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砦終了~新入生編
230話『交流親善会 3』
しおりを挟むラナー様に誘われて、隣のテーブルに座る。
話す内容は、他愛ない話。
どこで誰が聞いているかわからないからね。
ゲームの話などはNGである。
さりげなく、ラナー様やお母様に、最近の学校での様子などを聞かれて、
何も起こって無いよ~的なニュアンスで返したり、
今度、作戦会議という名のお茶会を開くからぜひ来てね~などの会話をした。
そんな他愛ない会話の途中で、ふとダンス会場に視線を向ける。
煌く金髪と赤のコントラストが会場でクルクル回る姿を私の目が捉える。
えっ!?
一瞬しか見てなかったから、何となく気のせいかもしれないけれど……
あのクセっ毛の金の髪と、真っ赤な髪が特徴的な2人が
ダンスを踊っていたように見えたのだ。
少しだけ気になったので、私は飲み物を取りに行く風を装って、
貴賓席から離れた。
向かうはダンスホールを見渡せる場所だ。
ドン!! 「きゃっ!」
バシャァー。
「……ぇ?」
「す、すすす、すみませんんん!!!
あ―――きゃああああ! わ、私ったらなんてことをぉおぉ!!」
亜麻色の髪に同じ色の瞳にメガネの地味っこ風の令嬢が持っていた赤ワインが
私のドレスにシミを作っていく。
「え、えと、落ち着いてください。私なら、大丈夫ですから」
青い顔をする令嬢を落ち着かせるように声をかける。
視線だけで給仕を呼びつける。
青い顔で令嬢は床にかがんで、慌てて近寄ってくる給仕の持つ布巾を
奪うようにとって、私の服を丁寧に拭いていく。
「お嬢様、いけません。
お召し物が汚れてしまいます」
女性の給仕が慌てて、床にしゃがみ込む令嬢に注意するが、
半分泣きはじめた令嬢はフルフルと首をふる。
私達の事に気づいた周りの貴族は静観中で
少しだけ周りが静かになってきていた。
マリエラもベリアル様も騒動に気が付いて近づいてくる。
「エミリア、大丈夫!?」
「平気か?」
「あ、私は大丈夫です。
えっと、ハンジス侯爵令嬢ですよね?
怒っておりませんから、さぁ、立ち上がって下さいませ」
私は、記憶を掘り起こして目の前の屈みこむ令嬢に声をかけた。
よく見ると、彼女は第二王子であるクレス殿下の婚約者だった。
きっと、他の令息からのダンスの勧誘を避けるために
ワインを持って移動中だったのだろうね。
お互いには今まで会話したことは無かったけど、
こんなに地味っ子だったかな……?
なんとなくだけれど、お顔は整っていて綺麗なのに……
大き目のメガネと言動がオロオロ、アワアワしているせいで
地味っ子っぽく見えてしまったのだ。
そのせいで、ぶつかった瞬間も彼女だと分からなかった。
「で、でもあの……ヴォルステイン侯爵令嬢のドレスが……」
「控え室に行けば、かわりのドレスなど沢山ありますから、大丈夫ですよ」
私は、ハンジ侯爵令嬢のレリアナ様に微笑む。
汗をかいたり、こうやって食事で汚したりした場合に備えて、
控え室にはドレスルームが備えてある。
もちろん、令嬢達の侍女たちも、侍女用の部屋で待機している。
給仕が私の侍女であるカーラとメーデに知らせに行ってくれたので、
控え室に移動すれば、新しいドレスを用意して待っていてくれているだろう。
そういうことで、私は控え室に移動すべく行動を起そうとしたんだけど……
「エミリアっ!?」
私の名前を呼ぶ声のした方を見ると、白生地に金の飾りを施したスーツ姿に
くりくりの金髪をオールバックにし
キリっとした濃いエメラルドの瞳がさらにつりあがっている……
クレス殿下が、慌てた様子でこちらに向かって来ていた。
「クレス殿下、ごきげんよう」
汚れたドレスでも、挨拶はキッチリしないとね。
綺麗なカーテシーを取ろうと頭を下げたら、クレス殿下はそれを遮るように
私の手を掴んだ。
「あいさつなんていいよ!
