猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【巨人の湖編】

第7話・内なる感情

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──────⋯⋯⋯






















──⋯あれから数日がたった。
多分、5日くらいだろう。暫くの間、真面な食事や鍛錬もしていない。ずっと家の中で震えている。たまの食事で湖に行く時、水面に映った自分の姿が化け物にしか見えず飛び退いたり、思わず攻撃してしまったりするのが日常になってしまった。

あの時のガムナマール達を切り刻んだ感覚が未だに手に残っている。
しかも不快感がない。それが1番の不快感だった。普通なら恐怖を覚え、二度と戦いなどしたくないと思うのだが、あれから妙に身体が疼く。

『戦え』『殺せ』『握り潰せ』⋯戦いと殺戮を本能が求める様になった。
俺が初めて戦闘を行った時、強烈に込み上げてきたあの感情の比では無かった。もっと強く、もっと激しくと頭の中の自分が身体に語り掛けてくる。

理性では抑えようとしてるが、ほんの僅か抵抗にすらならない。
1度その感情が沸き起こり、その中で獲物の血肉を視界に捉えると、一瞬でそれに飲まれる。




俺は変わったのか?それとも魔物として『当たり前』なのか?
⋯いや、何方にせよ俺はもう、戦いたくない。自分に怯えたくない。

冷静に考えてみたら、この世界の事なんかどうでもいい。
元々可能性は薄そうだったし、仮に俺が強大な力を手に入れたとしても神が言っていた世界1つを脅かすような『脅威』への勝率が高いとは言い切れない。


⋯⋯あぁ、駄目だ。
考えるのが怠い。もう何も考えたくない。どうでもいい何もかも。








──ググ~⋯⋯ッ⋯


「⋯⋯⋯腹、減ったな。」


こんな時でも腹は減るし、食事をしている時はいくらか気分も落ち着く。
ただ、あの時以来、俺は色々な魚や植物やムングレーなどを生でそのまま喰らうようになった。味気なさはあったが食べられない事もない。調理をするような気力もない。湖には自分で潜って獲物を見つけたら突進して食らいつく。

ムングレーもそうだ。
曲がりなりにも俺は竜。顎の力は強かった。ムングレーの堅い身体は刀でこそ切断出来ないが、強引に上下から圧迫すれば意外と簡単に砕けた。

植物に関しては、木の実をよく食べている。
あの少女がここまで考えていたのかは分からないが、この辺りはよく果実が生っている。今が旬なのか、大きく色も鮮やかな物が多く見受けられる。




⋯今日は果物にしよう。
少し多めに採って置いて、裏の冷たい湧き水にさらしておけば傷む事はないだろう。



数分後、4、5個果物を採ってきた俺はその中の1つを手に取った。
その他はさっきの通りだ。明日は少しだけ陽の光を浴びようと思うので、家から少し離れた所で冷えた果実を食べる事にする。気晴らしと言うよりは、健康を気遣ってだが。戦いたくは無いが体調を崩した時に襲われては抵抗すら出来ないからな。


俺は手に取った果物に齧り付いた。
口の中に甘い果汁が溢れる。この世界に来てからは基本的に塩分や薄味の物を食べてきたが、こういった甘味などの1つの味が強いものを食べると、心が潤う。

これは恐らく林檎に近いものだろう。
見た目も赤く丸い形をしている。ただ、前世のものと比べると少し小さい。その分、非常に甘く、実の中に大量の果汁を含んでいる。運動した後に食べると水分補給にもなる優れものだ。⋯⋯今となっては食べるだけだが。



食べ終わってから、俺は手を洗い寝る事にした。
もう1つ食べようかと悩んだが、できる限り外出したくないので保存出来る食べ物はある程度確保して起きたかったのでやめる事にした。


ゆっくりと床に伏して目を閉じる。
呼吸を落ち着かせてゆき、やがてやってくる睡魔に身を委ねる。⋯最近は夢を見ない。精神的に疲れているのだろう。稀に見たとしても基本、悪い夢だ。あの日の記憶が鮮明に脳裏に蘇る。


