144 / 207
第2部 ハネムーン!?
6
しおりを挟む
アシュレイもその身の特性を活かして、軽やかに人混みを掻き分け追跡した。
「待ちなさい!」
アシュレイは飛び跳ねる犯人のフードに手を伸ばしたが、寸での所で躱された。
そのまま犯人は露店の通りを抜けると、細い路地へと飛び込んでいく。
アシュレイも負けじと後を追う。
だが、その差はすぐに縮まった。
犯人は路地の突き当たりで、立ち止まっていた。
逃げ場がないと知り、観念したのだろう。
「あなた、どうしてあんな真似をしたの!?」
被っていたフードを強引に剥がすと、そこにいたのは年端もいかない少年だった。
一瞬、怯えたようにビクッと身をすくませたが、左右の塀から影が覗くと、急に躍起になって小型のナイフを振り回した。
「うるさい、放せ!」
相手が凶器を持っているのはわかっていたので、反撃の意を察するや否やアシュレイは飛び退った。
しかし、ハッと気づいた時にはバラバラと塀から人影が落ちていた。
退路を絶たれる形で背後を塞がれる。
「しくじったのかよ、相変わらず使えねぇ奴だな。……ま、結果オーライか。姉ちゃん、こういうわけだから、さっさと金出しな」
背後に立った人物は、顎鬚を蓄えた小男だった。アシュレイよりは大柄だが、それほど屈強そうにも見えない。
歳は30代前半といったところか。
もう1人は長身だが、身体の薄い、不健康そうな男だった。
「お金なんて、持ってないわ」
アシュレイは毅然として答えた。
こいつらの指示で、少年は悪事を働いた、といったところか。
「嘘つけ、そんないい服を着ているくせに。まぁ、姉ちゃんの場合、良いとこのお嬢さんて感じだからな? たんまり身代金でも頂こうか」
「身代金?」
「でなきゃ売っ払ってもいい。こんな上玉ならさぞ高値がつくだろうよ」
小男は下卑た笑いを口元に浮かべながら、アシュレイを舐めるように見回した。
「まあ、図々しい。もう私を捕まえたつもりなの?」
「ああ!? 見てわかんねぇのか? この人数相手に逃げられると思ってんのかよ」
小男がこれ見よがしにナイフをチラつかせ、それに合わせて、ヒョロ長と少年も手元のナイフを突きつけた。
幅員が4メートルない裏道で、得物を持った3人に囲まれている。
一見すると絶体絶命のような状況だが、アシュレイは怯まず不敵に笑った。
刃物は侮れないが、細い道だ。
1対1なら、遅れは取らない。
「アシュレイ!!」
一番手前の小男に飛び掛かる寸前に、路地に駆け込むアルダシールの姿が視界に映る。
「ちっ、新手かーー」
だが、小男が舌打ちをして僅かに気を逸らしたその瞬間、既にアシュレイの脚は小男の脛を捉えていた。
「ゲッ」
蹴転がした小男の腕を捻り上げ、背を踏みつけてナイフを奪い取る。
「待ちなさい!」
アシュレイは飛び跳ねる犯人のフードに手を伸ばしたが、寸での所で躱された。
そのまま犯人は露店の通りを抜けると、細い路地へと飛び込んでいく。
アシュレイも負けじと後を追う。
だが、その差はすぐに縮まった。
犯人は路地の突き当たりで、立ち止まっていた。
逃げ場がないと知り、観念したのだろう。
「あなた、どうしてあんな真似をしたの!?」
被っていたフードを強引に剥がすと、そこにいたのは年端もいかない少年だった。
一瞬、怯えたようにビクッと身をすくませたが、左右の塀から影が覗くと、急に躍起になって小型のナイフを振り回した。
「うるさい、放せ!」
相手が凶器を持っているのはわかっていたので、反撃の意を察するや否やアシュレイは飛び退った。
しかし、ハッと気づいた時にはバラバラと塀から人影が落ちていた。
退路を絶たれる形で背後を塞がれる。
「しくじったのかよ、相変わらず使えねぇ奴だな。……ま、結果オーライか。姉ちゃん、こういうわけだから、さっさと金出しな」
背後に立った人物は、顎鬚を蓄えた小男だった。アシュレイよりは大柄だが、それほど屈強そうにも見えない。
歳は30代前半といったところか。
もう1人は長身だが、身体の薄い、不健康そうな男だった。
「お金なんて、持ってないわ」
アシュレイは毅然として答えた。
こいつらの指示で、少年は悪事を働いた、といったところか。
「嘘つけ、そんないい服を着ているくせに。まぁ、姉ちゃんの場合、良いとこのお嬢さんて感じだからな? たんまり身代金でも頂こうか」
「身代金?」
「でなきゃ売っ払ってもいい。こんな上玉ならさぞ高値がつくだろうよ」
小男は下卑た笑いを口元に浮かべながら、アシュレイを舐めるように見回した。
「まあ、図々しい。もう私を捕まえたつもりなの?」
「ああ!? 見てわかんねぇのか? この人数相手に逃げられると思ってんのかよ」
小男がこれ見よがしにナイフをチラつかせ、それに合わせて、ヒョロ長と少年も手元のナイフを突きつけた。
幅員が4メートルない裏道で、得物を持った3人に囲まれている。
一見すると絶体絶命のような状況だが、アシュレイは怯まず不敵に笑った。
刃物は侮れないが、細い道だ。
1対1なら、遅れは取らない。
「アシュレイ!!」
一番手前の小男に飛び掛かる寸前に、路地に駆け込むアルダシールの姿が視界に映る。
「ちっ、新手かーー」
だが、小男が舌打ちをして僅かに気を逸らしたその瞬間、既にアシュレイの脚は小男の脛を捉えていた。
「ゲッ」
蹴転がした小男の腕を捻り上げ、背を踏みつけてナイフを奪い取る。
94
お気に入りに追加
1,970
あなたにおすすめの小説
私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】
青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。
そして気付いてしまったのです。
私が我慢する必要ありますか?
※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定!
コミックシーモア様にて12/25より配信されます。
コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。
リンク先
https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
モブですが、婚約者は私です。
伊月 慧
恋愛
声高々に私の婚約者であられる王子様が婚約破棄を叫ぶ。隣に震える男爵令嬢を抱き寄せて。
婚約破棄されたのは同年代の令嬢をまとめる、アスラーナ。私の親友でもある。そんな彼女が目を丸めるのと同時に、私も目を丸めた。
待ってください。貴方の婚約者はアスラーナではなく、貴方がモブ認定している私です。
新しい風を吹かせてみたくなりました。
なんかよく有りそうな感じの話で申し訳ございません。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる