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14 告白

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 公爵本家での騒ぎに、カスパーは顔色を悪くしていた。

「どうして……」

 もう何度も口にした言葉だった。

 問題ばかりが起こっている。
 一応、その場その場で犯人は捕まえ解決はした。

 その者達が言うのは……フレイヤ(赤)に頼まれたと言うものだった。 それを追求すればこう言ったのだ。



『私達を追い落とすために、あの娘が罠を張ったに決まっているわ。 だって……私達は愛し合い寄り添いあい助け合っている者同士だと言ったでしょう?』



 同時に……グレーテル(緑)が、社交界で昔と同じように……いや、昔の彼女のファンだと言うご婦人たちは夫が愛人を作るの軽蔑しており侮蔑しており屈辱を受けていたから、彼女が僕の愛人になると同時に非難を言い冷たくしてきて、そしてグレーテルは居場所を失い社交界から遠のいた。

 今、グレーテルの周りにいるのは、彼女の落ち着いた雰囲気や、少し憂いを帯びた雰囲気が素敵だと言う令嬢達。 グレーテルは自分の境遇を知らない年若い令嬢と交流を持ち、令嬢達にグレーテルが望む思想を……いや、フレイヤが望んだとおりの思想に染めあげ噂を広めてくれていた。

『なぜ、そんな事をするんだ。 君は清廉な人だったじゃないか!!』

 悪い噂を広めた事を直接的に非難したのは、本当に彼女らしくないと驚いたから。

『それだけで生きていけるほど、世の中は甘いものではないのですよ』

『すぐにやめろ』

『彼女が、私達よりも下であると示してください。 でなければ……私達は、私達を守らなければなりません』

 騎士として共に戦場を歩んできた親友が静かに嘆けば、カスパーは途方に暮れた……。 今、エーファの身に起こっている事が全て自分の愛情を欲しているからだと言われれば、どうして責められるだろうか?

 例え……身体の関係を持っていないとしても、責任を感じずにはいられなかった。 だからと言って……どうできると言うのだ……。



 カスパーは……途方に暮れ……自分を嫌い、父が恐れる祖父へと相談した。 父に相談すれば、息子可愛さに正しい答えへと導いてくれないだろうからと……。



 そして、同日、カスパーはエーファに二人きりで話をしたいと願った。

「……いいわ」

「お嬢様!!」

「流石に、私に害を及ぼす事はないでしょう」

「ですが!! 彼は害を及ぼす者を放置している!! それは、害を及ぼしているのと同じですよね!!」

 珍しくケヴィンが声を荒立てれば、思わずそれもそうよね……と反省した。 だって、余りにもカスパーが真剣な表情で礼儀を守って話をしたいと申し出て来たから。 恋人として三か月の間誠実に対応してくれていたから。

 少なからず情のようなものが沸いていた。

 そんな戸惑いを見たケヴィンが唸るように言うのだ。

「お嬢様……」

「分かりました……。 別に公子様を主犯だと思っている訳ではありませんのよ? でも……」

「いや、頼む……流石に、他の人が居られては……」

 恥じらいが混じった顔を見せつけられれば、やっぱり……気になって、ケヴィンをジッと見つめて

「お願い……少し、距離を置いてくれているだけでも」

 ケヴィンは唸り、そして溜息と共に了承した。

「武器の類は没収させて頂きます」

「いや、持ってない」

「例え自分の屋敷でも、万が一のことを考えないと言うのはどうなのでしょうか?」

 そうケヴィンに言われカスパーは苦笑いをするしかなかった。

「そうですね……大丈夫です。 と、言えなくしたのが自分であると思えば……なんとも言いようがない……気になるならボディチェックでもなんでもするがいい。 両手が使える事が気になるなら、拘束しておいてくれても構わない」

 そこまで言っているのなら……。

 そう、私は思ったのだけど、ケヴィンは容赦なくカスパーを重たいソファの足の部分にロープを結び、カスパーを拘束した。

「ここまでしなくても……」

「いえ、全ては僕の不甲斐なさが招いた事です」

 そう、あっさりと言ってのけるのだった。



 そして、ケヴィンとリリーは、何かあれば叫ぶようにと言いつけ部屋を出て行った。

「えっと、なんだかごめんなさい」

「いや、仕方ない……」

「それで?」

「あ……えっと……。 僕には少しでも好意を持ってもらえるだけの、可能性はあるだろうか?」

「……三人も愛人がいながら……贅沢な人ですね」

「あぁ、愛していた……。 家族のようで、公爵家と言う地位が重く何時だって逃げたいと思っていた僕を、ただの僕を必要だと言ってくれたんだ。 グレーテルは私達は友人だろうと。 フレイヤとベティーは奴隷の身分だった私達が、他者の身分に何かを言う立場にありません。 ただ、僕が好きなのだと」

