上 下
83 / 98

名前、どうする?

しおりを挟む
数日後。

レダート家当主はイアニスの報告を受け、レダーリア山の整備に着手することを決定。しかし山荷葉の復興に関しては、条件が出された。

「16日以内にダンジョンで300万G稼ぐ事。それがルーシェ…父上から出された条件だ」

ドルトナへ戻ってきたイアニスはそう説明する。
宿屋の食堂にて3人で夕食を取りながら、これからの予定を話し込む。俺は率直な疑問を口にした。

「できそうなのか?それって」
「無理な数字ではない。具体的には…10階層以降のボスを標的に、繰り返し通ってドロップアイテムを集めれば、届くかな」
「10階層か。アラクネだったか?」
「そう、その辺だ。現地に着いたら需要の高い素材を調べないとね。どうも今は、ゴーレムコアが熱いって噂だけど」

できるんだ…300万。

ダンジョンの魔物を倒すと得られるドロップアイテム。倒した魔物によって異なるそれらの品々は、その時の需要によって売値が上下する。だから、高く売れるドロップアイテムが何かを見極めて収集する必要がある。
そういった相場に関係なく高値がつくのが、エリアボスのドロップアイテムだ。総じて質が良く貴重な素材が手に入るらしい。

「えーっと、なら俺はその10階まで車を走らせなきゃならないんだよな?距離はどのくらいなんだ?」
「距離か…中は迷路のように入り組んでいるからね。あまり当てにならないけれども、迷わず進めば半日で辿り着くくらいかな」

そんな強行突破はした事ないから、なんとも言えないが。とイアニスは笑う。
魔物と戦ったり、休息を入れたりしながら進むのが通常のダンジョンアタックで、その場合だと10階へ着くのに2、3日はかかるらしい。どんだけ入り組んでんだよ。

「貴方のナビ頼りだ、シマヤさん。上手くいけば、10と言わず17階層までだって狙えるかもしれない。ちなみに、あのダンジョンの最上階は25階だよ」
「そ、そんなとこまで行かないよな?」
「はは、勿論。流石のリヒャルトさんもヴイーヴル相手に勝ち目はないよ。なあ?」
「おい。他人事みたいなセリフだが、まさか私一人に働かせる気じゃないだろうな。貴様を使い捨ての囮にしてもいいんだぞ?」
「やだなぁ、そんな訳ないだろ。僕たちも加勢するって」

リヒャルトに睨まれて、イアニスは苦笑しながら否定した。僕「たち」とは、彼が引き連れる従魔の事だ。スズメバチくん重労働だな。

ちなみにアラクネというのは半分人間の大蜘蛛で、最上階にいるラスボスのヴイーヴルは半分人間の竜蛇らしい。
怖っ!会いたくねぇ!
というか…蛇人間には勝てなくても、蜘蛛人間には勝てるのか。すげーなこいつら。

その時、ドアが開いてヴァレリアさんが姿を現した。帰りの飛竜を手配したので、再び騒ぎにならないよう街やギルドへ申告しに行ったらしい。それから、顔馴染みとなった冒険者さんたちへの挨拶もしてきたと。

「お祖母様…!お帰りなさいませ。お供もできずに申し訳ありません。人間どもに煩わされませんでしたか?」
「ただいま、リヒャルト。良い良い。互いに明日は街を発つ身だ、気を使うな」

冒険者の皆さんと一触即発となったあの日、帰ってきた一同は驚くほど態度が一転して、和気あいあいとした関係を築いていた。
何でも、冒険者たちの狙う獲物の低質さを嘆いたヴァレリアさんは全員を郊外へとけしかけ、そこらの森林地帯を長らく根城にしていたシルバートレントとかいう魔物(木の化け物らしい)を退治させるに至ったという。

不穏な見知らぬ魔族から大物討伐の立役者となったヴァレリアさんはその日以降「姐さん」「グウィストン嬢」「お姉様」と畏敬を込めて呼ばれるようになり、彼らとは挨拶を交わす仲となっている。
リヒャルトは不愉快極まれるという態度だったが、ヴァレリアさんは満更でもなさそうなのだった。

