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それもこれも人間どもが押さえ込んだせいで…といつもの恨みつらみを募らせながら、歩みを進める。だだっ広い野原に冒険者の姿はまだ確認できない。
イアニスはふと気になって、再びリヒャルトへ話を振る。
「学院の頃といえば、リヒーはその頃からダンジョンもどきを探していたのかい?ひょっとして」
気難しい癖強魔族のリヒャルトは学生時代、よく学院の図書室に一人籠っていた。授業にいなかった時すらあった。学院の図書室は一般ではお目にかかれないような、貴重な書物も置いてあるのだ。
案の定、リヒャルトは頷く。
「そうだ。お祖母様の話だけが頼りだったから、あそこで色々調べられたのは有意義だった」
「お祖母様はご息災かい?」
「当然だ」
「それは良かった。話の場所らしきものを発見した事は、伝えてあるのだよね?」
「あっ………」
神妙な顔で黙り込んでしまったリヒャルトに、イアニスは呆れた。今思いついてんのかあんた。
「わ、わ、忘れていたのではないっ。準備に忙しくて、報告を後に回しただけだ!」
「ハイハイ、嘘はいいからお祖母様に確かめてみなよ」
「わかっている…」
よし。これでリヒャルトの祖母から「それ違うよ」の返事が来れば、この暴走男も止まらざるを得ないだろう。こいつが街人に危害を加えないよう、あとは見張っておけばいい。冒険者はまぁ、最悪どうでもいいや。街人が無事ならそれで良し。
イアニスも温厚とはいえ魔族だ。自身の愛する家族や領民たち以外の人間には、無関心だった。無価値とすら思っている。
ドルトナへ着いたらすぐご家族と連絡を取るようにと友人へ念を押し、彼は幾分軽くなった足取りでを街道を行く。
そうして、てくてくと二人が旅に費やすこと丸2日。
道中冒険者と出会したのは3度で、結果的に彼らの仕事の邪魔をしただけとなった。
「おい、そこの魔法使い!このオーブを持ってみろ、貴様の魔力を測ってやる」
「え~?こわ~い、なぁにこの子?ダーリン、助けて♡」
「ああ、ハニー♡怖がらないで。きっと彼は…そう、健康診断の係員さんさ!僕たち愛し合う冒険者がずっと健康で仲良くできるようにと来てくれたのさ」
「え~?すご~い、とっても良い子ね、ダーリン♡でも街の中でやれば良いのに~」
「誰が係員さんだ、貴様らの健康なぞ知るか!そこまで相思相愛なら、片方と言わずまとめて同じ所へ送ってやるわ!」
「こら、やめろ!もう関わるなって!」
最初に出くわした男女の冒険者たちへ魔導のオーブを突き出すも、仲良しな二人はリヒャルト以上のウザさでもってそれを神回避した。
リヒャルトとイアニスがそそくさとその場を退散する時には、二人の冒険者の馴れ初めや、将来は子供を5人作り一緒に宿屋を経営するのだなど、聞いてもいない事を聞かされるのだった。
次に出会った冒険者は、典型的なゴロツキ風の3人組だった。
「ああん?何かと思えばチンケなガキどもが、何様だァ?」
「ひへへ。おい、魔族って魔石を落とすんだろう?その辺の魔物ぶっ殺すより余程金になんじゃねぇか?」
「おー、名案だ、おれは乗った」
「ギェ~ッヘッヘッ!覚悟しな!」
街から一歩外に出れば、こういう輩は幅を利かせやすい。
リヒャルトの氷魔法で動きを封じると、イアニスの従魔がチクッチクッチクッと麻痺毒を刺して無力化した。
「魔力は大したことないな…役立たずはいらん。ここに置いとくとしよう」
「ダメに決まってるだろう。こんな所に放っといたら、魔物の腹の中だよ」
「ハンッ、構うものか!」
「構え。バレたら冒険者なんかできなくなるぞ。とりあえず、魔除けの魔法陣までは連れてくしかないよ」
「……クソッ」
ゴロツキ3人は急に襲って来たのではなく、リヒャルトが魔導のオーブを掲げて偉そうに話しかけたからとった行動なのだ。その挙句無防備な状態で置き去りになど、さすがに非道すぎる。
