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18話 再びダンジョンへ

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恙無く本日のお勤めを終え、今日はどうするかなーと考えているうちに家についてしまった。
響んちでダラダラしようかなどと悩んだあげく「あれ、実は俺って超暇人じゃね?」とか思って、自分の存在意義を考えていたら、足はセミオートで俺を家まで運んでくれた。

「とりあえず……寝るか」

チャーラー……チャーラー……デッデデッデデッデデッデ

ベッドに腰掛けた瞬間、少し前にやっていたRPGのラスボスのBGMが流れた。あがるぅぅう!
液晶には『平らよね?』と表示されている。
ヤツである。恐らく本人に見つかったら撲殺されるだろう。
しかし、いつの日かまた口にしてやりたいという願望を込めてこの登録名にした。
俺は着信音をBGMに、このまま電話に出るのと無視するのとではどちらがめんどくさくないか悩んだ末、出ることにした。
てか呼び出し長い。しつこい。

「はいよ。なんだ?」

「ごめん。もしかして今忙しかった?」

「いや、別に?」

「な!? だったらさっさと出なさいよっ……!」

「このまま電話にでるのと出ないのとではどっちが面倒くさくないかを考えてた」

「言っとくけど出なかったら面倒くさいことになるからね!?」

「自分で言っちゃうのかよそれ……」

なんというか素直なやつである。

「次やったら、ぶつからね」

「以後気をつける所存であります。で?」

「ちょっと付き合って欲しいところがあるの。今から駅前集合ね」

「普通はまず、付き合ってもらえるかどうかの了承を得るところから交渉は始まるんだが」

「じゃあ遅れないでね」

「おい!? ちょっ、もしもーし!?」

言いたいことだけ言って切りやがった。
とりあえず面倒くさくないのはどっちかと……いや、考えるまでもないか。
さっき自己申告してたし、実際その通りなんだろうな。
仕方ない、荷物持ちくらいならやってやらんでもない。
もちろん見返りは断固として要求する。

「……で? どこいくんだ?」

駅前に現れた夜音に、開口一番目的を聞く。
タンクトップの上に、肩口まで開いたTシャツを合わせ、下はジーンズ生地のショートパンツに黒いニーソックス、男性物に近いデザインの少しゴツいブーツを履いている。
なんというかまぁ、動きやすさ重視。
とても夜音らしい格好だ。

「おつかれ」

「まったくだ。で、どこ行くんだ?」

「ついてくればわかるわよ」

歩くこと10分少々……。
海だな、海が見えてきた。
うん、ここは、あれだな。

「……おい」

「なに?」

「ここは、お前、もしかして」

「さぁ、遺跡に行きましょう♪」

「断る」

何考えてんのコイツ。いや、まじで。
夜音に付いて足を進めれば、なんとも見覚えのある、浜辺の遺跡に到着していた。

「まあそう言わないでよ。ほら、ここってあれじゃない。一人だと進めないじゃない?」

「いや、まぁ、そりゃそうだけど」

「大体、あんたも途中で気づいてて、ここまで来るくらいだから、まんざらでもないんでしょ?」

「確かに途中で、そうかもしれないとは思ったよ。でも、もしかしたら、ただ浜辺を散歩したいのかと思ってだな」

「はぁ? 私が浜辺を散歩するのに、わざわざあんたを誘うわけ無いでしょ」

「思春期男子のギヤマンハートをナチュラルにズタズタにして楽しいですか?」

「何いってんの? 意味分かんないこと言ってないでほら、さっさと行くわよ」

「イミワカンネーのはお前だ!」

「面倒くさいわねぇ。わかったわよ。これが終わったら、散歩でもなんでもしてあげるから」

「なんで俺が散歩したいみたいになってんの!?」

いやまあ、どうしてもというなら散歩してやらんでもない。
しょうがなしに。

「どうしても行かないの?」

「行かない」

「こんなにお願いしてるのに?」

「おい待て。ここまでの流れのどこにそんな場面があった?」

「散歩してあげるって言ってるじゃない」

「俺は犬か。しかもお前それお願いでもなんでもないからな」

「譲歩したじゃない」

「俺はお前の将来が心配になってきたよ……」

「大丈夫よ。国語は自信あるの」

「いや、そうじゃねーよ。そこじゃねーよ。とにかく行かないからな。それじゃあな」

夜音に背を向けて帰ろうとしたその時、

「いいのね? 面倒くさいことになっても」

背後から不穏な呪詛が聞こえた。
俺は振り返らず、一旦足を止め、考える。

「……」

うむ。
少し気がかりだが問題無いはず。
きっとトイレ中にインターホン連打される程度の面倒臭さだろう。
問題無い。
問題無くはないが問題無い。
さて帰ろう。

「あ~、口が滑っちゃいそうだなぁ。あんたとキマイラを倒した時のこと話したくなってきたな~」

「……ふ、それで脅しているつもりか?」

「あ~、なんか響と電話したくなってきたかも」

「ばかが。響にバレたところで痛くも痒くもないわ」

「やっぱりね」

「……あれ?」

夜音は勝ち誇ったように、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。

「あの二人のどっちかにバレたらマズイってことはわかってたけど、やっぱり水雪ね」

しまったあああああああああああああ!!!

「策士め……」

「いや、あんたがバカなだけだからね。ほんと将来が心配だわ」

「く……巨乳はバカ、貧乳は孔明というのは本当だったのか」

「もう一回言ってご覧なさい。頭と体が離婚することになるわよ。再婚できるといいわね?」

夜音はサバイバルナイフでぽんぽんと掌を叩きながら。
光を灯さない邪悪な瞳で睨んできた。
誰がうまいこと言えと。

「冗談じゃないか、怒るなよ」

「大体そんな暴言が広まったら巨乳の人にも悪いじゃない」

「お前、変なところで真面目だよな」

その真面目さのいくばくかを、俺に使ってくれないだろうかと切に願う。

「で、どうするの? 行くの? 入るの?」

「イエスしか用意されてないじゃないか……」

はぁ……。
これあれだよな。
秘密を隠そうとしてさらに秘密作っちゃう泥沼な展開だよな。
借金が雪だるま式に増えるような感覚だ。
どうするか……。
水雪を怒らせると弁当が無くなる。
あと、しばらく無言のプレッシャーに耐えなければいけない。
それはまずい、非常にまずい。
ここは……仕方ないか……。

「はいはいわかりました。行くよ、行きますよ。行かせていただきますよ」

「よろしい。人間素直が一番よ」

どうしてこうなった。
ちゃんと電話に出たはずなのに大変面倒なことになった。
電話に出なかったら、これ以上に面倒なことになるのか?
そうなると、もはや俺の想像が追いつかないな。

「よし、それじゃあ行きましょう♪」

首尾よく仲間をゲットした夜音は上機嫌で俺の背中を押してきた。

「はぁ、もうこれっきりにしてくれよな……」

「それは約束しかねるわー♪」

デスヨネ……。
だってこのネタ、半永久的に脅し続けられますものね。
だが甘く見るなよ?
毎回、絶対に抵抗してやるからな?
絶対だぞ?
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