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競い合い

マクシムの混乱 2

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 キャヴスの横顔は元々の端正な美貌と相まって、危険な熱っぽさを孕んでいるような気がする。

 マクシムはあまり勘が鋭いほうではないし、あくまでそんな気がする、程度の引っ掛かりだ。

 だが、そんな細やかな違和感に気を取られているうちに、アシュレイの背後に人影が迫っていた。

「アシュレイか?」

 なんたる失態。

 ハッと気づいた時には、アルダシールがすぐ傍に立っていた。

 アシュレイもエステルが逃げてから呆然としていたようで、気配の察知を怠っていた。

 ビクッと肩を揺らして、固まった。

 厳しさはあれど、常人がこなせる課題に手こずるアルダシールではない。

(流石は陛下。アシュレイ様の正体にも気づいているご様子だ)

 マクシムは茂みから、助けに出るべきか逡巡した。

 マクシムの主はアルダシールだ。普段ならば出ていって、2人の仲をとりなすところだ。

 だが、今回は難しい。

 なぜならマクシムはすでにアルダシールの意に背いてこの場にいるからだ。

 パキッ

 アシュレイは相当に動揺している。

 足元の小枝を無意識に踏んで、次に取るべき行動を思案しているようだった。

 しかし、アシュレイが行動を決める前にアルダシールは進み出ていた。

「どうしてこんな所へ来た? マクシムに止められなかったのか」

 肩を掴まれそうになって、ようやく、アシュレイも一歩前進した。

 アルダシールの手が、空を切る。

 直ぐに逃げ出さないのは、アシュレイにも迷いがあるのだろう。

(このまま競い合いを続行して、敵対するか、この場で正体を明かし陛下を説得するか、迷っておられる)

 マクシムは恋愛事情に疎く、二十歳を過ぎて未だ独り身だ。

 だが、アシュレイの気持ちは痛いほど伝わった。

 どんなに腹を立てていても、アシュレイはアルダシールが恋しいのだ。

 ”振り向くかどうか”の些細な仕草一つに、迷いが見え隠れしていた。

 あんなに小さな背中が必死に思慕の念と戦っている。

 そんないじらしさに、マクシムまで胸が痛くなる。

「これまでの課題は見事だった。だが、ここで棄権しろ。お前を濡れたままにはしておけない」

 もう一歩、アルダシールが迫って、今度は肩に手を置いた。

 アルダシールはアシュレイへの愛情を失ってはいない。

 それくらいは見ればわかる。

 このまま2人が和解してくれたらどんなに良いか。

 仲睦まじい姿を良く知るマクシムは、祈るような思いで見つめていた。
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