意識をなくした大の男3人は、恐ろしく重かった。身体強化の魔法を己にかけてやっと運び出せたが、魔除けの魔法陣に辿り着くのにいつもの倍以上の時間を有した。
腹いせにリヒャルトはゴロツキ冒険者の手と足を氷でがっちり固定して魔法陣の上にほったらかすと、イアニスと二人立ち去った。
それから最後にお目にかかった4人組は物腰こそ柔らかいが、突然現れたリヒャルトたちを迷惑そうに睥睨した。
「お前が魔法使いだな。こいつを持って魔力を込めてみろ」
「それ、何ですか?身体に害はないんですか?何かあった場合、貴方たちはどう責任をとってくれますか?」
「つべこべ言うな!黙って速やかに、貴様の魔力量を測らせろ!」
「はぁ…何の権限があるんですか?それ、我々に何のメリットがあります?」
年若い神経質そうな冒険者たちは、金品を要求しない事、それが終わったら何もせずに立ち去る事を条件に魔導のオーブを試してくれた。
条件を呑むと、魔法使い以外にも剣士、斥候、槍士が何故かオーブに触れていく。一人で良いんだけど…律儀な子たちだ。
手に触れると、魔導のオーブは光を宿して彼らの魔力量や属性を示していった。
その結果、なんと魔法使いよりも斥候の方が魔力量が多い事が判明する。
「……」
「おかしくない?何でお前の方がこいつより魔力多いわけ?」
「いや、ほら。この間レベル上がって…だから誤差だよ、誤差」
「………」
「ま、まぁ?MP多いからって、魔法使いになれるわけじゃないしなっ」
「そうそう、おれ魔法の知識なんかねぇよ斥候だし」
「それもそうだな。うちの魔法職はお前しかいねぇよ、ウン」
「……なに気使ってんだ…」
すっかり険悪な雰囲気である。
思いもよらず若者たちの未来に不穏な陰を落としてしまった…。居た堪れなくなったイアニスだが、空気の読まないおバカが隣で追い討ちをかけてしまう。
「フン。揃いも揃って大したことのないやつらめ…こないだ拾った酔っ払いのジジイの方がよほどーー」
「時間を取らせてすまなかったね!では、約束通り我々はこれで!」
リヒャルトの口を大慌てで塞ぐと、スタコラサッサとその場を立ち去るのだった。
イアニスはふと気になって、再びリヒャルトへ話を振る。
「学院の頃といえば、リヒーはその頃からダンジョンもどきを探していたのかい?ひょっとして」
気難しい癖強魔族のリヒャルトは学生時代、よく学院の図書室に一人籠っていた。授業にいなかった時すらあった。学院の図書室は一般ではお目にかかれないような、貴重な書物も置いてあるのだ。
案の定、リヒャルトは頷く。
「そうだ。お祖母様の話だけが頼りだったから、あそこで色々調べられたのは有意義だった」
「お祖母様はご息災かい?」
「当然だ」
「それは良かった。話の場所らしきものを発見した事は、伝えてあるのだよね?」
「あっ………」
神妙な顔で黙り込んでしまったリヒャルトに、イアニスは呆れた。今思いついてんのかあんた。
「わ、わ、忘れていたのではないっ。準備に忙しくて、報告を後に回しただけだ!」
「ハイハイ、嘘はいいからお祖母様に確かめてみなよ」
「わかっている…」
よし。これでリヒャルトの祖母から「それ違うよ」の返事が来れば、この暴走男も止まらざるを得ないだろう。こいつが街人に危害を加えないよう、あとは見張っておけばいい。冒険者はまぁ、最悪どうでもいいや。街人が無事ならそれで良し。
イアニスも温厚とはいえ魔族だ。自身の愛する家族や領民たち以外の人間には、無関心だった。無価値とすら思っている。
ドルトナへ着いたらすぐご家族と連絡を取るようにと友人へ念を押し、彼は幾分軽くなった足取りでを街道を行く。
そうして、てくてくと二人が旅に費やすこと丸2日。
道中冒険者と出会したのは3度で、結果的に彼らの仕事の邪魔をしただけとなった。
「おい、そこの魔法使い!このオーブを持ってみろ、貴様の魔力を測ってやる」
「え~?こわ~い、なぁにこの子?ダーリン、助けて♡」
「ああ、ハニー♡怖がらないで。きっと彼は…そう、健康診断の係員さんさ!僕たち愛し合う冒険者がずっと健康で仲良くできるようにと来てくれたのさ」