「えっと……それは、その言葉の通りおっしゃったのかしら?」

 違和感を覚えた。

「そうだが?」

「おかしくはないかしら?」

「ぇ?」

 私はもう一度、奴隷上がりの二人がどのように語ったかを尋ねた。 奴隷上がりと言われ不快そうな顔をされたし、彼女達はただの奴隷ではない。 村を救うためにそうせざる得なかったんだと、言い含めるように、懇願するかのように語り出そうとしたところを私は止める。

「その不満は、後で聞きますし、私達からも言うべき事があります」

「私達? これは、僕と君との話なのでは?」

「そうやって、すぐに横に話しをずらさないでもらえますか?」

「……ぁ、すまない……。 どうにも最近、思考力が鈍っていて」

 最近と言うか、随分と前から鈍っている? 或いは、元から……知性派ではなかったとは聞いていましたが……。

「なぜ、公子様が奴隷ごときに、そのように上から目線で語られているのですか?」

「彼女達をそう言う風に言わないでくれ!! 僕の心の拠り所なんだ……」

 私は肩をすくめる。

「でも、私にとっては脅威ですわ」

 ハッキリ言えば、ぁっ、と言う顔をした。

「すまない……どうしても、以前の感覚が抜けなくて」

「まぁ、公子様がその立場になければ、私を無理に娶る事もありませんでしたからね」

「無理だなんて!! そんな風に思ってない……。 そりゃぁ籍を入れた当日まで顏も合せなかったけれど……会えば思った……。 君のような子が妻になってくれて良かったって」

「三人も心の拠り所があって、おかしな話」

「僕は強くはない……いや……君よりは腕力はある、けど、公爵家と言う家名は重いんだ……不安で不安で仕方がなくて……彼女達と一緒にいれば公子としての立場を忘れられたから……」

「結局のところ、私に好意を抱いたとおっしゃるのも同じではありませんか? 自分の立場を何とかしてくれる人って」

「そんな事はない!! だって、君には……いや、いい……こんなのは良くない」

「何よ、言ってみるだけ言ってみなさいよ」

 つい、偉そうな感じで言ってしまえば、罰の悪さを覚えてしまう……多分、彼女達は彼のこんな対応に上から目線になっているのだろう。 そして、きっと、こう思うのだわ。 どうせ、この人は私が居なければダメなんだって。

「君には……その、欲情を覚える」

「……へっ?」

「ごめん!! 急にそんな事を言われても気持ち悪いよな? すまなかった」

「いえ……夫婦となるよう言われたからには覚悟はありますが、ぁっ愛人が三人もいると知るまでですけどね」

 言えば、何とも言いようのない顔で俯いた。

「でも、今はそこが問題ではなくて、あの、公子様はあの三人と関係がないのですか?」

「関係って言うと、身体のと言う事だろうか?」

「他に何があると言うのですか」

「家族……のようなものかなぁ……。 家族以上に、彼女達は家族なんだ……。 大切で愛おしい人達なんだ……」

「いえ、だから私が聞きたいのは、そうではなくて」

「……君は家族に欲情するのか?」

「しません!!」

「怒らなくても」

「怒りますよ」

「あぁ、そうだ……僕はそんな事を言いたかったわけじゃないんだ。 僕は……君と離縁しようと思っている」

「……」

「あぁ、家を救うために使った金は、そのままで構わない。 僕はこれでも公爵家とは別にちょっとした投資もしていて金はあるから。 僕からの慰謝料として君に全て渡すつもりなんだ」

「そ、そう……」

 私は動揺した。
 せずにいられるだろうか?

 愛している訳ではない。
 好きとハッキリ言えるほどでもない。

 でも……なんだか、もやもやする……。

「私が嫌い過ぎるから?」

「違う!! 最初は一目惚れだった。 その後は……少しずつ好きが重ねられていった。 だから……僕はハッキリしないといけないんだ。 あの三人と縁を切った時には、もう一度付き合いから初めてはくれないだろうか?」

 真剣な顔だった。

 既に結婚している相手だから変な感じではある。
 所詮は契約上の結婚で、必要な金銭は保証された。

 なら受ける必要はない。

 私の気持ち一つ。

「少し、考えさせてください」

「ありがとう。 考えてくれて」

 否定ではないけど、肯定でもない曖昧な返事なのに、カスパーは安堵したように微笑んで見せるのだった。
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