暫くして、睡魔がやってきた。
変に意識を保とうとすると、方向感覚がおかしくなるアレだ。


段々と思考や意識も遠退いていく。


瞼を開けようとしても重くて上がらない。




一段と瞼の裏で見ている景色が暗くなる。





身体の力が抜けてガクッとなる。普段はそれで起きてしまうが今日は違う。








僅かな呼吸音も聞こえない程、静かに、俺は眠りについた──⋯





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「⋯⋯⋯⋯⋯。」



俺、起床。

今日は正午より遅く起きた。
太陽の位置である程度の時間は分かるが、まさかここまで遅起きになるとは。フン、会社員時代に毎朝早起きして近くの公園でランニングしてたのが懐かしくなるな。


身体を起こして伸びをする。
傍から見れば猫が伸びをする時の格好に似ているな。ただ、鉤爪が床に当たっているせいで少し木が削れてしまった事は気分を害した。

まぁ元から良い気分だったとは言えないが。

俺は首を回しながら家を出た。
壊れた扉は雑だが一応直して設置した。前より雑音が大きくなった。

家の裏手に回りこみ、冷やして置いた果物を2つ手に取る。
しっかり冷えている。竹の水筒を応用して作った入れ物に入れる。これは、少し作るのに手間取った。何しろ精密な作業が必要になるからな。

まずは水筒の湯呑み口を空ける手前まで作る。
で、竹で作った水筒の腹の辺りに細長い穴を開ける。勿論、筋に沿った形だ。そして、その時に取れた長方形の素材の片端に2つ穴を空ける。

物を入れる本体の方も同様に長方形の穴の横に小さい穴を2つ作る。
この時、外れた素材と本体の穴が寄るように空ける。つまり、外れた方は穴を右に空けるとしたら、本体は長方形の穴の右側に穴を空けるという事だ。

後は適当な植物のツルを穴に通して結べば、それが蝶番の様になって開け閉めができる様になる。外れた素材は入れ物の『蓋』になる訳だ。

蓋が内側に入らないように開け口に引っ掛けを作って、ついでに開けやすいようにツマミを作れば完成だ。更に、入れ物の両端に穴を開けてまたツルを通せば首から下げられて持ち運びが楽になる、という小細工も加えておいた。


水筒と、果物が入った入れ物、念の為に黒刀を携えて俺は近くの山へ出発した。⋯俺が目指すあの山は標高300mとかそこらの大きさで、木々は生えておらず草原の一部が盛り上がった、という感じの変わった山だった。

ゆったりとした斜面で、日当たりも良い。
絶好の足伸ばしスポットだった。山頂が平らなので、恐らく火口か、火口だった場所だろう。植物が生えているのをみると、恐らく後者である可能性が高い。




正直、乗り気ではなかったが健康の為となっては仕方無い。
歩みの一つずつが憂鬱になるほど今の俺は凄まじい倦怠感に襲われていたが、逆に巻き返すのも面倒なので取り敢えず歩き続ける。

今の俺の気分の様に長い尻尾が地面まで垂れ、地面に僅かな凹みを創り俺が通った場所に軌跡を描く。

カチャカチャと音をたてながら背中で揺れる刀。

いつもより音が激しい。
何処か破損しているのだろうか、帰ってきたら手入れをしよう。今の俺は兎に角、戦闘を避けている。勿論、戦闘そのものを避けているつもりだが、万一戦闘になった場合でも絶対に『自分』を使わないと決めた。

鉤爪や牙、尻尾などを使用し、直接感触が伝わってくる事が何より嫌だった。ハッキリと覚えている。頭蓋を砕いた時、手に伝わってきた振動。ガムナマールを喰らった時の肉が裂ける感触。尻尾で首を締めた時の相手の藻掻く声と、不思議と力が入り続ける感覚。



