親子そろって悪役令嬢!?

マヌァ

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学園生活開始~学園祭。

47話『エレノアの夢 番外編3』

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※過去のお母様視点です。



美少年は、私とラナー様、護衛の騎士の様子を順番に見たあと

ラナー様を抱えた。



「あ、あの……」



「騎士達は、もう助からない。

 お前は助かりたいのなら ついて来い」



美少年の年齢は、ぱっと見私と同じ15歳くらいだろうか。

角が生えてる……。どうしよう? 亜人? エルフの近親種?



美少年はすたすた歩き出した。

私は、いろいろ考えるのをやめて、彼について行くことにした。



この後の道のりは、すっごく不思議な行程だった。



岩でふさがる洞窟。

入口の岩は魔法の光を帯びて自分から動いて開いた。

(魔法式自動ドアシステムかな?)





洞窟の奥の滝。

水面には大きな葉っぱがあり、それに乗り込むと

ふよふよと滝を登り始める。

(魔法式エスカレータかな?)



滝を上った奥。

まっすぐに進むと行き止まりになっていて、光る魔法陣が床に設置してあった。

その魔法陣の真ん中に立つと、浮遊感のあとに景色が変わった。

(魔法式エレベータまでありましたか!)





私は次々に起こる不思議現象に現実逃避の感想で精一杯だった。



たどり着いた場所は、黒と金の宮殿が目立つ大きな街の真ん中だった。



黒壁に金の玉ねぎのような屋根のある宮殿は、

前世のモスクワにある聖堂のようだった。(名前は忘れた)

色違いに見えなくもないが、玉ねぎ形の屋根の数はこちらは少なかった。

あと、微妙に大きさと形も違う気がする。

街の民家も黒の木板を使用されていて、屋根は赤レンガの瓦で組まれている。



住んでいる人は全員、褐色の肌に白銀の髪と黄色に近い瞳だ。

角は生えている人と生えてない人それぞれだった。



街の人たちは、私とラナー様に不審な目を向ける。

美少年がラナー様を石のベンチのようなものに寝かせる。

私は、ラナー様のもとに寄った。あらためてラナー様の容態を見る。

外傷はない。脈拍も正常だ。私は、ほっと息をついた。



私は、美少年にお礼を言った。



「助けて頂いてありがとうございます。

 私の名前はエレノア。エレノア・ナスカ・パナストレイと申します。

 それと、彼女はラナー様です。ラナー・オズウェル公爵令嬢。

 一応、ドルステン国の王太子殿下の婚約者様ですわ」



「これは、ご丁寧にどうも。

 私の名前はベリアル・ヴェルノーマ。

 それにしても、パナストレイ? 隣国の姫が何故あんな場所に?」



私は、詳しい事情を話していいものか悩んだ結果、

ここが安全かどうか確認を取るために、まずは話を聞きだすことにした。


「ええと、いろいろありまして。

 ここは、ドルステン国内なんですよね? 領の名前はなんと?」



「領? 人間の国の区切りのことか? ここは山岳地帯だ。

 人間達は私達のことを魔族と呼ぶ。

 さしずめ、魔族領だな。街の名前はヴェルマだ」



魔族!? ヴェルマ?? 聞いたことがない。

それに、山岳地帯って……。ドルステン国を抜けたってこと!?



私は混乱した。



「魔王様! 人間なんて連れてきて大丈夫なんですか?」



「そうです! 始祖様の災いをお忘れになったのですか!?」



「俺達を攻撃するんじゃないのか!?」



しばらく様子を窺っていた住民達が、美少年に話しかけてきた。



え?? ……魔王?



「大丈夫だ。彼女達に危険はない。

 星霊シェイドが彼女達を保護するように言っている。

 皆もそのつもりで接してやれ」



魔王と呼ばれた美少年の言葉に街の住民達は納得したようだった。

そんな簡単に納得するものなのだろうか?


近くにいた若い魔族の男性がラナー様を抱えた。

私はとっさに近づこうとしたけれど、別の女性に邪魔された。

ラナー様は近くの民家の中に連れて行かれる。



「怪我しているのね。痛かったでしょう?

 傷口を洗いましょう」



えっ!?



「あ、あの、ラナー様……」



私は女性2人に濡れたタオルで傷口を拭われる。



「あの子なら大丈夫よ。

 寝台に寝かせに行っただけだから」



「手当てをしたら、貴女もゆっくり休みなさい」



優しく語りかけてくる女性達に心があったかくなった。



「あ、ありがとう……ございます……。っぅぅ」



今までの緊張が解かれたのだろう。涙が勝手に溢れてきた。

私は、お礼を言いながら、泣き続けた。



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■





目が覚めたら、見知った顔がある。

ぼーっと眺めていたら、その顔はうっすらと笑みを浮かべた。

次第に脳がクリアになってきた。



「ラナー様!?」



目の前の人物、ラナー・オズウェル公爵令嬢は笑って私を抱きしめてくれた。



「エレノア! ありがとう! 貴女が私を助けてくれたのね」
 


私とラナー様はお互いの無事を喜び合った。

ラナー様は、私が起きるすこし前に目が覚めたようだ。



私は、ラナー様と一緒に身支度を整えた。



魔族領の人たちはとても親切だった。

最初は不審な目線だったけど、

魔王と呼ばれた美少年ベリアル君のおかげだ。



あとで詳しく聞いたら、あの美少年ベリアル君はこの魔族の街ヴェルマの

魔王だという。領って私、勝手に言ってしまったけど……

ヴェルノーマ国の魔族の街ヴェルマってことかしら?

ベリアル君あらため、ベリアル陛下は、国とかの概念が元々無いといわれた。



しばらく街に滞在させてもらえることになったので、

私とラナー様は、ベリアル陛下に私達に起こった内容を説明した。



「匿うのは構わない。

もともと、シェイドも君達をここに引き止めたがっていた」



「星霊シェイド様ですか!?」



「そうだ。 街の中は好きに見て回っても良い。

 今日は私が街を案内しよう」



星霊と会話できる存在はめったに居ない。

彼らの言葉はある種の予言やお告げのようなものだ。

それがあったのなら、私達に拒否権はないだろう。



ベリアル陛下は私とラナー様を連れて街の中央に来た。

町の中央には白亜の柱で組まれたむき出しの台座がある。

その中央には唯一街への入口である魔法陣があった。



街をよく見ると、大きな洞窟を真上からくりぬいたような場所だ。


魔法陣からまっすぐに進むと昨日見えた宮殿が。

逆の方向には洞窟があった。

洞窟を抜けた先は、山岳地帯の頂上で、もう一つ魔法陣があるらしい。



街の中を説明つきで案内してもらっている最中、

私とラナー様は気づかなかった。

ここが本当に安全だといつから勘違いしていたのか。



私達はまだ知らなかった――。







魔王ベリアル陛下に魔族の街ヴェルマを案内してもらっている最中、

突然、宮殿からの呼び出しがあったようだ。



ベリアル様は怪訝に思いながらも、しぶしぶ宮殿に向かっていった。

なにかあったのだろうか?



私とラナー様は、魔王様を呼びに来たという青年に

ベリアル陛下の代わりに引き続き案内をするといわれたので、

そのままお願いした。

歩いていくのは洞窟のあるほうだった。

あれ?こっちは行っちゃダメなんじゃないの?

そう思ったけれど、青年に誘われるまま、私とラナー様は

彼の案内に従った。



洞窟の中は明るかった。

洞窟に生えている水晶が光源の役割を果たしているようだった。



私とラナー様はその光景に見惚れていた。

だから、とっさに気づくのが遅れた。

青年が短剣を振りかざしてラナー様を襲った――。



ザシュ!



私は、とっさにラナー様を引き寄せたつもりだった。

だけど、ラナー様は背中の肩甲骨辺りを、横に引き裂かれていた。



「ラナー様!!」 「ううぅ……」



私は、レイピアをとっさに構えた。

こんな狭い場所で、ラナー様をかばいながらは無理だ。



「どうして、こんなことを!?」



私は、会話で時間稼ぎをすることにした。

「俺の愛しいリリーナが、お前達を殺さなければ

 俺とリリーナの幸せは訪れないと言うんだ!!

 初めてだったんだ。初めてあんな想いをした!!

 ああ~! 俺のリリーナ! 今、俺達の幸せのために!!」



な、なにコイツ。 気持ち悪い。



「おかしいわね? 私が聞いた話じゃ、リリーナは、

 公爵家の坊ちゃんと駆け落ちする予定らしいわよ」





早く! 誰か助けにきて――。



「な、なんだと貴様!! 

 俺のリリーナがそんなことするはずがない!

 ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな!!」



青年は、短剣を無造作に振りはじめた。



カンッ! ガッ! キン! カンッ!



振りの早い青年の剣筋に沿ってレイピアを当てる。

細長いレイピアには分が悪いが、頑張るしかない。



「リリーナが言っていた! お前らが生きているから

 自分は幸せになれないと!

 いつも自分の幸せをお前らが壊してくると!!」



ガッ! キンッ! キキンッ!



細身のレイピアは、短剣の重い一撃で弾け飛んだ。



「くっ……」


「お前らのせいだ! お前らのせいだ! お前らのせいだ!

 俺とリリーナが結ばれないのも、お前らのせいだ!!!」



青年は短剣を振りかざして、私に振り下ろす。

とっさに避けるが、狭い洞窟内では自由に動けない。

私の右肩に大きな裂傷ができる。



私は、ラナー様に覆いかぶさるように動く。

そして、目を瞑った。



もうだめ―――!



ゴス!!!! バタリ。





「遅くなってすまなかった!」



目を開けると、魔王ベリアル様が私とラナー様の前に

かばう形で立っていた。



「何故、私の言いつけを無視した?

 この2人はシェイドが庇護するように命じた。

 お前は、自分がやったことを理解しているのか?」



「お、おおお、俺は……悪くない!

 俺は、リリーナのために!」



「黙れ!」



ベリアル様から冷たい魔力が漂い出す。



「エレノア姫! 治癒の魔法が使えるなら、使え!!」



唖然としていた私は、ベリアル陛下の叱咤で意識を切り替えて、

治癒の魔法を使い、自分とラナー様の傷を癒す。

ラナー様は、傷のせいですこし熱が出ていた。

傷口はふさいだけれど、失った血は戻っては来ないのだ。

私は、ラナー様を支えて立つ。



「く、くくくく、くそがああああ!!」



突如、青年が叫び出した。

いつの間にか、手に持っているのは魔力水晶だった。

それを、手で握りつぶした。


バキィィ!



割れる音がした瞬間、割れた水晶ごと青年が黒い煙に包まれた。

そして、その煙は拡大しながらこちらに向かってきて――



「まずい! ここから離れろ―――!!」



ベリアル陛下の叫びが聞こえた気がしたが、私とラナー様は

黒い煙に飲み込まれた。




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