親子そろって悪役令嬢!?

マヌァ

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学園生活開始~学園祭。

45話『エレノアの夢 番外編1』

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※お母様視点の過去編です。



私の名前はエレノア・ナスカ・パナストレイ。

パナストレイ星皇国の第一王女。





その日、私はドルステン王国に嫁いだ。



私の婚約者は宰相家の公爵令息だった。

真ん中分けの黒髪に黒瞳という東の大陸特有の顔立ち。



『クラーク・ウルドール』それが、私の婚約者の名前。



貴族の学園に通っていて、私は1年遅れて一緒に通うことになった。

学園生活は順調だった。彼とも仲は良好だった。



この国の王子殿下の婚約者ラナー・オズウェル様ともお友達になった。



だけど、学園生活に不穏が生じた。ラナー様の婚約者である、

ドルステン王国第一王子アスト・エルド・ドルステン様に

言い寄る女性が現れたのだ。



女性の名前はリリーナ・アドラメレク子爵令嬢。

ピンクがかった茶色の髪をツインテールに結び、

顔立ちは幼く、鼻筋は低いがぷっくりとしたピンクの唇とルビー色の大きな瞳。

大人の色気のある印象のご令嬢だった。



ラナー様は自分が転生者だと言った。この世界は小説の世界だと。

このままでは、殿下はあの女性に取られてしまうらしい。

そして、自分は濡れ衣を着せられ、死刑にさせられるのだと。



記憶があいまいだと言うラナー様は私に手助けを申し出た。

私は、ラナー様に協力することにした。

パナストレイでの前回の自分が頭によぎった。

出来るだけ、いべんとフラグ?というのを壊すために手伝った。



そして、アスト殿下との間を取り持ったりもした。

私の労力が実を結んだのか、ラナー様は婚約破棄されずにすんだみたいだった。



だけど、私はうっかりしていた。

ラナー様を助けたことで、満足していた。



ラナー様とアスト様が卒業するパーティの中で、

リリーナと腕を組んでこちらに歩いてくるクラーク様がいた――。





「エレノア・ナスカ・パナストレイ。君がリリーナに行った悪行を

 私は許すことができない! よって、私は、君との婚約を破棄する!」





煌びやかな卒業生たちが着飾る会場でその声は大きく響いた――。



婚約破棄された? 私が? なぜ?



そんな私に、リリーナが近づく。

耳元で囁かれる声音は、私の血の気を一気に引いていく。



「今回は私の勝ちねぇ」



呆けた顔で、彼女を見つめる。

パナストレイでの出来事が頭をよぎる。



うそ……!? まさか……! ……彼女は……!?



ズキンッ と頭痛がした。

めまいが酷い。目がかすんで……

さまざまな記憶がサーっと流れ始める。

頭痛が治まり、状況を把握する。

自分が前世の記憶をもっているということを私はその時知った。



目の前の光景は、私が愛読していた小説のワンシーンだった―――。







……え? まずくないこれ?



なんか、記憶が戻るタイミングおかしくない?

なんなのよこれ。 もう、積んでるよ……わたし。



小説の内容はもうクライマックス直前。

いろいろ間違っているところがあるけど、大体あってる。



私の愛読していた小説は、主人公が同じで恋愛対象であるお相手が

変わるシリーズのものだった。

ラナー様もきっと同じシリーズの小説を読んでいたんだと思う。相手は王子?



王子様とのお話から宰相令息、騎士息子、魔術師長令息など。


ちょっと変わっていたけれど、面白いシリーズだった。

小説の元になったのはテレビゲームらしいけど、私は気にしなかった。



そして、私とラナー様は小説に登場する悪役令嬢。

婚約者に言い寄るリリーナに意地悪をするのだ。

現実的に、意地悪をして来ちゃったのだ。





その後私は、婚約破棄をお受けして、パーティ会場を去った。



私が今、居るのは王宮にある離宮の一室。

一応、隣国のお姫様なので私の仮住まいはここなのである。

最低限の調度品と、天幕つきのベッドのある部屋。

寝室とリビングが一緒になっている、

ちょっと高めのホテルの一室のような作りだ。



戻ってきた部屋でイスに座ってうなだれる。

ゆるく結われた髪止めを外して髪を降ろす。



(この髪飾りは、彼から送ってもらったものだったっけ。)

はぁ。 ため息がもれた。

オレンジ色のエンパイアラインのドレスを掴んで、

先ほど起こったことを考える。



てゆーか、リリーナのあの言い方って……

まさか、あの子も転生者?

パナストレイでの記憶が思い出される。

『やり直し』あとの見殺してしまった少女リナ。



彼女がどういう存在なのか何となく察した時、言い知れない恐怖が湧き上る。



彼女は私を狙っている―――? 復讐しに来たの――?

他人に乗り移って――?



