猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【巨人の湖編】

第2話・邂逅、戦闘、食事

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──パラパラパラ─⋯ッ


ゆっくり、慎重に後ろ脚を動かす。
生きている感じがしなかった。もし、自分があの時、少しだけ反応するのが遅れていたら⋯

いや⋯考えたくない。
明確に脳裏を過ぎる『死』のイメージ。想像するだけで手先が震える。
後ろ脚が大地に着くのを確認してから、俺は大きく息を吐いた。


死ぬかと思った⋯⋯本当に、やばかった。
反応が遅れたのには幾つか訳がある。別に言い訳ではないが⋯

1つ、林を出るまで眩しさで視界が確認出来なかった。
2つ、あの時、正直言って『楽しかった』。飛躍的に上がった身体能力を存分に活かせていたし、何より初めての感覚が病みつきになった。
そして3つ⋯


「グルォァァァ⋯」


コイツらから逃げていた。
いつの間にか追い付いていた、謎の生物。
黒い虎の様な体躯に、長い鬣。明らかに異常な大きさの鉤爪。30cmはある様に見える鋭い牙が2本。そして、金色の瞳に黒く細い瞳孔。

まぁ、異世界だし見知らぬ生き物がいる事自体は何ら不思議では無いが⋯
問題は、獰猛そうな見た目の割に『知能が高い』事だ。
獲物を多方向から囲み、敢えて1箇所抜け穴を作っておき逃げ道を誘導する。
そして、特定の場所に誘い込み逃げれなくする。⋯⋯考え過ぎとは思えない。


「「⋯⋯⋯⋯。」」


奴ら、洞察しているのか⋯?なかなか間合いを詰めて来ない。
此方も睨みを利かしてはいるが数では圧倒的に不利、今にも飛び掛って来そうな体勢だ。

(逃げたい、逃げたい、逃げたい⋯ッ!!)

これが俺の本心。
でも⋯⋯⋯戦わねば、死ぬ。

『戦って生き残るか 逃げ出して死ぬか』

この群れの中を突っ切れて、運良く逃げれたとしても、俺はもう体力が残っていない。つまり、追い付かれて抵抗できずに殺される。
第一⋯突っ込んで失敗したら、全方向から囲まれる事になる。真面に太刀打ちはできない。

戦ったとしても、勝てるかどうか⋯
戦いってまず何だ?俺の⋯この鉤爪で、この牙で⋯?

⋯⋯怖い、自分で何かを殺めるなんて⋯俺にできる訳が──⋯

















「『今までの後悔』か⋯」


不意に、あの時に神に言われた言葉が蘇った。
ここは大自然の中、俺はその中に生きる1匹の竜。ただ、人間の感性があるだけだ。ならば、そこに人間性や理性は必要無いのではないか⋯?

生きて、戦い、力を示して何者も近寄れなくする。
弱肉強食、どんな世界にも共通する自然の摂理。


──ダンッッ!!


俺は、前脚を地面に叩き付け、大きく息を吸い込んだ。









「──ッガルオォオォオオオォアアァアァアアアァァァッッ!!!!」

「「「!?!?」」」


空に、大地に、響き渡る咆哮。   
俺は死にたくない。なら、その
俺は戦う。生きる為ではなく、力を示す為でもない。

単純に、死なないために!!


「グオオォァッ!!」


俺の宣戦布告の合図に、一斉に戦闘態勢に入る。
痺れを切らした1匹が、その大きな鉤爪を振りかざして飛び掛って来た。
第一印象としては⋯⋯⋯⋯遅い。

ひらりと交わし、背中を後ろ足でドンッと蹴っ飛ばす。
俺の後ろには崖がある。言うまでもなく、蹴られた衝撃でそいつは頭から落ちていった。悲鳴を上げていたが、次第に小さくなっていき、最終的には聞こえなくなった。あと3体⋯

「よくも仲間を!」といった様子で、こちらを睨み付ける。
学習したのか、飛び掛っては来ない。左右に揺れる様に間合いを窺っている。 
俺は全ての脚に力を込め、姿勢を低くし、真っ直ぐ1匹だけを見つめる。

刹那。後ろ脚の踏み込みで、一気に足元の地面が抉り取られる。
舞い上がる砂煙や石。それらが落ち切る前に俺は正面にいた1匹の首根っこを鷲掴みにする。そして、その勢いを利用し、そいつの背後にあった木に叩き付ける。

鈍い音がして、そいつは一瞬だけ痙攣したが、直後に動かなくなった。


「「────ッッ!?」」


一瞬の出来事に、理解が追い付かなかったのか驚愕した表情を見せる。
それと同時に、先程舞い上がった石や砂利が、ようやく地面に落下する。
ただ、位置が変わったので崖に突き落とされる失敗はないと判断した残りの2匹は、容赦なく飛び掛ってきた。まぁ⋯⋯遅いんだが。

軽いバックステップで、スレスレで1匹目の攻撃を躱す。
もう1匹も間合いの外なので、俺は躱す必要はないと判断し、次の行動の構えを取った。





⋯⋯⋯⋯⋯⋯それが失敗だった。





驚いた事に、未だ空中にいた1匹が、既に着地していた1匹を踏み台にして、
俺の目の前まで肉薄してきた。完全に反射だったが、攻撃を片脚で防ぐ事に辛うじて成功した⋯⋯が、俺の視界には真っ赤なものが映り込んでいた。

激痛、なんて言葉が甘ったるく感じる程の痛みが身体全体を駆け巡る。
ざっくりと、奴の鉤爪が俺の左前脚に食い込んでいる。俺は右前脚の拳を握り締め、そいつの顔面を殴り付けた。口が切れたのか、血液を吐きながら吹っ飛んだが着地は問題なく済ませ、こちらを睨んで唸った。

俺の目の前は真っ暗になった。
心拍数が異常なまで上がる。呼吸し辛い。
しかし、意外な事に激痛より身体の淵から込み上がってくる感情があった。


傷付けられた事への『怒り』。そして、抑え切れない程の『殺意』だ。


地面を鉤爪で抉る様に拳を握り締める。
息が荒くなり、牙を剥き出しにする。尻尾を何度も打ち付け、感情を露にする。歯止めが効かない。今はもう、目の前の敵⋯⋯いや『獲物』を狩る事しか考えられない⋯!!自分の感情に負ける⋯!!今の俺は、化物か!?人間なのか!?



だ⋯⋯⋯!?



「グ⋯ッ⋯ルォオォァァ⋯ッ⋯!!」


感情の収拾を付けようと、額を傷付いた片脚で押さえる。
だが、湧き上がってくる感情が強過ぎる。牙を血が出るまで食いしばる。


こちらが放つ殺気の大きさに、思わず後退る2体。
何だ奴は⋯⋯本当に幼体の竜なのか⋯?答えが欲しい⋯ッ!!


明らかに奴らは焦っていた。
身体も自分達より小さく、数も圧倒していた。何より、まだ子どもだった。
しかし、既に仲間は2体が殺され、深手を負わしても一歩も引かず、逆に闘争心を剥き出しにして臨戦態勢に入るこの竜の子⋯⋯⋯真面な生き物ではない。
普通なら、傷を負った時点で負った方の不利。一目散に逃げ出す筈だ。
なのに⋯なのにコイツは⋯⋯!!


「──ッッグルオォォオォォオオォオォオオオォォアァアァッッッ!!」


(殺す!!)


先程とは比べ物にならない速度で、一気に迫る。
踏み込みの時に激痛が走ったが、そんな事はどうでもいい。今は⋯こいつらの息の根を止める!!俺の痛みを倍にして返してやる⋯!!

勢いの着いた身体を大きくしならせ、グルンと縦に一回転する。
尻尾を勢いに乗せて、1番近くに居た奴の脳天に叩き込む。バキバキと頭蓋が粉砕される音と感触が尻尾から伝わって来る。⋯⋯正直いって心地よい。

顎から、地面にめり込んでゆく。
真面に食らったそいつは「グフッ⋯」と小さく悲鳴を上げてから、死んだ。
更に俺は、勢いを殺さない様、身体を折り曲げ尻尾に力を入れ、弾ける様に空中に飛び出す。

最後の1匹。あいつだけは何としてでも殺す!!
無空間を蹴り、勢いを付ける。⋯だが、相手とて自然界を生き延びてきた者。そう簡単には終わらない。鉤爪を振り上げ、迎撃の構えを取る。


