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権力にものをいわせて慰謝料をふんだくるぞ、と暗に脅された俺は、かくしてイアニスの言いなりとなった。さっきからもう、踏んだり蹴ったりの泣きっ面に蜂である。
それにね、と彼はダメ押しの如くこう告げた。
「シャムドフ様からはっきり『この若者を助けろ』と頼まれたのなら、無碍にはできないよ。不興を買ってはバチが当たるかもしれない。御神酒をかすめとった人のようにね」
俺からすれば、あの爺様が精霊だというのが未だ半信半疑だった。でもイアニスやリヒャルトはそうでないらしい。
しかし冷静に考えてみると、普通の人ではあり得ないのは確かだ。
俺が日本から来た事はこの世界の誰にも話していないのに、知っていた。スキルにしてもそうだ。確かにカーナビは目的地に固有名詞を入れるのが手っ取り早いが、そんな事を異世界の者が把握している筈がない。しかしあの爺さんは「地名があれば導きやすかろう」などと言って俺にダンジョンもどきの名前を教えた。
服が乾いてたり刺青が光ってたりと、不思議な点もあった。魔力も相当高いらしいし……って、あの水晶オーブにヒビが入った原因は、あいつにもあるのでは?
「さて。当初の予定通りこれからダンジョンへ向かうとして…ちょっと整理してみようか」
イアニスはそう言うと、リヒャルトから聞き出した話をまとめた。
「……リヒーの見つけたダンジョンもどきは、かつて多くの者が訪れた憩いの場所で、そこを治める長がいた。ダンジョンになりつつあるその場所を再興させれば、大金持ちになれると」
「そんなものより、ダンジョンだ…!私の目的は、小金を稼ぐ、ことなどでは、ない。人間どもじゃ、あるまいし…!」
「けれど、その点については協力できないとの仰せだろう?」
確かにそう言ってたな、と俺は思い返す。魔王や魔境に関する望みは叶えてやれない、と。精霊爺さんは酒をくれたリヒャルトへの恩返しに、一財築けと言ってたのだが……。
「…お宝でもあるんかな?」
「どうだろう。ダンジョンといってもなりかけでは、大層なものを生み出せないはず。あるとすれば、シャムドフ様の仰られた『装束』のことかもね」
ふーん。そこが憩いの場だった時代に残されたお宝、てことか…。
「それでシャムドフ様が仰るには…シマヤさんは異世界人で、リヒャルトが装束を手にする助けになるスキルを持っているとの事ですが」
話をふられ、二人の視線が刺さる。痛ぇよ…。優しいラスタさんにすら打ち明ける勇気が出なかったのに、こんな厄介な連中にカミングアウトを強いられるとは。
「異世界というのは分かりかねるんで、ひとまず置いといて……あなたのスキルについて教えてください」
「ダンジョンに、導くというのは…どういう事だ?」
それぞれに尋ねられる。もう白状するしかなさそうだ。
俺は手のひらにキーを取り出して小屋の中をサッと見渡す。車を出す広さは、充分ありそうだ。
「ええと。俺のスキルは異世界自動車といって、自力で動く乗り物を出せるんだ」
そう言ってロックを開けると、ガチャリと音をたてて軽がスーッと現れた。ずいぶん久しぶりに見たような気がするな。
突然何もない所から出現した黒い車体に、二人はピキッと固まった。おはぎコウモリも驚いたのか「ギギッ!?」と鳴き声を上げ、急いで木箱の影へ飛び去ってしまった。
「こ、こりゃ一体……何でできてるんだ?錫?」
「確かに車輪が、着いているが…どうやって、動くのだ…?」
