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恋心
マクシムの反抗 2
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やめたほうがいい、もうこれ以上は。
もう1人のマクシムが頭の隅で警鐘を鳴らすが、次から次へと言葉が流れて止まらなかった。
随分と鬱憤も溜まっていたらしい。
「アシュレイ様は財や権力に執着がありません。陛下を見限れば、簡単に今の地位をお捨てになるでしょう。今はまだ、陛下から勝利を奪う、一縷の望みにかけているから良いものの……。エステル様を得る代わりにアシュレイ様を失っても良いのか。よくよくお考えになってください!」
一息で捲し立てると、ブルッと身体が震えた。
主に逆らって、恐れ多さに今更慄いた。武者震いだ。
興奮で頭に血が上りすぎたせいかもしれない。
ともかくこれでマクシムもキャヴスを責められなくなった。
けれど、これが本音だ。
最初から、あんまりな指示だと思った。だからアシュレイをランドットまで連れて来た。
声を荒げた興奮で、ふぅふぅと肩で息をしていると、アルダシールは苦虫を噛み潰したような顔でマクシムを睨みつけていた。
キャヴスは珍しいものでも見たように、呆けた顔でマクシムを見つめている。
アルダシールはしばらく渋面を浮かべていたが、首に手を回したかと思うと、急に項垂れた。
はぁ~っと、大袈裟なほど息を吐く。
「……その通りだ。判断を誤った。目撃された時点で戦略を見直すべきだったな」
ガシガシと頭を掻いて次に顔を上げた時には、いくらか穏やかな表情に戻っていた。
「俺が間違っていた」
「陛下、では……競い合いは棄権して、ご帰還頂けるのですね」
度を超えた諫言は、どれだけアルダシールを怒らせるか。
最悪の場合、罷免されるかとも覚悟を固めつつあった。
やはり、長年仕える主人だけある。
マクシムの心からの叫びを聞き入れてくれたのだと、アルダシールの反応にマクシムは心底ホッとした。
「いや、棄権はしない」
「え、はっ? では、アシュレイ様に……?」
「説明も、今はできない」
しかし、ホッとしたのも束の間だ。
「それでは、これまでと何も変わりませんが」
進言した甲斐もへったくれもない返事にマクシムは開いた口が塞がらなくなる。
我が主人は、こんなに話の通じないお人だったか?
「できるなら、とっくにしている。今は、信じてくれとしか言えない」
「ええ? それは少々、虫が良すぎはしませんか」
マクシムは憤然と言い返した。
アルダシールの要求に、敬意がすっかり抜け落ちていた。
「言えば、すべて水の泡だ。俺と、アシュレイを信じてくれ。方がつけば、必ず話す。もう少しだ」
「はあ……」
要領を得ない条件に、マクシムからは気の抜けた返事が出た。
この場においてアシュレイを信用するとは、どういう意味だろう。
「……アシュレイ様の陛下に対する愛情を、信じろと仰るのですか」
マクシムは思案し、厚顔とも取れるアルダシールの意図を汲み取った。
「それでは、あまりに陛下にだけ利がありすぎるのでは……」
マクシムの抱いた不信を、キャヴスが代弁してくれる。
「ならば、もう俺からできる提案はない。好きにしろ。承服してくれると、助かる」
アルダシールはそれ以上、強制も命じる気もないらしい。
「このまま、アシュレイを助けてやってくれ」
それだけ言い残し、競い合いへと戻って行った。
マクシムとキャヴス、大の男は2人揃って、それ以上かける言葉もない。
アルダシールの背中をただ見送るしかなかった。
もう1人のマクシムが頭の隅で警鐘を鳴らすが、次から次へと言葉が流れて止まらなかった。
随分と鬱憤も溜まっていたらしい。
「アシュレイ様は財や権力に執着がありません。陛下を見限れば、簡単に今の地位をお捨てになるでしょう。今はまだ、陛下から勝利を奪う、一縷の望みにかけているから良いものの……。エステル様を得る代わりにアシュレイ様を失っても良いのか。よくよくお考えになってください!」
一息で捲し立てると、ブルッと身体が震えた。
主に逆らって、恐れ多さに今更慄いた。武者震いだ。
興奮で頭に血が上りすぎたせいかもしれない。
ともかくこれでマクシムもキャヴスを責められなくなった。
けれど、これが本音だ。
最初から、あんまりな指示だと思った。だからアシュレイをランドットまで連れて来た。
声を荒げた興奮で、ふぅふぅと肩で息をしていると、アルダシールは苦虫を噛み潰したような顔でマクシムを睨みつけていた。
キャヴスは珍しいものでも見たように、呆けた顔でマクシムを見つめている。
アルダシールはしばらく渋面を浮かべていたが、首に手を回したかと思うと、急に項垂れた。
はぁ~っと、大袈裟なほど息を吐く。
「……その通りだ。判断を誤った。目撃された時点で戦略を見直すべきだったな」
ガシガシと頭を掻いて次に顔を上げた時には、いくらか穏やかな表情に戻っていた。
「俺が間違っていた」
「陛下、では……競い合いは棄権して、ご帰還頂けるのですね」
度を超えた諫言は、どれだけアルダシールを怒らせるか。
最悪の場合、罷免されるかとも覚悟を固めつつあった。
やはり、長年仕える主人だけある。
マクシムの心からの叫びを聞き入れてくれたのだと、アルダシールの反応にマクシムは心底ホッとした。
「いや、棄権はしない」
「え、はっ? では、アシュレイ様に……?」
「説明も、今はできない」
しかし、ホッとしたのも束の間だ。
「それでは、これまでと何も変わりませんが」
進言した甲斐もへったくれもない返事にマクシムは開いた口が塞がらなくなる。
我が主人は、こんなに話の通じないお人だったか?
「できるなら、とっくにしている。今は、信じてくれとしか言えない」
「ええ? それは少々、虫が良すぎはしませんか」
マクシムは憤然と言い返した。
アルダシールの要求に、敬意がすっかり抜け落ちていた。
「言えば、すべて水の泡だ。俺と、アシュレイを信じてくれ。方がつけば、必ず話す。もう少しだ」
「はあ……」
要領を得ない条件に、マクシムからは気の抜けた返事が出た。
この場においてアシュレイを信用するとは、どういう意味だろう。
「……アシュレイ様の陛下に対する愛情を、信じろと仰るのですか」
マクシムは思案し、厚顔とも取れるアルダシールの意図を汲み取った。
「それでは、あまりに陛下にだけ利がありすぎるのでは……」
マクシムの抱いた不信を、キャヴスが代弁してくれる。
「ならば、もう俺からできる提案はない。好きにしろ。承服してくれると、助かる」
アルダシールはそれ以上、強制も命じる気もないらしい。
「このまま、アシュレイを助けてやってくれ」
それだけ言い残し、競い合いへと戻って行った。
マクシムとキャヴス、大の男は2人揃って、それ以上かける言葉もない。
アルダシールの背中をただ見送るしかなかった。
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