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競い合い
エステルの願い 1
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「あ……」
何となく気まずくなって、ユリウスは再び木陰へと身を潜めた。
マクシムとキャヴスは、アシュレイの従者だ。
自身の主人が危険に晒されるとわかっていたら、普通は諌め、思い留まらせるものだ。
にもかかわらず、2人はアシュレイの暴挙を咎めずじっと見守っている。
危険には至らないだろうと、信頼があるのだろうか。
アシュレイは岸から上がり、蓮の雫を口に咥えてマスクの水を絞り、装着し直した。
(あ、服……まだ、3回目が残ってる)
また移動があるのか、定かではないが、服が濡れたままでは体温を奪われる。
衣類が肌に張り付けば、体型が誤魔化せない。
着替えを取りに帰るなら、居住区まで戻らねばならないが……
何か代わりになるものはないかと、ユリウスは周囲を見渡す。
マクシムらも同様で、キャヴスは自身のマントを外そうと、結び目に手をかけている。
しかし、キャヴスが自身の服を差し出すタイミングは訪れなかった。
目の端で様子を見守っていたアシュレイは、競い合いに戻る道を探して周囲を見回していた。
その途中、ある一点を見つめて動きを止める。
困惑した表情の先に現れたのは、ユリウスもよく知る人物だった。
「エステル姫……、何故、ここに」
耳には届かないが、アシュレイはきっとそう呟いたに違いない。
そこには、しばらく行方をくらましていたエステルが立っていた。
***
浮気相手が本妻の元を直談判に訪ねる。
前世の記憶に、そんなドラマのシーンがあったかもしれない。
驚きのあまり脳が現実逃避したのか、アシュレイの頭の中には現世と無関係な昼ドラのワンシーンが浮かんでいた。
エステルは何のためにアシュレイの前に姿を現したのだろう。
(あっ、いけない。私、今声を出しちゃった)
正体を隠して参加していたのに。
エステルとユリウスは従姉弟だと聞いた。
露見したら失格にさせられてしまう、と慌てて躱す策を考える。
「お待ちになって、アシュレイ様」
しかし、逃げ道を探して目を泳がせたアシュレイを、エステルは止めた。
右手を広げて、立ちはだかる。
「お召し物を持って参りました。お使いください」
意表を突かれて足を止めると、目の前に衣類を差し出される。
この間に、脳内では目まぐるしく思考が駆け巡った。
初めは、ユリウスの名を騙る偽証を隠蔽せねばと、逃避の行動が先立った。
だが、エステルは「アシュレイ」と呼んだ。
しかも、着替えを持っている。
「何故なの? いつから私の正体を?」
最後には”なぜ”の2文字しか浮かばなくなり、素直にそのままを口にした。
何となく気まずくなって、ユリウスは再び木陰へと身を潜めた。
マクシムとキャヴスは、アシュレイの従者だ。
自身の主人が危険に晒されるとわかっていたら、普通は諌め、思い留まらせるものだ。
にもかかわらず、2人はアシュレイの暴挙を咎めずじっと見守っている。
危険には至らないだろうと、信頼があるのだろうか。
アシュレイは岸から上がり、蓮の雫を口に咥えてマスクの水を絞り、装着し直した。
(あ、服……まだ、3回目が残ってる)
また移動があるのか、定かではないが、服が濡れたままでは体温を奪われる。
衣類が肌に張り付けば、体型が誤魔化せない。
着替えを取りに帰るなら、居住区まで戻らねばならないが……
何か代わりになるものはないかと、ユリウスは周囲を見渡す。
マクシムらも同様で、キャヴスは自身のマントを外そうと、結び目に手をかけている。
しかし、キャヴスが自身の服を差し出すタイミングは訪れなかった。
目の端で様子を見守っていたアシュレイは、競い合いに戻る道を探して周囲を見回していた。
その途中、ある一点を見つめて動きを止める。
困惑した表情の先に現れたのは、ユリウスもよく知る人物だった。
「エステル姫……、何故、ここに」
耳には届かないが、アシュレイはきっとそう呟いたに違いない。
そこには、しばらく行方をくらましていたエステルが立っていた。
***
浮気相手が本妻の元を直談判に訪ねる。
前世の記憶に、そんなドラマのシーンがあったかもしれない。
驚きのあまり脳が現実逃避したのか、アシュレイの頭の中には現世と無関係な昼ドラのワンシーンが浮かんでいた。
エステルは何のためにアシュレイの前に姿を現したのだろう。
(あっ、いけない。私、今声を出しちゃった)
正体を隠して参加していたのに。
エステルとユリウスは従姉弟だと聞いた。
露見したら失格にさせられてしまう、と慌てて躱す策を考える。
「お待ちになって、アシュレイ様」
しかし、逃げ道を探して目を泳がせたアシュレイを、エステルは止めた。
右手を広げて、立ちはだかる。
「お召し物を持って参りました。お使いください」
意表を突かれて足を止めると、目の前に衣類を差し出される。
この間に、脳内では目まぐるしく思考が駆け巡った。
初めは、ユリウスの名を騙る偽証を隠蔽せねばと、逃避の行動が先立った。
だが、エステルは「アシュレイ」と呼んだ。
しかも、着替えを持っている。
「何故なの? いつから私の正体を?」
最後には”なぜ”の2文字しか浮かばなくなり、素直にそのままを口にした。
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