⋯⋯俺がもし、鉤爪を使った攻撃を仕掛けていたのなら、完璧なタイミングで反応していただろう。奴の誤算だったのは俺が『そう』行動すると思考した事だ。⋯⋯違うがな。


「⋯⋯⋯?!」

 
先程まで目の前、自分の間合いにいた竜の子が消えている。
衝撃より困惑の方が先に来ていた。だが、その生き物が次の思考をする前に、事は収束していた。

前触れもなく、急に口から嘔吐する。
吐き出されたのは、血の塊だった。彼は未だに理解が追い付いていなかった。なぜ、自分は血を吐いているのか。さっきの竜の子が何処に消えたのかも。

やっと気付いたのは『自分の視界の位置』の違和感からだった。
やけに高い。という脚が地に着いていない。不思議に思い、視線を下へ移動させる。目に映ったのは、疑わしき光景だった。彼が最期に見たのは先程までの銀色の竜ではなく返り血に染まった深紅の竜、それだけだった。


「終わったか⋯⋯」


⋯最後のあの瞬間、こいつがよかった。
あの時、俺は攻撃を食らう寸前でもう一度無空間を蹴り、身体を横にずらしながら、こいつの真横に移動した。その時点で、俺を見失い、困惑。

そして、その隙を突いて俺は腹部目掛けて角を突き立てた。
かなり不快感があったが、勝利した事への優越感の方が大きかった。
反応が遅れていたのは自分の中の情報が整理できていなかったからだろう。
  

⋯何故だろう、自身より一回り程大きいこいつを、首の筋肉だけで支えているのに、重いと感じない。⋯いや竜の基本ステータス高いな。基礎筋力もそうだがさっきの速度に加えて尻尾だけで跳躍したのも結構凄い事だよな⋯?


──ドスン⋯


獲物を地面に着地させてから、角を引き抜く。
思ったより⋯戦闘する事自体には抵抗を感じなかった。竜になり、感性も竜に近い物になったのだろうか?身体中に降り掛かった血液をまじまじと見ながら、そう思った。

ただ、流石に死体があるのは気持ち悪いので崖へ突き落とした。
死体を落とし、完全に見えなくなってから俺は溜息を吐いた。精神的に疲れた。体力的には全然だがな⋯⋯ははっ⋯

⋯⋯⋯⋯⋯⋯はぁ、疲れた。


「⋯⋯さて、この後どうしようか。」


迷子、って言われたら別に家とか無いし行き先も無いんで、そうでも無いが。ただ⋯なぁ⋯。血の匂いも酷いし⋯個人的には(いや個竜的?)には悪い匂いというか、寧ろ好きなんだが⋯⋯。まぁ、血の匂いは他の肉食獣を引き寄せる可能性がある。早く身体を流したい。
                                   
あの水溜まりは、綺麗なので飲み水として確保して置きたい。
場所は⋯おおよその位置は特定できる。耳を澄ませば何となく聞こえるから見失う心配はないだろう。少なくとも半径300mぐらいなら、水の滴る音が聞こえるから大丈夫だろう。

あの場所辺りを中心に休憩できる家、いや『巣』か⋯?どうでもいいが。
俺は安心して過ごせて、戦闘で傷を負った際に回復に専念できる所の確保が急いでしたい。今日の戦闘で判った。あの程度なら捌き切れる、と。
もし、他の仲間がいたとして、仲間が殺された事に気付いて、群れで復讐しに来ても、10~20体なら何とかなりそうだ。

仮に本当に襲って来ても、その場から動かず、林の中で戦闘を行えば、上手く連携が取れまい。もし、囲まれても『殺気』さえ向けられていれば、背後から来られようと余裕を持って躱す事ができる事は判明しているので、いける。この自信が何処から湧いて来るものかは知った事じゃ無いが。

兎に角、今はあの大きな湖を目指そう。身体を流して、この辺りを散策しよう。そう考えて、俺は来た道を戻り始めた。足跡が残っているお陰で道を誤る事は無さそうだ──⋯

 
 


