親子そろって悪役令嬢!?

マヌァ

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白魔法の文献編

162話『白魔法の文献 3』

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※エドワード視点です。



金色の縁取りがされた扉の前で神父は部屋の中にいる大司教に声をかけた。



「大司教様、先日の手紙の件でエドワード殿下がお越しです」



「お通ししろ」



野太い声が扉の奥から聞こえ、神父が扉を開ける。

目で合図され、僕とマリエラ嬢はそのまま談話室の中に入った。


部屋の中にただよう甘ったるい匂いにむせ返りそうになる。

見渡すと、談話室の中では金色の猫足のついた香炉こうろから

ピンク色の煙が立ち上っている。

目の前のソファーには、金と白の豪華な祭服を着た肥え太った男が、

シスター数人に世話を焼かれている状態だった。


足や肩をマッサージされ、

右手には真っ赤なワインが注がれたワイングラスを、

左手にはかじられたチョコクッキーが握られていた。


僕とマリエラ嬢は、目の前の光景に嫌悪感が沸いた。

僕の腕をつかむマリエラ嬢の力が少しだけ強くなった。

嫌悪感を顔に出さないように、大司教に目を向ける。


「大司教。

 先日の手紙の件で話がある」



「これは、これは、殿下。

 ご足労、感謝いたします~」



モグモグと口を動かす大司教は、シスターの手を借りて立ち上がり頭を下げる。


隣にいるマリエラ嬢が緊張しているのか、

少しだけ体が強張こわばっている気がした。



「ささ、どうぞこちらへ。

 お連れのお美しいお嬢さんも、ささ、遠慮なさらずに」



ニターっとした笑顔で僕とマリエラ嬢を見つめる大司教は

ソファーを勧める。

手で合図をして、シスター達が紅茶を用意し、色とりどりのお菓子と

ケーキを運んできた。


差されたソファーに腰掛けるが―、

同時に座ったマリエラ嬢はさっきから僕の腕を掴んだままだ。

どうしたのかとチラリと様子をうかがうと、おびえた視線で大司教を見ていた。


(マリエラ嬢?)



マリエラ嬢は見つめる僕に気づいたのか小さく微笑んだ。

だけど、掴まれた腕はいまだに開放されない。



(早く話を切り上げて、帰ったほうが良さそうだね)



僕は書物についての話を大司教にする。



「単刀直入に言うよ。

 貴方が所持している、珍しい書物をゆずってほしい」



ニッタリと笑う大司教の視線は何故か僕とは合わない。


「そうですねぇ~。

 あの書物はとても珍しいものでして……

 先代の大司教様から譲り受けた、とても大事なものなんですよ~」



新しいクッキーを手に取り、ボリボリと音を立てて食べ始める大司教。


この男の行動は何とも不快な気持ちになるな。

不快な気持ちになるだけで、

男はまだ何も悪い事はしていないけれどね。



「書物は貸して貰えるだけでも構わない。

 中身を写生して現物は返すと約束するよ」



ニッタリ顔が深くなった大司教はうんうんと頷く。

どことなくワザとらしい仕草も鼻につく。



「であれば、今ここで殿下に写生して頂きましょう」



は?



「大司教、それはどういう意味だろうか?」



困惑する僕に大司教は詳しく説明をする。



「いえなに……

 殿下が本の写生をしている間、お連れのお嬢さんを貸して頂きたい」



目の前の男が何を言っているのか理解できなかった。

大司教は、尚も言葉を続ける。



「現在、星教会には聖杖をかかげる巫女がいないんです。

 その役目を彼女にお願いしたいのです」



写生する間だけ、マリエラ嬢には杖を掲げてもらうだけならば

彼女次第ということになる。

だけど、どうにもこの男の言う事は信用ならないように思う。


それに先ほどから気になるのはマリエラ嬢が

この男に対してひどおびえていることだ。


僕は、胸を襲う苛立ちが顔に出ないように耐える。

そして、ある作戦を思いついたのだった。

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