猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

文字の大きさ
上 下
31 / 111
1章【錬金術の街編】

第30話・元凶。

しおりを挟む




「これで終わりよ」

「ぐ⋯ッ⋯⋯」


『彼』は地に伏せながら、『彼女』を見上げていた。
その瞳に映るのは、憎悪と憤怒。溶岩の様に煮え滾る怒りは、彼の瞳を醜く濁らせていた。


「終わりか⋯⋯これで⋯⋯」

「そう、終わり」


彼女は、腕を組みながら彼を見下ろしていた。
その真紅の瞳に映るのは、絶対的な自信と力。極光の様に靡く白い髪は、彼女の美しさをより引き立たせている。


「最後に1つだけ、聞かせろ⋯⋯」


彼は弱々しく立ち上がり、彼女に近付いた。
最早、全ての力を失った彼に対し、彼女も臆すること無く歩み寄る。

第三者から見れば、抱き合うのかと思ってしまう様な勢いで両者はぶつかった。正確には、バランスを崩した彼が、彼女の胸に倒れ込んだ、というのが正解だが。


「それで、何が聞きたいの?」


彼女は、自分の身体から滑り落ちそうになった彼を受け止めた。そして最後に慈悲として、彼の質問に答える意志を見せる。

彼は、ゆっくりと彼女を見上げた。










 







「終わるのは、どちらの方だ?」

「⋯⋯な」


言い終わると同時に、彼は彼女の腕を掴んだ。
その行動に彼女は驚愕したが、それは彼がこの期に及んで抵抗を試みる阿呆だったからではない。

寧ろ、このタイミングだった。
彼女が勝利を確信し、接近を許してしまったこのタイミングを狙っていたのだ。


「終わりだ、■■■」


⋯⋯⋯⋯──────────ッッ!!











「⋯⋯!?」


私は飛び起きた。
どうやら嫌な夢を見ていたようだ。頬を一筋の汗が伝っていくのを感じると、余程うなされていたのか。


「⋯⋯いい加減、あのコに真実を伝えるべきなのかな」


空に浮かぶ満月を眺めながら、溜息を零す。
あのコが強くなるのは、結果として希望にも絶望にもなりうる。

私は弱い。
そして日に日に強くなるあのコに、心のどこかで怯えている。

⋯⋯なんとしても、なんとしてでも──⋯


















「さぁ!今日もベルトンに向けて歩くぞ!」

「クエーッ!」


⋯──コチラ側に来てもらなくては。
 


NOW  LOADING⋯




「⋯⋯今のが、ギルドが出した結論だ」


ガバン・ビンゴールは、音を殺した様な声で言った。
一言、一言を躊躇する様に放ったのは、目の前にいる冒険者達の暴動を予知したからだ。


「巫山戯んなよテメェッ!」

「前回は妥協したが⋯⋯今回はそうはいかんぞ⋯!」


まずはソールが怒号を上げ、続いてハクアが。
しかし、冷静で沈着なハクアの言葉にすら、その声には多大な怒りが籠っていた。

彼らだけでは無い。
この場にいるゼクス全員が全く同じ怒りを覚えている。唯一、冷静を保っているのはヴィルジールただ1人。普段大人しいシルビアですら、その眉間にシワが出来るほどに怒りを露わにしていた。


「ちょっと⋯!どういう事か説明はあるんでしょうね!」


1歩前に出たシルビアを、ヴィルジールは止めない。
今回ガバンから話された内容は、ゼクス達にとってあまりに理不尽だった。

それは、ヴィルジールが他ゼクスの暴走を止めようとは思わない程に、酷く理不尽な内容。


~数分前~


緊急招集としてガバンの自室へと呼び出されたのは、ゼクスの7人。随分と緊迫とした招集内容に、全員が此処に飛んできた。

ガバンは全員が集合したのを確認すると、


「皆、落ち着いて聞い欲しい」


と、一言添えてから、話を始めた。


それはこの前の合同訓練の後、自室に戻ったガバンが気付いた事。
例の、魔物の軍勢総数の増加についての内容だった。

あの日から3日後、ようやく大規模魔力感知の発動が可能になり、即刻魔軍に向けて放たれた。

結果、魔物の総数は1200体から約3000体にまで増加。
ガバンの“想定通りに想定外の事態”になった。だが、問題はその後。

事態を把握したギルド側だったが、投入する戦力は現状維持だと判断したのだ。ここ最近になってようやく連携らしい動きが完成してきた、という段階でのこの一件。

ガバン予想通り、この話を聞いたゼクス達は暴走しだしたのだった。そして、話は冒頭に戻る。


「参加する冒険者達の数に対し、あまりに負担が多すぎます!」


ついにはサンクイラさえ、ガバンに詰め寄った。
ゼクス達に囲まれたガバンは、返す言葉もないのか黙り込んでいたが、しばらくすると、意を決した様にある事を打ち明けた。

それは、極秘に強力な増援が来るとのこと。
そしてその増援は現在、ここベルトンに向かっているとか。増援の詳細は頑なに話そうとしなかったが、強力な戦力になるのは間違いないと言う。

何故、極秘なのか?何故、増援の詳細を教えられないのか?

ハクアが問い詰めるが、こればかりは増援到着後に詳しく話がしたいとガバンは粘った。ガバンの言い様からして、かなりの腕利きの増援らしい。

ハクアは最後までネチネチと言っていたが、最終的には全員が納得する結果となった。ゼクス達にとって1番意外だったのは、早い段階でソールが納得した事だ。

破天荒なソールが納得した理由は1つ。
ギルドマスターという者が、そこまで言うヤツらはどれ程実力を持っているのか、是非試してみたい⋯⋯という、あっ(察し)な感じだった。
 
もっとも、その事に気付いているのは、彼と付き合いの長いヴィルジールとシルビア辺りだけだが。


「今回、何故にギルド本部がこのような判断をしたかについてだが⋯⋯」


どうにか収まったゼクス達に、ガバンは険しい表情で言った。
ゼクス達の暴走は収まったものの、未だにギルドの対応に関しての補足をしていない。ここで完全に納得させなければ、再び再燃するかもしれないと、ガバンは危惧していた。

そしてそれ以上に、この話題には触れたくない。
それ故、ガバンは数秒間を置いてから、顔を曇らせつつ厳かな声で発した。


「──魔王」


この単語を聞いただけで、全てのゼクスは察した。
ここまでギルドの対応が不足していた意味、そしてこの後にガバンが放つであろう言葉を。


「⋯⋯奴の動きが近年活発化しているのは、君達でも知っているだろう。もはや、例の白龍でもいつまで抑えていられるのか分からないのが現状だ。

このため、現在ギルド本部は徹底して人員の確保を優先している。⋯⋯分かってくれ、全ては人類存続の為の準備なのだ」

「「「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」」」


ガバンの話をゼクス達は静かに聞いていたが、彼らもガバン同様に表情は険しく変化している。初めにガバンが顔を曇らせたのはが原因だった。

納得してしまうのだ。
この話を聞かせれば、どんな冒険者が相手だろうと黙らせられてしまう。ガバンは、魔王の話題を出すのを嫌っていた。

ゼクス達の言い分は正しい。
1000という魔物の数に対して、対応する冒険者は70と少し。当初の段階で戦力差が問題視されていたが、現在の魔物の総数は3000。

この現状を踏まえて尚、ギルドは人員を増やしはしなかった。⋯⋯こんな理不尽にも関わらず、魔王という話題を出せば納得させてしまう。

ガバンは、魔王を嫌っていた。


「⋯⋯だったらよォ、今回の魔物の増加についても魔王の野郎が関係してるんじゃねぇのかよ?」

「そこだ。⋯⋯そこが全ての謎なのだ」


ソールの質問に対して、ガバンは食い気味に答えた。
ここまでの異常事態、魔王程の者が介入していなければ起きうるはずが無い。だが、それはありえないという事実が確定している以上、事態の発端を特定する事は難しかった。


「それに、前にも説明した話ただろう?増加した魔物の内訳について⋯⋯」


初の合同会議の際、ゼクス達がギルド側の情報不足を指摘した時の事。あまりのギルドの対応の雑さに、事情を聞いたハクアに対して、にガバンが行った説明。

『それは、観測された軍勢が、現存する魔物ではなかったのが原因だ。全てが新種の魔物で、ギルドとしても判別に至らなかったのだ』

これを聞いた大半は呆れていたが、魔物の総数が3000体に増加して尚、増加した全ての魔物が、ギルドの誰も見たことの無い魔物達だった。

信憑性が格段に高まる話に、ゼクス達は頭を抱えた。
そんな事がありえるのか。この数の新種が、このタイミングで、ここまで厄介になってくるとは。


「俺達にも限界がある。⋯⋯ツエン達全員を生かして帰せる保証は無い」


ガバンの話に納得はした。
⋯が、それでも異常過ぎる事態にゼスク達は動揺していた。


「だが⋯⋯」


先の読めない展開に悩むゼクス達に、ガバンは険しい表情を解いて口を開く。この異常事態に冷や汗を流しながらも、口元を緩ませてガバンは言った。


「それを覆せる程には、増援は心強いぞ」


ニヤリと笑うガバンは、ある事を思い浮かべていた。
それは、とある魔物について、ごく最近入ってきた情報による余裕からくる笑みだった。

彼のテュラングルとの最終接触後、ギフェルタを去ったアイツは、大幅に力を増していた。

⋯⋯にわかには信じがたいが、ヤツが放った攻撃で山に風穴が空いたとか⋯⋯


(これは言えんわい。⋯⋯私の言う増援が、たった一匹の魔物などとは)


⋯⋯だが、目の当たりにすれば、ゼクス達と言えど信じるしか無いだろう。あの銀槍竜の実力を、目の当たりにすればな──⋯⋯

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【毎日更新】元魔王様の2度目の人生

ゆーとちん
ファンタジー
 人族によって滅亡を辿る運命だった魔族を神々からの指名として救った魔王ジークルード・フィーデン。 しかし神々に与えられた恩恵が強力過ぎて神に近しい存在にまでなってしまった。  膨大に膨れ上がる魔力は自分が救った魔族まで傷付けてしまう恐れがあった。 なので魔王は魔力が漏れない様に自身が張った結界の中で一人過ごす事になったのだが、暇潰しに色々やっても尽きる気配の無い寿命を前にすると焼け石に水であった。  暇に耐えられなくなった魔王はその魔王生を終わらせるべく自分を殺そうと召喚魔法によって神を下界に召喚する。 神に自分を殺してくれと魔王は頼んだが条件を出された。  それは神域に至った魔王に神になるか人族として転生するかを選べと言うものだった。 神域に至る程の魂を完全に浄化するのは難しいので、そのまま神になるか人族として大きく力を減らした状態で転生するかしか選択肢が無いらしい。  魔王はもう退屈はうんざりだと言う事で神になって下界の管理をするだけになるのは嫌なので人族を選択した。 そして転生した魔王が今度は人族として2度目の人生を送っていく。  魔王時代に知り合った者達や転生してから出会った者達と共に、元魔王様がセカンドライフを送っていくストーリーです! 元魔王が人族として自由気ままに過ごしていく感じで書いていければと思ってます!  カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております!

処理中です...