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「どうして、こんなもんが…」
それは先日、車を買ったと知らせた家族から送られたものだった。仕送りの米とかと一緒に入ってた、いわゆるアクセサリーだ。
交通安全のお守り。近所の神社のやつ。
猫のぬいぐるみ型箱ティッシュカバー。実家の愛猫、ハチワレのピコにそっくりだ。
ソーラーで動く首振り人形。キャスケットをかぶった、何だこれ…ハニワ?がニッカニカで笑ってる。
そして、初心者マークのステッカー。見つけた途端「いや、持ってるし」と心の中でつっこんだのをよく覚えてる。
何だよこれ。どうしてこんなものが、転生先でボーナス扱いされてんだ。
プルプル甘えるピコに首ったけな親父。お守りを買いに神社へ足を運び、帰りにお気に入りの店でパンケーキを平らげたであろうお袋。首都高なんかもバンバン通い、未だにペーパーの俺を嘲笑っていた弟。
いかん、ストップだ。
これ以上思い出したら、ホームシックで大変な事になる。今そんな場合じゃないのに。
出てきた4つを眺め、助手席に並べてく。そうして、箱の底にあるメモを発見した。
「ピコくん型・車検受付口」
車体の不具合改善、改良を行えます。
有料。500G~
「交通安全のお守り」
スキル使用時、消費MP半減。
(MPはガソリンメーターで確認できます)
携帯時、回避上昇。
「埴輪人形型・動力還元装置」
所持金や魔力の帯びた物をMPに変換できます。
ストック可。ガソリンメーターが空になった際、自動で補充されます。
どうやら、ボーナスについての説明書きのようだ。実家から送られてきた物まで、すっかり異世界仕様になってら。
「車検……有料500G……Gって、円?このティッシュカバーに払うのか?てか、車検って……」
無意識に口元を押さえながら、メモの文字を辿る。
MPはわかる。RPGお馴染み、魔法を撃つのに使うポイント。しかし俺にはそんなの無いぞ。ついでにRPGの世界に車検があるとも思えない。
「くそっ、何もわかんねえ!」
癇癪を起こしメモをフロントガラスへ投げつける。
このままだと、大の男が声を上げて泣きそうだ。
俺は気を紛らそうとお守りを鷲掴み、フロントミラーにくくりつける。助手席のフロントガラス側へ、ピコのティッシュカバーを寝かせ、すぐそばにハニワをくっつける。ニカニカ、カタカタしてる。何わろてんねん。
あとはステッカーか。
そういや、メモにはなんの説明もなかった。これだけは、本当にただのステッカーのようだ。
「…この世界には、これが初心者マークってわかるやつは1人もいないんだろうな…」
未熟者だぞ、気をつけて、と周囲に認知してもらう為の……俺の世界のマーク。
なんとなく、付けておきたかった。
ステッカーを握り締め、再び周りを注意深く見回す。やはりモンスターの気配はない。大丈夫かな。
「よし、こいつを貼って…」
意を決して、ドアを押し開けた。日のさし始めた広場に初めて降り立つ。
「ほう。やぁっと姿を現しおった」
「ッヒィ!!?」
誰かいる!
ドアを閉める間もなく上がった声に、俺の心臓は全身ごと跳ね上がった。
そこにいたのは、小柄な少女だった。
中学生くらいだろうか。とても綺麗な女の子だ。背中まで流れる艶やかな黒髪に、白い肌。深い紫の瞳が楽しげに輝いて、こちらを向いている。
そんな美少女が、車の屋根に危なげなくポンと立っているのは異様な光景だ。
「おや。魔力はそこそこあるようじゃが、なんと非力な。よくぞここまで辿り着いたの、褒めてやろう」
「あ、あ……どうも…」
こんな場所にたった一人でいる丸腰の美少女が、只者のわけがない。思わずジリジリと後ずさってしまう。
「それで?今までどうやってわしの目を掻い潜っておったのだ。この箱か?何だコレは、部屋か?ホレホレ、種明かしせんか」
少女は流れるような動作で屋根に腰掛け、脚を組んだ。興味深々といった楽しそうな顔つきは年相応に見えて、おかげで俺は少しだけ落ち着きを取り戻す。
「これは、あの、自動車っていう乗り物です。俺もよく分からんのだけど…コレで隠れながら移動できるみたいで」
「ほう、乗り物とな。特殊スキルかマジックアイテムだとばかり思ったわ。外の世には妙ちきりんな物があるのだなぁ」
ペシペシと手のひらで屋根を叩いて、感心したように少女は言う。
正体不明だが、今のところ普通に受け答えしてくれる。ひょっとして、本当にただの女の子なのか?近くに親がいるのかも。
そう思い始めた矢先に、少女の口からとんでもない言葉が発される。
「して、到達者よ。こそこそ隠れるのをやめたという事は、このわしに挑み討ち滅ぼす手段が他にあるのかな?」
「へ?」
挑むって、この子に?
