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 国土の5分の1が隣国のものとされ、国が揺らいだから。
 国を揺らがせたのは、この国の王太子ラオ馬鹿だった。

 12歳となり大人として認められた王太子ラオ馬鹿が実力を知らしめそうと親衛隊を引き連れて隣国へと攻め入り、そして隣国に捕まり捕虜とされた。

 王太子ラオ馬鹿の身代金として要求されたのは国土の5分の1。

 その土地は、王の年の離れた弟が王族の地位、王位継承権を放棄する約束で譲り受けたもので、王国にある金鉱の3分の1の埋蔵量が期待され、巨大な河川が流れ、河川を下れば穀倉地帯が広がっている豊かな大地。 取り返さなければ国に危機が訪れるほどの豊かな大地である事を誰もが理解していた。

 だけど、戦場に出向こうと言う者は居なかった。

 仕方ありませんよね……。
 誰だって命は惜しい。
 愛する人と一緒に居たい。
 痛い思い等したくない。

 それが馬鹿王太子のためなら、余計に不満だろう。
 王家から追放された幼い大公が独占する領土を取り戻すために命をかける意味はあるだろうか?



 集まらない兵士を、自らの領地を取り戻すために幼い大公は身銭をきって集めた。 

「ちびちゃん、君を守るよ」

 私の王子様は、泣きじゃくった汚い顔の私にとっておきの笑顔でそう言った。



 それが、私の初恋。
 身分違いの恋心。
 かなわぬ思い。

 私の密かな乙女心。






 13年戦場で暮らし、日々を終えた。
 どんなに元気な人でも、数秒後には死ぬこともある。
 大ケガで血に濡れ戻って来る事もある。

 その時、その場で、彼等は家族だったから私は必死に治療を行った。 幼い頃から、繰り返し繰り返し、泣きながら大切な人の命を守るために治療をしていた。 幼い頃から治療魔法を使い続けた私は聖女と呼ばれ、そして王国1位の治療師となり大切にされた。

 不謹慎にも私は幸福だったのだ……。
 優しい人達に囲まれて。



 だから……いつの間にか、そう……いつの間にか、私の記憶は両親は私を泣きたい気持ちを必死に抑え、悪役を演じて私を送り出した……そんな馬鹿な妄想に私の記憶は塗り替えられていた。

 例え、私を売ったお金、月々の給与、褒賞金、それらが実家に支払われていて王都から故郷に帰るだけのお金が無かった事に気付いた後も。

 だって、仕方ないでしょう?
 家族の居ない傭兵以外は、実家にお金を送ってもらっていたのだから。



 私は医療部上官に頭を下げた。
 父よりは若いけど、13年の間、私の父親代わりだった人。
 少しばかり乱暴だし、口が悪いけど、優しい人。

「カイン先生……申し訳ありませんが、家に帰るまでのお金を貸して頂けないでしょうか?」

 私は絞りだすように、恥ずかしくも頭を下げる事になった。

「これからも私の片腕として過ごせばいい」

「私に結婚をあきらめろと?」

「はっははははは、貴方のような女性を妻に迎える男性は劣等感でツライ思いをするでしょうね」

「私は……以外と、尽くすタイプかもしれませんよ?」

「それはそうだろうな。 うん、そうだろう。 だが、それはそれだ。 背筋を伸ばし歩くだけで王都のへにゃへにゃ歩く貴族令息を吹き飛ばしてしまうだろう?」

 そう言って上官は笑い、私は笑えないと軽く上官の腕をつねった。

「いたったたた」

「ふんっ。 私だって、両親に……会いたいんです」

 そう昔……聞く事が出来なかった、本当の気持ちを聞きたかった。

「そっか、そうだな……。 7歳から13年、親に会う事もなく戦場だもんな……って、お前まだ20歳か?!」

「まだ、ではありませんよ」

 私は溜息をつき、乱暴に頭をかきながら言った。

 貴族令嬢であれば成人である12歳には婚約者が決められるし、うちの村であれば15で結婚するのが普通なのだから。

 不安……が見て取られたのだろう上司は、優しい笑みを私に向けた。

「相手が見つからなかったら、私が良い相手を探してやるから何時でも帰って来い」

 そう言って大きな手で私の頭を撫でるから……涙をこらえるのが大変で……カイン先生の白衣で思い切り鼻をかんで誤魔化した。

「ちょ、おま!! 何するんだ!!」

「べーー」

 私は舌を出し、戦場を後にする準備を始めるのだった。
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