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 翌日、降りて朝食を取る。パンにスープ、肉と芋の入ったオムレツの朝食だ。サラダも付いてて彩豊か。意外にも日本の軽食屋のモーニングみたいで、すごくほっこりした。美味い。

 腹を満たしてしばらく店主と話した後(言ってはなんだか、あまり忙しくはなさそうだ。そもそもこの街によそから来て泊まる人が少ないのだそう)、教わった店へ向かう。店主の息子が道案内として付いてきてくれた。

「テオドラ」と看板の下がった店に到着すると、息子くんが店内に声をかける。

「おばちゃーん、こんちわ」
「はぁい。あら、アンタどうしたの?」
「お客さん連れてきたぞ。ほら、噂の変な格好のやつだよ、もう着替えちゃったけど」
「え?」
「え!?」

やって来たふくよかなおばさんと、俺の声がかぶる。
噂?噂って何だ。そんなの立ってるの、全然知らなかった。怖ぇよ!
「アンタ、お客さんの前で丸聞こえだよ!」と頭を叩かれた息子くんは「うえー、いってぇー」と呑気に騒いで帰っていった。

「はぁ。すみませんね。いらっしゃい」
「あの、噂って…」
「狭い街だからねぇ。すぐ広まるよ」

来た当初に、あのジャケットチノパン姿でウロウロしていたのが相当目立っていたらしい。怪しまれているだけで、厭われているわけでないみたいだ。ひとまずホッとした。
いいだろう。いっそここで、めちゃくちゃ怪しまれようじゃないか。どうせ旅立ったら、それっきりの場所だ。この先の人里で目立たず振舞えるような準備を、今の内にしてしまおう。

すっかり開き直った俺は、「何を探してるんだい?」と尋ねてくれるおばさんに相談した。

「ほら、マントはどうだい。これがあれば、夜には毛布がわりになる。こっちは防水性の高いラムトシープの皮でできてるから、雨にもバッチリだ」

そう紹介されたのは、フード付きのマントだ。レインコートみたいになってる。
本当だ、これ良いな。着てれば持ち歩かずに済むし、しっかり毛布にもなりそうだ。

寝袋のような寝具は残念ながら置いてないらしく、別の店を紹介してくれた。運転中の尻を労るクッションも欲しかったが、それも多分その店にあるという。

話しをしていく内に俺が旅慣れてないのに気付いたのか、おばさんは「コレは持ってる?」「コレも無いのかい?」と次々に聞き出しては勧めてくる。商魂たくましいぞ。
確かに必要そうだと感じる物も多かったので、言われるまま揃えた。ランプ、火おこしのスクロール、飲み口のついた水袋、皮のベスト…は胸部を守る軽めの防具で、最低限身につけておけと強く言われた。
街の外で見かけた冒険者装束の人たちや、門兵さんの格好を思い出すとそれも頷ける。

武器も勧められたが、それは断った。ナイフくらい持ってても良いのかもしれないけど、とりあえず保留だ。決してレベル上げに懲りたわけではないぞ。ありませんとも。

テオドラを出て(テオドラはおばさんの名前ではなく、風の女神の加護を受けた女騎士の名前らしい。おばさんの好きなおとぎ話だとか)、紹介された店で寝袋と超重要アイテム・クッションを購入。

さらに別の店で、携帯食を仕入れた。真っ黒な干し肉だ、ウエ。お湯に溶かして飲む、プロテインじみた飲み物もあって少し面白かった。プロテインに挑戦する勇気はなかったが、ハーブティーや生姜湯に似た飲み物があったのでそちらを購入した。不思議な名前の生姜が、この辺りの名産品らしい。
これで夜にあったかい物が飲める。湯沸かしと木造りのコップも買った。ふふふ、金ピカゴブレットが今や懐かしい。

それから昨日見つけたスクロールの店に入ってみる。目くらましブラインドのスクロールというのが、使い勝手が良さそうで幾つか購入した。
そして、気になったのがもう一つ。

「このクリーンって、どんな効果があるんですか?」
「おや、知らないかい。名前の通り、汚れ落としだ。魔物の返り血から食器の汚れまで、色んな物に使えるぞ」
「ああ、それでクリーン…散らかった部屋とかも片付くんですか?」
「それは自分で片付けな…」

気になったので店員さんに尋ねると、成程かなり便利なスクロールだ。にしても返り血て、そんな物騒な。

「込める魔力にもよるが、机や床の埃くらいならきれいになるだろな。自分にかけりゃ、身体を拭くのにも使えるぞ」

何っ、身体の汚れも落とせるのか?すげえいいじゃん。
車内の掃除によさそうと思ってたけど、俺の風呂がわりにもできるって事だよな。買おう買おう。
異世界って不便だと思っていたが、案外そうでも無いのかもしれない。少なくとも、これを発明した人は天才に違いない!

店員さんの生温かい目に見守られながら他にも店内を見て回ると、魔境で貰い受けた「麻痺」だとか「物理攻撃軽減」のスクロールがかなり高額品なのが分かった。
こんな値段するのか…
ラスタさんの持ってた無限に水がわく水筒といい、このスクロールといい、冒険者というのがいかに夢のある職業なのかが分かった気がする。現代でいえば、メジャーリーガーとかオリンピック選手みたいなもんか。

荷物が嵩張ってきた。折角だから、車に詰め込みたいな。
そう欲をかいた俺は、人目につかなそうな場所を求めて足を運ぶ。まるっきり不審者であるが、できる限り知らん顔を心がけよう。

「ここならいいかな…」

やっとこさ人通りの少ない路地を見つけだし、人が居なくなるタイミングを待つ。ほんの少しの時間があればいい。見張られてでもいなければ、誰にもわからないはずだ。
人が捌けるのを見計らうと、俺はキーを出してロックを開けた。

スーッと音もなく現れた車に急いで乗り込み、エンジンを入れる。いつ人がひょこっと歩いてきてもおかしくないので、気が気じゃない。
ナビが起動したので、すかさずステルスモードで雲隠れだ。暫く様子を見たが、辺りはしんと静かなままで誰もいない。よし、大丈夫そうかな。

「さて…これからどうしようか…」

ナビの地図を眺めて、これからのことを考える。

ひとまず、ラスタさんに勧められた「キーストリア王国」を目指そう。今いるのはモストルデン王国で、この街は概ね好印象だが王様への印象は良くない。それにラスタさんに頼まれた「翳りの湖」は、キーストリアの東にある。

せっかく何のしがらみもない根無し草なんだ。平和で豊かな、住みやすい国を見つけよう。

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