「本当はガソリンを燃料にして動くんだけど…この車は魔力で動く。それで、あの精霊様が言っていた導くっていうのは、これに付いてる道案内機能の事だと思う」
俺は車に入り込み、エンジンをかける。エンジン音と共に震えだす車を前に「わ!?」「うっ!」「ギィーッ!」と三者三様の反応を示す彼らをおいといて、ナビが起動するのを待った。
起動したナビ画面を指さすと、イアニスが恐る恐る近づいて覗きこむ。リヒャルトも木箱伝いに立ち上がるとそれに続いた。「動くなよ…!」と車に向かって威嚇している。いや乗り物だってば。
「カーナビと言って、ここに目的地を入れると、道順を案内してくれるんだ。オイ、あんた。そのダンジョンもどきってかなり遠いのか?」
リヒャルトへ尋ねると、彼は車内を見回しながら答える。
「ここから、ならば……5日程度だ。何事もなければ」
「徒歩で5日か…」
「レダーリア山の、山奥だぞ…こんなものが、通れる舗道なぞ…ありはせん」
山かよ。歩いて5日なら、車で数時間で済みそうだったが……登山となると全然違うよな。
「レダーリア山って…一人でそんな場所に入ったのか?」
イアニスが驚いている。レダーリア山は辺境をまたぐ山峰で、碌な恵みのない上に険しくわざわざ立ち寄る者はいないという。
リヒャルトが入った際は万全の準備を整え、道中数回は命綱をつけてのクライムまで行ったらしい。天候で足止めを余儀なくされ、片道7日の登山の果てにその場所へ辿り着いた。
す、凄いな。なんという執念だ。
それまでリヒャルトには悪感情しか沸かなかったが、素直に感嘆してしまった。そんな険しい山奥へ一人でウロついて、誰も知らなかったダンジョンを見つけ出したのか。まさに冒険者だ。
それはさておき…。リヒャルトの言う通り、車で行ける所なのか疑問だな。ジズが必要かもしれない。
「ひとまず入れてみるか…ええっと、めぐりゆ……めぐりゆ、あれ。何だっけ?」
「何故、そんな事も…おぼえて、いられないのだ?サンカヨーだ…メグリユ、サンカヨー…」
リヒャルトにガチのトーンで呆れられる。しょうがないだろ…いきなり異世界人バレして、内心それどころじゃなかったんだよ。
イラッとしながらも、手早くポチポチと入力。すると、間髪入れず地図とルートが表示された。
ここからだと北西に位置する山だった。なるほど峠道らしく、くねくねしている。所要時間は2時間18分で、ゴール地点には正式名称らしきものが表示されている。
めぐり湯温泉・山荷葉 跡地
「「「……温泉?」」」
全員の声が綺麗にハモった。
それにね、と彼はダメ押しの如くこう告げた。
「シャムドフ様からはっきり『この若者を助けろ』と頼まれたのなら、無碍にはできないよ。不興を買ってはバチが当たるかもしれない。御神酒をかすめとった人のようにね」
俺からすれば、あの爺様が精霊だというのが未だ半信半疑だった。でもイアニスやリヒャルトはそうでないらしい。
しかし冷静に考えてみると、普通の人ではあり得ないのは確かだ。
俺が日本から来た事はこの世界の誰にも話していないのに、知っていた。スキルにしてもそうだ。確かにカーナビは目的地に固有名詞を入れるのが手っ取り早いが、そんな事を異世界の者が把握している筈がない。しかしあの爺さんは「地名があれば導きやすかろう」などと言って俺にダンジョンもどきの名前を教えた。
服が乾いてたり刺青が光ってたりと、不思議な点もあった。魔力も相当高いらしいし……って、あの水晶オーブにヒビが入った原因は、あいつにもあるのでは?
