194 / 207
恋心
ユリウスの秘密 2
しおりを挟む
それはそのはずだ。
アシュレイはユリウスの事情も知らなければ、ユリウスがエステルとのやりとりを目撃していた様子も知らない。
それでも、口を突いていた敬称で、自然と悟りを得た。
「ユリウス、もしかして、私の正体に気づいたの?」
「詳細は知り得ませんが、エステルが陛下と言っていたので、何となく……」
ユリウスは首是して答えた。
正直なところ、理解はしていない。
けれど、エステルは意味もなくアルダシールを陛下と呼ばないだろう。
陛下と呼ばれるアルダシールと、それをこの地まで追ってきた王妃アシュレイ。
どこの王族かまではユリウスの想像にも及ばないけれど、2人が並びない尊い身分だとわかる。
王族にそんな身軽な行動が許されるのかは疑問だが、アルダシールもアシュレイも言動が常人離れしている。
単独での行動もあり得るのかもしれない。
「嘘をついていてごめんなさい。でも、身分以外は本当なの。嘘みたいだけど、あの人、急にエステル姫と駆け落ちみたいに出ていってしまったものだから」
「責めているのではありません。アシュレイさんの話を疑っているわけでもありません……」
ユリウスはもどかしくなりながら、自分が今現在抱える考察を上手く伝える術を探した。
これは競争だ。悠長に会話をしている時間はない。
「いいえ、謝らせてちょうだい。心の中とはいえ、ユリウスさんを裏切っていたの。最初はアルダさえ失格にできればいい考えていたけど気が変わった。私が勝って、この競い合いを無効にする」
「えっ!?」
思いがけない発言に、ユリウスはうっかり、大きな声を上げてしまった。
「静かに。貴方も見たなら知っているでしょ? エステルさんは泣いていた。人様のお国柄にケチをつけちゃいけないのはわかっているけど、この儀式はくだらないわ。本人の意思とは無関係に、内面に問題大アリの男と結婚させようなんて。そりゃ世の中には望まない結婚もごまんとあるでしょうけど、関わった以上見ぬふりはできない」
「ぼっ、僕も、そう考えていました! だから、アシュレイさんを助けたいんです。今更ですみませんが、手伝わせてください」
興奮に、大声になりがちなユリウスに苦笑しながら、アシュレイは口元に人差し指を当てる。
エステルは、アルダシール陛下との結婚も望んでいるようではなかった。
エステルは聡い。だから、アルダシールを連れてくることで、この競い合いの回避を試みたのだ。
僕が、不甲斐ないせいで。
(エステル、ごめん)
いつも、一番近くにいたのに、ユリウスはエステルの気持ちを見抜けなかった。
能力に優れた男との結婚が、エステルにとっての幸福だと思い込もうとしていた。
自分の鈍感さに、ほとほと愛想が尽きる。
「どの道、正体を隠して参加してる時点で反則だし、正々堂々とは言えないか。なら、教えてちょうだい。敵を出し抜くためには、貴方の助けが必要だわ」
ユリウスはめいいっぱい頷く。
アシュレイは目線の先に勝利の瞬間を見据えていた。
冴え冴えと光る眼差しは、ひどく頼もしいものだった。
アシュレイはユリウスの事情も知らなければ、ユリウスがエステルとのやりとりを目撃していた様子も知らない。
それでも、口を突いていた敬称で、自然と悟りを得た。
「ユリウス、もしかして、私の正体に気づいたの?」
「詳細は知り得ませんが、エステルが陛下と言っていたので、何となく……」
ユリウスは首是して答えた。
正直なところ、理解はしていない。
けれど、エステルは意味もなくアルダシールを陛下と呼ばないだろう。
陛下と呼ばれるアルダシールと、それをこの地まで追ってきた王妃アシュレイ。
どこの王族かまではユリウスの想像にも及ばないけれど、2人が並びない尊い身分だとわかる。
王族にそんな身軽な行動が許されるのかは疑問だが、アルダシールもアシュレイも言動が常人離れしている。
単独での行動もあり得るのかもしれない。
「嘘をついていてごめんなさい。でも、身分以外は本当なの。嘘みたいだけど、あの人、急にエステル姫と駆け落ちみたいに出ていってしまったものだから」
「責めているのではありません。アシュレイさんの話を疑っているわけでもありません……」
ユリウスはもどかしくなりながら、自分が今現在抱える考察を上手く伝える術を探した。
これは競争だ。悠長に会話をしている時間はない。
「いいえ、謝らせてちょうだい。心の中とはいえ、ユリウスさんを裏切っていたの。最初はアルダさえ失格にできればいい考えていたけど気が変わった。私が勝って、この競い合いを無効にする」
「えっ!?」
思いがけない発言に、ユリウスはうっかり、大きな声を上げてしまった。
「静かに。貴方も見たなら知っているでしょ? エステルさんは泣いていた。人様のお国柄にケチをつけちゃいけないのはわかっているけど、この儀式はくだらないわ。本人の意思とは無関係に、内面に問題大アリの男と結婚させようなんて。そりゃ世の中には望まない結婚もごまんとあるでしょうけど、関わった以上見ぬふりはできない」
「ぼっ、僕も、そう考えていました! だから、アシュレイさんを助けたいんです。今更ですみませんが、手伝わせてください」
興奮に、大声になりがちなユリウスに苦笑しながら、アシュレイは口元に人差し指を当てる。
エステルは、アルダシール陛下との結婚も望んでいるようではなかった。
エステルは聡い。だから、アルダシールを連れてくることで、この競い合いの回避を試みたのだ。
僕が、不甲斐ないせいで。
(エステル、ごめん)
いつも、一番近くにいたのに、ユリウスはエステルの気持ちを見抜けなかった。
能力に優れた男との結婚が、エステルにとっての幸福だと思い込もうとしていた。
自分の鈍感さに、ほとほと愛想が尽きる。
「どの道、正体を隠して参加してる時点で反則だし、正々堂々とは言えないか。なら、教えてちょうだい。敵を出し抜くためには、貴方の助けが必要だわ」
ユリウスはめいいっぱい頷く。
アシュレイは目線の先に勝利の瞬間を見据えていた。
冴え冴えと光る眼差しは、ひどく頼もしいものだった。
47
お気に入りに追加
1,970
あなたにおすすめの小説
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
モブですが、婚約者は私です。
伊月 慧
恋愛
声高々に私の婚約者であられる王子様が婚約破棄を叫ぶ。隣に震える男爵令嬢を抱き寄せて。
婚約破棄されたのは同年代の令嬢をまとめる、アスラーナ。私の親友でもある。そんな彼女が目を丸めるのと同時に、私も目を丸めた。
待ってください。貴方の婚約者はアスラーナではなく、貴方がモブ認定している私です。
新しい風を吹かせてみたくなりました。
なんかよく有りそうな感じの話で申し訳ございません。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる