上 下
22 / 22

終わり

しおりを挟む
 セレナの死を知ったエリスは、そのまま精神を病み弱って行った。

「食事をしないと」

「いらないって言っているでしょう!!」

 仕事にならない……。
 足手まとい……。

 誰もがそう思っていた。
 そして……それに気づいていた。

「もう、いい!! 私の居場所なんてないんだから!!」

 どれだけ必死に追いかけようとしても、手が届く事は無く、遠く、遠く、一分、一秒、時が進ごとく私から離れて行った。 どうしても追いつけない。

 だから……落としてしまえと思った……。

 落ちた……。

 でも……

「こんな事、望んでいない」



 エリスは実家に帰される事が決まった。
 ユーリと共に。

 婚約破棄も仕方がないとしたが、今のエリスが余りにも可哀そうだからユーリはエリスについて行くことに決めたと言う。

「同情なんて要らない」

「早く、元気になれ」

「うるさい……いつまで私に付きまとうのよ」

 なぜか……泣きたくて……泣きたくて……どうしようもなくて……私は布団をかぶった。 布団の上から乱暴に撫でられる頭が……切なかった。



 オルエン商会は、血縁の無い幹部が引き継ぐ事になったが、そう長く続く事は無いでしょう……フォレスター侯爵の保護が失われれば、違法行為に対する過去の見逃しの全てが押し寄せて来るでしょうから。



 夜風が心地よいバルコニーに私はいた。

 私の本来の色、プラチナブロンドの髪が揺れる。

「綺麗ですね」

「えぇ、月明りにうつる花も綺麗ね」

「花の事ではなく、貴方ですよセナ」

 今日クレイは、フォルスター侯爵家の跡継ぎとなる。
 私が死んだ日から2年の時が経過していた。
 表舞台に出るまでは、それだけの時が必要だったのだ。

 私は、セナ・モンテスと今は名乗っている。 フォルスター侯爵家の配下にあたるモンテス子爵家の隠し子として受け入れられた。



「貴方を妻に出来る日が来るなんて……」

 そう言ってクレイは私を背後から抱きしめる。

「そんなに自分に自信がなかったのですか?」

「違いますよ。 余りにもワザとらしくナイフを見せつけたからです。 バレるんじゃないかってひやひやしましたよ」

 2年の間、何度となく言われた言葉。

「しつこい男は嫌いです」





 あの日、私は最初から死を偽装するつもりで、懐に血を仕込み、ナイフを見せつけたのだ。 いわくつきのナイフであれば、飛びついてくるのは分かっていた。 後は揉みあい切られた振りをすればいい。

 エリスは、感情的になる子だから。

 私の分身。
 私達は2人で1人。
 誰よりも良く分かっている。

 私が居なくなったと荒れたエリスは、今はユーリと共に王都から離れた地で田畑を耕している。 貧乏だけど……平和な日々を送っているらしい。



 私の葬儀を上げた両親は……私を覚えていなかった。 領地経営で年に2.3か月は一緒にいたのだけど、両親は私ではなくエリスとして私を理解していたから……。 私の顔なんて覚えていない。

 体格の良く似た身元不明の女性死体に、あの日、血に濡れたウィッグをかぶせた。 死ぬまでに苦しんだから顔立ちが変わってしまったと言えば、両親はソレを信じた。

 そう言う人達なのだ……。
 そう言う人達は、慣れた贅沢を放棄できずに……領地を売り渡し贅沢に溺れ、今は何処にいるか分からない。 きっと……生きてはいないだろう。





「そんなぁ~、私はこんなに貴方を愛していると言うのに……酷い人だ」

 じゃれ合うように耳にささやき、口づけ、クレイは笑う。



 幸せ。

「これから、もっと幸せになるよ」

 クレイは笑う。





 感謝しよう。

 私ではなくエリスを選んでくれた事を……。



 私、もっと、もっと幸せになります。




 終わり
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」 ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。 それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。 傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……

幼馴染のために婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです

新野乃花(大舟)
恋愛
クライク侯爵は自身の婚約者として、一目ぼれしたエレーナの事を受け入れていた。しかしクライクはその後、自身の幼馴染であるシェリアの事ばかりを偏愛し、エレーナの事を冷遇し始める。そんな日々が繰り返されたのち、ついにクライクはエレーナのことを婚約破棄することを決める。もう戻れないところまで来てしまったクライクは、その後大きな後悔をすることとなるのだった…。

【完結】私から奪っていく妹にさよならを

横居花琉
恋愛
妹のメラニーに物を奪われたジャスミン。 両親はメラニーを可愛がり、ジャスミンに我慢するように言った。 やがて婚約者ができたジャスミンだったが、メラニーは婚約者も奪った。

あなたに未練などありません

風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」 初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。 わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。 数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。 そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

婚約破棄宣言は別の場所で改めてお願いします

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【どうやら私は婚約者に相当嫌われているらしい】 「おい!もうお前のような女はうんざりだ!今日こそ婚約破棄させて貰うぞ!」 私は今日も婚約者の王子様から婚約破棄宣言をされる。受け入れてもいいですが…どうせなら、然るべき場所で宣言して頂けますか? ※ 他サイトでも掲載しています

勝手に勘違いして、婚約破棄したあなたが悪い

猿喰 森繁
恋愛
「アリシア。婚約破棄をしてほしい」 「婚約破棄…ですか」 「君と僕とでは、やはり身分が違いすぎるんだ」 「やっぱり上流階級の人間は、上流階級同士でくっつくべきだと思うの。あなたもそう思わない?」 「はぁ…」 なんと返したら良いのか。 私の家は、一代貴族と言われている。いわゆる平民からの成り上がりである。 そんなわけで、没落貴族の息子と政略結婚ならぬ政略婚約をしていたが、その相手から婚約破棄をされてしまった。 理由は、私の家が事業に失敗して、莫大な借金を抱えてしまったからというものだった。 もちろん、そんなのは誰かが飛ばした噂でしかない。 それを律儀に信じてしまったというわけだ。 金の切れ目が縁の切れ目って、本当なのね。

身勝手な婚約者のために頑張ることはやめました!

風見ゆうみ
恋愛
ロイロン王国の第二王女だった私、セリスティーナが政略結婚することになったのはワガママな第二王子。 彼には前々から愛する人、フェイアンナ様がいて、仕事もせずに彼女と遊んでばかり。 あまりの酷さに怒りをぶつけた次の日のパーティーで、私は彼とフェイアンナ様に殺された……はずなのに、パーティー当日の朝に戻っていました。 政略結婚ではあるけれど、立場は私の国のほうが立場は強いので、お父様とお母様はいつでも戻って来て良いと言ってくれていました。 どうして、あんな人のために私が死ななくちゃならないの? そう思った私は、王子を野放しにしている両陛下にパーティー会場で失礼な発言をしても良いという承諾を得てから聞いてみた。 「婚約破棄させていただこうと思います」 私の発言に、騒がしかったパーティー会場は一瞬にして静まり返った。

婚約は破棄なんですよね?

もるだ
恋愛
義理の妹ティナはナターシャの婚約者にいじめられていたと嘘をつき、信じた婚約者に婚約破棄を言い渡される。昔からナターシャをいじめて物を奪っていたのはティナなのに、得意の演技でナターシャを悪者に仕立て上げてきた。我慢の限界を迎えたナターシャは、ティナにされたように濡れ衣を着せかえす!

処理中です...