「え~?すご~い、とっても良い子ね、ダーリン♡でも街の中でやれば良いのに~」
「誰が係員さんだ、貴様らの健康なぞ知るか!そこまで相思相愛なら、片方と言わずまとめて同じ所へ送ってやるわ!」
「こら、やめろ!もう関わるなって!」
最初に出くわした男女の冒険者たちへ魔導のオーブを突き出すも、仲良しな二人はリヒャルト以上のウザさでもってそれを神回避した。
リヒャルトとイアニスがそそくさとその場を退散する時には、二人の冒険者の馴れ初めや、将来は子供を5人作り一緒に宿屋を経営するのだなど、聞いてもいない事を聞かされるのだった。
次に出会った冒険者は、典型的なゴロツキ風の3人組だった。
「ああん?何かと思えばチンケなガキどもが、何様だァ?」
「ひへへ。おい、魔族って魔石を落とすんだろう?その辺の魔物ぶっ殺すより余程金になんじゃねぇか?」
「おー、名案だ、おれは乗った」
「ギェ~ッヘッヘッ!覚悟しな!」
街から一歩外に出れば、こういう輩は幅を利かせやすい。
リヒャルトの氷魔法で動きを封じると、イアニスの従魔がチクッチクッチクッと麻痺毒を刺して無力化した。
「魔力は大したことないな…役立たずはいらん。ここに置いとくとしよう」
「ダメに決まってるだろう。こんな所に放っといたら、魔物の腹の中だよ」
「ハンッ、構うものか!」
「構え。バレたら冒険者なんかできなくなるぞ。とりあえず、魔除けの魔法陣までは連れてくしかないよ」
「……クソッ」
ゴロツキ3人は急に襲って来たのではなく、リヒャルトが魔導のオーブを掲げて偉そうに話しかけたからとった行動なのだ。その挙句無防備な状態で置き去りになど、さすがに非道すぎる。
意識をなくした大の男3人は、恐ろしく重かった。身体強化の魔法を己にかけてやっと運び出せたが、魔除けの魔法陣に辿り着くのにいつもの倍以上の時間を有した。
腹いせにリヒャルトはゴロツキ冒険者の手と足を氷でがっちり固定して魔法陣の上にほったらかすと、イアニスと二人立ち去った。
それから最後にお目にかかった4人組は物腰こそ柔らかいが、突然現れたリヒャルトたちを迷惑そうに睥睨した。
「お前が魔法使いだな。こいつを持って魔力を込めてみろ」
「それ、何ですか?身体に害はないんですか?何かあった場合、貴方たちはどう責任をとってくれますか?」
「つべこべ言うな!黙って速やかに、貴様の魔力量を測らせろ!」
「はぁ…何の権限があるんですか?それ、我々に何のメリットがあります?」
年若い神経質そうな冒険者たちは、金品を要求しない事、それが終わったら何もせずに立ち去る事を条件に魔導のオーブを試してくれた。
条件を呑むと、魔法使い以外にも剣士、斥候、槍士が何故かオーブに触れていく。一人で良いんだけど…律儀な子たちだ。
手に触れると、魔導のオーブは光を宿して彼らの魔力量や属性を示していった。
その結果、なんと魔法使いよりも斥候の方が魔力量が多い事が判明する。
「……」
「おかしくない?何でお前の方がこいつより魔力多いわけ?」
「いや、ほら。この間レベル上がって…だから誤差だよ、誤差」
「………」
「ま、まぁ?MP多いからって、魔法使いになれるわけじゃないしなっ」
「そうそう、おれ魔法の知識なんかねぇよ斥候だし」
「それもそうだな。うちの魔法職はお前しかいねぇよ、ウン」
「……なに気使ってんだ…」
すっかり険悪な雰囲気である。
思いもよらず若者たちの未来に不穏な陰を落としてしまった…。居た堪れなくなったイアニスだが、空気の読まないおバカが隣で追い討ちをかけてしまう。
「フン。揃いも揃って大したことのないやつらめ…こないだ拾った酔っ払いのジジイの方がよほどーー」
「時間を取らせてすまなかったね!では、約束通り我々はこれで!」
リヒャルトの口を大慌てで塞ぐと、スタコラサッサとその場を立ち去るのだった。
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