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詐欺師の手口は世界共通

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そんなこんな2日の旅を経て、二人は何の収穫もないままドルトナの街壁を目にしていた。
リヒャルトは不機嫌なしかめ面だが、対してイアニスの心は軽やかだ。

「どうなっている…予想以上にシケた連中しかいないではないか。この辺りには、天空都市に挑む猛者が集うと聞いていたのに…」

レダート領に属するこのドルトナの街は、グリフォンの群生地である岩の峡谷、そしてその上空に浮かぶ魔境「天空都市・ベラトリア」に一番近い位置にある街だ。
魔境を目指す命知らずや実力者が一定数現れるという話だったが、道中出会った連中にそんな気概は感じられなかった。

「王家がとうとう勇者ラスタの遭難を認めたからね…お陰様で、すっかり冒険者の足も遠のいたよ」

聖剣に選ばれた勇者であり、元Sランク冒険者であった人物が消息を絶った事で、冒険者ギルドはベラトリアへの規制を大幅に強めた。辺境で、元々人の行き来が少ないドルトナはすっかり閑古鳥が鳴く有様となっている。

「元から盛況とは言い難い田舎だけどさ…はぁ…」
「貴様の領地の景気など、どうでもいい。これでは魔力豊富な生贄を集められんではないか!」
「そうだね。もう諦めようよ」
「ここまで来といて何を言う!まだ街の向こう側があるだろうが。折角なら、向こう側もさらうぞ」
「その前に、君のお祖母様へ連絡をとるんだよ」
「くどいぞ!分かっているわ!」

この2日で空はすっかり様変わりしてしまった。降り出しそうな天気の下を、二人は進んでいく。
検問所が見えてきた。冒険者や、彼らに護衛された馬車が列を作っている。

「リヒー、言っておくがあの人たちへ突撃するのは無しだよ。あっという間に検兵を呼ばれて、街に入れなくなってしまう」
「フン。仕方ない……」

屋台からの良い匂いが漂い始めた頃、リヒャルトの目がふと街道からそれて歩く人影を捉える。その人物の風貌に、ピンときた彼はイアニスへ声をかけた。

「おい、やつを見ろ。恐らく魔法使いだぞ」
「言ったそばからこいつは。やめろっての」
「ここまで離れてれば問題ない!それよりあの丸腰野郎だ。余程のアホか、魔術に覚えがあるかのどちらかだ」

指された先を見れば、軽装の男が一人で林に向かおうとしている。本当だ。剣も杖も持っていない。
杖や魔法陣などの媒介もなしに攻撃魔法を使える人間は珍しいが、もしそうなら確かに実力者だ。

しかし間の悪い人だ。どういう訳か知らないが、あんな人気のない場所へわざわざ自分から向かっていくとは。不審者かな。
いずれにせよ、隣りにいる暴走迷惑男の恰好の的だった。

イアニスは制止を諦めて、リヒャルトの一歩後ろで成り行きを見守ることにした。

「おい!そこの人間!」


ーーー


ドルトナの街を出た島屋が突然上がった声の方を振り向くと、冒険者風の人物が二人こちらへやってくるのが見えた。

「は、はい?俺に言ってる?」

ずんずんとやって来る黒髪の男に気圧されつつもたずねれば、「貴様しかおらんだろう」と偉そうに返された。何だこいつは。
近くで見ると若い。高校生くらいだろうか。革の鎧にマントと短剣。冒険者の装いがバッチリ似合っていて、旅慣れしているのが俺でもわかった。

この世界の人の髪や目はいろんな色をしている。彼もまた、街で換金したお宝のルビーみたいに綺麗な色の目だった。

「いいか、口答えせずに黙って従えよ。煩いのはもううんざりだ」

でも態度は最悪だった。いやマジで何だよ、こいつ。
赤目男子は何もない空間からぱっと何かを取り出すと、俺の前に突き出す。えっ、今のは魔法か?

その手には占い師が持つような水晶玉が掲げられている。台座におさまった透明の玉は野球ボールより少し大きいほどで、不思議な模様が刻まれてあった。

「これに手を触れろ。魔導のオーブだ。貴様の魔力を測ってやる」
「と、突然なに?マジシャンの人?それは?」
「だから魔導のオーブだ!耳が無いのか貴様?!」
「失礼。我々はこの辺りを拠点にしている冒険者です。私はイアニス。この無礼者はリヒャルトといいます」

赤目男子の後ろに控えていたもう一人の子が、取り持つように話しかけてきた。落ち着いたブロンドの髪に細い目。髪色と同じく落ち着いた雰囲気の男は、おそらく赤目男子と同い年だろう。
二人一組の冒険者か。こんなに若いのに、すごいな。

「これは魔導のオーブといって、触れたものの魔力量などを鑑定するものです。害はありません」
「え、鑑定?それはちょっと…」
「貴様の意見など聞いダッ!?」
「まぁまぁ。料金をとったりしませんし、せいぜい魔力の量や属性を判定するだけの物です」

赤目男子は上から目線で何か言いかけたようだが、糸目男子がそいつの足を踏みつけて遮った。

俺は魔導のオーブとかいう玉と男子たちを交互に見やった。怪しい。何のためにそんな事やってるんだ?
鑑定って、どっかに金を払ってしてもらうものだよな。どうしてこんな場所でそんな真似を…ひょっとして、詐欺か。
もし詐欺の類なら、断固とした態度でいないとカモられてしまう。

「悪いけど、結構です。先急ぐんで」
「貴様っ!何をする!?」
「少しは穏便に済ませようとしてくれよ。その方が手っ取り早く済むんだから」

足を踏まれて怒った赤目男子を、糸目男子が諌めている。俺の渾身のセールスお断り台詞は、スルーされてしまった。なんだよ、もう。行っていいか。
そーっとその場を離れようとした俺に、赤目男子は厳しい顔で詰め寄った。

「おい待て貴様!こいつを試せと言ってるだろう!」
「あ!こら、強引な事をするなって--」

糸目男子が焦ったように忠告するのを無視して、赤目男子は俺に水晶玉を押し付けてくる。落としたら大変だと、反射的に手を伸ばしてしまった。
受け取って触れたとたん、その水晶は強烈に光りだした。

-ピシッ

手のひらへ微かに伝わる衝撃。ギョッとして思わず目を向けると、とたんに強い光を直視してしまう。ぐわっ、目がーっ!

目が眩んでしどろもどろになりながらも、俺は悟る。今、これにヒビが入ったような感触がした。やばい、壊した。

…いいや、違う。これはやはり詐欺だ。壺や絵をわざと壊させ「傷をつけた、弁償しろ」て高額払わせようとしてくるやつ!完全にヤ○ザの手口だ。

「ちょっと!要りません、返します!」
「何だ貴様は!一体何者だ!?」
「珍しいな…属性無しなんて本当にいるのか」

ごちゃごちゃと分からない事を叫んだり呟いたりする詐欺師男子ズへ、俺は水晶を突き返した。しかし二人は呆気に取られたような顔で、聞いちゃいない。

赤目男子は怒ったようにじろじろこちらを見るばかりで、糸目男子も糸目をぱっかり開けて停止している。仕方ないので地面にそっと水晶玉を置くと、眩しい光は徐々に消えていった。


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