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決着

夫婦喧嘩 3

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 マクシムに促されたが、不思議と足が前に出ない。

「この度はご協力くださり、ありがとうございました。また、度重なる不敬な振る舞いには、心からお詫び申し上げます。言葉で済むとはゆめゆめ考えておりませんが、一刻も早く誤解が解けますようアシュレイ王妃をお連れしました」

 つい先刻まで、アルダシールは自分の行いが正しいと信じて疑わなかった。

 マクシムに忠告されても、一切不安を抱かなかったのに、今更どうしたのだろう。

 エステルの後ろで俯く、アシュレイを目にしたら急に怖気付いた。

(……何だ? 急に足が……何を躊躇っている)

 競い合いの結果を反故にしたいーー

 その望みを達するため、アルダシールは競い合いへの介入を決めた。

 アルダシールが勝ち残り、エステルの夫となる権利を得れば後は如何様いかようにでもできると踏んだ。

 どうしても勝者にエステルを、との声が上がるならアラウァリアへ連れ帰り保護しても良いと考えていた。

 同意が得られれば意中の男も諸共に、落ち着いた頃、アラウァリアの法に則り婚姻を結ばせることもできる。

 競い合いで敗れる心配など毛ほどもない。

 だから初めからアルダシールは成功しか見ていなかった。

 もうすぐ叶う願望に目が眩み、浮かれていたのかも知れない。

 ”星は万象を司るもの。星に訊き、王子を授かる暦をお伝えしましょう”

 世継ぎをと望む周囲からの重圧は、特に女性に重くのしかかる。

 口にこそしないが、気丈なアシュレイだとて負担を感じていたはずだ。

 成功すれば絶対に、アシュレイも喜んでくれると信じていた。

(怒っているのか? いや、こんなアシュレイは、初めて見る……)

 しかし、目の前のアシュレイは沈んでいる。

 優に10メートルは離れた場所に立ち止まり、アルダシールを睨むでも軽蔑するでもない。

 ただ俯いて動かない。

「陛下、早くお言葉を」

 マクシムが小声で急かすが、どう声をかけて良いかわからない。

 アシュレイなら理解してくれるだろうと高を括った、あの信頼はどこから来ていたのか。

 漠然とした不安に捕らわれる。

 もしも喜んでもらえなかったら、俺はどうしたらいい?

「アシュレイ様。この度の一件は申し上げた通り、全てわたしの我儘から始まりました。お怒りならどうか、わたしに……。どうぞ、陛下のなさるお話を」

 もたつくアルダシールを見兼ねて、エステルが執りなしてくれた。

 だが、アシュレイは提案に頷くどころか、後退る。

「やっぱり、いいや。陛下は無事なようだし、私、先に帰るわ。マクシム、陛下をお願い」

「えっ? そんな、先に帰るって、アシュレイ様!?」

 突拍子のない発言に、マクシムが頓狂な声を上げる。

「エステル、後は4人で上手くやって。ごめんなさい、急で」

 言うなり踵を返したアシュレイに、エステルが咄嗟に追い縋るも、手が届かない。

 後方のユリウスも、反応が一歩遅かった。

 この場に俊敏さでアシュレイに敵う者はいない。
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