ただ、1つだけ『悪く無かった』思い出は、ガムナマール達の味だけだった。強いて言うなら鶏肉の様な感じで、繊維質で固い肉だったが、竜のアギトにかかればどうという事は無い。素直に『美味い』と、そう思った。





⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸






暫く歩き続け、俺は山の中間地点程まで登っていた。
別に酸素が薄い訳でも、傾斜がキツイ訳でもないので特に疲労はしていない。


1度歩みを止め、水筒の水を飲む。


軽く溜息をつき、登って来た道を振り返ってみる。


よく、世界が見えた。
地平線まで続く青空には若干の雲がかかっていた。
風がそよぐと、傾斜に生えた草花が柔らかく揺れる。⋯そして、改めて遠くに僅かに見えるあの湖の大きさに驚いた。陽の光が反射し、キラキラと輝いている。


⋯⋯もし、今の自分の気持ちがこの空の雲の様に微々たるものであれば。その内、風に流される様なものであったら、どれくらい楽だろうか。




そんな頭の悪い詩の様な事を考えながら、それでも幾らばかりか軽くなった気分に任せて再び山を登り始める。

所々、斜面に咲いた花は白い色で前世で言えばユウゲショウの花に似ている。日本で言えば1月は冬だが、此方は春なのだろうか?

ポカポカとした陽気に、青々と茂った木々草々⋯⋯
まぁ少なくとも冬では無いという事は分かるのだが、何せ硬い体皮のこの身体。風や触れた物の質感などは感じるものの、温度の変化には中々気付きづらい。

直接火に触れても温もりを感じる程度。
そう言えば、水中に潜った際も『ヒンヤリする』と思っただけだった。人間が敏感なだけだったのか、それとも魔物だから変化につよいのか。何方にせよ季節を気にしなくてもよい、というのは有難いことだな。


「⋯にしても、なぁ~⋯」


頂上までまだそこそこあるな⋯
大して疲れてる訳じゃないが、空気感といい、持って来た果物でも食べながらのんびりしたいと俺は思っていた。

第一、ここまで来た目的は陽の光を浴びる事であって、山の頂上を目指す事ではない。

⋯あ~、そう思うと一気に脱力感が押し寄せてきたな⋯
もう、ここでいいか。

太陽が雲の影に入って辺りが少し暗くなる。
普段なら何か不吉というか良くない感じがするが、今は逆に視界に入る光の量が減って、休憩するには絶好のコンディションとなっていた。

俺、グレイドラゴンは視力がよく普通の太陽光でもかなりの負荷が目にかかる。竜なので表情があるかは分からないが、光が強い時は眉間にシワが寄っている様な顔なっていると思う。

太陽光から解放された視界で、空を見上げてみる。
雲の隙間からチラチラと光が差し込んでいる。ずっと見ていられる系のあれだ。取り敢えず果物を⋯⋯まだ冷えてるだろうか。






⋯うん、まだ冷たい。
軽く触れて確かめたが美味しく頂けそうだ。まぁ冷たいと言っても先程の通り僅かに感じる程度だが、食べ物に関しては、口に入れれば温度はハッキリと分かる。舌は敏感だからな。⋯触れてみて『大して熱くない』と油断していると舌を火傷したりするのはちょっとした悩みだが。


持って来た荷物を置き、ゴロンと仰向けに寝そべる。
冷えた果物を鉤爪で器用に掴み、口に運ぶ。齧るとシャクッと音をたてて果物の形が削れる。某ソフトウェア開発会社のロゴみたいな形にみえるな。


あー、食べながら思うのもなんだけど、眠くなってきた-⋯
しっかり睡眠は取った筈なんだがな。今寝るのは流石に不味いか⋯何時魔物に襲われるかもわからないし。


⋯⋯でもな~⋯今寝たら凄い気持ちいいだろうな⋯




頭の中で葛藤しているが、大凡の結論は既にでている。
取り敢えず果物を食べ切ってから体勢を横に向ける。草花が自然の絨毯になって温もりを生み出している。

もう、寝る気はマンマンだ。




久しぶりに心落ち着かせて眠れそうなのだ、無理もない。

最近は真面に睡眠が取れていなかったせいで精神的ダメージが蓄積していた。眠れたとしても浅く短く、と言った具合だ。


瞳を閉じると、ドッと強烈な睡魔に襲われた。
風でそよぐ草花の音が、遠くから聴こえる鳥のさえずりが、まるで子守唄の様に深い眠りへと俺を誘ってゆく。

念の為、俺は黒刀を握り締めながら、抗う事さえ困難な睡魔に身を委ねていった──⋯





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「⋯⋯ん~⋯?ギン⋯銀灰りゅう~?呼びづらくねぇ?」

「知るか、上のヤツらが勝手に付けた名だ。⋯それに名前なんぞどうでもいい。殺してしまえばそれまで、だ。」


とある街のギルド。
円卓を囲み厳つい防具に身を包んだ3人の男たちが、酒を片手に話し合いを行っている。

最も、真面目な話し合いというよりは皆、どーでもいいそんな話。

そんな感じだった。


「ひゅ~怖いね~皆さん聞きましたぁ?『殺せば終わり』ですってぇ~w」


男の1人が茶化す様に発言し、酒を飲む。

話し合いの内容はそう。
例の銀灰竜の事だ。その魔物は現在、表向きでは『危険性があるかも知れない』といった風潮だった。あくまで、表向きでは。

冒険者になった人間は基本的に3つの人間に分類される。

その1『才能に恵まれ、スカウトを受けてこの職に就いた者』

その2『過酷な試験を受け合格した者』

そして3『所謂、ボンボン。親の助力を受け試験無しで合格した者』


3に関しては、元々親や先代の人間が優れた活躍をし、ギルドに優遇されている者、若しくは家系のみの場合である。

まぁ簡単にいえば社長令嬢的な感じだ。

1部はエリートである先代の指導を受け、優れた能力を持った物がいるが、殆どの者たちは『取り敢えず』の場合が多い。

冒険者の優性家系である人間が、冒険者以外の職に就くと、世間的な視線が悪くなるのだ。『株価が下がる』という表現が丁度良いか。


先程の『3』に分類される人間は、基本的に名誉・名声にしか興味がない。
先代が優れた人間だったから自分もそうでなくては、というプレッシャーが
常にのしかかっているからだ。

例え、仲間を裏切る、卑劣な手段を取る、無害な魔物を『危険だ』と言って殺してでも他人の期待に応えようとする。

これは、ある意味仕方ない事なのかもしれない。
私たちだって、絶対にした事が無い、とは言いきれない筈だ。


可愛く言ってみよう。

1組の兄弟がいたとしよう。
兄は『好きなアニメが見たい』と言い、弟は『学校で流行っている映画が放送されるから見たい』と言った。どちらも21:00からテレビで放送されるとする。

テレビは1つしか無かった場合、勿論取り合いになる。
その時、兄が『その映画、明日だよ。』と嘘をつき、幼い弟がそれを信じたとしよう。

これ、関係ないように聞こえるが、実は先程の話と全く同じだ。

ただ、スケールが違う。それだけだ。

名誉=見たい番組。嘘=手段。とすればいい。



どんな手を使ってでも高みに行きたい。
彼等からすれば、当たり前なのかも知れない。


厄介なのは『それ以外』。
先代から指導も受けず、実力も無いまま冒険者になった者。何故、厄介なのかと言うと、こういった人種は『カッコつけたがり』『目立ちたがり』が大多数なのだ。

実力を伴って高みを目指しているのなら、百歩譲ってどんな手段を使ってもいい。

ステータスが、攻撃10 防御10 魔力10 体力10の人間がいたとして、装備のお陰で全て100になったとしたら。それは一種の権力乱用である。

勿論、駆け出しの冒険者がそんな装備を持っている筈がなく、先代が遺した物であることには間違いない。

つまり、ズルをしているのである。



話を戻そう。
第一、何故この話をしたかを説明しよう。

先程のヘラヘラした方の奴。こいつはこのズルをしている冒険者である。
そして、無害な魔物を殺しまくって地位名誉を保っている、紛うことなきクズ野郎である。仲間の命を魔物に売って、自分だけ生き残る。なんぞ朝飯前。ボクちゃんの為に死んでくれ精神の持ち主である。

そして、そんなクズ野郎が次に目を付けているのがこの、銀灰竜である。
シナリオはこうだ

『適当な冒険者と共に銀灰竜の所を赴き、仲間を先に戦闘に行わせ、大丈夫そうだったら自分の最強装備でぶちかます』

といったものだ。

冒険者舐め腐ったやり方だか、悪いのはきっとこの人間でないのだろう。
こういった人間を生み出した『環境』が悪いのだ。

⋯⋯いや。これは『そうなってしまった者達』の言い訳か。

それに抗えなかった自分も自分だと認めた無くないのだろう。


まぁ今そんな事はどうでもいい。

職場で上司が『今日、カミさんが唐揚げ作ってるって言ってんだけど、レモンサワーかハイボール⋯どっちがいいかなぁ。お前、どう思う?』って聞かれた時ぐらいどうでもいい。(どっちも買って帰ればいいだろクソっ⋯)



この話の総まとめは『主人公にヤバい危機が迫っている』という事だ。
自分を殺す為なら手段を選ばす、チート級の装備に身を包んでいる様な人間が少なくとも1人以上いる、ということだ。


──ドンッ!!


空っぽになった酒樽を円卓に叩き付けて、男は口を開いた。


「でえぇ?テメーはどう思うんだぁ?オレ様には及ばないが⋯⋯そこそこ強そうだから一応聞いといてやるよ?」

「なんだぁ?装備に頼ってるだけのガキが。よくもまぁそんな上から物を言えるもんだなぁ?」


ピク、と煽られた方の男が眉を動かし、勢いよく立ち上がる。




「あ゛?なんだテメー生意気だな。」

「ケッ!!『生意気』って言葉の意味、知ってるか?お前みたいな雑魚のことを言うんだぜ?」


殺気(笑)を爆発させて睨みつけるボンボン。
それを煽笑を顔に浮かべて返すもう1人のチンピラ。

そして、それをどうでも良さそうにながめる、もう1人の男。
最初に『殺せば終わり』発言をした、1番冷静そうな男。喧嘩してるのはヘラヘラしたやつともう1人の男である。