それより、これはどうしたんだ!?」
どうしたと問いかけつつも、犯人を断定したような鋭い視線を
レリアナ様にむける、クレス殿下。
視線を向けられたレリアナ様は一瞬だけビクッとし、俯いてしまった。
「レリアナ――! まさか、また、君が?」
また?
「この前も、給仕にぶつかって料理をぶちまけていたよね!?
どうして、君はそんなに落ち着きが無いんだ!?」
以前にも、似たようなことがあったようです。
怒鳴られたレリアナ様は、俯いたまま、プルプルと震えている。
これ以上は、レリアナ様が全部悪いことになってしまう。
私はとっさにレリアナ様を庇う発言をする。
「クレス殿下。
これは、私の不注意でして、決してレリアナ様だけのせいでは――」
「エミリア分かっているよ。
優しい君は、彼女を庇おうと、無理をしているんだよね?
かわいそうに、そのドレス、とても似合っていたのに……。
さぁ、控え室に向かおう。
君の侍女達がドレスを用意してまっていてくれているよ」
クレス殿下は、あれよあれよと私の腰に手を当てて、くるりと向きを変えた。
あっというまにエスコートのポーズになった。
会場横の大扉前まで移動させられる。
私は、マリエラとベリアル様に視線をむけて、
「大丈夫だよ、ちょっと行って来るね」とアイメッセージを向けた。
アイメッセージを受け取ったベリアル様とマリエラは一旦
ラナー様たちの下に向かったようだ。
事情説明をして、ベリアル様は後で迎えに来てくれるだろうからね。
本当は、婚約者とか家族以外と控え室に移動するのは
変な噂が立ってしまう恐れがあるから、あまり好まれないけれど、
今回に限っては、仕方ない。
クレス殿下の婚約者であるレリアナ様が起してしまった不始末は
周りに居た人、ほとんどが見ていたことだ。
責任を感じたクレス殿下が私を待機室までエスコートしても
なんら不思議ではないしね。
それにしても最後、レリアナ様に向けるクレス殿下の視線は鋭いものだった。
そんな視線をうけたレリアナ様も、終始震えて頭を下げたままだったのが
気になってしまったけれど……。
扉前にいる騎士に伝えて、待機室まで移動する。
そのあいだ、クレス殿下は少しだけギスギスしていた。
「ごめんね、エミリア。
レリアナはどうしようもない子でさ。
何もない所で転んでしまうくらい、なんというか……ドジっ子なんだよね」
「クレス殿下、謝らなくてもいいのですよ。
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あー、とそうだ。
エミリアに伝えるビックニュースを伝えてなかったよね」
ビックニュース??
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「えーっ!? 忘れてしまったの?
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もうずいぶん前のことのように感じて、すっかり忘れていたよ。
「そうでしたね。
それで、私に伝えたいこととは?」
「それはね、僕は今年からなんと、
兄様やエミリアと同じ学園に通うことになったんだ!」
何の発表かと思えば、すでに知っていることだった。
たしか、クレス殿下は「聖霊の2人の乙女」の登場人物だ。
ラナー様のお茶会の時に、ジョシュアから入学すると聞いていたので
驚きはなかったからね。
「……あれー? 驚かないの?」
(あ、しまった!)
「え、ええっと、驚いておりますよ?
嬉しいですね! 学園でもお会いできるなんて!」
私は苦笑いにならないように、笑顔を向ける。
あぶない、あぶない。
クレス殿下は、ゲームの事は知らないのにね。
「……それならいいんだ」
クレス殿下もニパッと笑う。
「さ、もうそろそろ控え室だよ。
君のお相手であるベリアル王子を呼んでくるからさ。
着替えが終わったら、そのまま待機しているんだよ?」
おしゃべりしているうちに、あっという間に控え室にたどり着いていた。
と言っても、会場からそんなに遠くはないんだけどね。
控え室の前にいる王宮の侍女に扉を開けてもらい入室する。
扉が閉まる瞬間、ふと、視線を感じて振り返る。
一瞬だけどクレス殿下の表情が見えた。
その表情は、いつもの優しい表情ではなく――
どことなく、鋭い視線で無表情な気がした―――。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
うp主コメ
遅くなってしまって申し訳ありません。(汗
誤字脱字やら設定の見直しやらでいろいろ忙しかったです・・・。
次回投稿はまた月末になりそう・・・。
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