「さて。当初の予定通りこれからダンジョンへ向かうとして…ちょっと整理してみようか」
イアニスはそう言うと、リヒャルトから聞き出した話をまとめた。
「……リヒーの見つけたダンジョンもどきは、かつて多くの者が訪れた憩いの場所で、そこを治める長がいた。ダンジョンになりつつあるその場所を再興させれば、大金持ちになれると」
「そんなものより、ダンジョンだ…!私の目的は、小金を稼ぐ、ことなどでは、ない。人間どもじゃ、あるまいし…!」
「けれど、その点については協力できないとの仰せだろう?」
確かにそう言ってたな、と俺は思い返す。魔王や魔境に関する望みは叶えてやれない、と。精霊爺さんは酒をくれたリヒャルトへの恩返しに、一財築けと言ってたのだが……。
「…お宝でもあるんかな?」
「どうだろう。ダンジョンといってもなりかけでは、大層なものを生み出せないはず。あるとすれば、シャムドフ様の仰られた『装束』のことかもね」
ふーん。そこが憩いの場だった時代に残されたお宝、てことか…。
「それでシャムドフ様が仰るには…シマヤさんは異世界人で、リヒャルトが装束を手にする助けになるスキルを持っているとの事ですが」
話をふられ、二人の視線が刺さる。痛ぇよ…。優しいラスタさんにすら打ち明ける勇気が出なかったのに、こんな厄介な連中にカミングアウトを強いられるとは。
「異世界というのは分かりかねるんで、ひとまず置いといて……あなたのスキルについて教えてください」
「ダンジョンに、導くというのは…どういう事だ?」
それぞれに尋ねられる。もう白状するしかなさそうだ。
俺は手のひらにキーを取り出して小屋の中をサッと見渡す。車を出す広さは、充分ありそうだ。
「ええと。俺のスキルは異世界自動車といって、自力で動く乗り物を出せるんだ」
そう言ってロックを開けると、ガチャリと音をたてて軽がスーッと現れた。ずいぶん久しぶりに見たような気がするな。
突然何もない所から出現した黒い車体に、二人はピキッと固まった。おはぎコウモリも驚いたのか「ギギッ!?」と鳴き声を上げ、急いで木箱の影へ飛び去ってしまった。
「こ、こりゃ一体……何でできてるんだ?錫?」
「確かに車輪が、着いているが…どうやって、動くのだ…?」
「本当はガソリンを燃料にして動くんだけど…この車は魔力で動く。それで、あの精霊様が言っていた導くっていうのは、これに付いてる道案内機能の事だと思う」
俺は車に入り込み、エンジンをかける。エンジン音と共に震えだす車を前に「わ!?」「うっ!」「ギィーッ!」と三者三様の反応を示す彼らをおいといて、ナビが起動するのを待った。
起動したナビ画面を指さすと、イアニスが恐る恐る近づいて覗きこむ。リヒャルトも木箱伝いに立ち上がるとそれに続いた。「動くなよ…!」と車に向かって威嚇している。いや乗り物だってば。
「カーナビと言って、ここに目的地を入れると、道順を案内してくれるんだ。オイ、あんた。そのダンジョンもどきってかなり遠いのか?」
リヒャルトへ尋ねると、彼は車内を見回しながら答える。
「ここから、ならば……5日程度だ。何事もなければ」
「徒歩で5日か…」
「レダーリア山の、山奥だぞ…こんなものが、通れる舗道なぞ…ありはせん」
山かよ。歩いて5日なら、車で数時間で済みそうだったが……登山となると全然違うよな。
「レダーリア山って…一人でそんな場所に入ったのか?」
イアニスが驚いている。レダーリア山は辺境をまたぐ山峰で、碌な恵みのない上に険しくわざわざ立ち寄る者はいないという。
リヒャルトが入った際は万全の準備を整え、道中数回は命綱をつけてのクライムまで行ったらしい。天候で足止めを余儀なくされ、片道7日の登山の果てにその場所へ辿り着いた。
す、凄いな。なんという執念だ。
それまでリヒャルトには悪感情しか沸かなかったが、素直に感嘆してしまった。そんな険しい山奥へ一人でウロついて、誰も知らなかったダンジョンを見つけ出したのか。まさに冒険者だ。
それはさておき…。リヒャルトの言う通り、車で行ける所なのか疑問だな。ジズが必要かもしれない。
「ひとまず入れてみるか…ええっと、めぐりゆ……めぐりゆ、あれ。何だっけ?」
「何故、そんな事も…おぼえて、いられないのだ?サンカヨーだ…メグリユ、サンカヨー…」
リヒャルトにガチのトーンで呆れられる。しょうがないだろ…いきなり異世界人バレして、内心それどころじゃなかったんだよ。
イラッとしながらも、手早くポチポチと入力。すると、間髪入れず地図とルートが表示された。
ここからだと北西に位置する山だった。なるほど峠道らしく、くねくねしている。所要時間は2時間18分で、ゴール地点には正式名称らしきものが表示されている。
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「「「……温泉?」」」
全員の声が綺麗にハモった。
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