親子そろって悪役令嬢!?

マヌァ

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テスト期間編。

135話『異変 3』

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旅宿の中で、治療を受ける兵士の数に私は戦慄した。

体が震え、その場で立ち尽くしてしまった。



「こちらです」



シュゼルツ様に声をかけられた。

私はベリアル様に支えられ、後をついて行く。



宿の1階の個室の前には、兵士が入口を守る形で立っている。

個室の中には、簡易なベッドと棚が一つだけあり、

そこにはお母様が寝かされていた。



ベリアル様が痛ましげな視線でお母様を見つめた。



「病気は呪いとは違う。

 魔物の吐く毒ガスを防ぐ手立ては、

 いくら星霊憑きといえど難しかったのだろうな」



「そうですね……」



シュゼルツ様の返事の言葉に悔しさが滲んでいる。

私はお母様の状態を目にし、涙を堪え切れなかった。

お母様は上半身は脱がされ、湿った布が胸の部分だけにかけられた状態だった。

首から下の肌が赤黒く変色し、ブツブツとした発疹が見える。

例の病による症状だ。



サポーターの女性が、

お母様の発疹と傷口を拭き取る作業を繰り返していた。

拭き取られた布は、一瞬にして赤く染まる。

反対側では、女性医師の一人が炎症を抑える治癒魔法をかけ続けている。



しかし、見たところ発症した範囲が広く、

女性医師は少しだけ魔力切れを起こしていた。



私は、気持ちを引き締め、ウエストポーチから

回復ポーションと魔力回復ポーションを取り出す。

回復ポーションをお母様の口に少しだけ、流し込む。

治療に専念していた女性医師は、目を丸くして驚いていた。



「私も手伝います」



私は涙を袖で拭い、女性医師の隣に座り魔力回復のポーションを手渡す。



「先生はそれを飲んだら、発疹が破裂しないように、

 炎症を抑える治癒魔法をかけ続けてください」



「えっ……し、しかし……」



「お願いします。

 発疹と傷を治療する魔法は私がかけます」



私は、両の手を胸の前で組んで万能治癒をフル稼働させる。

正直ここまで強力な万能治癒を発動させるのは初めてだ。



ベリアル様は、新しい布とぬるいお湯を用意し始めた。



自分の手に万能治癒の力を集中させる。

手から放たれる虹色に輝く波動を見て、周りから感嘆の声が聞こえた。



ゆっくりと、お母様の腹部に両手を当てた。



隣にいた先生は私の様子に納得したのか、ポーションを飲み干して、

すぐに炎症を抑える魔法を使い始めた。



祈りを込めて、治癒に集中する。



いつもより、万能治癒の力が強く輝く――



(お願い……お母様を助けて)



 『「―――」』


誰かの声が頭の中に響いた気がして――



私の両手から虹色の光が強く輝き、鳥の翼の様な形の波紋となる。



波紋の翼が、一枚一枚の羽根となり次々にお母様に降り注いだ。



お母様に触れた羽根は外傷と一緒に光の粒となって消える。

羽根が触れた場所から、次々に外傷が消えていく。



自分でも神秘的だと驚き思う反面、この後どうすればいいのか

理解していた私は、ベリアル様へ視線を向ける。

ベリアル様は頷いて、綺麗なお湯に濡らした布を、

女性のサポーターへ渡して、指示を出していた。



私の手の甲には、羽根のマークが浮かび上がり薄く輝いている。

新しい布で拭われた発疹のあった場所に次々に触れていく。

触れるだけで、発疹があった場所は何も無いきれいな状態になっていく。

それを繰り返し続ける事10分くらいだろうか。

お母様の症状は、完全に消え去っていた。



治療が終わり、両手の光は徐々に収まっていった。



張っていた緊張が切れたのか、私はその場で気を失った――。


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