異世界ダンジョンが現実世界に浸食してきたら

くままろ

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31話 三者三様の思い

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朝、ダンジョンから魔物が出現したというニュースをきいた水雪は、「うん、学校にいってる場合じゃない」
という理由で学校を欠席した。
水雪の母は「本当は、真人君に会いづらいんでしょ?」という変わりに、

「はいはい、今日でずる休みは終わりよ?」

と、普段わがままを言わない娘のことを考えて、学校に連絡を入れた。

「……ずる休みじゃない」

水雪は、シャツとズボンという動きやすい服装に着替えて、胸当てなどのプロテクターを装備してダンジョンへと向かう。

お昼前の砂浜に見えるゲート。
昨日、魔物がでたゲートの前にはたくさんの警官隊が警備についているが、水雪が手にしたネゴシエイター証を見せると、すんなり通してくれた。

敬礼してくれた警官隊に、水雪も慣れない敬礼をかえしてからゲートを潜る――。


ダンジョンに入った、水雪は弓を構える。

「真人のバカ……」

弦を引くと自動で現れる矢を、目の前のトカゲ男、リザードマンに放った。

二足歩行のトカゲで、ざらついた緑の皮膚に、横に裂けた口からチロリと舌が飛び出している。
片手でシミターを振り回し、もう片方の手には円形の盾を装備している厄介なモンスターなのだが、リザードマンは頭を射抜かれて、そのまま崩れ落ちて動かなくなった。
そして、すぅっ……と灰になると、魔石へと姿を変えた。

「真人のバカ……」

水雪は自分でもなんでこんなに心が落ち着かないのかわからなかった。
家でダメなら、ダンジョンなら気分転換になると思ったのだが、ダンジョンに入ってからもずっと真人のことで頭がいっぱいで水雪は攻略に集中できずにいた。

「ダメ、これだと……危険……でも……」

集中しなくちゃと思えば思うほど、真人のことを考えてしまう。
そもそも、水雪は勉強でもなんでも集中すれば、まわりが見えなくなるほどの集中力を持っている。
また、集中できない時は無理せず、諦めるといった決断力も備わっている。
普段の水雪なら、とっくにダンジョン攻略をやめて引き返していただろう。

「こんなに気持ちが定まらないの、初めて……」

弓を構えて、矢を放つ。
次々と現れる、リザードマンを射抜いていく。
それでも、矢を外さないのは、やはり天性の才能の賜物だろう。
ザンッとリザードマンの鱗を貫いた音が聞こえたかと思うと、リザードマンはぶるりと震えると、力を失い、そのまま地面に倒れた。

「真人が悪い……」

地面にたくさん落ちている魔石を拾わなくちゃと頭ではわかっているのに、なかなか行動に移せない……。
ふぅと息を吐き、水雪は能力で出した弓を消して、魔石を腰のポシェットにしまうために地面に屈みこんだ。
カチッ!
何か音がして、しまった! と水雪は気が付いた時には、もうすでに突然できた大穴の中へと吸い込まれていった――。


「はぁ……なんなんだよ全く」

次の日も水雪は学校に来なかった。
いつものように……でもないか、気分を紛らわすように響の店でコーヒーをごちそうになっていた。

「雪ちゃんにはまだ会えてないの?」

「ああ。朝、家に行っても入れてくれなかった。部屋には居るんだけどなぁ……」

「そりゃまた重症だねぇ」

「そこまで怒るようなことでもないだろ?」

「真人、雪ちゃんが怒ってるのはね、ダンジョンに行ったとか、夜音ちゃんと浮気してたとかそういうことじゃないよ。もちろん両方絡んでるけどね。でもそれが直接の原因じゃないよ。それだけならしばらく不機嫌になるだけだもん」

浮気ってお前……おれはいつ妻帯者になった?

「じゃあ何が原因なんだよ?」

「それは真人くん!あなたです!」

ビシっと眼前数センチの所に突きつけられた響の指を払いのけて先を促す。

「しょうがない真人君に響さんがヒントをあげましょう」

「いや、ヒントってか、答え知ってるなら教えてよ!?」

「だめでーす。そんなことしたら、いつまでたってもダメダメなゴミ屑ヤロウのままだよ?」

「おま、今の俺ってそんな評価なの……!?」

「さあどうでしょう?」

ニヤリと笑う響だったが、ふと表情を戻すと、優しいような、悲しいような笑顔になった。

「雪ちゃんと、夜音ちゃんはね、似てるんだよ。たぶんね」

「どういうことだ?」

残念ながら正反対のように思えるが……
いや、まぁ2人ともソロでダンジョンとかいっちゃうタイプだけど。

「ネゴシエイターになる人ってさ、なにか目的があるよね?例えば地位や名誉、みたいな賞賛、あるいはお金。中には単に命のやりとりがしたい戦闘狂も居ると思う」

まあそうだな。
そうじゃなきゃ好き好んで危険な場所に行くはずがない。

「でもね、あの二人はそのどれでも無いと思う。雪ちゃんはもちろんそうだし、たぶん夜音ちゃんもそう」

それはそうなのかもしれない。
水雪はそういったことに命をかけるほどの執着は無いし、夜音もそういうヤツには見えないよな?
どちらの目的もわからないけど、きっとそういうものじゃない……とは思う。

「で、真人がやったことについて雪ちゃんはこう思ってるんだよ。『なんで?』って」

ああ……。
そうか。
そういうことか、まあ……俺のせいだな確かに。

「わかった?」

「ああ。ヒドイ誤解だな」

「うん。悲しいすれ違いってやつだね。でも、真人が悪いんだからね?不言実行は男らしいと思うけど、やっぱり、言わなきゃわからないことだってあるよ」

「まあそこは……努力するよ」

「よろしい。ほら、わかったらこれ持って、さっさと行く!」

響は机からピルケースを取って、俺に放り投げてきた。

「なんだこれは?」

「アームズの簡易的リミットブレイク、真人のアームズの力の制御を一時的に解放して、一分間だけおよそ人間じゃないくらいの動きができる、はず」

俺はその小さく黒いピルケースをそっと開けると、中にはどこにでもあるような白い錠剤が3個入っていた。

「……はず? なんだか、やばそうだな?」

「うん、ヤヴァイ。だから無暗に飲まないで……本当は渡すかどうか悩んだけど、ダンジョンに入るかもだから、渡しとく」

「ありがとう響! 愛してる!」

「う、うっさい! 貸しだからね!」

ピルケースをポケットにしまって、響の声を背中に浴びながら店を出た。
本当に……お前にはいくら返しても終わらない負債だらけだ。
今度メシでも奢ってやるからな――。


「愛してるなんて簡単に言うな、バカ……そういうところが、ダメダメなゴミ屑ヤロウなのよ……」

響が胸に手を当て、気持ちを落ち着かせていると、部屋の扉が開いた。

「真人くん、ごはん食べていく?……あら?」

「……あ、お母さん。真人なら帰ったよ」

「そう、水雪ちゃんとは仲直りできそう?」

「できるよきっと。ただのスレ違いだし」

「そうね。二人共とっても優しいから」

「優しいのかなぁ、あれは……相手にとって一番いいと思うことを、本人に何も言わないで勝手に決めちゃうんだから、あの偽善者!」

「……ふふふ」

優しい顔で笑っている母親になんだか全て見透かされている気分になり、恥ずかしくなって目をそらす響。

「響も人のこと言えないんじゃない?」

「……なにか言った?」

「本当にお人好しねぇ……。誰に似たのかしら」

と、母は部屋を出て行った――。

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