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第2部 ハネムーン!?

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 アシュレイもその身の特性を活かして、軽やかに人混みを掻き分け追跡した。

「待ちなさい!」

 アシュレイは飛び跳ねる犯人のフードに手を伸ばしたが、寸での所で躱された。

 そのまま犯人は露店の通りを抜けると、細い路地へと飛び込んでいく。

 アシュレイも負けじと後を追う。

 だが、その差はすぐに縮まった。

 犯人は路地の突き当たりで、立ち止まっていた。

 逃げ場がないと知り、観念したのだろう。

「あなた、どうしてあんな真似をしたの!?」

 被っていたフードを強引に剥がすと、そこにいたのは年端もいかない少年だった。

 一瞬、怯えたようにビクッと身をすくませたが、左右の塀から影が覗くと、急に躍起になって小型のナイフを振り回した。

「うるさい、放せ!」

 相手が凶器を持っているのはわかっていたので、反撃の意を察するや否やアシュレイは飛び退った。

 しかし、ハッと気づいた時にはバラバラと塀から人影が落ちていた。

 退路を絶たれる形で背後を塞がれる。

「しくじったのかよ、相変わらず使えねぇ奴だな。……ま、結果オーライか。姉ちゃん、こういうわけだから、さっさと金出しな」

 背後に立った人物は、顎鬚を蓄えた小男だった。アシュレイよりは大柄だが、それほど屈強そうにも見えない。

 歳は30代前半といったところか。

 もう1人は長身だが、身体の薄い、不健康そうな男だった。

「お金なんて、持ってないわ」

 アシュレイは毅然として答えた。

 こいつらの指示で、少年は悪事を働いた、といったところか。

「嘘つけ、そんないい服を着ているくせに。まぁ、姉ちゃんの場合、良いとこのお嬢さんて感じだからな? たんまり身代金でも頂こうか」

「身代金?」

「でなきゃ売っ払ってもいい。こんな上玉ならさぞ高値がつくだろうよ」

 小男は下卑た笑いを口元に浮かべながら、アシュレイを舐めるように見回した。

「まあ、図々しい。もう私を捕まえたつもりなの?」

「ああ!? 見てわかんねぇのか? この人数相手に逃げられると思ってんのかよ」

 小男がこれ見よがしにナイフをチラつかせ、それに合わせて、ヒョロ長と少年も手元のナイフを突きつけた。

 幅員が4メートルない裏道で、得物を持った3人に囲まれている。

 一見すると絶体絶命のような状況だが、アシュレイは怯まず不敵に笑った。

 刃物は侮れないが、細い道だ。

 1対1なら、遅れは取らない。

「アシュレイ!!」

 一番手前の小男に飛び掛かる寸前に、路地に駆け込むアルダシールの姿が視界に映る。

「ちっ、新手かーー」

 だが、小男が舌打ちをして僅かに気を逸らしたその瞬間、既にアシュレイの脚は小男の脛を捉えていた。

「ゲッ」

 蹴転がした小男の腕を捻り上げ、背を踏みつけてナイフを奪い取る。




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