77 / 110
3
しおりを挟む
「僕とリヒャルトと一緒に、王都でダンジョン攻略をしませんか?」
全くもって予想外の提案に面くらってしまう。俺はとりあえず卵を飲み込むと、相変わらずの穏やかな糸目顔へ尋ねた。
「ダンジョンって、なんで俺が…?」
「これからの旅の資金を調達できますよ」
「そんな事言ったって……すんげー命懸けだろ?」
「確かに危険な場所だね。サンカヨウ跡地のもどきとは違う、本物のダンジョンだから」
王都の近隣にあるダンジョンは、森の中にぽっかりと聳え立つ巨塔だそうだ。
500年前の手記にも載っていたのなら、当時の魔境より長生きしてるって事じゃん。そんなガチな所に行けってのか?一体何を言い出すんだこいつは!
「あのなぁ、イアニス。分かってくれてると思うけど、俺はそういうの素人だよ。冒険者登録はしていても、冒険者と呼べるような技量は全く無い。そんな危険な場所には行かれないよ」
俺は首に下げたギルドカードを突きつけた。刮目しろ、このEランクの証を!
「もちろん、シマヤさんを魔物の闊歩するダンジョンへただ放り込むなんて事はしません。貴方にはそのスキルで、僕らのサポートをしてもらいたいんです」
曰く、魔物と対峙したり罠を潜り抜けたりは全て二人が請け負う。その代わり、ナビの地図でルートを確保しつつ、ステルスモードの車をセーフティエリアとして提供してもらいたいと。
「無茶はさせません。こうして誘ったからには、レダート家の名にかけて貴方の身を守ります。そもそも共にダンジョンへ潜る時点で、僕らには下位ランクの者を補助する義務が発生するんだ。これはギルドの決まりなので、途中でシマヤさんを見捨てる、なんて事はできないんです。破った場合、僕らは冒険者を名乗れなくなります」
本来、王都にあるダンジョンへ挑めるのはCランク以上の者に限られている。D・Eランクの者が入るには、上位ランクの者の付き添いが必要だという。いわゆる、冒険者チームだ。
要するにリヒャルトとイアニスが付き添えば、俺でもダンジョンに入れてしまうらしい。
だけど……ギルドの決まり、ねぇ…。
俺がおはぎなら「じゃあ安心!」となるのだろう。しかし、とてもそんな風には思えなかった。
「とはいえ、出現する魔物やトラップなどは命の危険が伴う。それらの中を安全に進むため、僕らの指示には従って欲しい。…この提案は、僕から貴方へのお願いです。引き受けてくれるなら、それに対しての依頼料を僕がお支払いします。その上で、ダンジョンで入手した物も山分けして差し上げます」
「い、いや…せっかくだけど」
突然どうしてそんな事を言い出したのか気になるが、ひとまずそれは置いとこう。お断りせねば。
ベラトリアでは、信頼に足るラスタさんがいたから勇気を振り絞って魔境をうろつくことができた。しかし、とてもじゃないが目の前の糸目くんに同じ信頼は抱けなかった。脅してきたしな、こいつ。
というか、イアニスはまだいい。問題はもう一人だ。一歩間違えれば命を落としかねない危険な場所で、リヒャルトのような奴と行動を共にするのは非常に不安だった。
「イアニス。何だかんだで、お前らがそんなに悪い奴じゃないのは分かってるんだけどさ。だからって命を預けられるかといえば別だ。正直な。そりゃあ、先立つものは欲しいけど、ここでうっかり死んだら元も子もないだろ?」
「……うん。それも当然だね」
