32 / 116
4
しおりを挟む
翌日、降りて朝食を取る。パンにスープ、肉と芋の入ったオムレツの朝食だ。サラダも付いてて彩豊か。意外にも日本の軽食屋のモーニングみたいで、すごくほっこりした。美味い。
腹を満たしてしばらく店主と話した後(言ってはなんだか、あまり忙しくはなさそうだ。そもそもこの街によそから来て泊まる人が少ないのだそう)、教わった店へ向かう。店主の息子が道案内として付いてきてくれた。
「テオドラ」と看板の下がった店に到着すると、息子くんが店内に声をかける。
「おばちゃーん、こんちわ」
「はぁい。あら、アンタどうしたの?」
「お客さん連れてきたぞ。ほら、噂の変な格好のやつだよ、もう着替えちゃったけど」
「え?」
「え!?」
やって来たふくよかなおばさんと、俺の声がかぶる。
噂?噂って何だ。そんなの立ってるの、全然知らなかった。怖ぇよ!
「アンタ、お客さんの前で丸聞こえだよ!」と頭を叩かれた息子くんは「うえー、いってぇー」と呑気に騒いで帰っていった。
「はぁ。すみませんね。いらっしゃい」
「あの、噂って…」
「狭い街だからねぇ。すぐ広まるよ」
来た当初に、あのジャケットチノパン姿でウロウロしていたのが相当目立っていたらしい。怪しまれているだけで、厭われているわけでないみたいだ。ひとまずホッとした。
いいだろう。いっそここで、めちゃくちゃ怪しまれようじゃないか。どうせ旅立ったら、それっきりの場所だ。この先の人里で目立たず振舞えるような準備を、今の内にしてしまおう。
すっかり開き直った俺は、「何を探してるんだい?」と尋ねてくれるおばさんに相談した。
「ほら、マントはどうだい。これがあれば、夜には毛布がわりになる。こっちは防水性の高いラムトシープの皮でできてるから、雨にもバッチリだ」
そう紹介されたのは、フード付きのマントだ。レインコートみたいになってる。
本当だ、これ良いな。着てれば持ち歩かずに済むし、しっかり毛布にもなりそうだ。
寝袋のような寝具は残念ながら置いてないらしく、別の店を紹介してくれた。運転中の尻を労るクッションも欲しかったが、それも多分その店にあるという。
話しをしていく内に俺が旅慣れてないのに気付いたのか、おばさんは「コレは持ってる?」「コレも無いのかい?」と次々に聞き出しては勧めてくる。商魂たくましいぞ。
確かに必要そうだと感じる物も多かったので、言われるまま揃えた。ランプ、火おこしのスクロール、飲み口のついた水袋、皮のベスト…は胸部を守る軽めの防具で、最低限身につけておけと強く言われた。
街の外で見かけた冒険者装束の人たちや、門兵さんの格好を思い出すとそれも頷ける。
武器も勧められたが、それは断った。ナイフくらい持ってても良いのかもしれないけど、とりあえず保留だ。決してレベル上げに懲りたわけではないぞ。ありませんとも。
テオドラを出て(テオドラはおばさんの名前ではなく、風の女神の加護を受けた女騎士の名前らしい。おばさんの好きなおとぎ話だとか)、紹介された店で寝袋と超重要アイテム・クッションを購入。
さらに別の店で、携帯食を仕入れた。真っ黒な干し肉だ、ウエ。お湯に溶かして飲む、プロテインじみた飲み物もあって少し面白かった。プロテインに挑戦する勇気はなかったが、ハーブティーや生姜湯に似た飲み物があったのでそちらを購入した。不思議な名前の生姜が、この辺りの名産品らしい。
これで夜にあったかい物が飲める。湯沸かしと木造りのコップも買った。ふふふ、金ピカゴブレットが今や懐かしい。
それから昨日見つけたスクロールの店に入ってみる。目くらましのスクロールというのが、使い勝手が良さそうで幾つか購入した。
そして、気になったのがもう一つ。
「このクリーンって、どんな効果があるんですか?」
「おや、知らないかい。名前の通り、汚れ落としだ。魔物の返り血から食器の汚れまで、色んな物に使えるぞ」
「ああ、それでクリーン…散らかった部屋とかも片付くんですか?」
「それは自分で片付けな…」
気になったので店員さんに尋ねると、成程かなり便利なスクロールだ。にしても返り血て、そんな物騒な。
「込める魔力にもよるが、机や床の埃くらいならきれいになるだろな。自分にかけりゃ、身体を拭くのにも使えるぞ」
何っ、身体の汚れも落とせるのか?すげえいいじゃん。
車内の掃除によさそうと思ってたけど、俺の風呂がわりにもできるって事だよな。買おう買おう。
異世界って不便だと思っていたが、案外そうでも無いのかもしれない。少なくとも、これを発明した人は天才に違いない!
店員さんの生温かい目に見守られながら他にも店内を見て回ると、魔境で貰い受けた「麻痺」だとか「物理攻撃軽減」のスクロールがかなり高額品なのが分かった。
こんな値段するのか…
ラスタさんの持ってた無限に水がわく水筒といい、このスクロールといい、冒険者というのがいかに夢のある職業なのかが分かった気がする。現代でいえば、メジャーリーガーとかオリンピック選手みたいなもんか。
荷物が嵩張ってきた。折角だから、車に詰め込みたいな。
そう欲をかいた俺は、人目につかなそうな場所を求めて足を運ぶ。まるっきり不審者であるが、できる限り知らん顔を心がけよう。
「ここならいいかな…」
やっとこさ人通りの少ない路地を見つけだし、人が居なくなるタイミングを待つ。ほんの少しの時間があればいい。見張られてでもいなければ、誰にもわからないはずだ。
人が捌けるのを見計らうと、俺はキーを出してロックを開けた。
スーッと音もなく現れた車に急いで乗り込み、エンジンを入れる。いつ人がひょこっと歩いてきてもおかしくないので、気が気じゃない。
ナビが起動したので、すかさずステルスモードで雲隠れだ。暫く様子を見たが、辺りはしんと静かなままで誰もいない。よし、大丈夫そうかな。
「さて…これからどうしようか…」
ナビの地図を眺めて、これからのことを考える。
ひとまず、ラスタさんに勧められた「キーストリア王国」を目指そう。今いるのはモストルデン王国で、この街は概ね好印象だが王様への印象は良くない。それにラスタさんに頼まれた「翳りの湖」は、キーストリアの東にある。
せっかく何のしがらみもない根無し草なんだ。平和で豊かな、住みやすい国を見つけよう。
腹を満たしてしばらく店主と話した後(言ってはなんだか、あまり忙しくはなさそうだ。そもそもこの街によそから来て泊まる人が少ないのだそう)、教わった店へ向かう。店主の息子が道案内として付いてきてくれた。
「テオドラ」と看板の下がった店に到着すると、息子くんが店内に声をかける。
「おばちゃーん、こんちわ」
「はぁい。あら、アンタどうしたの?」
「お客さん連れてきたぞ。ほら、噂の変な格好のやつだよ、もう着替えちゃったけど」
「え?」
「え!?」
やって来たふくよかなおばさんと、俺の声がかぶる。
噂?噂って何だ。そんなの立ってるの、全然知らなかった。怖ぇよ!
「アンタ、お客さんの前で丸聞こえだよ!」と頭を叩かれた息子くんは「うえー、いってぇー」と呑気に騒いで帰っていった。
「はぁ。すみませんね。いらっしゃい」
「あの、噂って…」
「狭い街だからねぇ。すぐ広まるよ」
来た当初に、あのジャケットチノパン姿でウロウロしていたのが相当目立っていたらしい。怪しまれているだけで、厭われているわけでないみたいだ。ひとまずホッとした。
いいだろう。いっそここで、めちゃくちゃ怪しまれようじゃないか。どうせ旅立ったら、それっきりの場所だ。この先の人里で目立たず振舞えるような準備を、今の内にしてしまおう。
すっかり開き直った俺は、「何を探してるんだい?」と尋ねてくれるおばさんに相談した。
「ほら、マントはどうだい。これがあれば、夜には毛布がわりになる。こっちは防水性の高いラムトシープの皮でできてるから、雨にもバッチリだ」
そう紹介されたのは、フード付きのマントだ。レインコートみたいになってる。
本当だ、これ良いな。着てれば持ち歩かずに済むし、しっかり毛布にもなりそうだ。
寝袋のような寝具は残念ながら置いてないらしく、別の店を紹介してくれた。運転中の尻を労るクッションも欲しかったが、それも多分その店にあるという。
話しをしていく内に俺が旅慣れてないのに気付いたのか、おばさんは「コレは持ってる?」「コレも無いのかい?」と次々に聞き出しては勧めてくる。商魂たくましいぞ。
確かに必要そうだと感じる物も多かったので、言われるまま揃えた。ランプ、火おこしのスクロール、飲み口のついた水袋、皮のベスト…は胸部を守る軽めの防具で、最低限身につけておけと強く言われた。
街の外で見かけた冒険者装束の人たちや、門兵さんの格好を思い出すとそれも頷ける。
武器も勧められたが、それは断った。ナイフくらい持ってても良いのかもしれないけど、とりあえず保留だ。決してレベル上げに懲りたわけではないぞ。ありませんとも。
テオドラを出て(テオドラはおばさんの名前ではなく、風の女神の加護を受けた女騎士の名前らしい。おばさんの好きなおとぎ話だとか)、紹介された店で寝袋と超重要アイテム・クッションを購入。
さらに別の店で、携帯食を仕入れた。真っ黒な干し肉だ、ウエ。お湯に溶かして飲む、プロテインじみた飲み物もあって少し面白かった。プロテインに挑戦する勇気はなかったが、ハーブティーや生姜湯に似た飲み物があったのでそちらを購入した。不思議な名前の生姜が、この辺りの名産品らしい。
これで夜にあったかい物が飲める。湯沸かしと木造りのコップも買った。ふふふ、金ピカゴブレットが今や懐かしい。
それから昨日見つけたスクロールの店に入ってみる。目くらましのスクロールというのが、使い勝手が良さそうで幾つか購入した。
そして、気になったのがもう一つ。
「このクリーンって、どんな効果があるんですか?」
「おや、知らないかい。名前の通り、汚れ落としだ。魔物の返り血から食器の汚れまで、色んな物に使えるぞ」
「ああ、それでクリーン…散らかった部屋とかも片付くんですか?」
「それは自分で片付けな…」
気になったので店員さんに尋ねると、成程かなり便利なスクロールだ。にしても返り血て、そんな物騒な。
「込める魔力にもよるが、机や床の埃くらいならきれいになるだろな。自分にかけりゃ、身体を拭くのにも使えるぞ」
何っ、身体の汚れも落とせるのか?すげえいいじゃん。
車内の掃除によさそうと思ってたけど、俺の風呂がわりにもできるって事だよな。買おう買おう。
異世界って不便だと思っていたが、案外そうでも無いのかもしれない。少なくとも、これを発明した人は天才に違いない!
店員さんの生温かい目に見守られながら他にも店内を見て回ると、魔境で貰い受けた「麻痺」だとか「物理攻撃軽減」のスクロールがかなり高額品なのが分かった。
こんな値段するのか…
ラスタさんの持ってた無限に水がわく水筒といい、このスクロールといい、冒険者というのがいかに夢のある職業なのかが分かった気がする。現代でいえば、メジャーリーガーとかオリンピック選手みたいなもんか。
荷物が嵩張ってきた。折角だから、車に詰め込みたいな。
そう欲をかいた俺は、人目につかなそうな場所を求めて足を運ぶ。まるっきり不審者であるが、できる限り知らん顔を心がけよう。
「ここならいいかな…」
やっとこさ人通りの少ない路地を見つけだし、人が居なくなるタイミングを待つ。ほんの少しの時間があればいい。見張られてでもいなければ、誰にもわからないはずだ。
人が捌けるのを見計らうと、俺はキーを出してロックを開けた。
スーッと音もなく現れた車に急いで乗り込み、エンジンを入れる。いつ人がひょこっと歩いてきてもおかしくないので、気が気じゃない。
ナビが起動したので、すかさずステルスモードで雲隠れだ。暫く様子を見たが、辺りはしんと静かなままで誰もいない。よし、大丈夫そうかな。
「さて…これからどうしようか…」
ナビの地図を眺めて、これからのことを考える。
ひとまず、ラスタさんに勧められた「キーストリア王国」を目指そう。今いるのはモストルデン王国で、この街は概ね好印象だが王様への印象は良くない。それにラスタさんに頼まれた「翳りの湖」は、キーストリアの東にある。
せっかく何のしがらみもない根無し草なんだ。平和で豊かな、住みやすい国を見つけよう。
1
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

神様の願いを叶えて世界最強!! ~職業無職を極めて天下無双する~
波 七海
ファンタジー
※毎週土曜日更新です。よろしくお願い致します。
アウステリア王国の平民の子、レヴィンは、12才の誕生日を迎えたその日に前世の記憶を思い出した。
自分が本当は、藤堂貴正と言う名前で24歳だったという事に……。
天界で上司に結果を出す事を求められている、自称神様に出会った貴正は、異世界に革新を起こし、より進化・深化させてほしいとお願いされる事となる。
その対価はなんと、貴正の願いを叶えてくれる事!?
初めての異世界で、足掻きながらも自分の信じる道を進もうとする貴正。
最強の職業、無職(ニート)となり、混乱する世界を駆け抜ける!!
果たして、彼を待っているものは天国か、地獄か、はたまた……!?
目指すは、神様の願いを叶えて世界最強! 立身出世!
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

平和国家異世界へ―日本の受難―
あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。
それから数年後の2035年、8月。
日本は異世界に転移した。
帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。
総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる――
何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。
質問などは感想に書いていただけると、返信します。
毎日投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる