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30話 ヒーローの世代交代
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程なくして現場に着いた俺たちが見たものは想像を絶していた――。
と、いうわけでも無く、現場では警官隊を尻目に響のおじさんが白衣姿で大型の拳銃を左右にそれぞれ持ち、「しつこいなぁ」と呑気な声を上げながら馬鹿でかい真っ白な狼を足止めしていた。
真っ白な狼が口から火炎をまき散らしているものの、おじさんはさして俊敏にも見えない動きでヒラリヒラリとかわしている。
おじさんと警官隊の間には魔具でシールドが張られており、火炎を遮っており、安全対策もバッチリだった。
俺はてっきり番人がウジャウジャと浜辺を埋め尽くしているものと思っていたが、見る限り狼一匹しかいなかった。
「あれが有名な矢野先生? まさか戦闘もこなせるとは思ってなかったわ……」
「まあそこは俺も同意見だ。おじさんあんなごっつぃ銃使えたのか……」
「お父さんはそもそも真人のおじさんとネゴシエイターやってたからねぇ」
「ナニソレ初めて聞いた」
そんな過去があったのか……17年もの間、式条さんちの息子さんやってて初めて知ったぞそれ。
「これ、俺達要るのか?」
「いらないっぽいねぇ」
響が俺の呟きに同意したところで、思わぬところから返答が来た。
「いやいや、必要なんだなこれが」
おじさんが狼と戦闘しながらこちらに答えてきた。
「急いで出てきたせいでろくな装備がないから決定力に欠ける。そして何よりもだ……」
そう言うとおじさんは、ガォォォォンッと乾いた厳つい咆哮を二丁の拳銃からまき散らして言葉を途切った。
「歳のせいかちょっと疲れてきたから正直リングアウトしたい」
「こんなときくらいしっかりしてよもう……」
親のヘタレっぷりに肩を落とす響。
「それにほら、娘を守る役目は次代のヒーローに譲るものだろう?」
「お、お父さん!!」
右手にもった拳銃を肩に担ぎ、咥えタバコで背中越しにこちらを見る様は、とてもじゃないが、普段、嫁と娘にボコられている人には見えなかった。
「つまり私ね」
「いや違うだろ!」
ここぞとばかりに出てきた夜音に思わずツッコンでしまった。
お前だとヒロインだろうが。
「はぁ……自称先代のヒーローがあー言ってるけどどうする?」
響が親の発言に呆れながらも俺に聞いてきた。
「借金まみれのヒーローで良けりゃ力を貸そうか」
「ぱっとしないヒーローねぇ……」
げんなりとした夜音の声が水を差す。
「うるせー」
「真人らしくていいんじゃない?」
いい機会だ。ここは一つネゴシエイター式条真人のデビュー戦といこう。
「響」
「はいな」
「やるぞ」
「うん。気をつけてね」
「そこで式条真人の華々しいデビュー戦をしっかり見とけ」
「大きく出たねぇ」
「俺を誰だと思ってるんだ?」
「天才美少女魔導技師の手下かな?」
「ならこの程度余裕だな」
そう言うと同時に俺は狼に向かって駆け出した。
「カッコつけちゃってまぁ。しょうが無いから手伝ってやりますか」
すぐに夜音も後を追ってきて、俺達は狼と対峙した。
シールドを越え、隣に並ぶとおじさんは呑気な声で話しかけてきた。
「やぁ真人くん。調子はどうだい?」
「イマイチですね。ってかこんなときだってのに随分余裕かましますね」
「あはは。出会い頭のお約束ってやつだよ。それに、キミの力があればこの程度の天使は敵のうちに入らないよ」
「天使?」
番人じゃないのか?
「おいおいわかるさ」
番人と天使は違うものなのか? それとも一緒のものなのか? どちらにせよ、遺跡には何か伏せられた事実があることに間違いなさそうだが……。
「能力は使えるみたいね」
ふと横を見ると夜音はいつか見た短剣を両手に発現させていた。
「キミは夜音君だね? 響から聞いてるよ。なんでもすごい動きをするんだってね」
「い、いえいえ! そそそそんな、矢野先生に褒められるようなものじゃありません!」
「……お前は誰だ?」
急激に照れて慌てる夜音に、ちょっと引いた。
「うっさいわねぇ。あんたは麻痺してるんでしょうけど、本当にすごい人なの! 普通はお目にかかれないの!」
「あはは……まあそんなに畏まらないで普段通りでいてくれると嬉しいんだが……ともあれ、済まないがこの場は二人に任せさせてもらうよ」
困り顔でそう告げるとおじさんはシールドの外へと後退し、代わりに俺たちが戦場に残った。
「見たところキマイラみたいな再生能力は無さそうだな」
「そうね。火炎に気をつけながら力押しでいくわよ」
「了解」
夜音発案の人体実験以来の戦闘だが、以前よりも自分の力が把握できる。
戦闘に使うレベルの魔力を引き出すことに体が馴染んだのだろう。
正面から突っ込み、火炎を避けるように左右にわかれるとそのまま滅多打ちにした。
夜音も俺との戦闘には慣れてきたらしく、反対側で俺の攻撃に合わしてくれている。
「私たちの敵じゃないわね!」
「あまり調子に乗るなよ?」
「ふん、あんたもねっ!」
最後の一振りと一殴りが決まって、狼は霧散して、魔石へと姿を変えた。