静かな声に、俺は内心身構える。また脅されるんだろうか…。
「無茶を言っているのは重々承知だが、それでも、もう一度考えてくれないだろうか。一度試してみて、こんなの無理だと判断したらそれ以上は引き止めないと約束するよ」
意に反して、彼は頼み込む姿勢を崩さずお願いしてきた。しつこく食い下がるな。
「そうはいっても、絶対安全とは言い切れないんだろう?」
「可能な限りの護衛は果たす、としか言えないです。ダンジョンという場所柄、安全を保証はできないからね」
「安請け合いの返事でないとこは、多少信頼できるけど……。大体、リヒャルトにはこの話通してるのか?」
「いいや、まだだよ。あいつも乗るとは思うけどね。貴方のスキルを目の当たりにしたし」
「そうなの?うーん。そもそもあの車、言うほどダンジョンで役立つか?使いどき難しい気がするんだけど」
「…とんでもない。とんでもないよ、シマヤさん」
イアニスは冷めかけてきたスープをひとさじ口に運び、滔々と語りだした。
「ダンジョンは一度入れば容易には引き返せない。準備に当てた労力を考えるとね。なのに、ひとたび食料や装備が尽きれば予期せぬ退却を強いられる。最悪それもできずに死ぬ。そんな環境でも、シマヤさんのスキルがあれば魔物を素通りできる。内部の地図が表示されるだけでなく、指定場所までの道順まで示してくれる」
ああなるほど。地図か。
そういえばラスタさんにも「魔境の全景マップ出るなんてすごい」みたいな事を言われたな。
「でも、魔物を素通りできるかは、中の道幅によるぞ。狭い道はステルスで通れないんだから。それに、車に隠れてるだけじゃ魔物を倒せないだろ?ドロップアイテム貰えないよ」
「そこはリヒャルトと僕の出番だ。道中の魔物を回避して進み、消耗ゼロの状態でエリアボスに挑む。その間シマヤさんは、安全なクルマで待機しててもらう。ボスが落とすドロップ品は格別だ。繰り返せば、いい稼ぎになる」
「いやいやいや…そんな上手くいく?」
「いけば、サンカヨウの復興費がだいぶ賄える」
ここで山荷葉が出てきた。どうやらそれが目的だったようだ。
あのボロボロ廃墟を復活させるって…。え?そんな額稼げるの?
「道幅は問題ない。多少狭い通路があるかなってくらいだ」
「でも、一緒に行くのがあのリヒャルトってのがちょっと。あいつっていなきゃダメか?」
「ぷっ………。残念だけど、僕の力だけでボスを倒しきるのは無理だ」
あまりの言われように吹き出しつつ、イアニスはそう答える。
全くもって予想外の提案に面くらってしまう。俺はとりあえず卵を飲み込むと、相変わらずの穏やかな糸目顔へ尋ねた。
「ダンジョンって、なんで俺が…?」
「これからの旅の資金を調達できますよ」
「そんな事言ったって……すんげー命懸けだろ?」
「確かに危険な場所だね。サンカヨウ跡地のもどきとは違う、本物のダンジョンだから」
王都の近隣にあるダンジョンは、森の中にぽっかりと聳え立つ巨塔だそうだ。
500年前の手記にも載っていたのなら、当時の魔境より長生きしてるって事じゃん。そんなガチな所に行けってのか?一体何を言い出すんだこいつは!
「あのなぁ、イアニス。分かってくれてると思うけど、俺はそういうの素人だよ。冒険者登録はしていても、冒険者と呼べるような技量は全く無い。そんな危険な場所には行かれないよ」
俺は首に下げたギルドカードを突きつけた。刮目しろ、このEランクの証を!
