がある車両への貫通扉に手を掛けた。
「よォ銀槍竜。⋯⋯ハハァ、モテてんなァ?」
「何言ってんだお前⋯⋯」
なんで、寄りによって出入口があるのがソールの車両なんだ。
扉開けて早々、そのジョークは反応に困るぜ。⋯まぁ『モテてる』ってのは、ちょっと嬉しい表現だがな。⋯へへっ。
「⋯ちょっとソールアンタ、最後に風呂入ったのはいつよ?」
「あン?この列車に乗る2日前だが、それがなんだよ」
俺が内心テンションを上げていると、数歩分遅れて入ってきたシルビアが鼻を片手で覆いながら、顔を顰めた。その後ろのニナとサンクイラ、シュレンもヤな顔をしているのを見ると⋯⋯どうやら臭っているらしい。
集中すれば俺も分かるが、何せずっと野宿だったしなぁ。
ギフェルタを立ってからは、毎日は身体を洗えなかった生活だったし、普通に呼吸しているだけでは感じ取れないが⋯⋯
「全く、ホント不衛生なんだから。⋯銀槍竜?水出すから、アレお願いね」
「あいよ」
シルビアの言うアレとは、お風呂の事。
作り方としては、先の説明の通りだ。
俺が金属で湯船を生成し、そこにシルビアが水を入れる。
焚き火は出来ないので、熱した金属の板を底に沈めて適温に⋯ってな。
「銀槍竜、お前火ィ吹けるんだな?」
「まぁ吹ける様になったのは最近だけどな」
大体、2週間くらい前か?
ベルトンに到着する数日前に、取り敢えずは自由に出せる様になった。ただ未だに不安定だし、本当は使いたくなくはなかったんだよなー、もう。
火が吹けるようになったからって、調子に乗って口笛感覚で出したりするんじゃなかったぜ。なんか遠くに気球っぽいの飛んでるなーとは常に思っていたが、まさか監視されていたとは。
それで冒険者達に火が吹ける事がバレて、シルビアに『お風呂作りたい』って言われたんだから。
断れねーじゃん、そんなの。
「ケッ、風呂だなんて。多少の臭いくれェで⋯⋯」
「格好がつかないでしょう?前にした話を忘れたの?私たちゼクスは」
「だぁッ!もう、るッせえなァ!」
ビクン!と俺の尻尾が反応したのには⋯⋯誰も気づいてないなヨシ。もーいきなり怒鳴るから、ビックリしたわ。尻尾って素直だがらリアクションに気付かれやすいんだよなぁホント。
「ったくよォ⋯⋯」
「そうそう。王都に着いたらどうせ出迎えられるんでしょうから、ちゃんと身体を綺麗に⋯⋯⋯って、ちょっと」
「あ"?今度はなんだ?」
シルビアの度重なる『釘さし』に、ついに殺気を放って返答をするソール。⋯だが、今回はお前が悪い。100パーセント悪い。
「な、な、なな⋯⋯ッ!」
「いやッ⋯/////」
「あちゃあ⋯⋯」
うむ⋯反応は様々だが、誰もツッコこまないか。
ならば、俺が言おう。
「なんでお前、ここで全裸になった?」
おう、答えてみろソール。
『はぁ??』じゃなくてよぉ。天然なんですじゃあ済まされんよ、コレは。
「風呂入れッてんだろ?」
「そうだ」
「風呂入るんだったら服は脱ぐよなァ?」
「その通りだ」
「じゃあ、問題はねェよなァ?」
うん、バッチリだね!⋯とはならんよ?
仲間といえ、女の子達の前でフル○ンは不味いだろうソール。お前が馬鹿なのはある程度認知していたが、そこまでとは思っても見なかったぞ。
「もう、アタシ知らないわ。ニナ、サンクイラ?先頭まで行きましょうか。向こうにも出入口はあるから」
「「えぇ」」
「あっ、僕も行きます~⋯」
状況を理解していないソールを放置し、シルビア達はさっさと先頭へ向かった。バチコンと扉が閉じらる音が響くが、ソールはそれを意に介さず湯船に浸かった。
「おォ、ケツがあちィ」
「⋯お前さあ⋯⋯」
もう、掛けてやる言葉が見つからねぇ。
俺も先頭車両に行こ。
「⋯ところでお前、王都は初めてだよなァ?」
「⋯そうだが?」
俺が扉まで歩きはじめると、途中でソールが声を掛けてきた。
1人が寂しい⋯というタイプではないだろう。ここを出る前に、1つくらいは受け答えしてやるか。
「まァ、魔導列車に乗るのも初めて⋯ッて事になるよなァ⋯」
「そうだな。⋯ちゃんと身体洗えよ?それじゃ⋯」
「どうせなら、車掌室から王都を眺めるのをオススメするぜ」
「⋯?」
どういう意味だと尋ねようかとも思ったが、このままこの変人の話に付き合わされるのも嫌だな。⋯しかし、言葉のニュアンスが気になるのも事実⋯⋯
(ンまぁ、それは実際にこの目で確認すればいい話か⋯)
どうせ、そのままの意味ではないのだろう。
何かしらの意外な要素が見れるかもだし、試してみるかね⋯
「ハハァ⋯⋯悪くねェ湯だなァ──⋯⋯」
NOW LOADING⋯
「「「オススメ??」」」
「なんか、ソールが言ってた」
「なに信じてんのよ銀槍竜、あんな変態の言う事なんて無視でいいの!」
「シルビアの言う通りよ、あんな変態の言う事なんて無視でいいわ」
「そう、ニナちゃんの言う通り!あんなへんた⋯⋯変⋯な人の言う事なんて無視でいい!」
大事な事なのか3回も言われたぜ。
あとサンクイラは人の良さが全開だな。言う時は言ってもいいんだぞ。
「何があったんだ、お前達?」
「ハクアさん、知らなくてもいい事はあるんです⋯」
「なんだシュレン、知っているのなら勿体ぶるな」
事情を知らぬハクアが興味を示すが、彼が女性陣へ歩み寄る前にシュレンが道を塞いだ。ナイス判断だ、シュレン。下手にハクアが追求したら、彼女らに〆られかねん。
「アイツかそう言っていたのか?俺も、仕事で何回か来た事ははあるが⋯⋯」
と、そこまで発したヴィルジールの口がピタリと止まった。
何かを思い出したように天井を見上げ、俺を真っ直ぐと見る。首を傾げてみせると、ヴィルジールはニヤりと笑った。
「ソール⋯アイツは確かに変人だが、嘘は付かない奴だ」
「「「「??」」」」
何を言うかと構えていると、ヴィルジールは真面目なトーンで話を始める。その様子に、俺を含め全員がヴィルジールに集中した。
「この中に、王都へ行った事がある奴はいるか?」
ヴィルジールの質問に対し、ニナとハクアが挙手。
その他は、と見渡すヴィルジールだったが、シルビア達な無反応で顔を見合わせている。それを見ていたヴィルジールは、再びニヤりと笑った。
「ニナ、ハクア」
「「??」」
「『魔導列車で』王都に行った事は?」
2人は互いに顔を見合わせ、その後ヴィルジールへ向かって首を横に振る。ヴィルジールは手を叩くと、最先頭の車両⋯⋯車掌室への扉を開いた。
「おや、どうも皆さん。⋯何か御用でも?」
「おう。王都まで残り僅かだ、折角なら特等席でと思ってな」
「おやおや、それは素敵な。どうぞ此方へ⋯」
車掌の言い回しと歓迎という対応に、俺と冒険者達の警戒はある程度解けま。まぁ⋯ソールは変人だが、ヴィルジールは常識あるヤツだし、ましてやプロである車掌さんの言う事だ。
まさか悪い出来事は起きたりしないだろう。
まさか悪い出来事は起きたりしないだろう。
⋯とはいえ、かなりの速度で走行しているな。
加速するとは言っていたが、魔力の消耗が激しそうだ⋯⋯ってアレ?そういえば⋯
「ヴィルジール、魔力の供給はいいのか?」
「ん?あぁ、残りの距離は魔力石で十分だ。⋯それに、俺はもう魔力抜かれたくねえ⋯」
うお、急にゲッソリしやがってコイツ。
結構消耗するんだな⋯って当たり前か、この列車全部を1人で動かしてたんだから。⋯そう思うと、何故立っていられるのかを考えた方が⋯いいのか?
「皆さん。あちらがこの国の中心であり、全てが手に入ると言われている場所⋯⋯【王都・クローネ】です!」
車掌は立ち上がり、胸張り高らかな声で列車の向かう先を手で指した。突然のアクションと、俺が思考に耽っていたというのがあり、尻尾が真上にトンがった⋯のは内緒だ。
「わぁ⋯大っきいですね!!」
「アタシも噂には聞いていたけど、ここまでとはね⋯!!」
子どもの様にはしゃぐシュレンと、想定を上回る大きさに驚くシルビア。他のメンバーも様々なリアクションを見せている後ろで、俺は尻尾を収める事に何とか成功した。
ようやく見れるなと窓へ目をやれば、前のめりで食い付いているシュレン達によって景色が遮られている。
「ちょっと、俺にも見せてくれよ⋯」
⋯などと言ってはみるが、聞く耳を持っている奴はいない。
くそう、コイツら身長高いなオイ。⋯いや俺の背が低いのもあるが、首を伸ばしても見えないぞ⋯
「ハハ、何だ見てぇのか?」
「あぁ⋯ちょっと、場所変わってくれよヴィルジール」
「いいや、もっといい方法があるぜ⋯」
「?」
なにか思い付いたヴィルジールにされるがままでいると、俺は両脇を抱えられ、いつの間にか野郎の胸に背を預けていた。
いつもなら盛大にツッコむ所だが、この瞬間だけは違った。
何故なら、眼前に広がるその光景に、俺は意識の全てを持っていかれていたからだ。
「人口、約2万人。広さは⋯そうだな、ベルトンの3から4倍ってトコだな」
「すっげぇ⋯」
ヴィルジールの解説をほぼ聞き流し、俺は1人呟く。
現在、列車は傾らかな丘をゆっくりと下っており、王都より高い位置にいた。その為、窓から石壁に囲まれた王都の内部までが見え、その広大さがハッキリと目視できているが⋯
「⋯リアクションが追い付かねえ」
「⋯ま、初めて来るヤツはそうだろうな」
呆気に取られている俺に対して、ヴィルジールは気分良さげに笑う。来た事があると言っていたニナとハクアも、王都の全体図を目の当たりにするのは初めてだったらしく、その目を見開いて王都を眺めていた。
丘を列車が下り切り、王都内が見えなくなると、今度は王都を護る石壁へと俺達の注目が集まった。近付くにつれて壁の巨大さが判明したが、コレがかなりの物。高さは間違いなく50メートル以上は下らないだろう。
材質も、見ているだけなので詳細は分からないが、恐らくとんでもなく強固な物質だ。普通の人間が、目の前に鉄塊を出されたら、『硬い』と触らずとも分かる感覚⋯⋯と、表現するのが分かりやすいか。
「⋯さてお前ら?ここまで来たら、残りは僅かだ」
⋯ふと、ヴィルジールの話し方に違和感を覚えた俺は、表情を確認しようと首を回した。ヴィルジールはニヤニヤしながら俺を降ろすと、徐に後ろの扉へと歩き出した。
どうやら他の冒険者達も気になっている様で、ヴィルジールへと向きを変えている。
「ちょっとどうしたんですか?変ですよヴィルジールさん⋯」
「⋯そうか?」
先程からのヴィルジールの奇妙な動作について、シュレンが疑問をぶつけたが、なんの事やらと鼻歌をして誤魔化す。
「ヴィルジール貴様⋯何か企んでいるな?」
「いやぁ?どうだろうなぁ?」
あ!コイツ悪い事考えてる!
と、この場の全員が察した所で事件は起こった。
「ああーっ!?」
「「「ッ!?」」」
突然の甲高い悲鳴に全員が向きを変えると、サンクイラが小刻みに震えた指で『ある場所』を差していた。⋯まぁ彼女が差す先を目で追う必要も無く、俺達は窓へ飛び付いていたが。
「あ、あの⋯これってもしかして⋯⋯」
「ちょ、ちょっとちょっと⋯⋯どう言う事なのよ⋯?」
石壁に、
王都への入口が、
⋯⋯無い。
「⋯冗談だよな、ヴィルジール⋯?」
俺が冷や汗ダラダラになりながら質問すると、ヴィルジールは静かに、にこやかに言った。
「お前ら、死ぬ時は一緒だぜ☆」
「「「「あぁあぁあ──ッッッ!??!!?」」」」
眩しいウィンクをかますヴィルジールだか、そんなのを見ている奴などが居るハズがない。この速度の列車があんな壁に激突すればかすり傷ではすまないだろうと、俺達は脱出の為に素早く扉へと向かった。
しかし、いち早く扉へ手を伸ばしたニナの肩をヴィルジールは優しく抑えると、そのままゆっくりと押し戻した。
「さぁ!王都クローネ、ついに到着ですよ!」
この期に及んで退避をさせないヴィルジールと、より高らかに手を掲げる車掌に対し『こいつ正気か?』と全員が思った所で、ガラリと扉が開いた。
「おォ?い~いタイミングに来れたぜェ~」
「よぉソール、遅かったなあ」
力強い握手からの互いに肩をぶつけて笑っている2人を見て、即座にコイツらがグルだと判明。こんな所で死ぬ気などないと、シルビア達が本気で武器に手を掛けた、その時だった。
「ぶつかるぞォッ!!」
ソールがデカい声で叫んだ事によって、俺達は反射的に硬直。
ハッとした次の瞬間に急いで振り向くが、時すでに遅し。列車の目の前は、迫り来る石壁によって真っ暗になっていた。
「ジーールッッ!!アンタ、呪ってやるからねーッ!?」
「うわぁぁーっ!?死ぬぅう!!」
⋯⋯ぁ終わった。
今からじゃ、金属で防御するにも時間が──⋯
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剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
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Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
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シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
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※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。
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