「若い衆でゆるりと過ごせ。わたくしは年だから、先に休ませてもらうぞ」

ヒラヒラと気安げに手を振ってそう告げる彼女だったが、リヒャルトは一も二もなく立ち上がる。

「この連中との打ち合わせは済みました、お祖母様。ご一緒します。明日からはまた暫くお別れなのですから、お側に居させてください」
「んもーーッ!本っ当に可愛い子だねぇ!お前ときたら!」

孫を猫可愛がりする祖母とおばあちゃん子の孫は、こちらを見向きもせずに仲良く宿の階段を登っていった。イアニスは「まだ済んじゃいないんだけどね…ま、いっか」と笑ってる。

「ヴァレリアさんがいなくなったら、あの面白いリヒャルトも見納めだな。元のキレ芸チンピラ魔族に戻っちまうのか…」
「はは。僕は気持ち悪かったけどね、あのしおらしいリヒャルト」
「まぁ確かに」

しかしなあ、と俺はもぬけの殻になった席を眺めて思う。孫と祖母とはいえ、あの二人が同じ部屋で寝泊まりしてるってどうなんだ。特にリヒャルトよ…あんな目も眩む美女と同伴してるのにケロッとしやがって。まぁ家族なのだから、当然っちゃ当然だが。もっとこう、恥じらいとか遠慮とかせんのか?あれじゃまるで姉妹じゃん…。
そこまで考えて、俺は何とも言えない違和感を覚えた。だがその時は大した気にもならず、出発前夜は更けていくのだった。

そして、翌日。
快適なベッドと涙の別れを果たし、数日間世話になった「虹色瓜亭」を後にする。おはぎとガムドラドさんを迎えに厩へ行くと、そこには街の子供達の姿があった。

「双子のわんわん、また来てねー」
「ええ。またいずれ」
「次はいつ来るんだ?ガオガオダブル」
「サァね」

すっかり子供達に懐かれたガムドラドさんが、横柄に受け答えしている。変なあだ名付けられてるな。
その子達の中には以前泊まった「花売りコカトリス亭」の店主の息子くんもいて、父ちゃんにチクるなよとお願いされた。親に内緒で来てたらしい。

ヴァレリアさんが笑いながら許可を出したことで、彼らはガムドラドさんの赤黒い毛並みを一斉にわしゃわしゃ撫で回した。一通り満足した子供達の「バイバーイ!」という歓声を背に、皆で門へと向かう。

「我らへの接し方に少々難のある存在のようです」
「触られんのはまだいんだが、うるせ~の何のって」
「ウフフ、ご苦労だったね」

ガムドラドさんの愚痴を聞き流しながら門を潜れば、数百メートル離れた先でも巨体だとわかる生物が2体、存在感をありありと放っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移想像 ~理想郷を再現するために頑張ります~

すなる
ファンタジー
ゼネコン勤務のサラリーマンが祖父の遺品を整理している中で突如異世界に転移してしまう。 若き日の祖父が言い残した言葉に導かれ、未知の世界で奮闘する物語。 魔法が存在する異世界で常識にとらわれず想像力を武器に無双する。 人間はもちろん、獣人や亜人、エルフ、神、魔族など10以上の種族と魔物も存在する世界で 出会った仲間達とともにどんな種族でも平和に暮らせる街づくりを目指し奮闘する。 その中で図らずも世界の真実を解き明かしていく。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

闇ガチャ、異世界を席巻する

白井木蓮
ファンタジー
異世界に転移してしまった……どうせなら今までとは違う人生を送ってみようと思う。 寿司が好きだから寿司職人にでもなってみようか。 いや、せっかく剣と魔法の世界に来たんだ。 リアルガチャ屋でもやってみるか。 ガチャの商品は武器、防具、そして…………。  ※小説家になろうでも投稿しております。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

サフォネリアの咲く頃

水星直己
ファンタジー
物語の舞台は、大陸ができたばかりの古の時代。 人と人ではないものたちが存在する世界。 若い旅の剣士が出逢ったのは、赤い髪と瞳を持つ『天使』。 それは天使にあるまじき災いの色だった…。 ※ 一般的なファンタジーの世界に独自要素を追加した世界観です。PG-12推奨。若干R-15も? ※pixivにも同時掲載中。作品に関するイラストもそちらで投稿しています。  https://www.pixiv.net/users/50469933

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

処理中です...