今日は僕の命日

あやめ_綾眼

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エピソード0 後編

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 「飽きた」
  俺はなぜか、そんな3文字を口にした。一瞬、その真意が自分でも理解出来なかった。

  いや、理解できないのは数秒が経過した今でも同じことだ。――それは脳裏に引っかかって、解こうとすればするほど複雑性を増していく毛色のように、俺の脳ミソは熱を上げていく。

  右足を上にして足を組んで、ゲンコツを作り親指を下顎の裏にくっ付けて、石像のように固まって思考に全神経を費やした。考えて考えて、考え抜いた。

  太陽が東へ沈む頃になるまで時間を費やして、それでも答えは出なかった。俺には俺自身の思想が理解できないようにすら感じた。
  そして考えることをやめた…。

  そして新しく物ごとを考える。「飽きた」この言葉が指す意味とは何か。
  俺は、このなんの価値もない廃村という寝床を守るために1人で見回りをして、外部からの存在を始末するなんて下らないことに100数年を費やしていた。――怠惰に塗れていた。
  吸血鬼として悠久の時間を生きていくことに飽きたのかもしれない。

  そう考えた時、ふとアイツの姿を思い出す。
「あぁ、こえいうコトだったのか…」
  柄にもなく、浮世離れをした思考をしてしまったのかもしれない。
 『かもしれない』そう、自分でも理解できない。俺は俺の思考が理解できない…。妙に達観した感覚が脳ミソを支配する。

  時々、故郷が恋しくなってくる。
  今はどんな姿をしているのだろうか?想像にかたくない。
  どこだったかも忘れてしまった。アイツはこういう時、頭蓋骨を破壊して脳ミソをいじり回していたけれど、俺にはそれができない。
  そして思考の根幹に立ち戻る――。

  俺は他に、今までに何をしていただろうか。人を殺していた。吸血鬼を殺していた。豆腐を切り崩すように、或いはスポンジを千切る様に。それは例外なく淘汰できる事柄だった。
 「それは虐殺だった」
  思考の答に辿り着いてしまった。

  人間の虐殺をやめよう。これが「飽き」を払拭する方法だった。

  そう決めたのならば、何も無くなった廃村には用がない。
  廃屋の戸棚から、辛うじて経年による破損を間逃れていた方位磁針を黒衣に忍ばせる。
  沈みきった太陽を右手に、姿を現した月を左にして、南へ歩みを進めていく。

 暖かい土地へ、人の住む場所へ。未だに何の予定も決まっていない。ただ南へ。
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