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 7歳の時、私は両親に売られた。

「嫌!! 嫌よ!! 家に帰る!! お家に帰りたいの!!」

 無視される声。

 返されるのは煩い、黙れ、痛い思いをしたいのか?!そんな怒号。 親に売られた私は膝を抱え灯りの差し込まない馬車の中で……不幸が立ち去るのを待とうと……幼く無知な私は考えていた。

「父様、母様……お姉様……」

 私の家族は、両親、姉はとても美しい人で、村の中で最も大きな家に住んでいた。 そして村人たちに敬意を向けられ、人々に好意を向けられ……幸せだった。

 どうして……私ばかりこんな目にあうの。



 私が父に売られたのは7歳の時だった。







 なぜ、私だったのか……。

 私はぶつぶつと恨み言を繰り返し小声でつぶやいた。

 なぜ?……本当は分かっている。
 両親や姉は、これが正しいといった。

 知っている。
 本当は知っていた。
 私だけが家族では無かった事を。

 両親と姉は、とても美しく妖精一家と呼ばれている。

 黒髪、紫水晶の瞳、白い肌、長い手足、歌と演奏とダンスが好きで踊る姿は妖精のようだと言われ、貴族のパーティに3人は良く招かれていた。

 だけど私は違う。
 一人だけ違う。

 人の注目が恥ずかしくて歌えないし、踊れない。 それに印象の薄い金の髪、金の瞳をしていた。 何もかもが違っていた……だから、仲間外れにされた……の……かもしれない。

 私は膝を抱えて泣くしかできなかった。
 優しい笑顔で手を差し伸べてくれた私の王子様に出会うまで……。



 私が生まれたのは、100件程度が集まる小さな集落。
父は、その小さな土地を預かるアシュビー男爵。

 身勝手で矮小な男、20歳になった私なら冷ややかにそう言ったでしょう。 だけど7歳の頃の私にとっては、父は美しく、たくましく、物知りで、完璧な存在だった。

 そんな完全無欠の父は、ある日私に笑顔で言ったのだ。

「治療術を使える人間は珍しい。 例えお前のような者でも便利に使われる事だろう」

 聞き間違えでは? 私は耳を疑った。

「父様? 何をおっしゃっているの?」

「お前にはアシュビー家の代表として、戦場に出て貰う事になった。 治癒術が使えるお前が一番ふさわしく、そして役立つだろう。 これは決定事項だ!! 小さな領地では何の準備も出来ないが、貴重な治癒術師、それに小さな子供であれば、きっと可愛がってくれるだろう」

 一気にまくしたてられ、私は、ぇ? ぇ?? 戸惑う事しかできない。

「戦場って……私が、ですか?」

 恐怖で身体が震えた。
 

「いやっ!!」

「お前は、私が死ねばいいと言うのか!! それとも、母や姉が戦に荒ぶる兵士達の慰め者になれば良いと言うのか!! なんて……なんて、酷い子だ……」

「父様は、私なら死ねばいいと思っているのですか!!」

「治療術師が前線に出る事は無い!!」

「私が、兵士達の慰め者になれば良いと言うの!!」

 当時の私は意味も分からず叫んでいた。

 父は不愉快を露わにして、勢いのままに私の頬を打った。

「下品な言葉を使うな!! お前なら大丈夫だ。 美しいお前の母や姉と違い、鳥ガラのような身体をしたお前に興味をお持つ奴等要る訳ないんだからな!!」

 絶望した……。

「私は、家族が大切なんだ。 大切なんだよ。 誰にもかけて欲しくない。 皆で幸せになりたいと思っているんだ。 そして……私の願いを叶えてくれるのは、お前しかいないエイファ。 どうか……頼む。 お前が……自分が助かればいい、そう言う身勝手な奴だと言うなら……。 私は今、この瞬間に、娘を失ったと諦めるしかない」

 威圧する手が、力強く肩を掴む。
 痕がつく程の力で。
 爪が立てられ、血が流れるほどの力で。

 食い込む爪がそのままに、身体が揺さぶられ痛みを与えてくる。

 近寄せる顔が獣のように、悪魔のように、残酷に見えて恐ろしかった。

 それでも戦争は怖くて、唇をかみしめていれば……。

「分かった……大切な末娘が亡くなった事を理由に、出兵は回避させてもらおう」

 首につきつけられるナイフ。

 親と言う存在が、そんな事をする訳ない。 両親、姉からの脅しに家に出入りする大人に助けを求めたけれど誰も信じてくれなかった。 それどころか、助けを求めた事実が両親に報告され、虚言式を持つ事を問題視され……人格矯正が必要だと暴力が振るわれた。

 痛くて……痛くて……とても痛くて、そして私は治療術を身に着けたのだ。



「わかりました……。 行きます……」
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