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7話 月に手を伸ばしてみたら
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日付が変わりそうになる頃、水雪先生による勉強会がやっと終焉を迎えた。
「一生分勉強した……」
俺は、終了祝のコーヒーを一口飲むと、ぬふー、と机に突っ伏し長い溜息を吐き出した。
「気のせい」
「デスヨネ……。わかってました」
わかってましたよ。
ええ。わかってましたとも。
……わかってたもんっ!
「……んじゃ、家まで送るよ」
1分もかからない道のりを経て、水雪の家の玄関にたどり着く。
「ありがとう」
水雪は玄関につくと突然そんなことを言った。
「いや、むしろ礼を言うのは俺の方だろ」
「真人は素直じゃない。ツンデレ?」
「前々から思ってたけど、男って基本ツンデレだと思うんだ」
水雪はコクンと頷いて言う。
「そういうところ」
「どういうところだよ。まあ、その……なんだ。ありがとう」
「どういたしまして」
「また明日な」
「うん」
こんな穏やかな毎日が続けばそれでいいと思う。
何が水雪をダンジョン攻略に駆り立てるのだろうか?
俺にも能力があれば、そうなっていたのだろうか?
能力がないからこそ、大手を振ってのんびり生きる事が選べたのだろうか?
ドアが閉まる音を聞き届けると、夜空に浮かぶ半端に削られた月を眺める。
ごっそりと欠けた月はひどく印象深く、穏やかで寂しげに光っていた。
そうしなきゃいけない気がして、月に向かって夢遊病のように手を伸ばす。
手の平で、ぎゅっと月を握り締めたその時だった。
「なにしてるの?」
逆に心の臓を鷲掴みにされた。
振り返ると、玄関からチョコンと頭だけ覗かせている水雪がいた。
「な、な、な……ゥオホン。」
言葉がでない程驚いたがここは平常心だ、蚊だ。
そうだ蚊がいたんだ。
「いや、蚊が……」
「月には届かないと思う」
水雪はボソッと呟くとドアを閉めた。
自分の顔が急激に熱くなっていく。
「スルーしろよぉーーーーーぅっっ!!」
俺は、叫び声を上げながら自室へと逃げ戻った。
もうお嫁に行けない。
――水雪からのヘルプ要請を受けたのは放課後だった。
「真人。部屋の模様替えをしたいから、夜時間ある?」
誰もがせっせと帰り支度を始め、俺も例に漏れずさて帰ろうかと腰を上げる寸前だ。
「オッケー。でもなんでまた夜なんだ?」
「これから遺跡に行くから」
「わかった。じゃあ……八時ごろか?」
「七時。今日は早めに切り上げる」
「りょーかい。じゃあまた夜にな」
「うん」
軽く手をあげ教室を出て行った水雪を見送ると、俺もカバンを手に取り腰を上げた。
「さ、俺も帰りますかね」
何も学校のある日にやらんでも休日にやればいいじゃないかとも思うのだが、そこはそれ。
自慢ではないが俺はいいかげんである。
休日だと面倒くさいやら寝坊やらですっぽかすまである。
なので、学校がある日や予定があるときに依頼するというのは、俺をよく知る水雪ならではの戦略だ。
真人さんに仕事を頼むときは忙しい時にしなさいということだ。
あと、休日にわざわざ出てきてもらうのは申し訳ないという気遣いが、ほんの少し、ほんの少しはあるハズ。
「こら、置いてくな」
「あ、いたの?」
振り返るとソコにはヤツがいた。
我らが大先生、響チャソ。
「しっつれーな。私じゃなかったら帰宅部としての部員の結束力にヒビがはいるところだよ?」
あ、部なんだこれ。
「ちょっとヒビがはいったよ?」
「あーハイハイ。あとで埋めとくよ。木工パテでいい?」
「今回のはあんま大したヒビじゃないからコンビニのあんまん程度でも埋まると思うんだー」
「そんなつもりでいったんじゃないんですけども」
っていうかコンビニのあんまんに謝れ。
ホカホカのあったかいアンコ食べれるところなんて、事実上コンビニのあんまん以外ほぼねーんだぞ。
「真人のけちー。世の中には女の子に貢ぐことすらできない男もいるんだよー?」
「やかましい。欲張る子にはあげません。おじさんとおばさんには何か買っていこう」
「やた♪」
響がピョンと跳ねる。
「……なぜお前が喜ぶ?」
「親のものは、わたしのもの~♪」
おじさん、おばさん、娘さんが著名なガキ大将のようになってますよ?
「一生分勉強した……」
俺は、終了祝のコーヒーを一口飲むと、ぬふー、と机に突っ伏し長い溜息を吐き出した。
「気のせい」
「デスヨネ……。わかってました」
わかってましたよ。
ええ。わかってましたとも。
……わかってたもんっ!
「……んじゃ、家まで送るよ」
1分もかからない道のりを経て、水雪の家の玄関にたどり着く。
「ありがとう」
水雪は玄関につくと突然そんなことを言った。
「いや、むしろ礼を言うのは俺の方だろ」
「真人は素直じゃない。ツンデレ?」
「前々から思ってたけど、男って基本ツンデレだと思うんだ」
水雪はコクンと頷いて言う。
「そういうところ」
「どういうところだよ。まあ、その……なんだ。ありがとう」
「どういたしまして」
「また明日な」
「うん」
こんな穏やかな毎日が続けばそれでいいと思う。
何が水雪をダンジョン攻略に駆り立てるのだろうか?
俺にも能力があれば、そうなっていたのだろうか?
能力がないからこそ、大手を振ってのんびり生きる事が選べたのだろうか?
ドアが閉まる音を聞き届けると、夜空に浮かぶ半端に削られた月を眺める。
ごっそりと欠けた月はひどく印象深く、穏やかで寂しげに光っていた。
そうしなきゃいけない気がして、月に向かって夢遊病のように手を伸ばす。
手の平で、ぎゅっと月を握り締めたその時だった。
「なにしてるの?」
逆に心の臓を鷲掴みにされた。
振り返ると、玄関からチョコンと頭だけ覗かせている水雪がいた。
「な、な、な……ゥオホン。」
言葉がでない程驚いたがここは平常心だ、蚊だ。
そうだ蚊がいたんだ。
「いや、蚊が……」
「月には届かないと思う」
水雪はボソッと呟くとドアを閉めた。
自分の顔が急激に熱くなっていく。
「スルーしろよぉーーーーーぅっっ!!」
俺は、叫び声を上げながら自室へと逃げ戻った。
もうお嫁に行けない。
――水雪からのヘルプ要請を受けたのは放課後だった。
「真人。部屋の模様替えをしたいから、夜時間ある?」
誰もがせっせと帰り支度を始め、俺も例に漏れずさて帰ろうかと腰を上げる寸前だ。
「オッケー。でもなんでまた夜なんだ?」
「これから遺跡に行くから」
「わかった。じゃあ……八時ごろか?」
「七時。今日は早めに切り上げる」
「りょーかい。じゃあまた夜にな」
「うん」
軽く手をあげ教室を出て行った水雪を見送ると、俺もカバンを手に取り腰を上げた。
「さ、俺も帰りますかね」
何も学校のある日にやらんでも休日にやればいいじゃないかとも思うのだが、そこはそれ。
自慢ではないが俺はいいかげんである。
休日だと面倒くさいやら寝坊やらですっぽかすまである。
なので、学校がある日や予定があるときに依頼するというのは、俺をよく知る水雪ならではの戦略だ。
真人さんに仕事を頼むときは忙しい時にしなさいということだ。
あと、休日にわざわざ出てきてもらうのは申し訳ないという気遣いが、ほんの少し、ほんの少しはあるハズ。
「こら、置いてくな」
「あ、いたの?」
振り返るとソコにはヤツがいた。
我らが大先生、響チャソ。
「しっつれーな。私じゃなかったら帰宅部としての部員の結束力にヒビがはいるところだよ?」
あ、部なんだこれ。
「ちょっとヒビがはいったよ?」
「あーハイハイ。あとで埋めとくよ。木工パテでいい?」
「今回のはあんま大したヒビじゃないからコンビニのあんまん程度でも埋まると思うんだー」
「そんなつもりでいったんじゃないんですけども」
っていうかコンビニのあんまんに謝れ。
ホカホカのあったかいアンコ食べれるところなんて、事実上コンビニのあんまん以外ほぼねーんだぞ。
「真人のけちー。世の中には女の子に貢ぐことすらできない男もいるんだよー?」
「やかましい。欲張る子にはあげません。おじさんとおばさんには何か買っていこう」
「やた♪」
響がピョンと跳ねる。
「……なぜお前が喜ぶ?」
「親のものは、わたしのもの~♪」
おじさん、おばさん、娘さんが著名なガキ大将のようになってますよ?
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