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恋心 

ユリウスの秘密 2

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 それはそのはずだ。

 アシュレイはユリウスの事情も知らなければ、ユリウスがエステルとのやりとりを目撃していた様子も知らない。

 それでも、口を突いていた敬称で、自然と悟りを得た。

「ユリウス、もしかして、私の正体に気づいたの?」

「詳細は知り得ませんが、エステルが陛下と言っていたので、何となく……」

 ユリウスは首是して答えた。

 正直なところ、理解はしていない。

 けれど、エステルは意味もなくアルダシールを陛下と呼ばないだろう。

 陛下と呼ばれるアルダシールと、それをこの地まで追ってきた王妃アシュレイ。

 どこの王族かまではユリウスの想像にも及ばないけれど、2人が並びない尊い身分だとわかる。

 王族にそんな身軽な行動が許されるのかは疑問だが、アルダシールもアシュレイも言動が常人離れしている。

 単独での行動もあり得るのかもしれない。

「嘘をついていてごめんなさい。でも、身分以外は本当なの。嘘みたいだけど、あの人、急にエステル姫と駆け落ちみたいに出ていってしまったものだから」

「責めているのではありません。アシュレイさんの話を疑っているわけでもありません……」

 ユリウスはもどかしくなりながら、自分が今現在抱える考察を上手く伝える術を探した。

 これは競争だ。悠長に会話をしている時間はない。

「いいえ、謝らせてちょうだい。心の中とはいえ、ユリウスさんを裏切っていたの。最初はアルダさえ失格にできればいい考えていたけど気が変わった。私が勝って、この競い合いを無効にする」

「えっ!?」

 思いがけない発言に、ユリウスはうっかり、大きな声を上げてしまった。

「静かに。貴方も見たなら知っているでしょ? エステルさんは泣いていた。人様のお国柄にケチをつけちゃいけないのはわかっているけど、この儀式はくだらないわ。本人の意思とは無関係に、内面に問題大アリの男と結婚させようなんて。そりゃ世の中には望まない結婚もごまんとあるでしょうけど、関わった以上見ぬふりはできない」

「ぼっ、僕も、そう考えていました! だから、アシュレイさんを助けたいんです。今更ですみませんが、手伝わせてください」

 興奮に、大声になりがちなユリウスに苦笑しながら、アシュレイは口元に人差し指を当てる。

 エステルは、アルダシール陛下との結婚も望んでいるようではなかった。

 エステルは聡い。だから、アルダシールを連れてくることで、この競い合いの回避を試みたのだ。

 僕が、不甲斐ないせいで。

(エステル、ごめん)

 いつも、一番近くにいたのに、ユリウスはエステルの気持ちを見抜けなかった。

 能力に優れた男との結婚が、エステルにとっての幸福だと思い込もうとしていた。

 自分の鈍感さに、ほとほと愛想が尽きる。

「どの道、正体を隠して参加してる時点で反則だし、正々堂々とは言えないか。なら、教えてちょうだい。敵を出し抜くためには、貴方の助けが必要だわ」

 ユリウスはめいいっぱい頷く。

 アシュレイは目線の先に勝利の瞬間を見据えていた。

 冴え冴えと光る眼差しは、ひどく頼もしいものだった。
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