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空は分厚い暗雲に覆われている。紫がかった、おどろおどろしい雲だ。あまりに暗いので夜だとばかり思っていたが、これでは星一つ望めそうにない。

街を血管のように巡る大通りと、更にそこから枝分かれし入り乱れる路地。そのどれもが朽ち果ててガタガタだ。
そんな道を進み始めて、15分ほど経過した。

「ギャーーーッ!」

俺は叫び倒しで、すっかり喉を涸らしている。
ゴーストタウンには、街を徘徊している怪物たちがいた。モンスターだ。やはり異世界。
熊のようにでかい犬の群れや、ガシャガシャとうるさく動く鎧の群れが、走る車のすぐ傍にいる。サファリパークのツアーよろしく大迫力だ。

そいつらには、車の姿もエンジン音も感じられないらしい。たぶん、ナビの言っていた「ステルスモード」とやらのお陰だろう。
しかしステルス過ぎるのか、明らかに車にぶつかる距離なのに、霞のように通り抜ける。接触事故のオンパレードだ。恐ろしさでいちいち悲鳴をあげてしまう。

「ギャッ!……早く、たどり着かないと、ヒエッ!…ガス欠になったら詰む…ッ!」

デカ犬たちのギラギラした赤い目や凶悪な牙が嫌でも目の前を通過していく中、ハンドルにしがみついて進んでいく。
15分足らずしか進んでいないのに、もうガソリンメーターがじわじわ減り始めている。こんな中、ガス欠で動けなくなったらどうなるか、考えたくもない。

かと言って、最短距離で目的地へ向かえる訳でもないのだった。

「まもなく、右方向です」

直進すれば済む道を、ナビは何度か迂回させる。それもそのはずだ。ことさら屈強そうな、いかにも「ボスです」というモンスターが鎮座しているのだから。

崩れて傾いた尖塔に止まり、ギョロリと街を見下ろしている怪鳥のモンスター。長い飾り羽が垂れ落ちる頭部は鷹で、しかし足と胴体はがっしりしている。とんでもない巨体だ。俺が正面衝突したトラックくらいある。

「ギュォォォォッ!」
「ひぃぃっ」

ナビはこいつを大回りで避けるくせに、犬や鎧には迂回指示をしない。…恐らくこの巨鳥モンスターは、ステルスで安全に通過できる相手ではないのだ。
というわけで、喜んで従います。右折右折。
現実でナビを使っていた時は、誘導を無視した方がかえって良かったりする時もあるけれど…流石に今、そんな気は起きない。

ここが現代では考えられない、ファンタジー世界である事は確定した。
貰い事故で日本から爪弾きされた俺は、ここで第二の人生を送らなきゃいけないのか……こんなバケモンがわんさかの場所で。
なにもこんな所に放りださなくてもいいじゃないか。村の近くとか森とか、もっと無難な場所にしてほしい。せめてコミュニケーションが取れる者に会わせて欲しい。
こんな所で1人寂しく、どうやって生きていけというんだ。

「およそ600メートル先、左方向です。その先、目的地付近です」

きた!やっと到着だ。街の中心部に来たようだ。

「よ、良かった。もう犬も鎧もワシも見たくね~」

もう何でもいいから、モンスターのいない所で息をつきたかった。ブロロロと車を進める。
道には朽ちた建物の倒壊物が至る所に転がっている。中には大岩のように横たわっているのもあったが、モンスター達と同じですり抜けて通ることができた。今の所、タイヤも全然無事のようだ。

こんな所に車ごと放り出されると言われた時は、ふざけんなこのおっさんと思ったが…‥(今でもかなり思ってはいるけど)中古の軽をステルスなスーパーカーに改造してくれたのはありがたい。あいつがこの車をファンタジー仕様にしてくれなかったら、とっくに俺は死んでいたはずだ。もうちょい燃費良くして欲しかったけど…元は中古車だしな。

大通りを曲がって暫くすると、ひらけた場所にたどり着いた。円形の広場だ。
それと同時に、どんよりと紫がかった暗雲に覆われた空から、日の光がさしてくる。なんか晴れてきた。

「目的地付近です。ルート案内を終了します」

は!?

いきなりの突き放しに俺は飛び上がる。出たよ、カーナビあるある・突然の案内終了ほっぽり出し。なに終了しとんねん、何処に出口あんねん!

広場をキョロキョロと見回す。朽ちた街並みの中に、それらしいものは無い。なんにも無い!
隠されているんだろうか。そうなったら、いよいよ外に出ないと……
冗談じゃない。しかし、いつまでもこうしてはいられない。じんわりと嫌な汗が吹き出る。

日がさして明るくなった広場に、モンスターの姿は無し。俺はソロソロと車を進め、見晴らしの良い広場の中寄りで停車した。
ままよ…ままよ…と唱えながら、エンジンを切る。
しんと降りる静寂。犬の呻き声や、鎧の擦れる音は聞こえないな。

さてどうしよう、と思ってふと、助手席のダンボールが目に留まる。

「ボーナスだっけ。…確認しとくか」

車のカーナビ同様、おっさんがつけてくれたもの。命を守るのに必要な、重要なブツの可能性大だ。
膝の上で開封。
入っていたのは最近見覚えのあるもので、驚きの声が出た。
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