私の顔は青を通り越して白に近くなってしまっていた。



コンッ コンッと扉のたたく音が聞こえた。私の名を呼ぶ声に

返事を返す、入って来たのはラナー様とアスト殿下だった。



ラナー様は、薄ピンク色のプリンセスラインのドレスに

プラチナブロンドの髪は高い位置だけ纏められている。

青い瞳にあわせて、髪留めも青だ。

耳飾は、アスト殿下の瞳の色と同じエメラルドの宝石だ。

アスト殿下は白と青に、金糸の蔓模様の入ったスーツとズボンに

金色の髪にはラナー様の瞳と同じ色の髪飾りをつけていた。



「エレノア!」



ラナー様は駆け寄ってきて私を抱きしめた。

彼女はマナーなんてかなぐり捨てて泣きながら謝っている。



「ごめんなさい――。 ごめんなさい――。

 私のせいで、エレノアが犠牲になってしまった!」





やさしい性格のラナー様は自分を責めている。

わかっている。ラナー様は悪くない。

だって、自分が小説の悪役令嬢で婚約者を取られた挙句に死刑になるのだ。



その分、私は他国の姫ということで、ただの婚約破棄のみである。



死刑だとか身に覚えのない罪を着せられることもない。

もしそんなことになれば、外交問題どころではない。

正直言ってパナストレイとドルステン王国では国力の差という点では

ドルステンに勝ち目はない。パナストレイは星霊の加護が多数ある国だ。

戦争になったら、ドルステンに勝ち目はないのだ。


まぁ、婚約破棄だけでも結構まずいのかもしれないけど……。



アスト殿下は、不安げな様子で扉の横で壁と化していた。



「ラナー様、アスト殿下、私の話を聞いてくれませんか?」



私は、自分も転生者であることや、パナストレイ星皇国で起こった

『やり直し』について語った。



今回の事件はこの後の展開は私は覚えていない。

同じ転生者であるなら、ラナー様に協力を得られるかもしれないからだ。



「ごめんなさい、エレノア。

 私も、この後の展開は知らないの。

 そもそも、悪役令嬢と結婚した王子ルートの話なんてないもの」



王子ルートという言葉にアスト殿下は微妙な顔をしていた。



そりゃあ、貴方は小説の登場人物です。と言われてもピンと来ないものだろう。

とりあえず、国の方針としてこの先の私の立場はどうなってしまうのかを

アスト殿下含めて話し合うことにした。



方針はこうだ。

婚約破棄の噂が隣国パナストレイに届く前に、

新しい婚約者を付けて、噂をうやむやにしてしまう作戦に決定した。



その方針を国王陛下に伝えるために、アスト殿下は退室して行った。



「ラナー様。アスト殿下に勝手に話してしまい、申し訳ありません」



私の急な謝罪にキョトンとしたラナー様は、ニッコリと笑って答えた。



「大丈夫よ。すでに、全部説明済みだから」



「そうだったんですね。よかった」



なんでも、王子と仲を深めるために、全て話したあと、

イベントで起こる詳細も話したそうだ。



卒業式までに起こるイベントの詳細は、重要キャラの仮装パーティの服装を

全部見事に当てたことから始まり、『学園の森でリリーナが迷子のフリをして
 
アスト殿下を待ち伏せしている』ことや、

音楽準備室に閉じ込められるイベントもすべて先回りして回避したことから、

信用してもらえたようだった。



先の方針が決まったことにより、私は安心したのかどっと疲れが出てきた。



そのとき――。



「「「きゃああああああ」」」



数人の侍女達の叫び声が聞こえた。

侍女たちの叫び声とともに、沢山の騎士達がなだれ込んで来た。



「何事ですか!? 無礼者!! 下がりなさい!」



騎士達は、ラナー様を取り押さえ始めた。

私も騎士に囲まれてしまっている。



「見つけたぞ。 反逆者どもめ。国王をどこへやった?」



現れたのは、宰相のウルドール公爵だった。



「ウルドール公爵!? これはどういうことなのですか?

 アスト殿下は? 殿下はどこにおられるの?!」


ラナー様の叫びもむなしく、薄い笑みを貼り付けた宰相は

私に向き直り言った。



「貴方は、反逆者どもに利用された哀れな隣国の姫君

 ということになりましたので、おとなしく部屋で待っておられると

 良いでしょう」



ど、どういうことなの?!





「連れて行け」





ラナー様は騎士に連れて行かれた――――。





■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■







しばらくして、部屋の外は静かになった。



扉の前から、かすかに金属の擦れる音が聞こえる。

騎士が監視として立っているものと思われた。



私は、一応武芸も嗜んでいる。

ドルステンに嫁ぐ2年ほど前から騎士の訓練場に行き、

お兄様の剣の稽古の時間に付きあったりもした。



いざとなれば、騎士と戦わなければならない。


早く、ラナー様を助けないと。



私は、壁に飾ってあった儀式用の飾り剣を手に取った。



重い……。

私の剣技は細身のレイピアでスピードを生かしたスタイルだ。

これだと、20も振ったら腕が上がらなくなりそう。

儀式用の剣は、無駄な装飾で見栄えばかり豪華にしてあるので、

実用性はほとんどない。

一応刃は手入れされているので、切れないこともないが……。

一般のロングソードより若干重めだ。



剣帯を首から斜めがけにして、エンパイアラインのドレスは横を破いて

動きやすくした。左右の太ももが丸見えである。



(この世界には無いけど、チャイナドレスに見えなくも無いわね。)



私が考えた作戦。正直やりたくは無い。でも、やらなきゃ。

ラナー様が心配だ。

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