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ランドットにて

諍い 3

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 軽くいなせるほどの間合いがないので、攻撃を流すためには強く弾く必要があった。

 しかし、怪我を負わせぬ程度に。

 と考えると加減が難しいが、やるしかあるまい。

 瞬く間にそう逡巡していると、背後で何者かがエステルを長椅子から引き離している姿が見えた。

 しかし結果としてシルランの拳がアルダシールに届くことはなかった。

「止すんだ、シルラン!」

 まさに一触即発――といったところで、切先を制したのはローネッドだった。

 ローネッドは声での抑止だけでなく、立ち上がりシルランの右肩を掴んだ。

「公平を重んずる故に、競い合いは誰でも参加が可能だ。だが、目に余る暴力は儀式の意義にもとる。トルファソも、焚き付けるな」

 ローネッドの言動は辻褄が合っていないように見えた。

 今、制止するくらいなら、どうしてエステルに対する暴言を看過したのか。

「だがよ、こいつが先に喧嘩を売ったんだ。馬鹿にされて黙っていられるか」

「そうだ。虚仮にされて黙っていろと?」

「先に挑発したのはシルランだった。いつもはいくらけしかけられても正面から受ける者がなかったから波風立たずに済んでいたに過ぎない。だが、ここから先は見逃せない。乱闘騒ぎはごめんだ。それに、彼は我が家の客人だ。相応しい対応ができないなら、出ていってくれ」

(そうか。ローネッドも扱いあぐねていたのだな。この親子を)

 カムリ親子の短絡的発想を嗜める言葉で、ようやく理解した。

 この地域と住民たちは過去の慣習から抜け出そうとする過渡期にある。

 古きものの限界を知りつつも、新たなものに適応しきれない。

 だからようやく、代表を定めて団結するに至っても力の呪縛から解き放たれない。

 力……武力は必要だ。だが、統治に武力を用いる世界は長く続かない。

「面白くねえ。そんな野郎が客だと?」

「しょうがない、ここは引くぞ。明日までの辛抱だ」

 渋面のトルファソが何事かを耳打ちすると、シルランはへの字口を僅かに眇めて一歩引いた。

「へッ、せいぜい明日までいい気になってろ」

「今日は失礼する。に粗相があってはならんからな」

 捨て台詞を吐くと、シルランは入室時と同様の乱暴な動作でさっさと家を出ていった。

 トルファソも皮肉と共に、シルランを追って退室する。

 最初にほーっと、一息ついたのは、誰だっただろう。

「あたしらも、そろそろお暇しようかね……」

「ご馳走さん。大勢で押しかけてすまなかったね」

「明日は頑張ってくれ、期待しとるよ」

 安堵と静寂を取り戻すと、野次馬はすっかり興を削がれ、ぞろぞろと帰り支度をはじめた。

 アルダシールを励ます者もあったが、紹介時に受けたほどの熱は感じられない。

 中には哀れみにも似た目を向ける者もいた。

 期待はしているが、競い合いでアルダシールが勝てるかどうかは危うい。

 大方がそう予想している。

「済まなかった。お恥ずかしいが、これがラークの現状だ。それでもまだ、エステルを望むのか?」

 野次馬が捌けると、ローネッドがアルダシールに向き直り、静かに問うた。

「はい。気持ちは変わるどころか、更に強くなりました」

「エステルの受け継いだ力は、ラークの森が授けたものだ。この土地を離れれば失われる。それも承知しているのか」

「全て、承知の上ですーー」

 競い合いの内容は、当日まで明かされない。
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