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17 終わり

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 待ち構えていた警備の者が、3人の女性を確保した。 明日までと言う言葉に謝罪や誠意を向けたなら、与えられた時間は明日ではなく、明後日にも一週間後にもなっただろう。

 全ては予定されていた事だった。

 カスパーは顔を上げ、堂々とした様子で……最後の次期公爵としての仕事を終わらせる。

「このような茶番にお時間を頂き申し訳ございませんでした。 次の集まりは次期公爵のお披露目となるでしょう。 お会いできる日を楽しみにしております」

 晴れ晴れしい笑みを浮かべていた。





 その場を離れた三人の女性達は、警備のものに拘束され部屋から連れ出そうとすれば、グレーテルは怒鳴った。

「なんのために貴方達を迎え入れたと思っているの!! 彼を満足させるためだと言うのに!! この役立たずが、どうしてくれる私は……私は……終わりだ……もう、社交界に戻る事は無理……」

 ガックリとうなだれた。

「良いざまね。 私が念入りに真実を広めておくわ」

 ニヤニヤとしていた女性は、グレーテルのライバルとされていた女性だ。 学生時代も女騎士としても、そして……次期公爵の愛人いや実質上の第一夫人としても勝利していたはずだった。 だから……勝者としての立場を利用して精神的な満足感を得ていた。

 自らを公爵夫人だと言いながら、男を連れ込んでいた。 ライバル女性の思い人を次々と奪った。 勝利の快楽の分……いや、それ以上に落とされるだろう。

 グレーテルは精神的な拠り所を失った。
 居場所を失った。
 心の拠り所を失った。
 愛し合った商人にはやがて拒絶されるであろう。

 だけれど彼女は幸いだ。
 手を差し伸べるものが出て来るのだから。

 手を差し伸べたのはグレーテルが嫌う家族だった。

 惨めで、空しくて……苦しくて……自分の無価値さに泣いて泣いて……部屋から出る事が出来なくなったが、それでも迎え入れ立ち直るのを見守っている家族がいるのだから幸いだろう。

 それがグレーテルの末路。



 ベティーは叫んでいた。
 関係を持った公爵家の一族の者に。

「この子は、この子は、本当に……この一族の子なのよ!! 貴方の子なの!! 本当よ!!」

 ベティーの必死な視線はそらされた。

「卑怯者!! 私を愛していると言ったのに!!」

 向けられた相手は、まだ……子供、少年だった。 顔色が悪い……。

「責任を取りなさいよ!!」

「幼い子供を無理やり……」

 周囲が怪訝な声を出し顔をしかめた。
 ベティーは自ら犯罪を認めた事となる。





 馬鹿……。

 フレイヤはベティーの発言に声を出さずに唇を動かし……脱力した。 これで村に戻るしかなくなる……。 それも悪くないとフレイヤはほくそ笑み……、彼女は大人しく出て行くと了承し、そして……故郷に戻るための入念な準備期間を得た。

 他の二人とは違い、買い与えられた高価な品を売り払い現金にし、悠々と……故郷に凱旋する



 はずだった。



 だが村に戻れば怪訝な顔をされた。
 家族はもう村にいなかった。
 女には、村から出て行けと言われ、
 男には、村で飼ってやろうとニヤニヤされた。

「私を売った金で生きながらえた癖に!! 家族をどうした!!」

「家族はその金を持って逃げた。 まったく、ろくでもない奴等だ……」

 ニヤニヤと、薄汚い物を見るような視線を向けられた。 家族の行方は誰も知らず、フレイヤを売ったお金がどうなったか調べようが無かった。 自分を抱きたいと言う男に身を任せ情報を得ようとしたが、誰もが同じ言葉を繰り返すだけ……。

 情は無い情報が欲しかっただけ。 なんて言い訳が妻や恋人に通用する訳等なく、村から追い出され……彼女は……行く先もなくカスパーを頼ったが、騎士見習いが好んで利用している食堂の給仕の仕事を紹介されるにとどまる事となる。





 全てが終わり、カスパー自身も屋敷を後にする事となっていた。

「そこまでする必要はあるのかしら?」

 カスパーと離縁した後も、私は公爵家の世話になっている。 カスパーは公爵家を出て、私が残る。 おかしな話。

「僕には、公爵家と言う地位そのものが重荷でしかないんだ」

 見送る私に、苦々しくカスパーは言う。

「僕と一緒に来てくれないだろうか? 君が共に来てくれるなら、僕は君を唯一の人として大切にすると誓うよ」

 彼は諦めの混ざった声で言った。

「どうかしら?」

「信じられない?」

「えぇ、そうね……だって、私も貴方もお人よしですもの。 可哀そうな人を見て、助けなければ心を裂いて、お互いを見た時に私達は嫉妬交じりに気分を害するのよ」

「……否定できない所がツライな……」

 苦笑いだった。

「でも、ここは何時だって貴方の帰るべき場所よ……。 私が守ってるわ。 彼等と共に」

「そうならないようにするよ。 で、無いと……僕は自分を嫌いになるだろうからね」

 お人よしで、情けなくて、人が良い人。
 可哀そうな人を助け……家族に損失をもたらす。

 私の家族とそっくり……そう思っていたけれど……彼は変わりたいと、変わろうと私に誓ってくれた。 私とはもう夫婦でもないのに。



 私は、公爵家に残る。



 私の、私だけの執事と……いえ、公爵家の長子である男と共に。

 ケヴィンは孤児だった。
 我が家で教育を受けた。
 私の、私だけの人。

 だけど恋をしてはいけない人だった……そう思っていた。 そう思い込んでいた。 でも、本当は違った。 ケヴィンは公爵家の長子なのだと、その証拠の数々が集められた。 神殿による血縁解析によって公爵との親子関係が認められた。

 彼が、公爵家の長子だと調べたのは、カスパーだった。

 今はまだ混乱の中だけど、ケヴィンは……次期公爵となるだろう。

 私は……。

 私の恋は、これから始まる。



「よし!! 頑張ろう!!」

「何を、ですか?」

 次期公爵だと定められたが、ケヴィンは変わりなかった。

「次期公爵様。 もっと、堂々となされてはいかがですか? もう、貴方は私の、私だけの執事ではないわ」

「寂しいものですね……」

「ねぇ、貴方が良ければだけど……これから、新しい私達の関係を築きませんか?」

「それは……どういう?」

 そう語る彼は、ニヤニヤしている。

 分かっている癖に……私の好意を。
 そして、私も分かっている彼の好意を。

「何? 私から言わせるの?」

「では……私との将来を考えてはくれませんか? 愛しています」

「私も、ずっと……好きでした」

 ずっとずっと好きだった。
 ずっとずっと大切にされていた。

 愛のように……。

 きっと愛だったに違いない。

「ねぇ……好きよ」

「私も、愛していますよ」

 見つめあい、私達は軽く口づけを交わす。
 これまでの気持ちを確認するように。
 これからの未来を誓うように。



 終わり
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