NOW  LOADING⋯





──ジャバ ジャバ ジャバ⋯⋯⋯ザバァッ⋯


あ~⋯やっと血の匂いが取れた⋯。
結構、血の匂いって香るものなんだな。俺の鼻がいいのか、水で血を洗っても匂いだけ全くと言っていいほど、身体に染み付いて中々取れないし⋯。
お陰で、転生して来た時は正午ぐらいだったのに、もう日が暮れそうだ。

この後もやりたい事は多いが、日が暮れてはどうしようもない。夜行性の生き物が活発になるし、第一暗ければ何も見えない。つまり行動が出来ない。
最優先事項として、寝床は確保しておきたい。最悪、安全でさえあれば何処でもいいんだが⋯

身震いをして、身体の水滴を飛ばす。
なんか、犬か猫になった気分だ。⋯⋯⋯いや竜なんだが。

取り敢えずは、あの水場に戻ろう。
此処からは、流石に水の音も聴こえない。目印に通った道の木々を引っ掻いてちゃんと元の場所に戻れる様にしておいて正解だったな。

俺は歩き出す。
⋯戦闘中は基本、四足歩行で行なうんだが、今みたいに普通に歩く時は前脚を折って、二足歩行だ。人間で言えば、お辞儀をしている状態で、脇を締めて歩いている状態か。⋯ただ、人間は縦一直線上に頭、胴体、脚とあるが、俺の身体は横一直線。前後の脚だけ縦、みたいな感じなので少し違う。

人間がこの歩き方をしたら、間違いなく辛い。しかも、バランスも取りずらくなるので向いていない。対してこの身体は骨格上、人間で言う『直立』がこの体勢なのだ。この身体で人間の『直立』をしようとすると、中々厳しい。重度の猫背の姿勢になり、真っ直ぐにはなれない。しかし、その姿勢でも、竜には尻尾があるので、バランスは取ろうと思えば取れない事も無い。

まぁ、二足歩行の仕方は2通りあるが、走る歩くの行動は前者の方がし易い。
走る時は、忍者みたいに手を後ろにして走るが⋯。後者の方は、体勢が自然と前のめりになるので、敵が正面にいる時や、停止している状態から、急加速するのに適している。これは人間も同じだろう。

卓球やテニス、サッカーに陸上競技⋯特に1体1の球技は、いつ来ても迅速に対応出来る様、常に前のめりになっている。サッカーや陸上競技は、どんなタイミングでも、加速出来る様に停止している時も、目標も見ながら姿勢を変えている。逆に直立している人なんて居ないだろう。

更に俺の身体の様に、二足歩行も四足歩行が出来る場合は、前のめりの姿勢から、地面に手を付き、全ての脚を使って加速→スタートダッシュ後、直立の二足歩行に移行、この様な事が一瞬で出来る。

人間が前のめりの状態から、地面に手を付きスタートするのとでは、速度が違う。人間は二足歩行型だから、慣れていない姿勢の移行に時間が掛かる。『四足歩行も二足歩行も可能な生物』は、身体が横一直線の為に素早く姿勢の移行をする事が可能なのだ。四足歩行だけでも違う。

これは竜と言うか、この身体を持った生物の特権だが、前脚を『手』としても使える事は、かなりの強みだ。地面を蹴る力だけでなく地面を『掴む』事が爆発的なスタートダッシュを生むのだ。蹴る、つまり身体を『押し出す力』だけでは、どうしても力が上に向いてしまう。しかし『掴む』事が可能であれば、四足歩行の生物の場合、前脚で身体を前方に引き寄せ、後ろ脚で地面を蹴るこの2つが同時に出来る。『力の向きが前方に集中する』のだ。

よって、スタートダッシュ=四足歩行。速度=二足歩行。
四足歩行+二足歩行=急加速=肉薄、急接近=戦闘で有利、という式が完成するのだ(。 ー`ωー´)✧

  




「⋯⋯⋯⋯グルァ⋯(はぁ⋯)」


⋯こんな風に考え事ぐらいしかやる事が無いのが唯一の後悔かもしれない。
確かに、痛いのは嫌だ。しかし、この身体が特殊なのか、あの神の加護なのか、昼間のあの大怪我、俺の左前脚にできた傷は既に『痕』になっていた。

動かしても、ズキンとは来ないし支障はない。
傷が早く治るのなら、傷を負うのはそれ程脅威では無い。ただ、ムカつくが。
そもそも、俺は戦闘自体に抵抗は無かった。大量の血液を見ても冷静でいられたし、感性も竜に近くなっているのだろうか。




そんなこんなでいつの間にか俺は、あの水場へ戻って来ていた。
既に日が落ち、辺りは漆黒の暗闇に満ちていた。⋯が、どういう訳か視界は確保できている。辺りの木々の位置や地面の段差までハッキリと。
⋯まさか、この竜も夜行性とか⋯?  

