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冒険者といえばのお仕事

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自分の好き勝手に生きるのって、案外難しいものなんだなぁ。
そんな哲学的な気分に浸りつつ、着物と帯を適当にたたみ終えた俺は上着を着用。そして、ずっと持ちっぱなしになっていた咲良さんの手記を取り出し、着物のそばに置いた。危うく持って行っちまう所だったよ…。

「それにしても我が孫ながら、何という豪運の持ち主だろうねぇ。魔導のオーブをたまたま手に入れ、神々の眷属たる精霊とあいまみえたと思ったら、その次には異世界人とでくわすとは」

ヴァレリアさんはそう言って半ば呆れたように笑った。改めて聞くと、とんでもないな。
あれ、でもあのお騒がせ水晶はイアニスのじゃなかったか?おかしいな。

「それこそが精霊の導きだったのやもしれぬが、にしても偶然とは思えぬほどだの。これはもう、サンカヨウを再興せよという事なのだろう。ウンウン」
「……温泉など…ハァ……」
「これ。何じゃそのため息は」
「い、いいえ。その、あの廃墟を復興するのは並大抵の事ではありません。それに、宿の商いなど私にはどうすれば…」
「ふむ。その辺はあの小僧の手を借りねばならんだろうね。友人相手なら、問題なかろう?」
「あんな奴、友などではありません!便利な小間使いです」
「ウフフ。そうであったか」

ヴァレリアさんは微笑ましそうにリヒャルトへ頷き、その目を不意にこちらへ向けた。黄緑色の高貴な輝きを纏った瞳と目が合い、途端に緊張してしまう。

「さっきから黙って立っておるが、どうだ?お前もあそこが復興されれば喜ばしいであろう」
「は、はいっ。そうですね」
「聞けばサンカヨウの創設者は、お前と同郷の異世界人だという話だったな。であればあの地は、この世界に2つとない故郷所縁の場所というわけだ。これも我が孫に出会えたからこその幸運だ。感謝するが良い」
「あーっと……ソウデスネ」

流石の傲慢さだが、リヒャルトとは比較にならない程の貫禄のせいか反感がわかない。むしろ彼女が言うなら本当にありがたい事のような気すらしてくるから、相当だ。

「あ、そうだ。これ借りてたんですけど、ここに置いておきますね。その山荷葉の支配人の日記です」

ちゃんと返したからね、と念押しのために声をかけると、ヴァレリアさんはなんでもないような顔をして言った。

「おお、それな。お前はそれを明日までに翻訳して、別紙に書き写しておくのだよ。わかったか?」
「ん?え?」

突然の申し出に思わず聞き返すと、ヴァレリアさんはリヒャルトへ向けていたのとは明らかに違う笑みを浮かべて繰り返した。美女の圧、半端ない。

「お前は旅の途中であろう?明日に出発するのなら、明日までに頼んだぞ。きちんと書き写すように」
「あ、いや…貰うもの受け取ったら、今日にでも出発しようかと…」
「おお、それはせっかちな。色々と異世界の話も聞きたかったが、残念だ。では、今すぐ取り掛かるが良いぞ。リヒャルトや、道具を持っているか?」
「ペンと紙ならございます。……ほらよ」

リヒャルトはアイテムボックスからインクとペンと便箋数枚を取り出すと、ポカンとする俺に強引に押し付けた。
ちょっと待ってちょっと待って…!翻訳って、いつそんな話が出た?しかも当然のように、それが終わるまで帰さないみたいな流れになってない!?

「この手記は、我々にとって重要な情報源。これからサンカヨウを興すのに、なくてはならぬものだ。くれぐれもよろしくの」
「で、でも、あの…」
「でも、だと?貴様ごときに断る権利はない、黙って従え!この方を誰だと思っている!」

うわぁ、こいつは相変わらずムカつくな。そのでかい声が良くないよ…ヴァレリアさんの足元にも及ばぬ。

あのさ、いい加減もう無理だよ。いつまであんたらに引っ張り回されなきゃいけないんだ?俺にだって都合があるんだよ!
………なんていうセリフは、喉元に留まって外から出られなかった。お祖母様とガムドラドさんが怖すぎる。
くそ、でもこれだけは言わせてもらうぞ。

「わかりました。でも、これが終わったら今度こそ俺は出発します。温泉興し頑張ってください」
「良い返事だの」
「フン」
「故人とはいえ人様の日記だから、温泉に関わりのありそうな所だけにしますね」
「仕方ないか…時間もないのなら、それでよかろう」

全く、めんどくさいな…。当てつけになるかは分からんが、例の温泉名付け夫婦の箇所は絶対に入れてやる。

「キィ~?」

どこ行くの?と聞きながら、おはぎはピューッとこちらへ飛んでくる。ペンと紙を持つ俺の腕に着地して、危うくインク瓶を落としかけた。

「あぶねっ!……そういや、こいつって宿に一緒に泊めていいのか?」
「キィ(いいよ)」
「お前に聞いてないって…」
「従魔は従魔同伴可能の宿でなければ連れてはゆけぬぞ。店側の迷惑になろう」

やっぱりそうだよな。普通に考えて、宿屋や飯屋にコウモリが入り込むのは厳禁だろう。
ヴァレリアさんは「この街にそんな宿があるとは思えんが、あの小僧はどうするつもりだろうねぇ」と静かに笑っている。なんとかする以外の選択肢はない、とその顔が告げていた。完全に会社の上司の顔だ。

「断られても最悪、その毛玉だけガムドラドと共にいさせれば良い。どうだ?」
「キィー!(やったぁ!)」
「お、おい!何いってんだ!お前なんて一口で食われちまうぞ!」

何故かノリ気の毛玉に思わずツッコミを入れると、ガムドラドさんは金色の目を爛々と光らせて牙を剥き出した。どうやら、笑っているようだ。

「心配しなくても、そんなことはしませんよ」
「そーそー。つーか食えるミが少な過ぎてオヤツにもなりゃしねぇよ。なぁ?」
「キィ!」

じゃあ安心!とおはぎは呑気なことを言っている。いや、安心すな。そんな理由で懐く奴がどこにいる。


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