ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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キーストリア王国は、ここからさらに南方に位置する。ただ気になるのが、キーストリアとモストルデンの間にある「ミスラー皇国」だ。

ラスタさんによると、モストルデンなどよりよっぽど厄介な国で、住むのはよした方がいいとキッパリ言われた曰くつきの国だ。「特にシマヤのような特殊スキルがあるやつは、攫われて何をされるかわからない」だとか。いや怖すぎるだろ。
しかしここを通らなければ、キーストリアへは入国できない。

「ジズって飛び越えちまえば問題ないか…?うーん、でもなぁ…」

入国料を踏み倒すみたいで気が引けるが…雲の上を通過すれば実際入国しないわけだし、良いかな?
いやでもそうなると、キーストリアに密入国する事になるのか。やはりダメだ。

うんうんと考えた結果、まずミスラー皇国の国境近くまでジズで移動して入国、それからキーストリア王国の国境近くまで再びジズで飛ばしキーストリア入りをする、という方針を打ち立てた。これなら法に触れることもなかろう。法律知らんけど。

道中は街にも寄りたい。補給がいるだろうし、ギルドカードの失効回避の為受けられる依頼は受けないと。
ナビの目的地選択で「キーストリア王国」「国境」「街」と入力すると、幾つかの街や検問所の目星がつけられた。やはりナビの案内でも、ミスラー皇国は経由地としてルートに入っている。しゃーない。

目安として入れてみると目的地のキーストリア王国国境までは、ジズでぶっ通すと21時間弱、陸路だと脅威の67時間だった。

「一週間は見た方がいいな…ギルドカードのタイムリミット的には、余裕ありそうだけど」

それでも、ギリになって受けれる依頼がなかったら大事だ。道ゆく先のギルドには行ってみないと。換金もあるし。
あ、そうだ。宝飾品を売った金を受け取りに行くんだった。ナビの時計を見ると、昼の2時をまわってる。もう査定が終わってるはずだ。

荷物を車に置いて身軽になりたかったが、よくよく考えればこれだけ買い物しといて手ぶらでいるのもどうなんだ。あいつ荷物どうしたんだって不審がられてしまう。
わざわざ車に戻った意味なかった…。
仕方ないのでコップやスクロールなど小さい物を幾つか車に残し、革鎧や寝袋といった嵩張る荷物は抱えて歩く事にした。

ちらほらと現れる通行人をやり過ごすことしばし、ステルスのまま徐行し曲がり角などの死角を確認する。よしよしクリア。人は来ないな。
車から降りてロックをすると、荷物を両手にその場を後にした。

途中で見つけた屋台の飯を腹におさめ(ベリーと肉が交互に刺さった串焼きだ。ねぎまのベリーバージョンとは珍しい)、ギルドへ足を運ぶ。
カウンターで用件を伝えると、昨日の女の子ではなく年配のおじいちゃんがやって来た。この人が査定した本人らしく、ニコニコと対応してくれる。

「実に素晴らしい品々でした。あのルビーとカラーサファイアの造花といったら!ため息が出てしまうほどで」

一体どこであのような?と尋ねられ、困ってしまう。変に答えないのはやばいかと思い、「途中出会った行き倒れを助けた時に譲ってもらいました」と即席の嘘をつく。
おじいちゃんは気にした様子もなく上機嫌だが、後方の受付カウンターから先日のお兄ちゃん職員とおっとり美人さん職員がじっと聞き耳を立てているのに気がついた。その後ろ側で、昨日の女の子も覗いている。ひええ。

腕輪にネックレス、裸の宝石数個と、おじいちゃんベタ褒めの造花(見た目は一輪の花だが茎や葉は白金、花びらは全て宝石でできていた。セットの一輪挿しも付いている)が、締めて187万也。
査定の詳細を聞いてると、昨日のアクセサリー屋にはだいぶ足元を見られていたというのが判明した。ここで売れてれば、もっと高かっただろうに。
…まぁ、情報料という事で。知らずに場違いな店へ入った俺も悪い。

30万だけ受け取って、買ったばかりの財布に詰め込む。後は貯金にまわした。
後ろからの視線が痛い。さっさと出よう。そうしよう。

準備はこれで良いかな。
ギルドや街の人に余計な詮索をされる前に、離れた方が良さそうだ。
…別に後ろ暗い事なんて、何もしてないんだがなぁ。


ーーー


「花売りコカトリス亭」で最後の一泊。ベッドで寝れるのも、今日を過ぎれば暫くお預けだ。温かい食事と寝床のありがたみを強く噛み締める日々だった。これだけでも、コソコソ車を隠しながら街へ訪れる意味は大いにある。

「そうかい、もう行っちまうのか。お客さん景気がいいから残念だぜ」
「どこへ向かうんだい?イェゼロフ?」

おお、知らない名前が出てきた。
東にある都市で、ここらを取り持つ領主のいる栄えた街らしい。なるほど、県庁所在地か。

「南に行きます。南方面で大きな街ってありますか?」
「南ねぇ…リモダくらいしか思い浮かばんな。国境の街だ」

国境の街リモダは、ナビでも目にした。こうして人の口からも名前が出ると、ルートの確認ができて安心する。
他に街がないなら、気兼ねなくジズを使えそうだな。

奥さんが朝食の他にお弁当を作ってくれるというので、喜んで代金を払う。いい宿屋だった。次泊まるところも、これくらい快適だといいな。
しかしできれば、部屋の中で車を出し入れできる部屋だとなお良かった。ここは3階だから、車なんか出して床が抜けたらと思うと出来なかったのだ。

部屋に上がり荷物を置くと、窓からドルトナの街を見渡す。全く見慣れない、ヨーロピアンな風情。そういうテーマパークのホテルにでもいるみたいだ。

日が沈むまでそうして外を眺めた後、俺はベッドに入り眠りについた。

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