ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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ドロップした魔石や毒牙なんかのアイテムを回収した後、辺りを探索。

ダスターウルフの群れが屯していた一角には朽ちたお屋敷があり、彼らを倒したことで中に入ることができた。
お屋敷のホール、中央には宝箱が鎮座している。うーん、RPG。
中くらいの段ボールサイズの宝箱いっぱいに、目も眩むような金塊や宝飾品が詰まっていた。

「すげぇ…」
「ここらのエリアは貴金属や宝石が多い。逆に食べられる物は中々出ないんだ」

ラスタさんはやや残念そうだ。まるで食いしん坊だが、魔境生活で金目のものが役立つ機会はほぼ無いという。いつかの金ピカゴブレットの出どころはこれか。1個くれ。

「いいぞ」
「すいません。冗談です」

こともなげにあげると言われて、慌てて首を振った。無闇な事言えない人だ。

そこから車で移動して、別のエリアへ向かう。

以前キラーバットを倒しまくった街の外壁を通り抜ける。入り口は幅が狭く車体が入り込めないが、代行モードでキラーバットを車体にすると通行できた。
どうも分かりにくいが、ステルスモードは魔物や大岩なんかの遮蔽物は通り抜けられても、車幅より狭い道を通行する事はできないようだ。

「なんか見つかってませんね…暗いのによく見えるし」
「足音も明かりもないから、気づかれないのかもな」

剣持ち骸骨スカルウォリアーたちがぼーっと突っ立ってる通路を恐る恐る通過するが、反応なし。
だが今はステルスモードと違い、キラーバットとして認識される状態だから、見つかればまた追い回されてしまうだろう。

ステルスモードと代行モードのそういったややこしい違いはきちんと頭に入れておかないと、えらい事になりそうだ。ちょっとした間違いがとんでもない大惨事…てとこだけは、元の世界の運転と一緒だな。

入り組んだ外壁内部を無事に抜けると、高層ビルのように高い建物の街に出た。別エリアに到着だ。
居住区といった感じの街並みから一変、元は豪華絢爛であっただろう塔や屋敷がずっと向こうまで並んでいる。やはりゴーストタウンのようにボロボロだが、苔や蔦に覆われた塔が雲にまで達している光景は、神秘さすら覚えた。

このエリアに出現するのは一つ目の巨人キュクロープスや、石のゴーレムストーンゴーレム首無し騎士デュラハンなんかだった。街をウロウロと闊歩する様はこの世の終わり感がある。
が、ダスターウルフの様に徒党を組んで来るわけではないので対処は楽だった。勿論、ラスタさん基準だ。

「この先に庭園がある。そこで麻痺のスクロールを補充しよう。あれは便利だから、シマヤも持ってた方がいい」
「庭園?スクロールがあるんですか?」
「ヘルパピヨンが落とすんだ」

向かった先は、一際大きなお屋敷。錆まみれの門の向こうに、広大な庭園がある。生垣は伸び放題で、色とりどりの花が無秩序に咲き乱れていた。手入れされてないのが明らかだ。花は満開で綺麗だけど、あちこちにぐちゃぐちゃと生えて不気味だった。

車を降り庭園に足を踏み入れて暫く、花の上を舞うように飛ぶ蝶々が目に入る。赤い蝶や青い蝶、緑に黄と色んな色の蝶たちが飛び交い、思わず感嘆の声が出た。

「綺麗ですね」
「ヘルパピヨンは鱗粉に麻痺毒がある。群れで得物を襲い、生きたまま体液を吸い尽くすんだ。気をつけろ」
「うおお…」

一気に感動が冷めてしまった。
恐怖の虹の群れはしかし、ラスタさんの炎の魔法で速やかに焼却されてしまった。一発でボカンである。

「急いで拾って離れよう。火喰い花が寄ってくる筈だ」
「え、あ、はい!」

ドロップしたスクロールや鱗粉(ご丁寧に瓶詰めされている)を拾って、その場を後にする。離れた場所で見つけた群れをまた燃やすを繰り返して、麻痺のスクロールは6枚手に入った。

結局俺が「火喰い花」とやらを見ることはなく、今日の探索はこれでおしまいとなった。

庭園を出て、ステルスモードにした車に乗り込む。デュラハンとその騎馬がカッポカッポと通り過ぎるのを尻目に、MP残の確認。魔力回復の指輪のおかげで、まだ半分残っていた。よしよし。

ナビ画面で代行モードのリストをチェックする。


条件「相手からの視認」:達成
条件「運転手レベル3以上」:達成
固有タスク「特殊個体(銀色)を見つける」:未
車体「ヘルパピヨン」を取得しました。


「うーん、あんまり使えなそうだけど…」
「かもしれない。こいつ単体だと、魔物というよりただの虫だからな」

これで俺が使える車体は、キラーバットとジズとヘルパピヨンの3つとなった。

因みにこの条件にあるレベルというのは、「車両としてその生き物を扱うのに値するレベル」らしく…イマイチ何じゃそらだが、俺がレベル57になってもジズに勝てるって訳ではないらしい。

そのジズは大層珍しい魔物で、大人しい気性ながらもその強さゆえ、人からも魔物からも恐れられている。なので人里で使えば迷惑になるが、いざという時の魔物避けとして重宝できそうだ。

キラーバットとヘルパピヨンはどうだろう。見つかったら人にも魔物にも簡単にボコされてしまうから、ステルスモードの方がいいな。
使い道があるとしたら、俺や車が通れない狭い場所を通りたい時だろうか。それにしても危険だ。ただの虫って、小鳥やネズミにすらプチって潰されちまう。

「じゃあ、ジズってみますね」
「ああ、たのむ。ジズって帰ろう」

上空なら、エリアを隔てる街壁も越えられるだろう。
先ほどのデュラハンが完全に離れたのを確認する。リストをポチッとして、ジズを選択。

「代行操縦運転モードへ移行します。車体のHPに注意し、安全を確認して走行してください」

ぐにゃぐにゃ。外の景色が歪む。
HPバーやAのギアは同じ。しかし最大速度は200キロになっており、目線の高さも段違いになっていた。地面が遠く、車というより遊園地のアトラクションに乗ってる気分だ。

手早くナビを操作して、目的地を設定。デュラハンとかに見つかる前に上昇した。
高級車は振動や音がほとんど無いと聞いたことがあるが、きっとこんな感じなのだろう。アクセルを踏んだ時の発進力が、中古の軽とは遥かに違った。

あっという間に屋敷の高い屋根を飛び越え、塔たちの間を上っていく。
やったね。これならドルトナの街までの移動がだいぶ速くなりそうだ。

「ずいぶん速いな。クルマみたいなスピードだ」
「うっわ、こりゃすごい!ラスタさんのおかげですよ!」
「いや。羽根が出てラッキーだった」
「中古の軽とは思えないですよ!ベンツだベンツ!乗った事ないから知らんけど」
「…?」

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