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11 執事が行った情報収集

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 ケヴィンが報告を行う。

「エーファお嬢様、最初にお嬢様が赤の方と呼ぶフレイヤの報告を」

「グレーテル……緑の方は良いのですか?」

 問うのはリリー。

「えぇ、お嬢様が彼女から直に聞いた話に間違いはないので、それよりも赤との関係を語るにも、其方を説明したほうがいいでしょうから」

 そしてケヴィンは語りだす。

 赤の方(フレイヤ)は、上級貴族専用の高級娼館だった。
 長くナンバーワンの地位にいたが、客である男が持ち込んだ病気がうつり気づいた時には、食欲が失われ、髪が抜け、肌がかさつき、皮膚が黒ずみ、肉が落ち……客がつかなくなっていた。

 彼女が客を取っていない事をチャンスだと思う客が、彼女を一度は指名したため、上客が減った事に店の者が気づかなかったのだ。 それに、彼女が抱えている借金があった。

 飢饉のおり、村を助けるために彼女は売られた。 売られた店が上級貴族専門で無ければ彼女は借金を返し終えていただろう。 上級貴族の客を満足させるためには娼婦自身が贅沢でなければならず、彼女は今も借金を抱えており、魔法医に見てもらう等出来るはずもなかった。

 そして彼女は身を落とす。

 戦場娼婦に……。

 高級娼館で贅沢に慣れた彼女が、そんな場所で客を取れるはずもなく、何より客も相手にしなかった。 ただ、死を望まれ戦地に送られたのを実感したのは……病もかなり進行した頃……そして助けたのが、声をかけたのは女騎士として戦場にいた緑(グレーテル)であり、彼女が次期公爵であるカスパーに紹介したのだ。

 そして、従軍の魔法医に治療を施される機会を得たと言う事だった。

「自分が助けてもらっている状況で、人を助ける余裕があったなんて……」

 私が腑に落ちないと言う顔をすれば、ケヴィンは話を途中で止めて言うのだ。

「まだ女騎士として活躍していた頃だったようですよ」

「同情?」

「彼女の心までは知りかねますね」

 そして、話は続けられる。

 赤は病気が治ったけれど客を取れるような身体では無かった。 そしてこのような会話が交わされたと言う事だった。

『この御恩は、御側に仕える事でお返ししますから、側においてください』

『必要はない。 残りの借金は決して多くはないのだろう。 村に帰って村の者達と共に残りの借金を返していけばどうだ。 その方が家族も喜ぶだろう』

『子を産めぬ元娼婦が帰ってまともな扱いを受けるはずありません。 どうか、どうか、御側においてくださいませ!!』

 そう、頭を下げ懇願したそうだ。 そこで、口添えを聞いたのもグレーテルだったと言う話である。



「良く、会話の内容まで……」

「まぁ、公子様の美談として、割と簡単に聞き出す事が出来ましたよ」

 軽薄な様子でケヴィンは言う。

「緑の方は、公子様の理解ある友達を演じたから、女性を斡旋したのかしら? 私だったら好きな人に娼婦を斡旋しないわ」

「さてねぇ……。 ソレの答えは本人に聞いても分からない所では? 考えられるのは多いですけどね」

「考え……ですか……。 私だったら……自分に自信がないため女性を宛がうか、高級娼館元No1だった女性と言う栄誉に重点を置きながらも、それでも病気の女より私が良いでしょうと、アピールするとか……でしょうかね」

「わ、私は別にそう言うのじゃないから!! 私は、ただ……愛人が三人もいて、子供も生まれそうな人と愛情を交わしたくないだけなんだから!!」

「リリー、そう言う事をエーファお嬢様に聞かせるな……だが、そう言う経緯があったからこそ、緑がケガをして騎士としての道を断念するしかなかった時。 赤が共にカスパー様を支えようと手を差し伸べたと言う話だった」

「お互い協力関係にあったから、彼女達は、お互いを受け入れる事が出来たと言うことなのかしら? それで……黄の方は?」

「彼女は、戦場娼婦として各地から集められた奴隷でした。 それだけなら、赤と似通っているかもしれません……が、絶対的に違うのはその性格です」

 そしてケヴィンが話し出す。

 黄は自分が可愛いと言う事を理解していました。

 それは、日頃から彼女が得意げにしていたため、そのことを耳にしたと言う情報は多かったと言う話だ。

「……それにしては、情報集まるのが早くはありません?」

「公爵家の弱点を知っておくと何かの時に役に立つと言う者が多いんですよ」

「それは……身内となった今は、対処すべき事……なのかもしれませんね」

 戸惑いと言うのでしょうか? 困惑と言うのでしょうか? そんな感情に囚われていればケヴィンは笑って見せるのだ。

「しばらくの間、身内と思えるようになるまでは情報源は秘密にしておきましょう。 十分に利用価値がありますから」



 黄の方が、他のお二人と違うのはその自信。
 自主性が高く、行動力がある。

『私を奴隷として売ってくれないかしら?!』

 黄の方は自分から奴隷商にそう願い出たのだそうだ。 だから赤の方のように借金等はない。

『確かに君のようなカワイイ子なら、買いたいと言う方は多いでしょう』

『なるべく高く値をつけて下さいよね!!』

『貴方をそうさせるのは、何ですか?』

『こんな田舎の村にいても、私には未来が無いわ。 この小さな町で生まれた、小さいときから付き合いのある男と結婚して、子供を産んで……そんなんで終わりたくないのよ!! でもさ、奴隷としてでも都会に行けば何かが変わる。 それも高い値をつけてくれたなら、買える人もお金を持っている人に限られるでしょう? 私は可愛いし……愛される自身はあるわ!!』

 そう言う理由から黄の方は自分から奴隷となる事を決めたそうです。

 だけど、現実的には難しかった。

 戦場娼婦として売られてきた子達は、若く可愛い。 怯えたような様子が……庇護欲を煽り、挑発的な黄の方への評価は高くはなく、そして……娼婦としての彼女は客を選んでいた。

 結果として彼女の望みは叶う事は無く、戦争が一区切りした頃……行き場を失い。 彼女を買いたいと言うのは、その強気な性格をへし折ってやろうと言う変態だった。

『違う!! こんなの私が望んだ未来じゃない!!』

 そんな彼女に手を差し伸べたのが、緑と赤の方だったと言う話だ。
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