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白魔法の文献編
186話『ヒロイン達の苦難 1』
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※ナナリー視点です。
どうしてこうなったのかなんて、わからない。
唐突だったの。
目の前には、馬と一緒に倒れたマリク君。
私達を庇うように立つのはキズだらけのリーテさん。
私は震えながらマリク君を抱いて、治癒魔法をかけることしかできなかった。
数分前――
「兄上!」
リーテさんがコンラートに呼びかけた時には
薄い霧が周囲を囲むように覆い始めた。
「皆、走れ!!」
というリーテさんの指示に従って、マリク君が私を強く抱きしめ馬を走らせた。
100メートルほど進んで振り返ってみれば、
後ろに居たはずのエミリアとベリアル王子、コンラートはどこにも居なかった。
ただ、私達が進んでいた元の場所が、霧の塊……
いいえ、遠目から見ると白い煙にしか見えないものがそこにはあった。
馬を下りて、私達は霧のほうを見つめた。
「確認してきます」
「危険ですよ!」
リーテさんを止めるマリク君。
焦った表情でマリク君は続けた。
「あの霧は魔法で出来ています。
中にいる者を閉じ込める霧です。
入ることは出来ても、抜け出す事はできません」
良く見ると、マリク君の霧を見つめる瞳が金色に光っていた。
魔法視というエルフの技能で、さまざまなものを鑑定することが
できる瞳だと説明してもらった。
「僕の瞳で分かるのは、魔物が作り出した霧ということです」
それからマリク君とリーテさんの問答は続いた。
結果、霧から少し離れた50メートル付近までなら近づけるということで、
そこまで私達は近づくことにした。
「エミリアー! ベリアル王子ー! 返事をしてー!」
霧の中に向かって声をかけてみても、返事は返ってこない。
霧が音や光の干渉を阻害しているらしかった。
マリク君の説明では、この霧を消すには霧の原因をどうにかしなきゃいけない。
霧を発生させた魔物の討伐ということだった。
立ち込める霧の前で私達はただただ、立ち尽くしていた。
その時――
聞き覚えのある怪物の鳴き声が雪原に響き渡る。
プギュウウウウウゥゥウゥゥウ!!!!
私は勝手に震える自分の体を抱える。
あの鳴き声を、私は知ってる。
だってあの声は、コルトで聞いたもの!
リーテさんが乗っていた馬が脅えて怪物の声とは反対の方向に逃げていく。
臨戦態勢に移ったリーテさんは、
私とマリク君を守るように剣を鞘から抜き取った。
マリク君も私を庇うように前に出る。
2人が見つめる先――
そこには、黒い靄を体に纏った、2メートル以上ある禍々しいイノシシが
こちらに駆けてくるところだった。
ドドッ ドドッ ドドッ
蹄の音が近づいてくる――
「あぶない!!」
どん!
とマリク君に押され、しりもちをついた。
「はあぁああああああ!!!」
声を上げて立ち向かうリーテさん。
突進してくるイノシシにリーテさんは斬りかかった。
ギチィイィン!
という音と共に、リーテさんは弾かれた。
イノシシの突進は止まらない。
前に出たマリク君は私を庇おうとしてくれている。
私は、脳裏に浮かんだシンシアの姿が思い出される。
「い、いやああああああああああ!!」
心の底からの恐怖の叫びだったと思う。
怖かった。 ただただ、怖かった。
頭を抱えて蹲る。
迫る蹄の音。
ドドッ ドドッ ドドッ ドドガッ!! ヒヒヒィン!
何かがぶつかる音と、馬の悲鳴。
マリク君の驚く声。
ズザザザザー!
という、何かが地面を滑る音。
私は、閉じていた目をゆっくりとあけた。
目の前には、馬と一緒に倒れたマリク君。
そして、キズだらけのリーテさんが
ヨロヨロと私達の前に立って剣を構えていた。
私は恐怖を振り払い、マリク君に駆け寄った。
泣きながら、急いで治癒魔法をかけたのだった。
どうしてこうなったのかなんて、わからない。
唐突だったの。
目の前には、馬と一緒に倒れたマリク君。
私達を庇うように立つのはキズだらけのリーテさん。
私は震えながらマリク君を抱いて、治癒魔法をかけることしかできなかった。
数分前――
「兄上!」
リーテさんがコンラートに呼びかけた時には
薄い霧が周囲を囲むように覆い始めた。
「皆、走れ!!」
というリーテさんの指示に従って、マリク君が私を強く抱きしめ馬を走らせた。
100メートルほど進んで振り返ってみれば、
後ろに居たはずのエミリアとベリアル王子、コンラートはどこにも居なかった。
ただ、私達が進んでいた元の場所が、霧の塊……
いいえ、遠目から見ると白い煙にしか見えないものがそこにはあった。
馬を下りて、私達は霧のほうを見つめた。
「確認してきます」
「危険ですよ!」
リーテさんを止めるマリク君。
焦った表情でマリク君は続けた。
「あの霧は魔法で出来ています。
中にいる者を閉じ込める霧です。
入ることは出来ても、抜け出す事はできません」
良く見ると、マリク君の霧を見つめる瞳が金色に光っていた。
魔法視というエルフの技能で、さまざまなものを鑑定することが
できる瞳だと説明してもらった。
「僕の瞳で分かるのは、魔物が作り出した霧ということです」
それからマリク君とリーテさんの問答は続いた。
結果、霧から少し離れた50メートル付近までなら近づけるということで、
そこまで私達は近づくことにした。
「エミリアー! ベリアル王子ー! 返事をしてー!」
霧の中に向かって声をかけてみても、返事は返ってこない。
霧が音や光の干渉を阻害しているらしかった。
マリク君の説明では、この霧を消すには霧の原因をどうにかしなきゃいけない。
霧を発生させた魔物の討伐ということだった。
立ち込める霧の前で私達はただただ、立ち尽くしていた。
その時――
聞き覚えのある怪物の鳴き声が雪原に響き渡る。
プギュウウウウウゥゥウゥゥウ!!!!
私は勝手に震える自分の体を抱える。
あの鳴き声を、私は知ってる。
だってあの声は、コルトで聞いたもの!
リーテさんが乗っていた馬が脅えて怪物の声とは反対の方向に逃げていく。
臨戦態勢に移ったリーテさんは、
私とマリク君を守るように剣を鞘から抜き取った。
マリク君も私を庇うように前に出る。
2人が見つめる先――
そこには、黒い靄を体に纏った、2メートル以上ある禍々しいイノシシが
こちらに駆けてくるところだった。
ドドッ ドドッ ドドッ
蹄の音が近づいてくる――
「あぶない!!」
どん!
とマリク君に押され、しりもちをついた。
「はあぁああああああ!!!」
声を上げて立ち向かうリーテさん。
突進してくるイノシシにリーテさんは斬りかかった。
ギチィイィン!
という音と共に、リーテさんは弾かれた。
イノシシの突進は止まらない。
前に出たマリク君は私を庇おうとしてくれている。
私は、脳裏に浮かんだシンシアの姿が思い出される。
「い、いやああああああああああ!!」
心の底からの恐怖の叫びだったと思う。
怖かった。 ただただ、怖かった。
頭を抱えて蹲る。
迫る蹄の音。
ドドッ ドドッ ドドッ ドドガッ!! ヒヒヒィン!
何かがぶつかる音と、馬の悲鳴。
マリク君の驚く声。
ズザザザザー!
という、何かが地面を滑る音。
私は、閉じていた目をゆっくりとあけた。
目の前には、馬と一緒に倒れたマリク君。
そして、キズだらけのリーテさんが
ヨロヨロと私達の前に立って剣を構えていた。
私は恐怖を振り払い、マリク君に駆け寄った。
泣きながら、急いで治癒魔法をかけたのだった。
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