ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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辺境の街ドルトナ

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短い休憩を挟みつつ、夜通し車を走らせた俺は車内で朝日を迎えた。
道中人は見ないが、魔物には遭遇した。ダスターウルフより一回りも二回りも小さいオオカミの魔物だ。ステルスなので、気づかれる事なく通り過ぎた。
もう一つあるという休憩ポイントには、気づかずスルーしてしまったみたいだ。MPの心配はないので、まぁいいか。

「およそ4キロメートル先、検問所です」

その音声に、俺はナビを見る。画面端に「6000G」と料金が表示されていた。街の通行料か?
ラスタさんから貰った路銀の中には硬貨も入ってた。確か大銀貨一枚が3000Gだったはず。青銅貨・銅貨・銀貨・金貨、白金貨…という単位で、その中でも大や小と細かく分かれるらしい。それがこの世界の通貨だ。

短い林道を突っ切ると、遠く左右に伸びる石壁が見えた。街の壁だ…良かった、たどり着けて。

「うわ、結構並んでる」

混む時間帯なのか、それとも常にこうなのか分からないが、街壁の門から人が10組ほど列を作っているのが見えた。

もうケツの痛みにうんざりしていた俺は、遠くに見渡せる検問所まで歩いて行くことにした。
何しろ見晴らしのいい原っぱなので、人のいる門の近くでは不用意に降りられない。突然ポンと車が現れたら、また怪しまれてしまうだろう。

袋には一応水とパン、硬貨と換金用のお宝を少しだけ入れる。持ち歩くのは怖かったが、硬貨は全て手元へ入れとくことにした。
布袋を肩にかけ、車を出てロックすると、門を目指して街道を行く。


ーーー


「つ、着いた…」

いま、目の前には石レンガ造りの壁がドドンとそびえ立っている。
ちらりと門の外から中を覗くと、人々が行き交い建物や屋台が並んでいるのが見えた。ドルトナの街だ。

列の最後尾に並んで、俺はほーっと深くため息をついた。何だかどっと力が抜けて、とてつもない疲労を感じる。
でも同時に、とても嬉しかった。無事に辿り着けて、本当に良かった。

列に並んでいるのは、やはり冒険者装束の人たちだ。俺の格好はかなり浮いている。魔物の出る場所へ出るには、最低限あんな装備が必要なのだろう。
その列を捌いている門兵らしき人も、皮でできた簡素な鎧と剣を身につけていた。

自分の順番が近づいてくるのをドキドキと待ちながら、行列を進む。
様子を伺っていると、硬貨を払う人は滅多にいなかった。みな首から下げたカードのような物を提示して、門兵の人が二人がかりでハイハイと確認している。
あれがギルドカードというやつか。

ついに俺の番が来て、「身分証を」と言われる。キビキビしているな。
「持ってません」というと、少し驚いたような顔をしてから「なら規則だから、6000Gだ」と言われる。支払うと、特に怪しまれる事もなくあっさり通してくれた。

「身分証の紛失は、早めに届け出ておくように」

おお。失くしたと思われとる。
キビキビした門兵に、俺は思いきって尋ねた。

「すみません。再発行ってどこでして貰えるんでしょうか」
「ああ。役場ならこの通りを行って、右の階段を登ると見えてくるからな。ただギルドカードの類なら、役場ではなく冒険者ギルドへ向かえよ。ギルドは街の中心だ」

門兵さんは役場の場所を尋ねられたと思ったのか、親切にそう教えてくれた。
ふむふむ。やはりラスタさんの言った通り、身分証は役場で問い合わせるものと、登録してギルドカードを貰うものがあるんだな。
大事な物だ。でも今は、それ以上に大事なものが俺を待ってる。ギルドカードは明日だ明日。

門をくぐって、ドルトナの街へ入る。幻覚なんかではない、本物のお天道様がさんさんと照らす、本物の人の街だ。

キョロキョロと忙しなく見渡してしまう。テレビで見たような、ヨーロッパの田舎だ。
ごつごつした灰色の石畳に、茶色や白の家。通りを隔てる建物の間からは洗濯紐が伸びて、服やらタオルやらがひらひらと靡いてる。向こうに見える坂道が、びっくりするほど急勾配だ。

そんな通りを、人々がのんびりと行き交っている。買い物かごを手に駆け回る子供たちや、大きな荷物を担ぎ黙々と歩くおじさん。井戸の前では女の人が3人、本物の井戸端会議をしていた。

野菜を売ってる屋台の前を通り過ぎて、俺はついにお目当ての建物を見つけた。「宿屋・花売りコカトリス亭」と看板の下がった、大きな建物だ。

宿屋!お宿だ!

「おう、らっしゃい。何人だい」

突撃すると、ひょろっと背の高い男性店主がカウンターごしに声をかけてきた。すごい、髪の色がオリーブ色だ。
道ゆく人たちも、日本では考えられないようなカラフルな目や髪色をしていた。異世界だな。

「一人です。今から入れますか、もう眠たくて…」
「へいへい、もうちょっと保ってくれよ。相部屋でいいか?」
「できれば一人部屋で、2泊できますか」
「一人部屋な。1泊3500Gになるぞ。メシは?」
「いらないです」

へとへとな客の対応に慣れきった様子の店主へ代金を払い、カギを受け取って部屋の場所を教えてもらう。3階にある一人部屋はちょうどビジネスホテルのシングルみたいな広さで、夢にまで見たベッドが窓際にある。天国だ。

「うおー…長かった…」

靴を脱いでベッドへゴロリ。この2日まともな睡眠をとれなかった俺は、上掛けに潜り込んで目をつぶると、あっという間に意識を手放した。

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