キョロキョロと見渡してみる。不意に、暗闇の中に碧色の光を2つ見つける。驚いた俺は慌てて飛び退いた。此方を追ってくる光は、よく見ると瞳の様に見えた。じっと此方を見ている様だ。

俺は身構える⋯⋯⋯って、アレ?
よく見ると、それは昼間の生き物でもなければ、未知の生物でもない。何を隠そう、それは水で湿った岩肌に映った、俺の瞳だった。⋯⋯いや恥ずかしい。

警戒を解いた俺はその岩肌を見直した。
自分で言うのもなんだが、綺麗な色をしている。あれだ、延々と見ていられる系のあれだ。


──グググゥゥ~~~⋯


⋯⋯恥ずかしさの連続で顔から火が出そう。
今度は、腹が鳴った。別に誰に見られているわけでもないんだが⋯な?
あるよね、そうゆう事。あれだよ、あの角に足の小指ぶつけて蹲った後に、妙に恥ずかしくある時、あるよね。うん⋯(無い無い)

まぁ、空腹時の対策は取って置いたんだけど。
俺は尻尾に引っ掛けていた、布を下ろした。布は落ちてたのを拾った。使えるかなと思い、拾って置いて正解だった。前脚の鉤爪を器用に使い、布を解く。
ビチャビチャと暴れる、銀色の生き物。⋯そう、魚だ。

見た目は、ごくごく普通の魚⋯⋯であって欲しかったが仕方ない。
なんか、歯とか鋭そうだし、刺々しいヒレだし⋯⋯でも、色だけは真面そうだし、カラフルだったら流石に嫌だが、まぁ⋯⋯銀色だし(謎理論)

他にも布の中には、茸や木の実など、道中で採取して様々な食材っぽい物を沢山詰め込んでいた。出来るだけ、カラフルなのは避けて採取したし、死ぬって程まではいかないだろうが。⋯⋯⋯死なないよな⋯?何か怖くなって来た。
しかし、背に腹はかえられない。火を通せば大抵いけるだろう。寄生虫とかいないよな⋯?食中毒とか嫌なんですが⋯

                                                       
あれだな、ある蛇曰く『よく噛めば死ぬ待たせたな』ってやつだな。        

⋯何か聴こえたのは無視して料理を始めよう。


先ず、銀色の竜が取り出しまする物はこの黒い包丁で御座います。
え~、何処で入手したかと申しますと昼間の事で御座います。
アッシはしがない1匹の幼竜でありんした⋯そこへ登場するは、何と卑怯な事に4匹の獣!カァ─!!何と可哀想な幼竜!
ん~だがしかしッ!幼竜は窮鼠猫を噛むと申しますか、能ある鷹は爪を隠すと申しますか、圧巻の返り討ち!見事4匹の獣を打ち倒し⋯(ry









⋯つまり、彼奴らの長くて大きな鉤爪が何かに使えると思ってひっぺがして取って置いた。で、そこら辺の岩で研いで荒く薄くして、今度は自分の鉤爪で削って、洗い、削って、洗いを繰り返して包丁を作り上げた、という訳だ。結構、綺麗な形の包丁⋯というか大きさ的に刀が出来たと思う。
光沢のある美しい曲線の黒刀だ。我ながら、いい出来だと感じた。

『柄』にもこだわった。(『がら』じゃないぞ『つか』だぞ)
これには毛皮と骨を使った。腕の骨を削り綺麗な四角柱の形にする。
角を削って、持った時に痛くない様にする。更に、黒い毛皮をよく洗い、裏面を表にする。毛皮は裏まで黒く艶があった。それを骨に巻く。皮と皮が重なる部分に小さな牙を打ち込み、固定。後は、さっきの完成した刀身の下を削り、細くし、骨にを穴を空ける。これには苦労した。

少し穴は小さ目にして、そこに刀身を打ち込んでいく。数回振り回しても、刀身がグラついたり、外れ無ければ、大丈夫。即席の万能刀の完成。これを使って料理する。まずは火を起こす事からだが⋯これは意外と簡単だ。黒刀に俺の鉤爪を当てて引っ掻く。人間からしたら不協和音だろうな。

用意していた枯れ草の上に、火花が散る。引火したら、空気を送り火種を成長させる。根気よくやるのが大切だ。
焚き火が出来たら、調理の方に入って行く。⋯と言っても料理なんて殆どしないし、器用って言っても竜だし、魚捌いた事ないし適当だが。

ある程度の大きさに切った、食材をまとめて焼く。
フライパンなんて無いので、そこら辺の平たい石を殴り付け、凹ませた物だが以外とこれが大変だった。直ぐに割れてしまうので、丁度いい石を見つけるのには苦労した。

石フライパンを焚き火の上に置いて、その上に食材を入れる。


──ジュウウウウウ──ッ!!


香ばしい香りが漂う。⋯うん、お腹空いた。
箸とか色々即席だけど、使えない事はない。焦げない様に炒める。
音が落ち着いたら、木の実をいじってみる。潰したり、少し齧ってみたり。
酸っぱい物や、異常に硬い物もあったが、その中に数個だけ記憶にある味の実があった。

ピリッとした辛味がある、胡椒に近い。鼻を抜けて行く爽やかな香りの実。山椒に近いな。そして、もう1つ。これは⋯?真っ赤な色、長細い形、緑のヘタ⋯。

うっ⋯出来れば食いたくない⋯。⋯いや、もしかすると物凄く美味いかもしれない⋯物は試しか!?ハイリスク覚悟でハイリターンを狙うか!?

俺は、バッと口に放り込んだ。完全に勢いでいった後戻りは既に出来ない。


「⋯んッ!?これは⋯!?」


食感からして妙だった。
ガリっという様な、飴を噛み砕いた時の食感に似ている。特に『辛い!!』となる程、辛くはない。どちらかと言うと⋯しょっぱい?
塩辛い、という表現がピッタリだった。キツい塩味が来た後に、さり気なく鼻を通過する、程よい辛み⋯⋯まるで、岩塩と唐辛子を合わせた様な味⋯。

使える⋯!!間違いない、これは当たりだ!!

俺は急いで、先程の胡椒味の実とこの身を砕いてフライパンに投げ込んだ。
あらかた混ぜ終わったら、焚き火から取り出す。⋯因みに素手でも熱くない。多分、この身体は熱に強いのだろう。


正直な所⋯料理を作ったのは、人生では数えられる程だ。
学生の時の調理実習、仕事で忙しい友人の娘の看病の時にネットを見ながら作った簡単なお粥、後は⋯不意に遊びに来た佐々木が『何か作ってくれ!!』って言った時に作った物⋯。いや、別に『そっち』の気がある訳じゃないからな。あの時は確か⋯あぁ、思い出した。確か、母から教わった『肉じゃが』を作った気がするな。唯一、俺が作れた料理がそれだったからな。

何度も言うが、断じて『そっちの気』がある訳じゃないからな(威圧)


⋯俺、誰に言ってんだろ。⋯⋯お腹空いた。


さて、夕食にするとしますか。
手を擦り合わせ、俺は完成した料理眺める。背景の焚き火と相まって、物凄く雰囲気が良い。俺は今日1日の事を思い浮かべた。良く考えれば、会社に出勤して、会社を出て、佐々木に誘われ飲み会に行って、帰り道に刺された。神に転生させられ、生まれて数十分で戦闘、武器を作り、身体を洗って、料理を作って⋯ブラック企業か俺の1日は。


時間の感覚はある程度だが⋯大体⋯





⋯⋯1日と半日ぐらい寝てない!?!?


アッそうですか、本格的にブラックなんですか。
はい。ご飯食べてさっさと寝ましょう。過労死したくないです。それでは、
 

「頂きます。」

 



⋯⋯!!美味⋯っ!!才能あるかもな、俺!!
さっきの唐辛子モドキが効いているな?胡椒の実とよくマッチしている!!
うわ~⋯米欲しいな~⋯どっかに生えてないのかな~⋯

にしても美味いな⋯味もそうだが、食感が面白い。
まず魚、思ったより淡白なんだが、フワッとしていて口の中で解けるんだこれが!!茸も良い!!噛むと旨味がジュワ~って溢れてくる!!お互いがお互いの素材その物の持ち味を引き上げている!!口の中で繰り広げられる『味』のパーティー、正に!!茸と魚の舞踏会やぁ~⋯





 


⋯いや、美味いな!!(すっとぼけ)


ものの数分で完食した俺は、温めた水を飲んで、ホッと軽い溜息を着いた。
パチパチと燃える焚き火。見ていて凄く眠くなる。だが、流石にこのまま寝るのは不味い。俺は焚き火の中から何個か塊を手に取り、円を作った。いくら気性の荒い生物でも、流石に炎には近寄って来まい。

焚き火の中心に移動し、俺は丸まった。
目の前に尻尾が来たので、地面に波打つ様にペチペチしてみる。
なんか可愛い。

そんな事をしている内に、瞼が重くなってきた。
物凄く心地よい。焚き火の音。その中に僅かに聴こえる虫の音。スっと空を見上げると、満天の星空。天の川⋯ではないが似た様な星々の群団がみえる。


「⋯あ、流れ星。」


なんかCMで聞き覚えのある台詞みたいになった。
夜空に一筋の光が横切った。それを先頭に沢山の流れ星が流れる。流星群だ。どんどん瞼が重くなってくる。もう、半分意識が無い。しかし、どうしても流星群を見たいので目を擦って見続ける。不意に、真っ白な光が空を横切った。

⋯いや、横切ってはいない。丁度、頭上で停止した。⋯寝惚けているのか。
その時、急激な睡魔に襲われた。頭を落とし、瞳を閉じる。急に瞼の裏が明るくなる。だが、それで目を覚ます程の気力は残っていない。今日は疲れ過ぎたのだ。足音がしたが、動くに動けない。辛うじて、瞳を半分だけ開いた。


「⋯やぁ⋯お休みの所悪いね♪」


その声は小声で、眠い此方を気遣っている様だった。
少なくとも女性⋯いや女の子の声だということは分かった。何とか視界に捉えたのは、白い光に包まれた人物。顔は下がった瞼の所為で見えなかったが、服装程度は分かった。真っ白いワンピース、裸足で仁王立ちをして腕を組んでいる所までは記憶する事ができた。その後は、完全に目を閉じてしまい、声の記憶しか残らない結果になってしまった。


「燗筒 紅志君だね?ウンウン、面白い子だ♪」
 
「⋯⋯⋯⋯⋯。」

「実はね、君に折り入って頼みたい事があるんだ。勿論、今すぐで無くてもいいし、十分に力を付けてからでいいからね♪」


あぁ⋯奇妙な夢だな。
自分より小さな子に『君』と呼ばれるとは。


「その、頼みたい事何だけどね?まずは、此処から80km東にある錬金術で有名な『ベルトンの街』に向かってくれ。東は、今私が立っている方向だよ♪」


錬金術⋯異世界みたいだな⋯そんな⋯話⋯⋯


「あ、そうそう。道の途中に大規模なオーク群れの縄張りがあるけど⋯それは君の実力に任せて、迂回するのも一直線に突っ切るのも自由だよ♪⋯ただ、君に死なれては困るから、出来れば危険は避けて欲しいな♪」


⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。


「あれっ、完全に寝ちゃったかな?ふふっ可愛い寝顔じゃない♪」


少女はしゃがみこみ、銀色の子竜の頭をそっと持ち上げ、額にキスをする。
ゆっくり立ち上がって、振り返る。白く長い髪を夜風に靡かせながら、その真紅に輝く瞳を閉じる。


「君は⋯私が絶対に死なせはしない。⋯だけど、自分の力で乗り越えなければならない壁も必ず存在する。だから私は、君がどんな困難に行く手を阻まれようと、決して手出しはしない。⋯燗筒 紅志、君のその心を忘れないでくれ。
きっと、君の心が『力』を、『強さ』を、そして何より『仲間』をもたらしてくれる筈だから────⋯⋯























⋯⋯────信じてるよ♪」
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