二人共、ゴツゴツとした装備に身を包んでいるが、唯一この男は軽装備でこの場に来ていた。雰囲気で分かるだろうが、この3人の中で1番強い。


「おい、喧嘩は外でしろ。ここでは目立つぞ。それともお前ら、自分の家系にキズをつけたいのか?」

「「は⋯?」」


一瞬で両方の睨みが此方に向いたが、のん、とした表情で返す。


「⋯⋯⋯チッ。まぁいい。オレ様の足さえ引っ張らなければな。」

「フン、中々痛てぇとこ突くじゃねぇか。ま、俺は名家の産まれだからな、こんな雑魚に付き合ってキズをつけちゃあ申し訳ねぇ。」


最後にお互い睨み合ってから別々の方向に去って行く2人。


軽く溜息を着いてから、酒を一気に飲み干す。
料金を円卓の上に置いて、ギルドを出る。なんというか太陽を久し振りに見た気がする。実際は30分だけしかいなかっだが。

普通の冒険者は戦闘クエストに行く際には数日間の合計で10時間は話し合い、作戦会議を行う。当たり前だ。死んでは元も子もないのだから。

首に左右を曲げ、ボキボキと骨をならす。 
  

「ッア゛──⋯」


にしても、以外だったな。
あの自己中の化身みてぇだった2人が『家柄』を指摘しただけで大人しくなるなんてな。金持ちの思考は分かんねぇなコリャ。


軽いストレッチを終え、適当に街を歩きはじめる。


「⋯⋯⋯銀、灰、竜、ねぇ⋯?」


そう言ってギルドが発行した資料書を取り出し、凝視する。

銀色の身体、滑らかなボディライン、頭部に生えた二本の湾曲した角、
そして、なにより目を引いたのが、碧い瞳。

魔法によって3Dに映し出されたその姿。

対象の記憶を再現し、映し出す高等魔法。因みに一般冒険者が勝手に行うと違法である。『記憶毀損・干渉』やろうと思えば『書き換え』⋯対象の人生を著しく侵害する可能性がある為、国、最上院ギルドで許可を得てから出ないと使用不可。

行えば極刑である。


まぁこの話もどうでもいい。
近所の子供が『蝉の脱げ殻取れたー!見てー!』ってやられた時ぐらい。


間接的にでもわかる。
この魔物は他とは違う。だ。

男は嗤った。
狂気的な笑みは、通りすがりの夫人御一行をドン引きさせ、少年たちを泣かせ、この街から半径5km以内に生息していた全ての魔物たちの警戒心を全開にした。





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「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」


そして等の銀灰竜。


「ピィ!ピィ!」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ッ~⋯!」


謎のモコモコに懐かれていた。
昼寝し、恐らく18:00くらいの時に起床。そして空腹の為、果物を取り出そうとして手を伸ばしたら、モフモフした感触に当たった。

見て、確認したら何かいた。

鳴き声からして恐らく鳥型の魔物なのだろう。
ただ、目の場所も表情もモコモコの羽毛で隠れて見えず、脚も見えない。

此方が移動すればモコモコが着いてくる。
歩いてるのか浮いているのか。取り敢えず鬱陶しい。

払い除けたいが、邪気のない鳴き声と甘え方に毒気を抜かれてしまった。
ぶっちゃけ可愛い。だが、懐かれては不味い。きっと親とはぐれたのだろう。俺を親と思い込まれてしまっては。後々面倒だ。


「ピィ⋯」

「⋯⋯⋯⋯?」


様子がおかしい。
先程から若干イラッとする程喧しかったのだが、急に無口になった。
ただ、果物が入った入れ物を見えない嘴てつついている。

⋯⋯もしや、腹が減っているのか?
  
 


⋯取り敢えず、やってみるか。


「ほら⋯⋯食えよ⋯」


果物を取り出し、手頃な大きさに砕いて一欠片モコモコの前に差し出す。
最初は匂いを嗅いだり、軽くつついたりして観察していたが、食べられる物、と判断したのか勢いよく食べだした。


「ピィ!!」

「⋯なんだ『もっとくれ!』ってか?」


フン、わがままなやつだな。
まぁいい。果物はまだある⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯って。あれ?


おかしいぞ、空っぽだ。
入れ物中に入っているのが今俺が持っているのが最後の一個⋯?いや、まだ入っていた筈だが⋯⋯


チラッと、モコモコに視線をやる。


「まさか⋯⋯こいつ⋯⋯」

「(。=`ω´=)ピィ?」


~~ッ!!

こ・の・や・ろ~⋯!!!!



「⋯ハァ⋯。まぁいい。所詮果物だしな。」

「クェッ」

「お前、1人ボッチか⋯。いや、1羽ボッチ?」


親、見つかるまでは保護してやるか。
⋯⋯⋯別に愛着が湧いたとかじゃねぇからな。

と言うか、人の飯食った挙句まだくれって⋯とんだ大食漢だな。


「チッ、お前のせいで明日から2人分の食事用意しなきゃ行けなくなったよ。全く、いい迷惑だ。」

「ピィィ~」

「着いてこい、夜は危険が沢山だ。」


俺がそう言うと、トコトコと着いてくるモコモコ。
さっきからコイツの名前を頭の中で必死に考えているのは内緒だ。






沈む太陽。

橙色に包まれた世界で、竜と1匹が、並んで山を下って行った──⋯


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