シールドの向こうでは、警官隊やネゴシエイター関係者達の歓声が上がった。
戦闘は思ったよりもあっけなく、一方的に俺達の勝利に終わった――。
と、いうわけでも無く、現場では警官隊を尻目に響のおじさんが白衣姿で大型の拳銃を左右にそれぞれ持ち、「しつこいなぁ」と呑気な声を上げながら馬鹿でかい真っ白な狼を足止めしていた。
真っ白な狼が口から火炎をまき散らしているものの、おじさんはさして俊敏にも見えない動きでヒラリヒラリとかわしている。
おじさんと警官隊の間には魔具でシールドが張られており、火炎を遮っており、安全対策もバッチリだった。
俺はてっきり番人がウジャウジャと浜辺を埋め尽くしているものと思っていたが、見る限り狼一匹しかいなかった。
「あれが有名な矢野先生? まさか戦闘もこなせるとは思ってなかったわ……」
「まあそこは俺も同意見だ。おじさんあんなごっつぃ銃使えたのか……」
「お父さんはそもそも真人のおじさんとネゴシエイターやってたからねぇ」
「ナニソレ初めて聞いた」
そんな過去があったのか……17年もの間、式条さんちの息子さんやってて初めて知ったぞそれ。
「これ、俺達要るのか?」
「いらないっぽいねぇ」
響が俺の呟きに同意したところで、思わぬところから返答が来た。
「いやいや、必要なんだなこれが」
おじさんが狼と戦闘しながらこちらに答えてきた。
「急いで出てきたせいでろくな装備がないから決定力に欠ける。そして何よりもだ……」
そう言うとおじさんは、ガォォォォンッと乾いた厳つい咆哮を二丁の拳銃からまき散らして言葉を途切った。
「歳のせいかちょっと疲れてきたから正直リングアウトしたい」
「こんなときくらいしっかりしてよもう……」
親のヘタレっぷりに肩を落とす響。
「それにほら、娘を守る役目は次代のヒーローに譲るものだろう?」
「お、お父さん!!」
右手にもった拳銃を肩に担ぎ、咥えタバコで背中越しにこちらを見る様は、とてもじゃないが、普段、嫁と娘にボコられている人には見えなかった。
「つまり私ね」
「いや違うだろ!」
ここぞとばかりに出てきた夜音に思わずツッコンでしまった。
お前だとヒロインだろうが。
「はぁ……自称先代のヒーローがあー言ってるけどどうする?」
響が親の発言に呆れながらも俺に聞いてきた。
「借金まみれのヒーローで良けりゃ力を貸そうか」
「ぱっとしないヒーローねぇ……」
げんなりとした夜音の声が水を差す。
「うるせー」
「真人らしくていいんじゃない?」
いい機会だ。ここは一つネゴシエイター式条真人のデビュー戦といこう。
「響」
「はいな」
「やるぞ」
「うん。気をつけてね」
「そこで式条真人の華々しいデビュー戦をしっかり見とけ」
「大きく出たねぇ」
「俺を誰だと思ってるんだ?」
「天才美少女魔導技師の手下かな?」
「ならこの程度余裕だな」
そう言うと同時に俺は狼に向かって駆け出した。
「カッコつけちゃってまぁ。しょうが無いから手伝ってやりますか」
すぐに夜音も後を追ってきて、俺達は狼と対峙した。
シールドを越え、隣に並ぶとおじさんは呑気な声で話しかけてきた。
「やぁ真人くん。調子はどうだい?」
「イマイチですね。ってかこんなときだってのに随分余裕かましますね」
「あはは。出会い頭のお約束ってやつだよ。それに、キミの力があればこの程度の天使は敵のうちに入らないよ」
「天使?」
番人じゃないのか?
「おいおいわかるさ」
番人と天使は違うものなのか? それとも一緒のものなのか? どちらにせよ、遺跡には何か伏せられた事実があることに間違いなさそうだが……。
「能力は使えるみたいね」
ふと横を見ると夜音はいつか見た短剣を両手に発現させていた。
「キミは夜音君だね? 響から聞いてるよ。なんでもすごい動きをするんだってね」
「い、いえいえ! そそそそんな、矢野先生に褒められるようなものじゃありません!」
「……お前は誰だ?」
急激に照れて慌てる夜音に、ちょっと引いた。
「うっさいわねぇ。あんたは麻痺してるんでしょうけど、本当にすごい人なの! 普通はお目にかかれないの!」
「あはは……まあそんなに畏まらないで普段通りでいてくれると嬉しいんだが……ともあれ、済まないがこの場は二人に任せさせてもらうよ」
困り顔でそう告げるとおじさんはシールドの外へと後退し、代わりに俺たちが戦場に残った。
「見たところキマイラみたいな再生能力は無さそうだな」
「そうね。火炎に気をつけながら力押しでいくわよ」
「了解」
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戦闘に使うレベルの魔力を引き出すことに体が馴染んだのだろう。
正面から突っ込み、火炎を避けるように左右にわかれるとそのまま滅多打ちにした。
夜音も俺との戦闘には慣れてきたらしく、反対側で俺の攻撃に合わしてくれている。
「私たちの敵じゃないわね!」
「あまり調子に乗るなよ?」
「ふん、あんたもねっ!」
最後の一振りと一殴りが決まって、狼は霧散して、魔石へと姿を変えた。
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