上 下
4 / 95

4

しおりを挟む
「どうして、こんなもんが…」

それは先日、車を買ったと知らせた家族から送られたものだった。仕送りの米とかと一緒に入ってた、いわゆるアクセサリーだ。

交通安全のお守り。近所の神社のやつ。

猫のぬいぐるみ型箱ティッシュカバー。実家の愛猫、ハチワレのピコにそっくりだ。

ソーラーで動く首振り人形。キャスケットをかぶった、何だこれ…ハニワ?がニッカニカで笑ってる。

そして、初心者マークのステッカー。見つけた途端「いや、持ってるし」と心の中でつっこんだのをよく覚えてる。

何だよこれ。どうしてこんなものが、転生先でボーナス扱いされてんだ。
プルプル甘えるピコに首ったけな親父。お守りを買いに神社へ足を運び、帰りにお気に入りの店でパンケーキを平らげたであろうお袋。首都高なんかもバンバン通い、未だにペーパーの俺を嘲笑っていた弟。

いかん、ストップだ。

これ以上思い出したら、ホームシックで大変な事になる。今そんな場合じゃないのに。
出てきた4つを眺め、助手席に並べてく。そうして、箱の底にあるメモを発見した。


「ピコくん型・車検受付口」
車体の不具合改善、改良を行えます。
有料。500G~

「交通安全のお守り」
スキル使用時、消費MP半減。
(MPはガソリンメーターで確認できます)
携帯時、回避上昇。

「埴輪人形型・動力還元装置」
所持金や魔力の帯びた物をMPに変換できます。
ストック可。ガソリンメーターが空になった際、自動で補充されます。


どうやら、ボーナスについての説明書きのようだ。実家から送られてきた物まで、すっかり異世界仕様になってら。

「車検……有料500G……Gって、円?このティッシュカバーに払うのか?てか、車検って……」

無意識に口元を押さえながら、メモの文字を辿る。
MPはわかる。RPGお馴染み、魔法を撃つのに使うポイント。しかし俺にはそんなの無いぞ。ついでにRPGの世界に車検があるとも思えない。

「くそっ、何もわかんねえ!」

癇癪を起こしメモをフロントガラスへ投げつける。
このままだと、大の男が声を上げて泣きそうだ。
俺は気を紛らそうとお守りを鷲掴み、フロントミラーにくくりつける。助手席のフロントガラス側へ、ピコのティッシュカバーを寝かせ、すぐそばにハニワをくっつける。ニカニカ、カタカタしてる。何わろてんねん。

あとはステッカーか。
そういや、メモにはなんの説明もなかった。これだけは、本当にただのステッカーのようだ。

「…この世界には、これが初心者マークってわかるやつは1人もいないんだろうな…」

未熟者だぞ、気をつけて、と周囲に認知してもらう為の……俺の世界のマーク。
なんとなく、付けておきたかった。

ステッカーを握り締め、再び周りを注意深く見回す。やはりモンスターの気配はない。大丈夫かな。

「よし、こいつを貼って…」

意を決して、ドアを押し開けた。日のさし始めた広場に初めて降り立つ。

「ほう。やぁっと姿を現しおった」
「ッヒィ!!?」

誰かいる!
ドアを閉める間もなく上がった声に、俺の心臓は全身ごと跳ね上がった。

そこにいたのは、小柄な少女だった。
中学生くらいだろうか。とても綺麗な女の子だ。背中まで流れる艶やかな黒髪に、白い肌。深い紫の瞳が楽しげに輝いて、こちらを向いている。
そんな美少女が、車の屋根に危なげなくポンと立っているのは異様な光景だ。

「おや。魔力はそこそこあるようじゃが、なんと非力な。よくぞここまで辿り着いたの、褒めてやろう」
「あ、あ……どうも…」

こんな場所にたった一人でいる丸腰の美少女が、只者のわけがない。思わずジリジリと後ずさってしまう。

「それで?今までどうやってわしの目を掻い潜っておったのだ。この箱か?何だコレは、部屋か?ホレホレ、種明かしせんか」

少女は流れるような動作で屋根に腰掛け、脚を組んだ。興味深々といった楽しそうな顔つきは年相応に見えて、おかげで俺は少しだけ落ち着きを取り戻す。

「これは、あの、自動車っていう乗り物です。俺もよく分からんのだけど…コレで隠れながら移動できるみたいで」
「ほう、乗り物とな。特殊スキルかマジックアイテムだとばかり思ったわ。外の世には妙ちきりんな物があるのだなぁ」

ペシペシと手のひらで屋根を叩いて、感心したように少女は言う。
正体不明だが、今のところ普通に受け答えしてくれる。ひょっとして、本当にただの女の子なのか?近くに親がいるのかも。
そう思い始めた矢先に、少女の口からとんでもない言葉が発される。

「して、到達者よ。こそこそ隠れるのをやめたという事は、このわしに挑み討ち滅ぼす手段が他にあるのかな?」
「へ?」

挑むって、この子に?
何を言ってるか分からず狼狽える俺の様子を前に、少女は楽しげな笑みを深めた。

「ベラトリア最奥が主は今、目の前におるぞ、卑小な冒険者よ。何処からでもかかってくるが良い」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

異端の紅赤マギ

みどりのたぬき
ファンタジー
【なろう83000PV超え】 --------------------------------------------- その日、瀧田暖はいつもの様にコンビニへ夕食の調達に出掛けた。 いつもの街並みは、何故か真上から視線を感じて見上げた天上で暖を見る巨大な『眼』と視線を交わした瞬間激変した。 それまで見ていたいた街並みは巨大な『眼』を見た瞬間、全くの別物へと変貌を遂げていた。 「ここは異世界だ!!」 退屈な日常から解き放たれ、悠々自適の冒険者生活を期待した暖に襲いかかる絶望。 「冒険者なんて職業は存在しない!?」 「俺には魔力が無い!?」 これは自身の『能力』を使えばイージーモードなのに何故か超絶ヘルモードへと突き進む一人の人ならざる者の物語・・・ --------------------------------------------------------------------------- 「初投稿作品」で色々と至らない点、文章も稚拙だったりするかもしれませんが、一生懸命書いていきます。 また、時間があれば表現等見直しを行っていきたいと思っています。※特に1章辺りは大幅に表現等変更予定です、時間があれば・・・ ★次章執筆大幅に遅れています。 ★なんやかんやありまして...

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

処理中です...