異世界ダンジョンが現実世界に浸食してきたら

くままろ

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13話 いいから早く寝なさい

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「……あんた本当にネゴシエイターじゃないの? あの身のこなしは明らかに一般人じゃないわよ」

夜音が疑いの眼差しを向けてくる。

「間違いなくネゴシエイターじゃねーよ。登録もしてないし、もぐりってわけでもない」

「じゃ、何なのあんた?」

「何なのと言われてもな……高校生だよ」

「あのね、普通の高校生はキマイラを蹴り飛ばしたり投げ飛ばしたりしないの」

「じゃあ普通じゃない高校生」

「屁理屈はいいのよ屁理屈は!」

「そういわれてもなぁ……」

「普通じゃない高校生の普通じゃない部分を聞いてるのよワタシは!」

「じゃあ普通の高校生?」

「じゃあって何よじゃあって! 何度も言うけど、普通の高校生はキマイラを蹴り飛ばしたり投げ飛ばしたりしないの!」

「何度も言ってねぇよ。二度目だ」

「うー。ムカつくムカつくムカつく……!」

地団太を踏む夜音。
うむ、容姿にピッタリな動作だ。

「……じゃあなんであんたはキマイラと戦えるの!?」

「お前は何故歩けるんだ?」

「は? 何いってんの? 足があるからに決まってるじゃない」

「足があっても歩けない人も、二足歩行出来ない生き物もいるぞ?」

「なに? 謎かけ?」

「違う。答えだ。お前の質問に対する答えだ」

「……? どういうことよ?」

夜音は何やら考える素振りを見せたが、あっさりと諦めて問いかけてきた。

「『わからない』だ。そりゃ突き詰めれば何らかの理由はあるだろうさ。でも俺は知らないよ」

「知っときなさいよ! 常識的に考えてありえないでしょ!? 生身の人間が素手でキマイラを殴り飛ばすなんて!」

「頭の硬いやつだなぁ。どんな常識でも最初は大発見なんだよ」

「でも……」

「まあ……そうだな。自分で言うのもなんだけど、確かに『普通の』では無いかもしれないな」

「何か特殊な訓練を受けていた、とか?」

「いんや、生まれつき……か、どうか知らないが、物心ついた時から体を動かすのは得意だった。まぁ人よりもかなり運動神経が良いってくらいのもんだ」

「運動神経が良いで片付けられるレベルじゃないと思うんだけど……まあウソついてる風じゃないわね。戦闘経験が豊富って動きでもなかったし」

何やらブツブツとヒトリゴトを呟いている。
確かに、我ながら自分の身体能力はおかしいとは思う。
つい数年前までは当たり前のような気がしていたが、最近はそう思うようになってきた。

「ま、とりあえず。正義の味方でもなければ、どっかのエージェントでも無いよ」

「じゃあ、あんた、私と組みなさい」

「は?」

その一、『じゃあ』の意味がわからない。
その二、お前と組む意味がわからない。
その三、めっちゃ上からやん。

「私の遺跡探索を手伝いなさいっていってんの」

何言ってんだこいつ?
……っていうか人に物を頼む態度じゃねぇだろ。

「お前ね、そんな命令口調で願いが聞き入れられるとでも思ってんのか?」

「もちろん思ってるわ。ネゴシエイターには危険が多いけど同じくらいメリットも多いもの」

「危険に釣り合うメリットがあればネゴシエイターの人材不足はすでに解消されてるよ」

「う……まあ確かにリスクはデカイわ。でも私みたいな実戦経験豊富なネゴシエイターと組めるなら話は別じゃない?」

「まあそりゃそうだろうけどな」

「でしょ!?」

尻尾があればブンブン振ってそうな感じで目を輝かせている。
確かに信頼の置けるパートナーを見つければ命を落とす確率はぐっと減るだろう。

「ただしそれは、ネゴシエイターになりたい奴に限られるな」

「なりたくないの?」

「なりたくない、とまでは言わないけど、なる気はない、かな」

「なんでよ? 確かにあんたには能力がないけど……それだけの身体能力があれば、今回みたいにサポートに徹すれば、そこいらのネゴシエイターより全然使えるネゴシエイターになれるわよ?」

「随分買ってくれてるんだな」

「まあね。少なくとも、私は見たことが無いわ。能力を使わずにあんな風に戦うネゴシエイターなんて」

「褒めてるつもりかそれ?」

「認めてるだけよ」

「そりゃありがたいことで。でも、俺にはネゴシエイターになる、遺跡を探索する理由がないからな」

「理由?」

「こんなこと言うのはカッコつけてるみたいで嫌なんだけどさ、さして興味が無いんだよ。お金とか名誉とか探究心とか、なんかそこらへんのネゴシエイターとして得られるものに」

「枯れてるわねぇ」

「落ち着いてると言って欲しいところだな。ま、さしたるメリットも無いのに死ぬかもしれない遺跡に足を運ぶなんてとんでもないだろ?」

「じゃあ、あんたはなんで遺跡にいたのよ?」

「ま、こっちはこっちで色々と事情がありまして……」

「何よ?」

「あー……もういいだろそんなことは! とりあえずお前と組む気はないしネゴシエイターになる気も無い! 以上!」

「ちょっと! 待ちなさいってばっ!」

ここは強引に寝てしまって終わらせよう。
それがもっともクレバーな選択だろう。
俺頭いい。

「そんじゃ、おやすみ!」

電気を消すと布団をかぶり夜音に背を向けた。

「ちょっと! ねぇってば!」

ゆっさゆっさゆっさ!
あー鬱陶しいしうるさい。
空気の読めんやつめ。

「こら! 寝るな! いいの!? そんな態度とってるとヒドイことになるわよ!?」

どうぞお好きになさってください。

「……」

「ちょっと!? ねぇ!?」

「……」

「……あれ? ほんとに寝ちゃったの?」

やかましいな……確か枕元に耳栓が……あ、あったこれだ。

「ちょ!? まだ起きてんじゃない! なに耳栓してんのよ!?」

夜音の声が遠くなった。
やっぱこの耳栓は素晴らしいな。
つけ心地も悪くない。
これで安眠でき……。
ドサッ

「ぐぇ……」

何だ今の? なんか重いもんがドサっと。

「重い……」

「重い言うな!」

目を開けてみれば俺の上に夜音が座っていた。

「いや、お前、女としての矜持はわからんでもないが、女子供でも人一人の体重は数十キロあってだな」

「いいから、私と、組むと、言いなさい」

「断る。大体お前、やる気のないやつに背中預けて命のやりとりできるのか?」

「何気に正論だからむかつくわね」

意外と冷静じゃねーか。
少し見なおした。

「じゃあやる気を出して私と組みなさい」

前言撤回。
単なる自己中ヤロウだった。

「あーもう、じゃあ考えとくよ。考えとくから今日は寝ろ。お前はどうか知らんが俺は明日学校なんだよ」

「絶対よ? ちゃんと考えなさいよ?」

「わかった、わかったから、とりあえず降りろ」

「わかればよろしい。それじゃ寝る。おやすみ」

とりあえず、双方にとっていい妥協点だと見たのか夜音はおとなしく退場してくれた。

馬鹿め。
政治家の善処いたしますって言葉と、知り合いの考えとくって言葉は信じちゃいけねーよ。
あとお尻の感触が、柔らかくてちょっと気持ちよかった。
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