何を言ってるか分からず狼狽える俺の様子を前に、少女は楽しげな笑みを深めた。
「ベラトリア最奥が主は今、目の前におるぞ、卑小な冒険者よ。何処からでもかかってくるが良い」
それは先日、車を買ったと知らせた家族から送られたものだった。仕送りの米とかと一緒に入ってた、いわゆるアクセサリーだ。
交通安全のお守り。近所の神社のやつ。
猫のぬいぐるみ型箱ティッシュカバー。実家の愛猫、ハチワレのピコにそっくりだ。
ソーラーで動く首振り人形。キャスケットをかぶった、何だこれ…ハニワ?がニッカニカで笑ってる。
そして、初心者マークのステッカー。見つけた途端「いや、持ってるし」と心の中でつっこんだのをよく覚えてる。
何だよこれ。どうしてこんなものが、転生先でボーナス扱いされてんだ。
プルプル甘えるピコに首ったけな親父。お守りを買いに神社へ足を運び、帰りにお気に入りの店でパンケーキを平らげたであろうお袋。首都高なんかもバンバン通い、未だにペーパーの俺を嘲笑っていた弟。
いかん、ストップだ。
これ以上思い出したら、ホームシックで大変な事になる。今そんな場合じゃないのに。
出てきた4つを眺め、助手席に並べてく。そうして、箱の底にあるメモを発見した。
「ピコくん型・車検受付口」
車体の不具合改善、改良を行えます。
有料。500G~
「交通安全のお守り」
スキル使用時、消費MP半減。
(MPはガソリンメーターで確認できます)
携帯時、回避上昇。
「埴輪人形型・動力還元装置」
所持金や魔力の帯びた物をMPに変換できます。
ストック可。ガソリンメーターが空になった際、自動で補充されます。
どうやら、ボーナスについての説明書きのようだ。実家から送られてきた物まで、すっかり異世界仕様になってら。
「車検……有料500G……Gって、円?このティッシュカバーに払うのか?てか、車検って……」
無意識に口元を押さえながら、メモの文字を辿る。
MPはわかる。RPGお馴染み、魔法を撃つのに使うポイント。しかし俺にはそんなの無いぞ。ついでにRPGの世界に車検があるとも思えない。
「くそっ、何もわかんねえ!」
癇癪を起こしメモをフロントガラスへ投げつける。
このままだと、大の男が声を上げて泣きそうだ。
俺は気を紛らそうとお守りを鷲掴み、フロントミラーにくくりつける。助手席のフロントガラス側へ、ピコのティッシュカバーを寝かせ、すぐそばにハニワをくっつける。ニカニカ、カタカタしてる。何わろてんねん。
あとはステッカーか。
そういや、メモにはなんの説明もなかった。これだけは、本当にただのステッカーのようだ。
「…この世界には、これが初心者マークってわかるやつは1人もいないんだろうな…」
未熟者だぞ、気をつけて、と周囲に認知してもらう為の……俺の世界のマーク。
なんとなく、付けておきたかった。
ステッカーを握り締め、再び周りを注意深く見回す。やはりモンスターの気配はない。大丈夫かな。
「よし、こいつを貼って…」
意を決して、ドアを押し開けた。日のさし始めた広場に初めて降り立つ。
「ほう。やぁっと姿を現しおった」
「ッヒィ!!?」
誰かいる!
ドアを閉める間もなく上がった声に、俺の心臓は全身ごと跳ね上がった。
そこにいたのは、小柄な少女だった。
中学生くらいだろうか。とても綺麗な女の子だ。背中まで流れる艶やかな黒髪に、白い肌。深い紫の瞳が楽しげに輝いて、こちらを向いている。
そんな美少女が、車の屋根に危なげなくポンと立っているのは異様な光景だ。
「おや。魔力はそこそこあるようじゃが、なんと非力な。よくぞここまで辿り着いたの、褒めてやろう」
「あ、あ……どうも…」
こんな場所にたった一人でいる丸腰の美少女が、只者のわけがない。思わずジリジリと後ずさってしまう。
「それで?今までどうやってわしの目を掻い潜っておったのだ。この箱か?何だコレは、部屋か?ホレホレ、種明かしせんか」
少女は流れるような動作で屋根に腰掛け、脚を組んだ。興味深々といった楽しそうな顔つきは年相応に見えて、おかげで俺は少しだけ落ち着きを取り戻す。
「これは、あの、自動車っていう乗り物です。俺もよく分からんのだけど…コレで隠れながら移動できるみたいで」
「ほう、乗り物とな。特殊スキルかマジックアイテムだとばかり思ったわ。外の世には妙ちきりんな物があるのだなぁ」
ペシペシと手のひらで屋根を叩いて、感心したように少女は言う。
正体不明だが、今のところ普通に受け答えしてくれる。ひょっとして、本当にただの女の子なのか?近くに親がいるのかも。
そう思い始めた矢先に、少女の口からとんでもない言葉が発される。
「して、到達者よ。こそこそ隠れるのをやめたという事は、このわしに挑み討ち滅ぼす手段が他にあるのかな?」
「へ?」
挑むって、この子に?
何を言ってるか分からず狼狽える俺の様子を前に、少女は楽しげな笑みを深めた。
「ベラトリア最奥が主は今、目の前におるぞ、卑小な冒険者よ。何処からでもかかってくるが良い」
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