上 下
29 / 98

辺境の街ドルトナ

しおりを挟む
短い休憩を挟みつつ、夜通し車を走らせた俺は車内で朝日を迎えた。
道中人は見ないが、魔物には遭遇した。ダスターウルフより一回りも二回りも小さいオオカミの魔物だ。ステルスなので、気づかれる事なく通り過ぎた。
もう一つあるという休憩ポイントには、気づかずスルーしてしまったみたいだ。MPの心配はないので、まぁいいか。

「およそ4キロメートル先、検問所です」

その音声に、俺はナビを見る。画面端に「6000G」と料金が表示されていた。街の通行料か?
ラスタさんから貰った路銀の中には硬貨も入ってた。確か大銀貨一枚が3000Gだったはず。青銅貨・銅貨・銀貨・金貨、白金貨…という単位で、その中でも大や小と細かく分かれるらしい。それがこの世界の通貨だ。

短い林道を突っ切ると、遠く左右に伸びる石壁が見えた。街の壁だ…良かった、たどり着けて。

「うわ、結構並んでる」

混む時間帯なのか、それとも常にこうなのか分からないが、街壁の門から人が10組ほど列を作っているのが見えた。

もうケツの痛みにうんざりしていた俺は、遠くに見渡せる検問所まで歩いて行くことにした。
何しろ見晴らしのいい原っぱなので、人のいる門の近くでは不用意に降りられない。突然ポンと車が現れたら、また怪しまれてしまうだろう。

袋には一応水とパン、硬貨と換金用のお宝を少しだけ入れる。持ち歩くのは怖かったが、硬貨は全て手元へ入れとくことにした。
布袋を肩にかけ、車を出てロックすると、門を目指して街道を行く。


ーーー


「つ、着いた…」

いま、目の前には石レンガ造りの壁がドドンとそびえ立っている。
ちらりと門の外から中を覗くと、人々が行き交い建物や屋台が並んでいるのが見えた。ドルトナの街だ。

列の最後尾に並んで、俺はほーっと深くため息をついた。何だかどっと力が抜けて、とてつもない疲労を感じる。
でも同時に、とても嬉しかった。無事に辿り着けて、本当に良かった。

列に並んでいるのは、やはり冒険者装束の人たちだ。俺の格好はかなり浮いている。魔物の出る場所へ出るには、最低限あんな装備が必要なのだろう。
その列を捌いている門兵らしき人も、皮でできた簡素な鎧と剣を身につけていた。

自分の順番が近づいてくるのをドキドキと待ちながら、行列を進む。
様子を伺っていると、硬貨を払う人は滅多にいなかった。みな首から下げたカードのような物を提示して、門兵の人が二人がかりでハイハイと確認している。
あれがギルドカードというやつか。

ついに俺の番が来て、「身分証を」と言われる。キビキビしているな。
「持ってません」というと、少し驚いたような顔をしてから「なら規則だから、6000Gだ」と言われる。支払うと、特に怪しまれる事もなくあっさり通してくれた。

「身分証の紛失は、早めに届け出ておくように」

おお。失くしたと思われとる。
キビキビした門兵に、俺は思いきって尋ねた。

「すみません。再発行ってどこでして貰えるんでしょうか」
「ああ。役場ならこの通りを行って、右の階段を登ると見えてくるからな。ただギルドカードの類なら、役場ではなく冒険者ギルドへ向かえよ。ギルドは街の中心だ」

門兵さんは役場の場所を尋ねられたと思ったのか、親切にそう教えてくれた。
ふむふむ。やはりラスタさんの言った通り、身分証は役場で問い合わせるものと、登録してギルドカードを貰うものがあるんだな。
大事な物だ。でも今は、それ以上に大事なものが俺を待ってる。ギルドカードは明日だ明日。

門をくぐって、ドルトナの街へ入る。幻覚なんかではない、本物のお天道様がさんさんと照らす、本物の人の街だ。

キョロキョロと忙しなく見渡してしまう。テレビで見たような、ヨーロッパの田舎だ。
ごつごつした灰色の石畳に、茶色や白の家。通りを隔てる建物の間からは洗濯紐が伸びて、服やらタオルやらがひらひらと靡いてる。向こうに見える坂道が、びっくりするほど急勾配だ。

そんな通りを、人々がのんびりと行き交っている。買い物かごを手に駆け回る子供たちや、大きな荷物を担ぎ黙々と歩くおじさん。井戸の前では女の人が3人、本物の井戸端会議をしていた。

野菜を売ってる屋台の前を通り過ぎて、俺はついにお目当ての建物を見つけた。「宿屋・花売りコカトリス亭」と看板の下がった、大きな建物だ。

宿屋!お宿だ!

「おう、らっしゃい。何人だい」

突撃すると、ひょろっと背の高い男性店主がカウンターごしに声をかけてきた。すごい、髪の色がオリーブ色だ。
道ゆく人たちも、日本では考えられないようなカラフルな目や髪色をしていた。異世界だな。

「一人です。今から入れますか、もう眠たくて…」
「へいへい、もうちょっと保ってくれよ。相部屋でいいか?」
「できれば一人部屋で、2泊できますか」
「一人部屋な。1泊3500Gになるぞ。メシは?」
「いらないです」

へとへとな客の対応に慣れきった様子の店主へ代金を払い、カギを受け取って部屋の場所を教えてもらう。3階にある一人部屋はちょうどビジネスホテルのシングルみたいな広さで、夢にまで見たベッドが窓際にある。天国だ。

「うおー…長かった…」

靴を脱いでベッドへゴロリ。この2日まともな睡眠をとれなかった俺は、上掛けに潜り込んで目をつぶると、あっという間に意識を手放した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移想像 ~理想郷を再現するために頑張ります~

すなる
ファンタジー
ゼネコン勤務のサラリーマンが祖父の遺品を整理している中で突如異世界に転移してしまう。 若き日の祖父が言い残した言葉に導かれ、未知の世界で奮闘する物語。 魔法が存在する異世界で常識にとらわれず想像力を武器に無双する。 人間はもちろん、獣人や亜人、エルフ、神、魔族など10以上の種族と魔物も存在する世界で 出会った仲間達とともにどんな種族でも平和に暮らせる街づくりを目指し奮闘する。 その中で図らずも世界の真実を解き明かしていく。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

闇ガチャ、異世界を席巻する

白井木蓮
ファンタジー
異世界に転移してしまった……どうせなら今までとは違う人生を送ってみようと思う。 寿司が好きだから寿司職人にでもなってみようか。 いや、せっかく剣と魔法の世界に来たんだ。 リアルガチャ屋でもやってみるか。 ガチャの商品は武器、防具、そして…………。  ※小説家になろうでも投稿しております。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...