「もちろん、シマヤさんを魔物の闊歩するダンジョンへただ放り込むなんて事はしません。貴方にはそのスキルで、僕らのサポートをしてもらいたいんです」
曰く、魔物と対峙したり罠を潜り抜けたりは全て二人が請け負う。その代わり、ナビの地図でルートを確保しつつ、ステルスモードの車をセーフティエリアとして提供してもらいたいと。
「無茶はさせません。こうして誘ったからには、レダート家の名にかけて貴方の身を守ります。そもそも共にダンジョンへ潜る時点で、僕らには下位ランクの者を補助する義務が発生するんだ。これはギルドの決まりなので、途中でシマヤさんを見捨てる、なんて事はできないんです。破った場合、僕らは冒険者を名乗れなくなります」
本来、王都にあるダンジョンへ挑めるのはCランク以上の者に限られている。D・Eランクの者が入るには、上位ランクの者の付き添いが必要だという。いわゆる、冒険者チームだ。
要するにリヒャルトとイアニスが付き添えば、俺でもダンジョンに入れてしまうらしい。
だけど……ギルドの決まり、ねぇ…。
俺がおはぎなら「じゃあ安心!」となるのだろう。しかし、とてもそんな風には思えなかった。
「とはいえ、出現する魔物やトラップなどは命の危険が伴う。それらの中を安全に進むため、僕らの指示には従って欲しい。…この提案は、僕から貴方へのお願いです。引き受けてくれるなら、それに対しての依頼料を僕がお支払いします。その上で、ダンジョンで入手した物も山分けして差し上げます」
「い、いや…せっかくだけど」
突然どうしてそんな事を言い出したのか気になるが、ひとまずそれは置いとこう。お断りせねば。
ベラトリアでは、信頼に足るラスタさんがいたから勇気を振り絞って魔境をうろつくことができた。しかし、とてもじゃないが目の前の糸目くんに同じ信頼は抱けなかった。脅してきたしな、こいつ。
というか、イアニスはまだいい。問題はもう一人だ。一歩間違えれば命を落としかねない危険な場所で、リヒャルトのような奴と行動を共にするのは非常に不安だった。
「イアニス。何だかんだで、お前らがそんなに悪い奴じゃないのは分かってるんだけどさ。だからって命を預けられるかといえば別だ。正直な。そりゃあ、先立つものは欲しいけど、ここでうっかり死んだら元も子もないだろ?」
「……うん。それも当然だね」
静かな声に、俺は内心身構える。また脅されるんだろうか…。
「無茶を言っているのは重々承知だが、それでも、もう一度考えてくれないだろうか。一度試してみて、こんなの無理だと判断したらそれ以上は引き止めないと約束するよ」
意に反して、彼は頼み込む姿勢を崩さずお願いしてきた。しつこく食い下がるな。
「そうはいっても、絶対安全とは言い切れないんだろう?」
「可能な限りの護衛は果たす、としか言えないです。ダンジョンという場所柄、安全を保証はできないからね」
「安請け合いの返事でないとこは、多少信頼できるけど……。大体、リヒャルトにはこの話通してるのか?」
「いいや、まだだよ。あいつも乗るとは思うけどね。貴方のスキルを目の当たりにしたし」
「そうなの?うーん。そもそもあの車、言うほどダンジョンで役立つか?使いどき難しい気がするんだけど」
「…とんでもない。とんでもないよ、シマヤさん」
イアニスは冷めかけてきたスープをひとさじ口に運び、滔々と語りだした。
「ダンジョンは一度入れば容易には引き返せない。準備に当てた労力を考えるとね。なのに、ひとたび食料や装備が尽きれば予期せぬ退却を強いられる。最悪それもできずに死ぬ。そんな環境でも、シマヤさんのスキルがあれば魔物を素通りできる。内部の地図が表示されるだけでなく、指定場所までの道順まで示してくれる」
ああなるほど。地図か。
そういえばラスタさんにも「魔境の全景マップ出るなんてすごい」みたいな事を言われたな。
「でも、魔物を素通りできるかは、中の道幅によるぞ。狭い道はステルスで通れないんだから。それに、車に隠れてるだけじゃ魔物を倒せないだろ?ドロップアイテム貰えないよ」
「そこはリヒャルトと僕の出番だ。道中の魔物を回避して進み、消耗ゼロの状態でエリアボスに挑む。その間シマヤさんは、安全なクルマで待機しててもらう。ボスが落とすドロップ品は格別だ。繰り返せば、いい稼ぎになる」
「いやいやいや…そんな上手くいく?」
「いけば、サンカヨウの復興費がだいぶ賄える」
ここで山荷葉が出てきた。どうやらそれが目的だったようだ。
あのボロボロ廃墟を復活させるって…。え?そんな額稼げるの?
「道幅は問題ない。多少狭い通路があるかなってくらいだ」
「でも、一緒に行くのがあのリヒャルトってのがちょっと。あいつっていなきゃダメか?」
「ぷっ………。残念だけど、僕の力だけでボスを倒しきるのは無理だ」
あまりの言われように吹き出しつつ、イアニスはそう答える。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった
根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

おじさんが異世界転移してしまった。
明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。
が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。
それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。
漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。
生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。
タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。
*カクヨム先行公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる